敵を倒すのではなく、敵から隠れる。
これまでのアクションゲームの概念を覆すかのようなシステムを持つゲームがその産声を上げたのは、1987年。小島監督によって制作されたゲーム『METAL GEAR』でした。
本作はその画期的なアイディアから、「ステルス要素を完全に取り入れた最初のビデオゲーム」としてギネス世界記録にも認定されており、以降、ステルスアクションとしてその地位を確立したメタルギアシリーズは、タクティカル・エスピオナージ・アクション(戦略諜報アクション)ゲームとして長い年月に渡って作品が発売されています。
“メタルギアサーガ” とも呼ばれる『メタルギア』シリーズ作品群のストーリーは、「次の世代に何を伝えていくのか?」を大きなテーマとしており、壮大かつ緻密。ゲーム史の中でも非常に高い水準を誇っており、伊藤計劃氏などが本シリーズのシナリオを小説化したノベライズ版も発売されていて、こちらも非常に読み応えがあります。
また、その独自のゲーム性とハイクオリティなストーリーから多くのファンを獲得した『METAL GEAR SOLID』シリーズですが、その人気の高さは、シリーズ作品の名曲たちを各作品の名場面をバックにオーケストラが奏でる「メタルギアコンサート」が現在でも開催されているといったところや、KONAMIのキャラクターであるにも関わらず、セガのソニック・ザ・ヘッジホッグとともに、シリーズ初のゲストキャラとして『大乱闘スマッシュブラザーズX』にゲスト出演したことからも伺えます。
完全に余談ですが、この記事とは一切関係なく、先日開催された「メタルギアコンサート2023」に行ってきました。いやー、改めてメタルギアシリーズは最高だなと。
それはともかく、『METAL GEAR』シリーズの一作品であり、シリーズ初の3Dマップでの潜入を楽しめるようになった『METAL GEAR SOLID』が発売から25周年という節目を迎えた2023年、『METAL GEAR SOLID』シリーズに大きな動きが見られました。
その動きというのが、メタルギアシリーズの初期作品を1つにまとめた『METAL GEAR SOLID: MASTER COLLECTION Vol.1』(Nintendo Switch™ / PS5® / PS4® / Xbox Series X|S / Steam®)が、10月24日に発売されること。
シリーズに初めて出会った時から10年以上、未だにシリーズ作品を周回プレイし続けているファンとしては、とんでもない朗報です。
そこで今回は、『METAL GEAR SOLID: MASTER COLLECTION Vol.1』に収録されている作品のストーリーと魅力、そして、このコレクションならではの追加要素や魅力について、たっぷりと時間をかけてお話ししていければと思います。
文/DuckHead
20世紀最高のシナリオ、『METAL GEAR SOLID』
さて、『METAL GEAR SOLID: MASTER COLLECTION Vol.1』特有の要素についてお話しする前に、まず最初に本作に収録されているタイトルについて、その魅力をじっくりと時間をかけてお話ししていきたいと思います。
最初の作品は、1998年に初代Play Stationにて発売された『METAL GEAR SOLID』。
『METAL GEAR SOLID』シリーズで見ると最初の作品ですが、メタルギアサーガの中では、『METAL GEAR』と『METAL GEAR 2 SOLID SNAKE』に次ぐ3作目のゲームとなっています。
本作の舞台となるのは、アラスカのフォックス諸島沖にある孤島、シャドー・モセス島。
前作『METAL GEAR 2 SOLID SNAKE』の後、特殊部隊FOX HOUNDを除隊し、アラスカで50匹のハスキー犬とともに隠居生活を送っていたソリッド・スネークは、FOX HOUND時代の司令官であり、現在は退役しているはずのロイ・キャンベルに、ほぼ拉致のような形で作戦に呼び出されます。
