今まで遊んだことのない大作ゲームシリーズに手を出すのって、結構勇気がいりませんか?
なにせ大作なわけですから、色々こだわって作られてるんだろうと想像するのは簡単じゃないですか。遊んだら楽しいんだろうな、なんて思うわけですよ。
でも一方で、「今まで触れてこなかった」という事実が心に深くのしかかるんですよね。「本当に楽しめるのか?」という不安もあり、一方でもし遊んでみて楽しかったら「今までやってこなかったの勿体ない!」って思っちゃいそうで……。
前者はともかく後者の方は取らぬ狸の皮算用というか、勝手に損した気になってる間の抜けた一人相撲でしかないんですが。そんなことを想像してると、中々踏ん切りがつかないことも多いんですよ。
特に相手が四半世紀もの歴史を持つ、超ビッグタイトルだったりするとね……。
なんてことをウジウジと考えていた私を見かねたのか、なんとこの度『ディアブロ 4』の先行プレイという非常に貴重な機会をいただきました。
そりゃ私もハクスラ【※】のひとつやふたつは遊んだことがありますが、相手はなんといってもハクスラの王とでも言うべき怪物級タイトル。
その、十数年ぶりに出るナンバリング続編です。正直、畏れ多いな……という気持ちと、「シリーズ未経験の人間がちゃんと楽しめるんだろうか?」という不安とが入り混じった状態で挑むことになったんですが、これは本当にただの杞憂でしたね。めちゃくちゃ楽しかったので。
しかも、ただハクスラならではの楽しさが味わえるというだけじゃなく、本作では過去シリーズに存在しなかったある要素を取り入れることで、まさに「革命」と言うべき変化をもたらしているんですよ。
過去作やってない人間が何言ってんだとお思いでしょうが、それでもこれは大上段に振りかぶって、声を大にして言わなきゃいけないと思ったので、語らせていただきます。
文/うきゅう
編集/実存
25年以上の歴史を持つハクスラの金字塔、『ディアブロ』シリーズ
本題へ入る前に、本作『ディアブロ 4』について軽く説明をさせてください。
『ディアブロ』の歴史は1996年まで遡ります。アメリカのゲーム会社Blizzard Entertainmentから発売され、当時まだ珍しかったオンラインゲームとして、そしてランダムな能力の付与されたアイテムを収集する止め時のない面白さで話題を集めました。日本ゲーム大賞が2000年に発表した数字によれば、全世界で200万本、うち日本国内で10万本の売り上げを記録したとか。
2000年には続編となる『ディアブロ 2』が発売され、2012年には『ディアブロ 3』が発売されました。2020年にニュースメディア・WIREDが掲載した記事によると、『2』は全世界で1000万本、『3』に至っては3000万本以上の売り上げを記録したそうです。
そして、2023年。間に『2』のリマスターである『リザレクテッド』やスマートフォン向けアプリ『イモータル』を挟んだとは言え、11年振りに満を持してナンバリング続編として本作が登場するわけですね。
そんな本作は、2019年の発表当初から世界中に大きな衝撃をあたえていたわけですが、シリーズで初めてオープンワールドの要素を取り入れた意欲作としても話題になりました。
ハクスラとオープンワールドの相性は良いのか悪いのか? という部分は割と疑問視されることもあったように記憶しています。
果たして、本作においてオープンワールドの要素は効果的に機能したのでしょうか。先ほど軽くネタバレしちゃいましたが、いよいよここから本題となるその部分へ触れていきましょう。
「スケーリング」はハクスラにおける革命かもしれない
前述のとおり、本作『ディアブロ 4』はオープンワールドとなっており、広大なマップのなかをある程度自由に探索を進めることができます。
まあそうは言ってもメインストーリー進行の自由度は限定的で、せいぜい複数同時に表示される必須イベントをどこから進めても良い、程度のものに留まってはいます。
では本作のオープンワールドとしての“売り”はどこになるのか? その答えが、プレイヤーのレベルに合わせて敵のレベルが上昇していく、俗に「スケーリング」と呼ばれる要素です。
具体的に画像で見てみましょう。
1枚目の画像ではプレイヤーのレベルが9で、敵のレベルや右上のマップ名に併記されたレベルも9と表示されていますね。
