もう一人の主人公、雷電が登場する続編『METAL GEAR SOLID 2 SONS OF LIBERTY』
続いての収録タイトルは『METAL GEAR SOLID2』。2001年に機種をPlay Station 2へと移して発売されたこの作品は、グラフィックが更に向上しており、前作『METAL GEAR SOLID』で発生したシャドー・モセス島の後に起きた2つの大事件を描いています。
敵に見つからないように任務を遂行するというゲームシステムのベースはそのままに、ゲームプレイやストーリーに新たな試みが見られる続編となっており、「21世紀最高のゲームシステム」とも評される本作で遊ぶことができるのは、「タンカー編」「プラント編」と名付けられた2つの物語。
多くのプレイヤーが最初にプレイすることになるであろう「タンカー編」の主人公は、皆様お馴染み、伝説の傭兵ソリッド・スネーク。
『METAL GEAR SOLID』で勃発したシャドー・モセス事件の経験をキッカケに、事件の関係者でありメタルギアの開発者でもあるオタコンと共に反メタルギア財団『フィランソロピー』を組織し、メタルギアの撲滅運動に力を注ぐようになったソリッドは、オタコンが新たに掴んだ新型メタルギア開発の情報をもとに、その証拠となる写真をカメラに収めるべく、メタルギアが積載されていると思しきタンカーに単独潜入を図ります。
ソリッドとオタコンの活動は過激でこそあるものの、彼らはテロ行為からは距離を置いているため、誰にも見つからずに目的を達することこそが最善策であり、隠密行動で戦闘をなるべく避けることが求められます。
そんな本章における目玉イベントは、やはり、新型メタルギアであるメタルギアRAYの証拠写真撮影ミッションでしょう。
このミッションでは、オタコンが要求する角度からRAYを撮影し、それを船内のパソコンを使ってオタコンに送ることとなるのですが、ここに司令官の演説が終わるまでの制限時間という要素が加わるというのが印象的で面白いポイント。
しかも、司令官の演説にはこれまでの任務では見たことがないような数の兵士たちが、全校集会が如く綺麗に整列して参加しているため、誰かに存在を気づかれてしまった時点でゲームオーバー。見つかったとしても頑張ればなんとかなる通常難易度とは事情が変わってきます。
絶対に見つかってはならないという慎重な行動が求められる状況の中で、オタコンが求めている画角でメタルギアRAYを撮影して、別の場所にあるパソコンから写真を転送するために奔走しなければならない上に、制限時間という縛りがある。
隠密行動でありながら目立つ場所に赴いて目立つ行動をしなければならないという相反する要素が面白く、それまで以上のヒリヒリとした緊張感があり、ミッションをクリアしたときの達成感は言葉にできないものがあります。
こういった楽しさがあるタンカー編には、シャドー・モセス島事件の関係者であるリボルバー・オセロットや、
身重ながらも熟練の戦闘技術を持つ兵士、オルガ・ゴルルコビッチといった重要キャラクターも登場。
特にオセロットは、シャドー・モセスの事件後にメタルギアの情報を闇市場(ブラックマーケット)に流し、メタルギアの亜種が全世界で製造されるようになるキッカケを作った張本人。『METAL GEAR SOLID』シリーズ全般で暗躍している影の主役とでも言うべき人物です。
そんなオセロットは、このタンカー編のワンシーンで、前作のシャドー・モセス島事件の首謀者として登場したリキッド・スネークに自我を乗っ取られてしまう場面が描かれます。
これは、彼が前作で無くした右腕にリキッド・スネークの右腕を移植したために起きた出来事で、「プラント編」でもこういった様子が描かれるのですが、このシーンが『METAL GEAR SOLID 2』の発売から何年も経ってから『METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS』のストーリーにおける重要な因子となるわけですから、『METAL GEAR SOLID』シリーズのファンは止められません。
ちなみに、本作のオセロットは、『METAL GEAR SOLID』から彼の声を担当されている戸谷公次さんの最後のオセロット。そういった意味でも感慨深いものがあります。
こういった魅力的な要素が随所に見られるタンカー編ですが、ゲームとしては短め。
実は本作の中心となる物語は、「タンカー編」ではなく、タンカー編の2年後に起きた事件を描いた「プラント編」となっているのです。
