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なぜファミコンのビジュアルは “生々しくないのに怖い” のか? 『国産RPGクロニクル』(イースト・プレス)の著者らが80年代から90年代にかけてのレトロゲームを語りつくす

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DJ界隈でめっちゃ流行っていたカードゲーム『トレード&バトル カードヒーロー』

RAM RIDERさん:
 『カードヒーロー』は、僕が唯一ハマったカードゲームです。当時すでに22歳のいい大人だったんですけど(笑)。

 DJ界隈の友達の間で、同時多発的に『カードヒーロー』が流行っていました。みんなほぼほぼリアルタイムで『ポケモン』をやっていたり、初期のインターネットにいた人たちの中にそういうノリがあって、「子供向けのゲームなのにめちゃめちゃ面白い」と話題になっていたんです。

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 『カードヒーロー』が急に周りで話題になったので、みんなでやり始めたのがきっかけでした。

 あらすじとしては、お小遣いもらった主人公が「マルヒゲヤ」というカードショップに行き、カードを自分で引いて、お店の片隅で近所の友達と実際にバトルを始めるんです。カードゲームではなくて、「カードを収集してカードバトルをすること自体をゲームの中にバッケージしている」という作品なんです。

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渡辺さん:
 そこは本当に画期的でしたね!この『カードヒーロー』というゲームの中で、現実のTCGプレイヤーがやっているように、お店に通ってカードパックを買って、開けたらランダムにカードが出てきて、それを自分のデッキに入れて、自分のデッキを作っていき、そのお店に集まるいろんなプレイヤーたちと対戦したり仲良くなったり、お店のおじさんとの付き合いがあったりするんです。つまり、ホビーショップ界隈のドラマをそのままゲームの中にストーリーとして落とし込んでいる。

 その、いわばゲーム内ゲームとしての『カードヒーロー』の主人公が、パッケージに描かれた少年ですね。だから、これはプレイヤーの操作する主人公ではないんです。

RAM RIDERさん:
 『カードヒーロー』はゲームボーイカラーで出ているんですけど、知名度はそこまで高くないものの、やっていた人はみんな評価が高かったんです。しばらく続編も出なかったのですが、7年後に出ました。

 その続編のパッケージを見たら絵のタッチがキラキラしていてちょっと残念な気持ちで買ったんです。ニンテンドーDSなので2画面になっていて、上ではキャラクターの対戦、下では実際のカードを操作することができます。しかも、タッチでカードを「シュッシュッ」と簡単に操作できるんですよ。

 それが、めちゃめちゃ面白くて。前作超えの超名作のゲームでした(笑)。パッケージ見た時のガッカリを全部覆すぐらい、めちゃめちゃおもしろくて。

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渡辺さん:
 一作目も、めちゃくちゃ面白いゲームなんですけど、TCGをそのままゲームボーイ上で再現しているので1戦がちょっと長いんです。おそらく任天堂内部でもそれが欠点だということを自覚していて、次回作では「高速カードバトル」と銘打って、1戦をとにかくコンパクトにするようにゲームデザインした感じですね。

RAM RIDERさん:
 僕はずっと『カードヒーロー』の原影を追ってきています。似たゲームがあるかと思って探していたら、『Pirates Outlaws』というカードゲームを見つけました。これはスマホやSteamでも遊べるんですけど、システムは違うものの、ちょっとRPG要素のあるローグライクカードゲームがスマホでも出てきました。

渡辺さん:
 これは『Slay the Spire』みたいな感じですね。

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 『カードヒーロー』も僕にとってゲームデザインのお手本になっているゲームのひとつです。当時は自分がボードゲームを作るようになるとは思ってなかったんですけど、『カードヒーロー』で「なるほど!」と感心したのは、数字の1の意味がめちゃくちゃ重いんです。ライフが2あるのと3あるのとでは、全然意味が違うんですよ。

RAM RIDERさん:
 そうですね。「モンスターの1ポイントの残り1でかろうじて勝つ」みたいなことが当たり前のようにあります。

渡辺さん:
 1から5までぐらいの数字の中で全てがコントロールされていて、その分「1の違い」というのがめちゃくちゃ重くなります。この「1の違いが重い」ということがゲーム性が高いということなんだなあ、ということを、まあ自分なりの勝手な解釈ではありますが、この時に強く学びました。

おしっこ漏らすぐらい面白かったカードゲーム『カルドセプト』

渡辺さん:
 デジタルカードゲームつながりでいうと『カルドセプト』も外せないですね。初代はセガサターン版ですが、僕がちゃんと遊んだのは、PlayStation版の『カルドセプト エキスパンション』でした。

 これも当時流行っていたTCGに影響を受けたゲームで、『モノポリー』『マジック・ザ・ギャリング』という感じの構造です。『モノポリー』のデジタルアレンジ版としては『いただきストリート』が有名でしたが、それほど広くないマップを周回しながら他のプレイヤーから「通行料」を稼いでいく、というゲーム性は『カルドセプト』でも同じです。