そして2枚目の画像では、マップ名は同じ「東の平原」ですがプレイヤーのレベルが13の時に、敵のレベルも13まで上昇しています。プレイヤーの数値に従って周囲の数字もスケールが変わるので、スケーリングと呼ばれるわけです。
このスケーリングによって生じる、「戦いたい相手と戦い続けられる」というメリットが凄いんですよ。結局のところ、ハクスラなんて敵を倒しまくってこそ、経験値を稼ぎまくってこそ、アイテムを集めまくってこそ、楽しいわけです。
「そんなにがんばって敵倒してどうするの?」と質問されたとき「より一層強い敵を倒せる!」とか「より一層早く敵を倒せる!」とか、そういう回答を繰り出せてしまうのがこのハクスラというジャンルなんです。
一方で、プレイヤーの選択するスキルや遊び方によって、戦いやすい敵や戦いにくい敵というのはどうしても生まれてきます。
従来のハクスラであれば、それぞれのマップに応じて敵のレベルやドロップするアイテムの強さがある程度固定化されているため、自分の戦法にもっとも適した狩場に居続けることはできません。自分のレベルが上がっていくにつれ経験値の獲得効率は地の底まで落ちていき、敵からの戦利品で自身の装備を更新することもなくなってしまいます。
楽しい時間は短く、安住の地の賞味期限はさらに短いものです。私たちはみな、あっという間に各々の最高の狩り場を卒業し、新たなマップ、新たな脅威へと立ち向かわなければならないのです。本来ならば。
しかし、本作は敵のレベルがプレイヤーに合わせてスケーリングします。戦いやすい敵を見つけた? ならそいつらを狩り続けましょう! 自分の戦法に最適な地形を見つけた? ならそこを自らの根城としましょう! それがゲームシステムとして許容されているのです!
当然、序盤のマップはモンスターの配置されている数が少なかったり、あるいは密度が薄かったりして効率が物足りなくなるときが来るでしょう。戦い続けるうちに、飽きてしまうこともあるでしょう。
その時にこそ、大手を振って卒業すれば良いのです。さあ、意気揚々と次の狩場に向かいましょう。安心してください、進んだ先の敵のレベルも、あなたのレベルに合わせて変動しています。おいしい狩場でちょっと長居したからって、次の狩場が食うに値しないようなひどい場所にはなりません。
敵のレベルがプレイヤーに応じて変動するスケーリングは、オープンワールドのみならず一部のRPGなどでもバランス調整のために取り入れられていますが、あまり良い評判を聞かない要素でもあります。序盤の雑魚にいつまでも手を焼かされるというのはたいていのゲームにおいては不自然だったり、ゲーム体験としていびつになってしまう要素なのかもしれません。
しかし、「常に適正レベルで狩りができる」というのは、ハクスラにおいては余りにも偉大な要素ではないでしょうか? 序盤の雑魚がいつまでもまともな量の経験値と適正レベルの装備品をドロップしてくれることのありがたさは、筆舌に尽くしがたいものがあります。
しかもこのスケーリング、敵モンスターのレベルだけじゃなくて街で受けられるサブクエストにも適応されています。
マップの探索が甘くて最初に通ったときは気づかなかったNPCから後々クエストを受けることって、割と多くの人が経験するかと思うんですが、大体あらためて過去のエリアや街を歩くときというのは、その場所の適正レベルやイベントの想定時期からは離れてしまっていて、「今更こんな報酬もらってもな~」と微妙な気分になりがちですよね。
本作ではクエストのレベルも上昇していきますから貰える経験値量も増加しますし、詳しく検証できたわけではないのですが報酬のアイテムや金額なども変化しているように感じました。これ、人によっては地味に感じる要素かもしれないんですけど、プレイした身としてはとても助かりました。
なぜって、本作はエリアごとに条件を満たすと貰える特別な報酬がありまして。ゲーム内通貨やスキルポイント、所持しているポーションの最大量増加なんてものも貰えたりして、ゲームの進行度に関わらず達成出来たら結構嬉しいやつです。そこでチェックされる項目のひとつに、NPCから受けられるサイドクエストの達成状況があるんですよ。
