イースト・プレスより今年の6月に刊行された書籍『国産RPGクロニクル』を記念して、8月19日に阿佐ヶ谷ロフトAでトークイベント「世紀末ゲーマーズ・クロニクル」が開催された。こちらは、著者の渡辺範明さんに加えて、この書籍の元となるTBSラジオ「アフター6ジャンクション」のプロデューサーをつとめたTBSラジオ橋本吉史さん、DJやプロデューサーとして活躍する音楽家のRAM RIDERさんの3名が登壇。それぞれが語りたいゲームを10本ずつピックアップして、フリートーク形式でイベントが進められていった。
ちなみに『国産RPGクロニクル』の刊行記念イベントとしては、7/23に書店B&Bで開催された『あの頃のドラクエとFFと僕ら』に続き、今回が2度目の開催となる。出演者はまったく同じなのだが、ドラクエ/FFの話題に絞られていた前回とは異なり、今回はタイトルにも「世紀末ゲーマーズ・クロニクル」とあるように、ピックアップされたゲームは2000年代ぐらいまで、ゲーム機でいうと初代PlayStationあたりのゲームまでの作品がノンジャンルで選ばれている。
全体を通して3時間を超える長丁場のイベントとなっていたのだが、本稿ではこちらのイベントから一部を抜粋してレポートしていく。
文/高島おしゃむ
携帯ゲーム機用RPGという不思議なコンセプトが衝撃だった『魔界塔士Sa・Ga』
渡辺さん:
一本目に『魔界塔士Sa・Ga』を挙げたのは、色々な意味でこの時代を象徴しているゲームだと思ったからです。スクウェア(現:スクウェア・エニックス)が、すでに『ファイナルファンタジー』を何作か出して人気が出ていた時代に、ゲームボーイ用の完全新作RPGとして作られたゲームが『魔界塔士Sa・Ga』ですね。
そもそもゲームボーイは、携帯型ゲーム機自体の草分け的存在でした。テレビの前に縛られることなく外でも遊べる「パーソナルなファミコン」というコンセプトに衝撃を受けたハードです。そのソフトラインナップはというと、当時小学生だった僕らも「携帯機だからパッと終わらせることができるアクションゲームが主流になるだろう」と思っていました。なのに、スクウェアが完全新作RPGを出してきたんです。「時間のかかるRPGを携帯機でやるの?」と驚きました。つまり「携帯機専用のRPG」というコンセプトの衝撃がまずあったんです。
そして実際に遊んでみると『ドラクエ』や『FF』とは全然違うスタンスのゲームということがわかりました。その違いをひと言で説明するのは難しいんですけど、僕なりの言葉で言うと『魔界塔士Sa・Ga』は すごく“ジャンク”なゲーム なんです。
世界観も、ドラクエやFFのような作りこまれた仮想世界というよりは、巨大な塔を登っていくとフロアごとに様々な異世界が層上に重なっているという、いわばごった煮。階を登るたびに違う世界に訪れることになるので、いまで言うマルチバース的な雰囲気もあるかもしれません。
そして塔を登る冒険者たちは、人間やエスパーに加えて、モンスターなんかもいました。ここもごった煮でジャンクな感じですね。武器も普通の剣や盾だけじゃなくて、マシンガンやチェーンソーみたいな現代兵器もあって。
橋本さん:
僕はこの世界観にテンションが上がりました。『FF』がこの後たどっていく、近未来的・SF路線的なものを、すでにここで始めていた感じがちょっとあって。
渡辺さん:
『魔界塔士Sa・Ga』は主人公たちの風貌も印象的ですね。このパッケージイラストを見ていただくと、コマンド―的なミニタリーファッションをベースにバンダナ&肩パットといういで立ち…『マッドマックス』『北斗の拳』なんかにも通じる、これこそ僕の思う「世紀末」感なんです。そういう時代の空気が全部詰め込まれている感じがするから、今回のイベントタイトル「世紀末ゲーマーズ・クロニクル」を象徴するゲームのひとつとして選びました。