 『カルドセプト』特有の要素としては、手札のカードから召喚したモンスターを配置することで、自分の土地を守らせる、というシステムがあります。後から来たプレイヤーはそのモンスターと戦うことになり、勝ったら土地を奪うことができる。でも、負けてしまったら通行料を払わなければなりません。

 後にこれだけボードゲーム好きになる僕が、当時は『モノポリー』も『マジック・ザ・ギャリング』もあまりちゃんと遊んだことがない状態で、その両方のエッセンスを詰め込んだゲームに触れたわけで、その衝撃はものすごかったです。マジで「おしっこを漏らすぐらい面白い!」と思っていました(笑)。

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RAM RIDERさん:
 僕の友達も生活が壊れるぐらいハマっていました。

渡辺さん:
 「人生の中でこんな面白いゲームがあっていいんですか?」と思う瞬間って何回かあるじゃないですか。今は「神ゲー」という言葉が頻繁に使われがちだと思いますが、本当の神ゲーってそういうものだと思うんですよ。

RAM RIDERさん:
 本当の神ゲーは『アクトレイザー』でしょう(一同爆笑)。

渡辺さん:
 そうなると『アクトレイザー2』も神ゲーになっちゃう!『カルドセプト』は「1戦が長い」などいろんな欠点はあったけど、それを補ってあまりあるほどの懐の深さというか、「一生これだけやっていきたい」とすら思えるゲームでした。

 あと、マジで個人的な話ですが、『カルドセプト』に関連してすごく覚えている夏の思い出があって。当時は横浜で大学生をしていたんですけど、ある日、講義が休講になって時間ができたときに、なぜか突然そういう話が持ち上がって、大学の友達と学校をサボり八景島のビーチに遊びに行きました。日焼け止め無しで1日遊んでいたので、とんでもなくひどい日焼けになってしまって…その日から何日間か痛くて服も着られない、仰向けに寝ることすらできない状況でした。背中に痛み止めを塗ってずっとベッドにうつ伏せで学校も行けない。なので、気を紛らせたくて、その数日間ずっと『カルドセプト』をやっていた…というのがすごく微妙な思い出として残っています(笑)。

橋本さん:
 えっ、じゃあ渡辺さん『レーシングラグーン』の時代に横浜にいたってことか。となると、蒸し返すわけじゃないけど……俺は男だけのサークルの大学生時代だったので……架空の横浜を通りながら……俺の部屋にないものがそこには2つある……って格差を実感するやつですね(笑)。

人類最高のゲームって言われたら納得する人が多い『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』

RAM RIDERさん:
 『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』は、友達から借りて間違えてセーブデータを消してしまい、修羅場になりました(笑)。

渡辺さん:
 このゲームは「完成されたゲーム」と言われたら納得する人が多いのではないでしょうか。とにかく全ての要素のクオリティが異常に高い。

橋本さん:
 グラフィックもスーファミの時代で本当に完成されていますからね。

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渡辺さん:
 芸術品ですよね。

RAM RIDERさん:
 スチャダラパーの「ゲームボーイズ」の曲で「出る出るゼルダの伝説 ゴージャース 今度の冒険、リアル キミもすぐに体験」と歌っているCMを初めて見たときは「なんだこの面白いお兄さんたちは」と思いました。それから日本のラップの世界に入っていって、何十年後かにBoseさんと一緒に曲を作ることになります。そういう意味では「スチャダラパーと出会ったCMのゲーム」という印象が一番でかいですね。

橋本さん:
 ダッシュするとき、その場でちょっと溜めてからドーンと走り出すところが気持ちよかったですね。木にぶつかってリンゴが落ちたり。

渡辺さん:
 あの溜めは映像演出として気持ちいいだけでなく、ダッシュが便利すぎないようにというゲームデザインにもなってますね。とにかく最高によくできているゲームだと思います。

ゲームでストーリーを表現する見本になった『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』

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渡辺さん:
 完成度という意味では『神々のトライフォース』のほうが上だと思いますが、僕は昔から「ゼルダの中でどれが一番好きですか?」と聞かれたら『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』(以下、『ムジュラの仮面』)と答えています。

 『ムジュラの仮面』はその前作『ゼルダの伝説 時のオカリナ』の裏ストーリー的な位置づけなのですが、「3日後に月が落ちてきて世界が滅びる」ということを運命づけられた世界を舞台に、リンクが時間を巻き戻しながら、何とかして世界を救おうと悪戦苦闘するゲームです。

 つまり今でいう「タイムループもの」になっていて、そういう物語構造とゲームシステムの深い結びつきが、唯一無二の魅力を放つゼルダだと思います。

 普通にフィールドを歩いているときに、ふと、カメラを上に操作して空を見上げると、顔のついた不気味な月が空にある。しかもそれが3日間の中で時間が進むごとにだんだん大きくなっていく。普段は視界に入らないのに、ある時ふと見上げたらみるみる大きくなっているという恐ろしさ。これはゲームでしか表現できないストーリー体験だなと思いました。

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ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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