私はそこまで全要素の収集にはこだわってなかったので、主にメインシナリオ進行の箸休めとして、エリアごとの実績を埋めていく作業を進めた程度だったんですが、序盤の街でこなすクエストがしっかり経験値をもらえるおかげで作業感が薄れて、想像以上に満足感がありましたね。
このスケーリングの恩恵についてあらためて体感するために、一度メインストーリーを終わらせた後で新キャラを作ってみました。
序盤の街「キヨヴァシャド」の周辺をうろうろとモブ狩りしつづけた程度ではあるんですが、レベル17からレベル20まで上げるのに25分程度掛かりました。
ついで、レベル20からレベル23までが40分程度。
勿論、スキルレベルや装備品が向上していく以上、狩りの効率は上がっていてしかるべきです。なのでレベルアップに必要な時間が伸びているというのは、厳密に言えば同じ場所にいつづけることが適切なバランスではないということを意味しています。
とは言え、狩ってる身としてはあまり気にならない程度の効率低下ですし、あくまでも実験ですからね。この結果が他の場所でも同様なら、本作はプレイヤーが自身にとって最も好ましい狩場で、心ゆくまで狩りを楽しむことができるということになります。
この「スケーリング」、ハクスラにおいてはわりと革命的な要素かもしれません。プレイしてて余りにも、余りにも良すぎましたね。
お手軽な振りなおしによって、使える装備品が倍増する幸せ
本作をプレイしていて私が驚いた点をもう一つご紹介します。それは、「スキルの振りなおし」が余りにもお手軽におこなえたことでした。専用アイテムもなにもいらず、わずかなお金を支払うだけで出来てしまうのです。回数の制限もありません。
ただでさえスキルツリーがシンプルなのに、振りなおしまで気軽にできてしまってほんとに良いの? って感じでした。でも、冷静に考えると何がダメなの? って話でもありますよね。色々試して強いスキルや使いやすいスキルを見つけて、そのスキルを主軸に戦っていけるわけですから、プレイヤーにとってはメリットしかありません。
しかも本作、どうも敵のドロップ品がこちら側の職業に応じて変動してる気配がありまして、私は今回の先行プレイを主にソーサラーで遊んだんですが、出てくる装備品のうち8割方はソーサラーのものでした。たまーにバーバリアンとか他職業用の武器が出ることはありましたが。
とは言え、ソーサラーは使用する呪文の属性が3タイプあり、毎度毎度自分にとって都合の良い強化が手に入るわけでもありません。
たとえばプレイ中、火属性である「炎打」のスキルレベルがなんと2もプラスされる装備を拾ったんですよ。
でも私は雷魔法を主体に戦っていたので、炎打は使ってないんですよねー……残念。
と、そこまで考えて、私は思い出しました。本作のスキルの振りなおしのお手軽さを。そして発想を転換したのです。炎打が強くなる装備を手に入れたなら、ここからはそのスキルを使って進めればいいじゃないかと。
ハクスラの面白さは敵を倒すこと。でも、最初から最後まで同じ調子で敵が倒れていくようでは、せっかくの面白さも単調なものになってしまいます。
装備の更新やスキルレベルの上昇など、なにかのきっかけで目の前の敵が突然消し飛ぶ。手ごわかったレアモンスターが、あっけなく崩れ去っていく……そういった「成長の実感」があるからこそ、ハクスラは人を楽しませ、気持ちよくしてくれるわけです。
そうなんです。本作は圧倒的にお手軽な振りなおし機能を導入することで、ドロップする装備品を宝の山に変えたんです。本作を遊んでいて、自分が使っていないスキルに最適な装備が出たとき、プレイヤーは嘆くべきではなくこう考えるべきです。「このスキルに合う装備品を、自分はほかにどれだけ持っていたか?」と。
手持ちの装備品を確認し、なんだったら店売りの装備品も覗きましょう。スキルレベルを上昇する効果、威力を底上げする効果……今まで無用の長物として色あせていた装備品たちが俄かに輝きを増し、いままで気にも留めていなかったスキルが突如プレイヤーの相棒として名乗りを上げます。
欲しいアイテムのために敵を狩るだけでなく、出たアイテムに応じて自身を変えるという選択肢を用意する、それが本作に用意されたお手軽なスキル振りなおしの真意だったのです。
これ、本当に凄くないですか?