橋本さん:
今までのRPGと違って、アイテムの使用回数が決まっていたり、レベルの上げ方も独特でしたね。あと、ここで僕が覚えたのは「玄武(げんぶ)、朱雀(すざく)、青龍(せいりゅう)、白虎(びゃっこ)」を覚えました。
あとは15~6階くらいの未来都市ステージで、完全に『AKIRA』を意識しているであろうスクーターに乗った暴走族っぽいやつらが出てきて朱雀と戦うんです。僕はそこがすごく印象的だったんですけど、ああいう世界で戦うRPGみたいなものは当時なかったので、それがすごくかっこいいと思いました。
『魔界塔士Sa・Ga』は、戦国的なものや近未来都市ステージに世紀末感があって、それらが特に思い出深いですね。
渡辺さん:
ラスボスが「神」という設定も、今では中二病的な定番のシチュエーションになってしまっていると思いますが、この時は新鮮な驚きがありました。ひらがなで「かみ」だけの名前なのも最高ですね。風貌もシルクハットをかぶった普通の紳士で。
橋本さん:
その「かみ」がいる場所って、横に自分の寝るベッドが1個と椅子が1個置いてあるだけのところなんです。
渡辺さん:
ミニマリストだね(笑)。
橋本さん:
その姿がちょっと寂しそうなんですよね。だんだんと「こいつ楽しいのかな」みたいに思えてきて。最後は一発でやられちゃうし。
渡辺さん:
「チェーンソー」で一撃死するんですよね。これは開発チームの意図した仕様ではなかったらしいんですけど、「チェーンソー」や「のこぎり」みたいな「即死効果」のある武器は、普通ボスには効かないように設定しておくはずなのに、なぜか「かみ」には有効に設定さていて…チェーンソーで「かみ」がバラバラになるんです。神殺しをチェーンソーで、しかも一撃でできてしまうというこの世界観。まさにジャンク!痺れますよね(笑)。
不良に絡まれない安全な環境で遊べることに感動した『熱血硬派!くにおくん』
RAM RIDERさん:
1985年、僕が7歳のときに、よしまさくんという友だちが初めて僕と僕の幼なじみをゲームセンターに連れて行ってくれたんです。そのゲームセンターは喫茶店の延長みたいな薄暗いところでした。
学校でもゲームセンターに行くのが問題になっいて、担任の先生から「君たちみたいな小学生がゲームセンターに行くことを“カモがネギを背負ってやってくる”って言うんですよ」と言われました。それくらい、簡単にお金も取られると言われている中で、ドキドキしながら最速で逃げられるドアを見つけ、入った瞬間に周りにやばい人がいないかを確認し、初めてゲームセンターに入って遊んだのが『熱血硬派!くにおくん』でした。
左がゲームセンターでやったアーケード版で、右がファミコン版です。両方見ると、ファミコン版は同時に描写できるキャラクターの数が少ない。アーケード版では一面のボスの「りき」がにらみを利かせていて、一定数のザコキャラを倒すと出てくるんですけどファミコン版ではそういうことができないので、最大で3キャラくらいしか出てこないんです。
だけど小学生だった僕がファミコン版を手に入れた時「家で『熱血硬派!くにおくん』を!安全な環境で!お金を投入しなくても!繰り返しできる!」というフィルターを通したことで、このファミコン版の画面がどれだけ輝いて見えたか想像してもらえますか(笑)。
アーケード版の2面はバイクとサブキャラが出てきて、さらに同じ画面にボスがいるんですけど、ファミコン版では別のステージに切り替わるまでボスが出てこないんです。でも、小学生だった僕は「許す!」と言ってファミコン版をめちゃめちゃやり込みました。
