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なぜファミコンのビジュアルは “生々しくないのに怖い” のか? 『国産RPGクロニクル』(イースト・プレス)の著者らが80年代から90年代にかけてのレトロゲームを語りつくす

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タレントゲームの中でも数少ない成功作『さんまの名探偵』

橋本さん:
 『さんまの名探偵』はみんなやってるんじゃないかな。(会場内に問いかけて)これやったっていう人います? 半分くらいはいますね。

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渡辺さん:
 みんなやっているっていうほどではないですね(笑)。ちなみに、僕はやっていません。ファミコンを持っていない子供だったので…。

RAM RIDERさん:
 『ギャラクシガニ』知らないですか?

渡辺さん:
 知らないです…『さんまの名探偵』はどのようなゲームですか?

橋本さん:
 吉本興業の当時の人気者たちの中で起きる殺人事件です。文珍さんが死んで、犯人を探す。さんまさんとプレイヤーが探偵となって捜査を進めるんですが、実在する芸人さんが続々登場して。

RAM RIDERさん:
 改めて聞くとすごい企画ですね(笑)。

渡辺さん:
 実在する人物が死んで、実在する人物たちが容疑者で、実在する誰かが犯人なんですよね?

橋本さん:
 はい(笑)。途中で紳助さんが死にます。

RAM RIDERさん:
 そう、一番怪しいのは紳助なのに。ガイコツの全身タイツを着たまま死ぬんですけど(笑)。

RAM RIDERさん:
 さんまさんが紳助さんに話を聞いたら「近々大金が入る」と言っていて。これみんな黒い話なんです。

橋本さん:
 紳助さんでどんどんミスリードするんですけど、途中で殺されます。

RAM RIDERさん:
 『さんまの名探偵』はタレントゲームの中でも本当に数少ない成功作だと思います。ゲームとしてちゃんと面白い。

橋本さん:
 やったことがある人にしか通じない話ですが、僕は最初のコンタクトレンズがわからなくて、全然進みませんでした。画面を見ていたら一瞬だけキラーンって光るところを調べないといけなかったんですが、難しかったですよね。

 横山やすし師匠とボートレースで戦わなきゃいけない場面もあって(笑)。連打するんですけど、それがとにかく難しくて全然進めない。

 西川のりお師匠も、「闇の帝王」という謎の設定でしたね(笑)。

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RAM RIDERさん:
 みんな裏の事情が見えてくるところが本当にドラマっぽくておもしろいんです。昔のテレビ番組でよくあった、本当の有名人が出てくる2時間くらいの『○○殺人事件』のノリ。

渡辺さん:
 当時は面白さが想像できなかったですけど、今聞くとめちゃくちゃ面白そう(笑)。

RAM RIDERさん:
 今やっても本当に面白いですよ。

橋本さん:
 怪しいものを見つけたときにさんまさんの顔がちょっと怖くなるんですけど、子どものときはそれが怖くて。ファミコンの推理ものってやたら怖いんですよね。

渡辺さん:
 それは確かにありますね。

橋本さん:
 それでいうと僕は『ファミコン探偵倶楽部』のCMが怖かったです。夜の8時45分くらいの枠で流れるんだけど、『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』っていうタイトルのCMがめっちゃ怖くて、その後トイレにひとりで行けなかったことがありましたた(笑)。

モンタージュを自分で作るのが印象的だった『西村京太郎ミステリー スーパーエクスプレス殺人事件』

橋本さん:
 大人がやるようなファミコン推理ゲームが増えてきて、その中で個人的に印象的だったのが『西村京太郎ミステリー スーパーエクスプレス殺人事件』です。ファッション業界のデザイナーやアパレルメーカーのいざこざで起こる殺人事件で、音楽もかっこいいけど怖い。

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渡辺さん:
 僕、それ実はずっと気になっていたんですけど…昔の8ビット時代のゲームを語るとき、みんなノスタルジックに「いい時代だったな~」という文脈で語ることが多いからあまり言われないですけど、ファミコンのゲームって全体的に怖いイメージありません?