キャンベルによると、数時間前、シャドー・モセス島にある核兵器廃棄所が6人のFOX HOUND部隊と次世代特殊部隊によって占拠されるというテロ行為が発生したとのこと。
テロリストたちの要求は、かつて偉大な英雄としてその名を知られた “ビッグボス” の遺体。彼らは、自らを「ビッグボスの息子達」と名乗り、24時間以内にこの要求が叶えられなかった場合は核攻撃を仕掛けると宣言しています。
そして、今回のテロ行為の中枢を担う6人のFOX HOUNDのメンバーは、サイキック能力を持つ、サイコ・マンティス
天才女狙撃手、スナイパー・ウルフ
変装の達人、デコイ・オクトパス
巨漢のシャーマン、バルカン・レイブン
拳銃の名手、拷問のスペシャリストとして知られるリボルバー・オセロット。
ソリッドが思わず「まるでコミックじゃないか」と、口にしてしまうほどの能力を持つ面々が勢ぞろいしています。
そして、テロリストを束ねるリーダーが、リキッド・スネーク。
ソリッドと同じスネークの暗号名を持つだけでなく、リキッドの姿はソリッドと瓜二つで、あまりの似っぷりにソリッド本人ですら驚いてしまうほど。
固体のソリッドと、液体のリキッド……。2匹の蛇による壮絶な戦いの火ぶたが切って落とされます。
さて、このミッションでソリッドに課された任務は2つ。
まず1つ目は、核兵器廃棄所内に単独潜入し、人質として捕らえられた、国防省付属機関先進研究局 “DARPA” の局長、ドナルド・アンダーソンと、アームズ・テック社の社長、ケネス・ベイカーの救出。
そして2つ目は、テロリストたちの核発射能力の有無を調査し、その能力があった場合には、核発射を阻止すること。
テロリストだらけの核兵器廃棄所への単独潜入。当然、任務の過程でスネークの姿をテロリストに見られるというのは可能な限り避けなければなりません。
もしも敵に姿を見られてしまった場合、現場は即座に危険モードに突入。敵兵はソリッドを排除するべく、彼に一気に銃弾を浴びせかけてきます。これまで静かだったBGMも危険モードに入った瞬間に緊迫感のあるものが大音量で流れるため、敵兵に発見されてしまった時の驚きはかなりのもの。この演出からも、潜入の緊迫感が高まります。
ちなみに、危険モードになった時には、付近にいる敵兵を排除するか、どこかへ身を隠して、敵兵がソリッドの姿を見失って通常モードに戻るまで待たなければなりません。
ただ、危険モードに突入することでスネークの周囲に集まってくる敵兵の数は多く、隠れる前にLIFEを全て奪われてゲームオーバーになってしまうこともしばしば。LIFEを回復させるレーションを使えば多少は長く生き延びられますが、やはり、敵に見つからないことがゲームクリアの近道となるのです。
この、敵に見つからないようにしながらミッションの達成を目指すというゲームシステムこそが、『METAL GEAR』から続く、作品の大きな魅力となるわけですが、『METAL GEAR SOLID』で起きた大きな変化が、マップが2Dから3Dになったことでしょう。
これによりマップに奥行きが生まれたため、潜入の臨場感と緊迫感が大きく上昇しています。
また、ゲームが3Dで描かれるようになったことで、主観視点が本作で初登場。この主観視点を使うことで解いていく謎があるなど、3Dマップになったことで実現可能になった試みも多く見られます。
そんな3Dマップの中を慎重かつ大胆に駆け回るソリッドの助けとなるのが、画面右上に表示されている、ソリトンレーダー。
このレーダーには、ソリッドがいるエリアの地形だけでなく、付近にいる敵兵の配置と視線、監視カメラの向きなどといった情報が全て表示されています。
敵兵の視線の動きを確認しながら隠密に行動する本作において非常に有用なソリトンレーダーですが、ソリッドが敵に発見されて危険モードに突入すると、危険モードが終わるその時まで使用することができなくなってしまいます。
敵に存在を悟られずに任務を遂行することが『METAL GEAR SOLID』の基本ですが、時にはストーリーの流れ上、敵兵と戦わなければならない場面もあります。