馬をよこせ!サンクチュアリをくれてやる!
ここまで、本作を遊んでて良かった点をざっくりと語らせていただきました。とは言え、正直なところ不満な点もあります。
馬です。
本作には移動手段として、キャラクターが騎乗できる「馬」という要素があり、序盤からキャラクターの一人が馬へ跨って旅立っていく姿を見送るシーンが挟まれたりもして、非常に印象的なんですが、この馬がね……全然手に入らないんですよ……。
本作のメインストーリーは全6章で構成されているんですが、馬が手に入るのはなんと4章です。なんで!? もうちょっと早く乗らせてくれても良くないですか!?
そりゃもちろん、せっかくの広大なマップなわけですからパカパカと馬を走らせて流しちゃうのも勿体ないし、ハクスラなんだから道中の敵倒したいでしょというのも分かりますよ? 分かりますけど、逆に馬があればマップのあちこちを見て回る動機にもなるわけで、もうちょっと早く入手させてくれても良かったんじゃないかなあ……なんて思いましたね。
なにせオープンワールドと言うだけあってマップが広いんです。移動スキルも割と長めのクールタイムがあって連発できませんし。モンスターは広いマップのあちこちに点在しているし。なので5秒に一回ステップして、クール待ってる間に移動スキル撃って、どちらもクール中はスキルボタンを連打して……とあまり快適とは言えない移動を繰り返すことになりました。
いっそ馬に乗れることを知らなければ、馬に乗れるイベントが来た時その便利さに初めて触れて喜べたんでしょうが、大体の街には厩舎がありますし先ほども述べたとおりイベントシーンで馬に乗って旅立っていくキャラがいるんですよ。
だからプレイ中は何度も「そろそろ馬くれる? まだダメ?」とソワソワしましたし、どうやら貰えなさそうだと分かるたびにモヤモヤしてました。もし2章や3章をプレイ中の私の目の前に悪魔が出てきたなら、シェイクスピアの史劇『リチャード3世』よろしく「馬だ、馬をよこせ! 代わりにサンクチュアリをくれてやるぞ!」と叫んでいたかもしれませんね。
この点は、遊んでいて若干の不満が残る部分でした。もし「馬を手に入れてマップ中を駆け回りたい」という願望をお持ちの方が居ましたら、4章まで進めば手に入るんだということを覚えておいていただけたらと思います。あくまでも、私がプレイした先行プレイのバージョンでの話ですが。
以上、『ディアブロ 4』の先行プレイを通じて感じたことを、私なりに書かせていただきました。本作の魅力を伝えることができたなら幸いです。
本作は6月6日の発売を予定しており、対応プラットフォームはPC(Battle.net)、PS5/PS4、Xbox Series X|S/Xbox One。通常版の税込価格が9800円となっています。