橋本さん:
 そう。「情報量が少ない怖さ」みたいなものがあって。

渡辺さん:
 音もなんというか、暗くて冷たい印象があります。もちろんゲームという遊びは面白いしエキサイティングだとも思っていたけど、同時にえもいわれぬ怖さを感じていて。そういう事からも、ミステリーとの相性はよすぎる。

橋本さん:
 『西村京太郎ミステリー スーパーエクスプレス殺人事件』は途中で死体が出てくるんですけど、それも怖くて直視できませんでした。調べなきゃいけないんだけど、怖くて見ることができない。

渡辺さん:
 ビジュアルとしてはそんなに生々しいわけではないけど「血の通ってない感じ」が怖いのかなあ。

橋本さん:
 このゲームは聞き込みをして解決していくゲームなんだけど、最後はモンタージュ写真を自分で作り、それを当てないと先に進めません。これがめちゃくちゃ難しかった。

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RAM RIDERさん:
 そうそう、微妙な違いがあるんです(笑)。

橋本さん:
 髪型に「オールバック」があるんですけど、小学生だったからオールバックが何か分からない。

RAM RIDERさん:
 子供のころって、きっとこういう経験からボキャブラリーが増えていくんだと思います。

権利問題を避けるための上級テクニック?『プロ野球?殺人事件!』

橋本さん:
 殺人事件つながりで、続いては『プロ野球?殺人事件!』です。

渡辺さん:
 タイトルが「プロ野球?」ということは『さんまの名探偵』みたいにちゃんと権利を取っているものではない……?

橋本さん:
 名前は「いがわ」なんで、権利はどうなんでしょうね(笑)。

 タイトルに「プロ野球?」と「?」が入ってることが最大のポイントで(笑)。

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渡辺さん:
 はてなを付けることによって、権利的な問題が回避できるってことかな(笑)。我々も使っていきたいですね。

橋本さん:
 これが通るんだったら、「オリンピック?」、「大相撲?」みたいな(一同爆笑)こともできますからね。

それを体験した人だけが犯人の名前を言ってほしい『ポートピア連続殺人事件』

RAM RIDERさん:
 じゃあ、この流れで『ポートピア連続殺人事件』に行きましょうか。『ドラクエ』の話でも出てきましたけど。

渡辺さん:
 堀井雄二さんが『ドラクエ』の前に作ったゲームです。

橋本さん:
 『ドラクエ』より先に作ることに意味があったというやつね。

RAM RIDERさん:
 前回のイベントでも話してしまいましたが、僕はアメ横にある問屋さんで買ったんです。『ドラクエ3』『ドラクエ4』、『ファイナルファンタジー』など世の中の人たちが手に入らないゲームを、なぜか僕は母親の電話ひとつで「アメ横のここに行くと買えるから行ってこい」と言われる(笑)。すると、箱の中に入っている中から、一個だけ売ってもらえるんです。

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渡辺さん:
 前回のイベントでそれを聞いた橋本さんと俺が「かっけー」と興奮しました。

RAM RIDERさん:
 『ポートピア連続殺人事件』は、リアルタイムで買って遊んだゲームで、『さんまの名探偵』とどっちを取り上げるか最後まで迷ったゲームです。みなさんは『ポートピア連続殺人事件』のストーリーって知っていますか?

 ストーリーはあくどいサラ金をやっていた社長が密室で殺されているところから始まります。そこのお手伝いさんの女の子や守衛など周囲の人にはアリバイがあるので実は自殺なんじゃないかなんて話も出るんですが、密室と思われていた部屋の地下室に金庫があったり、いろいろと隠された事実が明らかになっていく。そうすると、この社長が金を貸す仲間と昔やっていた悪事を誰かに脅されていたことが分かるんです。

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橋本さん:
 「犯人はヤス」でしょ?

RAM RIDERさん:
 だからそれを言うなと! 本当にリアルタイムで結末を知らずにやった小学生の衝撃を想像してほしいのと、実際ストーリーがめちゃめちゃいいんですよ。

 平田という昔の悪い仲間を犯人として疑っていたら、そいつも自殺しているんです。そこでヤスが「かなしい けつまつですが じけんは、かいけつしました。 どうか そうさをやめろと めいれいしてください」で、終わらせようとする。本当はヤス自身が犯人なのに。別の被害者が出てきて、真犯人が罪を着せている構図です。

 最終的にさっき言った地下室の奥に入っていくと、殺された社長の手紙が出てくるんです。過去に自分がやった悪事のせいで自殺をしてしまった夫婦がいて、その二人には息子と娘がいたと。社長はそのふたりに対して、本当に申し訳ないと思い、このふたりに自分のせいで自殺してしまった親の代わりに財産を残そうとめちゃめちゃ仕事を頑張っていました。つまりすでに改心してたんです。

 この「娘」というのが、ずっと側で殺す機会を伺っていた女性のお手伝いさんで、そのお兄さんがヤスなんです。でもこの手紙を見つけた時点でヤスはまだ自白していません。主人公とヤスで捜査しているうちに、実は社長がすでに改心していて、自分と妹に財産を残すために真面目に働いてたことを知ってしまうという、めちゃめちゃ泣けるストーリーなんです。それを体験した人だけが、「犯人はヤス」と言ってほしい!!