そんな時には武器を手に敵兵を排除しなければならないのですが、本作の銃器は、構えるだけで自動で敵にロックオンしてくれるため、一般的なガンアクションや、後のシリーズ作品に比べて操作が簡単になっています。
とは言うものの、物語の中ではFOX HOUNDのメンバーや、
ハインドDのような兵器と戦う場面が何度か登場し、その戦闘は一筋縄ではいかないものも多く、プレイヤーの技量が試されます。
ちなみに、これらの死闘の中で私にとって一番衝撃的だったのが、サイコ・マンティス戦。
相手の行動を読み取るというサイキック能力を持つ彼は、こちらの攻撃をことごとく避けてきます。
そんなチートともいえる能力を持つ彼を倒す攻略法は、誇張でもなんでもなくこれまでのゲームの常識を覆すような、「チートにはチートを」とでも言わんばかりの方法であり、そのやり方をキャンベル大佐から教えてもらった時には、衝撃と感嘆と疲労感と呆れの全てがないまぜになった、これまでに経験したことのない感情に襲われた事を覚えています。
是非とも、ネタバレを踏まずに挑んでいただきたいボス戦です。
このサイコ・マンティスの攻略法以外にも、あっと驚くようなヒラメキを必要とする意欲的な謎解きが本作では見られ、プレイするものの心を捉えて離しません。
加えて、『METAL GEAR SOLID』の魅力は独自のゲームシステムだけに留まりません。
本作は、スネークの任務の中で綴られるストーリーもまた、非常に素晴らしいものとなっているのです。
ソリッドがシャドー・モセス島での潜入任務を続ける中で深まっていく謎と、このミッションの裏に隠された真実。
核搭載二足歩行戦車メタルギアを中心に、ソリッドとリキッドの出生の秘密が明かされる本作のシナリオは、
キャンベルの姪であり、この作戦を通じてソリッドと交流を深めるメリル・シルバーバーグや、
核搭載二足歩行戦車メタルギア REXの開発者であり、後にスネークの相棒かつ親友となるオタコン(ハル・エメリッヒ)、
強化外骨格とステルス迷彩に身を包む謎多き人物、サイボーグ忍者などといった様々なキャラクターたちと共に進行し、「20世紀最高のシナリオ」と評されるほどのクオリティの高さを有しています。
そんな崇高なシナリオで綴られる『METAL GEAR SOLID』ではありますが、上の画像をご覧いただければ分かりますように、そのグラフィックは2023年現在のゲームと比べてみると、どうしてもリアリティがあるとは言えないものとなっています。
これは本作の発売機種が初代PlayStationであるということを考えれば、至極当然の話ではあるのですが、中にはそのことが受け入れられないという方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、このグラフィックだからといって決して侮ってはいけません。
確かに、『METAL GEAR SOLID』で使われているグラフィックには、キャラクターの表情が見えるようなほどの緻密さはないのですが、ムービーシーンで声優さんたちの迫真の演技を聞いていると、気が付いた時には、そのグラフィックの上に表情がハッキリと浮かび上がってきていて、いつの間にかグラフィックのことは一切気にならなくなるのです。
本作は私にとって、「ゲームってグラフィックだけで決まるわけじゃないんだな」と感じさせてくれたゲームの1つです。
ちなみに、本作のムービーシーンの中でも私が特に好きなのが、スナイパー・ウルフの一連のイベント。
このムービーで描かれるのは、スナイパー・ウルフが戦ってきた理由と、彼女の辿る運命。そして、オタコンの嘆きとソリッド・スネークが戦い続ける理由。
このシーンには名言が多い上にBGMが神がかっており、どこを切り取っても最高としか言い様がありません。
そして、時には無線通信画面だけでストーリーが大きく展開するシーンもあります。無線通信画面では、表示されたキャラクターの表情こそ変わるものの、画面そのものにムービーのような大きな動きはありません。