シリーズファンの方にしか伝わらない例えを出したところであまり意味はありませんが、言うなれば「タンカー編」は、『METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES』のようなものというわけですね。
さて、「プラント編」のストーリーの始まりは、海上除染施設ビッグ・シェルが、“サンズ・オブ・リバティー (自由の息子達)” と名乗るテロリストたちによって占拠され、アメリカ合衆国大統領ジェームズ・ジョンソンをはじめとする多くの人間を人質にとったことから。
そして、テロリストたちを武装解除し人質を救出すべく、シャドー・モセス島の時と同じように、特殊部隊FOXHOUNDから “スネーク” のコードネームを持つ人物が事件現場のビッグ・シェルに送り込まれます。
しかしその姿は、端正な顔立ちの爽やかなイケメン。むせかえるような渋さをその周囲に漂わせる伝説の傭兵ソリッド・スネークとはどこからどう見ても別人です。
しかも、彼がスネークのコードネームで呼ばれるのはストーリー開始時のほんの少しの間だけ。とある事情から、彼には “雷電” というコードネームが与えられます。そしてこの雷電こそが、「プラント編」の主人公であり『METAL GEAR SOLID 2』のメインとなる新キャラクター。彼は後に『METAL GEAR RISING: REVENGEANCE』でも主役をつとめることとなるのですが、こちらの作品は今回のコレクションでは未収録。
ちなみに雷電の本名はジャック。この隠密作戦には雷電の恋人であるローズも参加しているんですが、ローズは雷電を普通に本名で呼んでいます。
さて、雷電の本名はともかく、雷電の単独潜入任務の指揮を執る大佐によれば、テロリストたちは現金300億ドルを要求しており、その願いが叶えられなければビッグ・シェルを爆破すると宣言。もしも爆破が実行されてしまった場合、施設内の有毒物質が海洋中に流れ出し、湾内の生態系は壊滅し、何百年にも渡って死の海となることが予測されると言います。
さらに、このテロの首謀者は自らを2年前のタンカー事件で死亡したとされる “ソリッド・スネーク” と名乗っているとのこと。これが、ジャックが今回の作戦においてスネークではなく雷電というコードネームで呼ばれることとなった理由です。
VRで疑似戦闘訓練を数多くこなし、高いスキルを持つ雷電ですが、実際に潜入任務にあたるのは今回が初めて。任務の詳細や行動方針については、大佐からの指示を仰ぐこととなります。
いくら雷電が高い戦闘スキルを有するとは言っても、敵に見つかってしまえば話は別。一気に周囲を取り囲まれてしまい、生存するのは至難の業となるため、今回も『METAL GEAR SOLID』シリーズではお馴染みの、敵に発見されない隠密行動が必要です。
そして本作では、主観視点からの銃撃や麻酔銃、敵兵の背後に近づいて無力化するホールドアップなどといったアクションが実装されており、それらを駆使することで、潜入をよりスムーズに実現することができます。
さて、「プラント編」の舞台となるのは、六角形を2つつなげた形をしたビッグ・シェル。この施設内を縦横無尽に駆け回り、テロリストたちの企みを阻止していくことが雷電の任務の1つになるわけですが、
施設内に仕掛けられた爆弾を解除したり、
心臓にあるペースメーカーの音を頼りに、大量の人質の中にいる大統領のシークレットサービスのエイムズを探し出したり、
コンピューターの天才であるエマを護衛しながら目的地まで進んだりと、一味違うミッションが多いという印象です。
そして、雷電が任務の最中に戦うこととなる、テロリストたちの中枢を担う人物たちもまた、一味違う個性的なものばかり。
前大統領ジョージ・シアーズが編成した特殊部隊デッドセルの元隊員でもあるそのメンバーは、10才の頃に原子爆弾を組み立てたという衝撃的な逸話を持ち、爆弾界で伝説の人間になることを目論んでテロに参加した、アーティストを自称し独自の美学を持つ爆弾魔、ファットマン。
水上を走ったり、垂直にそり立つ壁を駆け上がったりするなど、まるでギャグかのような人間離れした能力を持つルーマニア生まれのナイフ使い、ヴァンプ。
なんと彼は眉間に銃弾を受けても死なないという、正に吸血鬼かのような不死身の肉体を持つなんとも不気味な男。