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橋本さん:
 だって当時はカセットを借りる時にもう「犯人はヤス」って聞いているわけですから(笑)。最初からヤスを逮捕しようとしても全然白状しないから、「たたけ」のコマンドで「ヤス」を選んだりして(笑)。

RAM RIDERさん:
 犯人がわかっていたとしても終盤のくだりはめちゃめちゃ泣けるので、機会があったらぜひ遊んでみてください。

渡辺さん:
 (ファミコン版のパッケージを見て)このふたりがヤスと妹ってことですよね?

RAM RIDERさん:
 そう、これが妹です。これは最後の自白が済んでパトカーにまさに乗らんとしているシーンが描かれているんです。

橋本さん:
 ネタバレじゃん!

渡辺さん:
 プレイ前はこの絵が示す意味が分からないけど、終わってみたら「そういうことなんだ」とわかるという演出ですね。

おまけ:歴史修正主義者って恐ろしい『ライトボーイ』の話

RAM RIDERさん:
 最後!おまけで『ライトボーイ』の話を少しだけさせてください。これは僕が好きなゲームの11番目にあげたものなんですけど、歴史修正主義者って恐ろしいなと最近思っていて。というのも、『ライトボーイ』が最近「とほほグッズ」として語られているのをみかけたんです。

橋本さん:
 マジで? なんで?

RAM RIDERさん:
 「実際には見づらくて、実用には耐えなかった」みたいな。

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橋本さん:
 僕はめっちゃ実用していたのに。

RAM RIDERさん:
 手前にライトが付いていて拡大鏡が使えるんですよね。

渡辺さん:
 ゲームボーイの液晶画面って、もともとバックライトがないんですよね。

橋本さん:
 今のスマホと違って明るいところじゃないと遊べない。

渡辺さん:
 本体に光源がないからね。ライトボーイはそれを補うために外からライトで画面を照らしてくれる、というアイテムでした。それにプラスして手前にでっかいルーペが付いているので、画面を拡大して、同時に明るくしてくれるという優れもの。

RAM RIDERさん:
 僕は本当にこれを手に入れて以降、マジでこれじゃないとできないぐらいに『桃鉄』とかも全部これでやっていたんですよ。

橋本さん:
 俺もこれで遊んでた。でも『ワイドボーイ』のほうだったかも?

渡辺さん:
 『ワイドボーイ』はライトが付いてない分ちょっと安いのと、重さもちょっと軽かったのかな?僕の『ライトボーイ』実用の思い出としては、中学2年生の時に「漁業体験学習」という、泊りがけで漁業を体験しに行く臨海学校みたいな行事があって、漁村に宿泊したんです。それで当然、夜はかなり早く消灯時間になってしまうんですが、そこで友達とみんなで『ライトボーイ』を持ってきていて、『SD戦国伝』の対戦プレイを一晩中やったんですよ。それでほぼ徹夜をした上での翌朝の漁は、本当に辛かった…!猛烈に船酔いしてしまい、「とにかく早く陸に返してくれ」と切実に願いました。肉体的な意味では、人生で最も辛かった体験のひとつです(笑)。

RAM RIDERさん:
 この話も、同世代の人たちは「うんうん」って聞いてくれてましたけど、下の世代の人たちがネットで『ライトボーイ』を見て「とほほグッズ」認定をしてしまうのは困るので、そういう誤解はどんどん潰していかないと(笑)。めちゃくちゃ素晴らしいものだったということを、後世に伝えていきたいです。(了)

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 というわけで、今回のレポートはここまで。『国産RPGクロニクル』刊行記念イベント自体は全部で3回開催される予定になっており、次回は古川耕さん津野友彰さんをゲストに招き、8月26日にジュンク堂書店 池袋本店で「ゲームを語る言葉を探して」と題したトークイベントが開催される予定だ。

 すでに現地参加チケットは売り切れとなっているが配信チケットは販売中なので、興味がある人はそちらをチェックしてほしい。

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ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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