『熱血硬派!くにおくん』は操作が特殊なんです。普通に見るとパンチとキックをしているように見えるけどパンチボタンとキックボタンがあるわけではありません。Aボタンを押すと常に右側を攻撃、Bボタンを押すと常に左側を攻撃をするんです。つまり、くにおくんが右を見ているときはAボタン、左を向いているときにBボタンを押すとパンチするんです。変わった操作なのに、やり込むとめちゃめちゃ気持ちよく操作できます。
ファミコン版ではアーケード版のジャンプボタンがなかったためABボタンを同時に押すとジャンプができました。それでキックを押すとジャンプキックになる特殊な操作なんです。
『熱血硬派!くにおくん』は『ファイナルファイト』や『天地を喰らう』といったベルトスクロールアクションゲームの元祖と言われていて、敵を殴ってひるませたり、掴んで後ろに投げるといった要素が全部入っているんです。投げることで後ろにいるザコを倒せるという操作性も一番最初だったと思います。
この後に『ダブルドラゴン』が出て世界中でヒットしましたが、『熱血硬派!くにおくん』のようなヤンキーの世界観のゲームはほかになかなかありません。
全部で4ステージあるんですけど、1面のボスは「りき」で、のちに仲間になるライバルです。3面のボスの「みすず」というボスが凶悪で、スケ番みたいなでっかい女の人が出てくるんです。フィジカルだと、みすずが多分このシリーズで最強だと思います。
最終ステージのボスで出てくるヤクザの組長「さぶ」は、普通にハジキを持っているので、撃たれたら一発で死んじゃったりしてめちゃめちゃ面白いので、ぜひ遊んでみてください!
渡辺さん:
『熱血硬派!くにおくん』は『龍が如く』の祖先って感じもしますね。
橋本さん:
『龍が如く』は『シェンムー』からの流れもあるけど、僕らの体験としては『くにおくん』シリーズの「ゲームとして喧嘩をする」という不良文化のほうも引き継いでいる感じがします。
野球盤の要素ゼロの変わり種野球ゲーム『ファミコン野球盤』
橋本さん:
野球ゲームって、いろいろ王道的なものは語られていると思うんです。その中で変わり種の野球ゲームがいくつかあって、『ファミコン野球盤』がそのひとつです。タイトルとは裏腹に野球盤の要素はゼロなんですけどね(笑)。
これ試合の前に準備モードがあるんですけど、チームが資金を1000万円持っていて、いろんなアイテムをお店で買って選手に装備させることができるんですよ。そのお店は4つあって、中でも星一徹っぽいオジさんの店で「まほうのクラブ」という装備を買うと、投手が投げるフォームが変わって星飛雄馬の大リーグボールみたいに足をピン!って伸ばして投げたり(笑)。
これで「燃える魔球」や「消える魔球」が投げられたり、ボールが4つぐらいに分身する球が投げられるとか、ありえない魔球が投げられます。普通の野球ゲーにはあまりない要素がすごく印象的で面白かったですね。
RAM RIDERさん:
パッケージも全体的に権利関係がゆるそうなゲームですね。
ラグーン語だけじゃない! ストーリーにも感動した名作ゲーム『レーシングラグーン』
橋本さん:
これは大ネタですよ。今日はこの話だけで時間が終わるかもしれないレベルのタイトルです。『レーシングラグーン』は、スクウェア(現:スクウェア・エニックス)から出た、PlayStation用のハイスピード・ドライヴィングRPGです。走り屋がテーマで、横浜を舞台にしたゲームです。
主人公のモノローグで「South YOKOHAMA……」みたいな、3点リーダー(……の部分)の使い方が独特な、世界観が素晴らしいゲームです。これ、数年前の「RTA in Japan」でもプレイされて大変盛り上がってましたが、リスナーのコメントが全部 “ラグーン語” になってバズりましたよね。『レーシングラグーン』再評価の流れですよこれは。
で、話題になったラグーン語はもちろん最高なんですけど、僕はまずゲームとしてすごく良かったと思ってます。プレイしてた当時はそんなにラグーン語で笑うとかはなかったんですけどね。純粋な大学生だった自分は「このゲームめちゃくちゃかっこいいじゃん」って前のめりになってたというか。