そして、自身に向けられた弾丸の起動が全て逸れ、付近に投げられた爆弾は全て不発になるという奇跡としか形容しようがない能力を持つことから、周囲からは幸運の女神と呼ばれる兵士フォーチュン。
戦場に身を置くものにとっては理想的でしかないこの能力ですが、フォーチュン自身は自らを “死を拒絶された女” だと言い、親しい人間が戦場で死に自分だけが全く死ねないという現状を心の底から呪っており、常に誰かに殺されるその時を待ちわびながら戦場に立ち続けています。
そんなフォーチュンとは、1vs1で対峙する場面もあるのですが、その際に画面上に表示される彼女の体力は、本作だけでなく『METAL GEAR SOLID』シリーズ全体を通して考えても圧倒的に少なくなっているのが印象的。
こういった体力の少なさや言動から、このビッグ・シェル占拠事件に至るまでの詳細な背景をじっくりと妄想したくなってしまう魅力的なキャラクターです。
また、彼らとの戦いの中でも特に私の記憶の中に強く残り続けているのが、ファットマンとの一戦。
その戦いは、死闘と呼ぶにふさわしい緊迫感が常に漂うもの。戦場内をローラーブレードで軽快に動き回るファットマンは、その動きの中でそこかしこに時限爆弾を設置していくため、戦闘の最中に爆弾処理という別軸のアクション要素が加わってくるのです。
言うまでもなく、これらの爆弾を制限時間内に解除できなければ即ゲームオーバー。ファットマンへと時限爆弾への対処を同時並行で進めなければならない戦闘は忙しなく、高難易度になればなるほど、ファットマンはタフになり、一度に設置する爆弾の数も増えていくため、絶望感が加速度的に増していきます。
更に、ファットマンとの直接対決に勝利しても、彼からの挑戦はまだ終わりません。ファットマンが最後の最後に仕掛けたゲーム、トリックは鮮やかで、初めてプレイしたときにその謎が解けた時の快感は、今でも強く脳裏に焼き付いています。色々な意味で強烈なインパクトを残してくるキャラクターでした。
ちなみに、デッドセルのメンバーと戦う際に流れるBGM『Yell “Dead Cell”』はガチで名曲です。『大乱闘スマッシュブラザーズX』でもステージBGMとして使用されていましたね。
そして、そんなデッドセルたちをも束ねるテロリストの首領は、ソリダス・スネーク。ソリッドとリキッドに次ぐ、3人目のスネークです。
テロの首謀者ですから、当然このソリダスが本作におけるラスボスということになるわけなんですが、彼と闘う機会は一度だけではなく、彼の乗る戦闘機ハリアー2と生身で戦わなければならない局面も出てきます。
『METAL GEAR SOLID』でのハインドD戦といい、中々にメチャクチャな戦いを強いられる主人公たちですが、本作ではまだ序の口。雷電はこのしばらく後に、ハリアー以上にとんでもない相手と戦わされます。個人的な思い出で恐縮ですが、最高難易度のEXTREMEに挑戦したときは、あまりの難しさにそこで投げ出してしまいました。
さて、私の挫折話は隅に置いておきまして、この『METAL GEAR SOLID 2』を語る上で欠かせないポイントとしては、やはりストーリーの濃密さが挙げられます。
本作では、ビッグ・シェルを占拠したテロリストの面々以外にも、相も変わらずメタルギアに関する大きな事件が起きればその裏で暗躍しているリボルバー・オセロットや、
『METAL GEAR SOLID』のシャドー・モセス島事件で壮絶としか言い様がない顛末を迎えたはずのサイボーグ忍者、
雷電が潜入任務の最中に出会うこととなる、海軍特殊部隊の隊員プリスキン中尉などといった様々な人物が登場。
更には この事件では“愛国者達” と呼ばれる謎の存在がその裏にいることが示唆されており、様々な組織、様々な人物がそれぞれの思惑で動いているため、事態は中々に複雑です。
特にゲーム後半に訪れる怒涛の展開は凄まじく、初プレイをした当時はあまりの事に理解が追いつかず、一度コントローラーを置いて、これまでに出てきた情報やストーリーの流れを脳内で整理する時間が必要だったほど。
結局、そんな情報整理時間を設けながらも、何が現実で何が虚構なのか、どこまでが本当でどこまでが嘘なのかすら分からなくなってしまうようなストーリーの全てを1回のプレイだけでは理解しきることができず、「何これ」と小声で呟くだけという何とも寂しい幕切れで、私の初回プレイは終わりを告げました。