しかしそれでも、これらの通信から感じられる緊迫感は凄まじく、改めて本作に出演されている声優さんたちの演技力の高さに驚嘆するばかりです。無線画面の緊迫感という観点から考えると、『METAL GEAR SOLID』は歴代シリーズ作品の中でもトップクラスかもしれません。
そして、本作では、仲間とのストーリーに大きくは関わらないような無線会話も充実しています。
ソリトンレーダーの開発者であり、本作のセーブを担当するメイ・リンは、セーブの際にスネークのミッション中の行動指針に役立つような中国のコトワザを教えてくれますし、
核の専門家である軍事アナリスト、ナスターシャ・ロマネンコに無線連絡をすれば、核兵器について、かなり聞きごたえのある解説をしてくれます。
更に、サバイバル教官としてソリッドのミッションをサポートするマスター・ミラーは、任務を遂行する上で大切な知識を、時にゲーマー視点というメタな立ち位置からソリッドに教えてくれるのです。
中でも、いつ長いムービーが始まるか分からないからトイレに行くタイミングもコントロールしろという教えは非常に参考になりました。『METAL GEAR SOLID』以外のゲームでも、この教訓を胸にプレイをさせていただいています。
さて、シリアスなストーリーの中に突如として割り込んでくるメタネタ。こういった要素は、ともするとプレイヤーを白けさせてしまう危険性を孕んでいるものではありますが、マスターのそれはすんなりと受け入れることができるのですから不思議です。
もしかするとそれは、マスターが一切ネタ感を出さずに本気でソリッドに語りかけているからなのかもしれませんし、『METAL GEAR SOLID』の至る所にメタネタが仕込まれているからかもしれません。
笑いのないシリアスなストーリー展開と、笑いしかない小ネタ要素。この塩梅が絶妙であるということも、『METAL GEAR SOLID』の魅力と言って差し支えないでしょう。
中には若い世代には伝わらないんだろうなというネタもあったりしますが、これはご愛敬。これはこれで時代の味というものです。
更に、これらの無線会話からは、ソリッド・スネークというキャラクターのカッコよさも色濃く感じ取ることができます。
例えば、ナオミが化学的な根拠をもとにタバコの有害性について語り聞かせる場面でソリッドは、上の画像のように「化学式を理解しても煙草の良さはわからんよ。」と言い返すんですが、これが渋くてたまりません。
まぁ、私自身はタバコを吸ったことがないので、彼が言うタバコの良さは一切わからないんですが、この台詞の良さだけはハッキリとわかります。
このソリッドのセリフに代表されるように、本作では全体的に台詞回しがカッコよく、思わず「いいセンスだ」と言いたくなってしまうようなものばかり。
中でも、キャンベル大佐の「脇役でもストーリーを変えることはできる。」というセリフに対しソリッドが返す、「なんとかバッドエンディングは避けてみる。」は、そのあまりのカッコよさに、何度聞いても鳥肌が止まりません。
さて、「次の世代に何を伝えていくのか?」を大きなテーマとする『METAL GEAR SOLID』シリーズにおいて本作は、ソリッド・スネークとリキッド・スネークという瓜二つの二匹の蛇を通して、GENE、すなわち遺伝子という観点からこのテーマに迫っています。
また、本作に登場するゲノム兵は、ビッグボスの体細胞から発見された戦闘に適した遺伝子が組み込まれた強化兵。「ビッグボスの息子達」を名乗る彼らの多くはビッグボスが作り上げた武装要塞“アウターヘブン”の出身でもあり、彼らについても考えさせられるものがあります。
本作のストーリーの素晴らしさについてはここまで散々お話してきている通りですが、本作が凄いのは、一般的なゲームであれば、ゲームシステムを楽しむために2周目以降のプレイに着手するところを、ストーリーをもう一度味わうためだけに周回プレイをしてしまうということ。
つまり本作は、一度読み終えた小説を改めて読み直すかのように、一度見たことのある映画を見返すかのように周回プレイができる作品となっているのです。