形式としては、RPGとレースゲームが融合したオープンワールドという当時すごく斬新なもので。横浜の街を見下ろし視点で車に乗って流すんです。街は割と完全再現されていてランドマークタワー、中華街、山下公園みたいな場所をずっと流していると車とエンカウントして画面がレースゲームになり野良レースが始まります。そのレースに勝つと相手からパーツを奪えますが、負けると取られてしまう。
ゲームの斬新さだけじゃなくて、ストーリーもめちゃくちゃ刺さりました。走り屋チーム同士のいざこざから始まるんですが、途中から大企業の陰謀みたいな話になり、先が気になる展開になっていきます。
話を説明すると、20年以上前なんで完全ネタバレですが(笑)、物語としては20数年前の横浜にめちゃくちゃ速い走り屋がいたけど素性が全然わからず、その幻影を追いかける「走り屋たちの夢の物語」みたいなストーリーなんです。が、主人公の設定が、新人の走り屋として始まるんですが、のちに実は自分が伝説の走り屋だったことがわかる…という、記憶喪失モノというか。
簡単に言うと、『ファイナルファンタジーVII』の主人公・クラウドの逆の設定、みたいな話で、主人公が「俺はまだペーペーの走り屋なんです」と言っても、周りの分かる人から見れば「えっ、伝説のあいつじゃん」ってなる、「逆クラウド状態」に(笑)。そして最後は悪徳企業が開発した危険な薬を使用したレーサーとその陰謀と戦っていく、という重厚なストーリーです。
渡辺さん:
『レーシングラグーン』は後に『ファイナルファンタジーXIII』のディレクションをする鳥山求さんがシナリオを書いているんですけど、この頃から独特の作家性がありますよね。
橋本さん:
先ほども言ったとおり、“ラグーン語” と言われている言い回しがやっぱりいい。
「South YOKOHAMA…………俺たちのSTREET…………醒めちまったこの街に……………熱いのは………俺たちのDRIVING……」と始まっていくわけですよ。
こういったクールかつ熱いセリフが多い中でチャーミングなシーンもあって。僕が印象的だったのは先輩の走り屋の高級マンションの前に行った時のつぶやきです。
「KANNAI STATION前の高層マンション… 俺の知らない国の言葉で名前がついてる」
「舌をかみそうな建物名は 『月光浴の丘』って意味だって聞いたことがある」
「このマンションの最上階に藤沢先輩が住んでるのさ」
「俺の部屋にはないものがそこにはふたつある……」
「……ウォーターベッドと同棲中の彼女……」
3点リーダーを多用して童貞の嫉妬みたいになってるところが最高で(笑)。ラグーン語の話ばかりになってしまいがちですが、音楽もすごく良くて。街を流してる時はちょっと静かなドラムベース調の音楽が流れる一方で、合間の音楽はしっかりフュージョンだったり。今聴いてもあまり古びないというか、ダサさを超越したタイムレスなカッコ良さを感じます。バトルの音楽もこの感じでレース気分を上げてくれる。
『レーシングラグーン』は根強いファンが多いと思うので公式で何かやってくれたら幸せだなあ。
渡辺さん:
当のスクエニが一番封印しようとしているタイトルかもしれないですが(笑)。
橋本さん:
いやいや、一番かっこいいタイトルですよ。今はネタみたいに語られがちですが、遊んでる当時は全然笑わなかったですから。ゲームの世界に没入しきって自然と「冗談じゃねえ……」と感じるようになってくる(笑)。
「RTA in Japan」でもバズっていたのが、バトルを拒否するときの選択肢に「PASSさ……」と出てくるところだったんですけど、これはわかる人にはわかるので、僕も何かを言われたときに「PASSさ……」を使っていきたいです(笑)。