しかし、その後も本作の余韻は残り続けたため、そのまま『METAL GEAR SOLID 2』のプレイ自体を終わりにすることなどできるはずもなく、そこからは周回プレイを重ねたり、ソリッド・スネークの最終章と言うべき『METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS』をクリアした後に再度プレイをしたりして、ビッグ・シェル占拠事件の全体像の把握に努めることになるわけなんですが、それにより、ストーリーの解像度が次第に上がっていく過程には、何度も読み返したくなるようなミステリー小説に出会った時のような爽快感がありました。
最終的には、そのストーリーの壮大さに感嘆し、「何これ」と小声で呟き、私の『METAL GEAR SOLID 2』のプレイは万感の思いをもって1つの終着点を迎える事ができました。難解でこそありますが、何回プレイしてでも理解したくなる魅力が本作のストーリーにはあるのです。
……周回プレイでしか楽しめないお楽しみ要素も、『METAL GEAR SOLID 2』にはありますしね。
ちなみにですが、『METAL GEAR SOLID 2』のシナリオを理解する上では、前作『METAL GEAR SOLID』を先にプレイしておくのがオススメです。まぁ、せっかくの1〜3の全てが収録されているコレクションで、最初に2から遊んでみるという奇特な人はそうそういないでしょうけれども。
さて、シリアス路線が強く、深く考えさせられてしまう部分の強い本作ですが、ただただひたすらにシリアスというわけではありません。本作にもしっかりと、至る所にネタ要素が仕込まれています。
それらの中で分かりやすいネタの1つが、タンカー編でオタコンがスネークに対して、『METAL GEAR SOLID』でのメイ・リンよろしくことわざを教えてくれるという内容の無線会話。
資料をしっかりと用意してことわざを紹介しているというオタコンですが、彼の口から語られるその内容は、どこか読み方や意味がズレたものばかりという奇妙奇天烈で摩訶不思議なもの。緊張感で殺伐とした空気になりやすいゲームプレイにおいて、こちらの気持ちをほぐしてくれる温かい紅茶のような存在です。
オタコンの似非ことわざ解説を色々と聞いていくと、思わぬ展開が待ち受けていたりも。
また、先ほど触れた緊迫のメタルギア撮影ミッションの最中にも小ネタがしっかりと用意されています。本作に限った話ではありませんが、『METAL GEAR SOLID』シリーズの敵兵は基本的に性に忠を尽くしています。
そして、本作に隠されているネタの中には、ゲームファンでなければ細かすぎて伝わらないようなものもあったりするのですが、
これらのネタ要素の中でも特に強烈なのは、やはりこのシーンでしょう。素晴らしいオブジェクト配置、素晴らしいカメラワークです。初プレイの時には爆笑しました。
こんなコメディかのような状態になっている雷電ですが、その裏ではしっかりとシリアスなストーリーが展開されているのですからたまりません。画像だけを見ると脱力的なのに、その実情を見ると緊迫感たっぷりというこの状況、笑いの基本と言われる緊張と緩和の極致ともいえるシーンです。
そして、本作独自の収集要素として、ドッグタグというものがあります。これはゲーム内に登場する各兵士が個別に所有している個人を識別する認識票で、
敵兵の背後に忍び寄って銃を構えてホールドアップさせてから正面に回り込み、再度頭などの急所に銃をつきつけることで入手できます。この入手率が一定値に達することで、周回プレイの際に特殊アイテムを持った状態でゲームをスタートさせることができます。発見される危険を冒してでも手に入れたいアイテムです。
さて、『METAL GEAR SOLID 2』パートの最後にこんなことを言ってしまうのもどうかとは思うんですが、これまでのソリッド・スネークを主役としてきた作品たちから一変して、新たなキャラクター雷電をもう一人の主人公として迎え入れるというこの采配には、ゲーム発売当時中々に批判的な意見も寄せられていたという話もあり、次に紹介する『METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER』に登場する雷電によく似たマスクを装着すると、その顔では人気は出ないと断言されてしまいます。
……ちなみに私も、雷電よりソリッド・スネークの方が好きな人間の1人。まぁ、それを言い出したらソリッドよりもネイキッドの方が好きなんですが、ネイキッドの魅力については、次のパートでじっくりと時間をかけてお話していきたいと思います。