冷戦下のソ連で、1人の男がBIGBOSS(ビッグボス)の称号を得るまでを描いた『METAL GEAR SOLID 3』
さて、続いての収録タイトルは、2004年に発売された『METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER』。前作と同様、PlayStation2にて発売された作品です。
本作では、これまでのソリッド・スネークを中心に据えた時間軸ではなく、ソリッドがこの世に生を受けるよりも前、冷戦下のソ連でネイキッド・スネークというコードネームを持つ兵士により実行された2つの任務「バーチャスミッション」と「スネークイーター作戦」が描かれ、『METAL GEAR』シリーズの最初の作品から名前が登場している本シリーズの超重要キャラクター、ビッグボスが、その称号を冠するに至るまでの物語が紡がれます。言うなれば本作は、メタルギアサーガの全ての始まりとなる作品なのです。
ゲームの開始と共に始まる「バーチャスミッション」は、ゼロ少佐が指揮を執り、ネイキッド・スネークが所属する隠密部隊FOXの最初の任務。この任務は、無事に成功すればFOXが正式な部隊として認められるという彼らにとって非常に大事なもので、その内容は、ソ連にいる科学者ソコロフの奪還。
元々はソ連のロケット技術者として世界初の有人宇宙飛行にも貢献したソコロフは、自身の開発する核兵器が恐ろしくなったとして、ゼロ少佐指揮のもと、2年前にベルリンの壁を越えてアメリカへ亡命。
しかし、ソコロフの亡命から一週間後、キューバにソ連の中距離弾道弾が配備され、ソ連とアメリカが全面核戦争の臨戦態勢に突入するキューバ危機が発生しました。
必死の交渉の末、最終的にソ連はミサイルの撤去に合意し、世界は全面核戦争の危機を脱することとなったわけですが、ソ連のフルシチョフはミサイル撤去の代わりにアメリカへ亡命したソコロフの返送を要求。
全面核戦争を避けるため、ケネディ大統領は、ソコロフの返送に合意し、ソコロフは再びソ連に戻されることとなったのです。
そして、ソコロフがソ連で開発させられている兵器は完成間近。このタイミングでソコロフを奪還することができなければ、冷戦の情勢が大きく変わってもおかしくないという状況の中、FOXに白羽の矢が立ったのです。
このバーチャスミッションには、裸の蛇という意味のコードネームを持つネイキッド・スネーク、
本作戦ではトム少佐と名乗る、隠密部隊FOXの指揮官ゼロ少佐
体調管理と記録を担当するパラメディック、
そして、ネイキッドの師匠であり伝説の英雄と称される、ザ・ボスが参加しています。
ザ・ボスはゼロ少佐の同期にあたり、このバーチャスミッションの実行許可をも取り付けてくれた人物。極秘ミッションによりネイキッドの前から突如として姿を消した彼女は、北極海から無線を使っての参加でこそあるものの、ネイキッドとは5年と72日18時間ぶりの再会。
再会までの年月を細かい部分までよどみなく言えてしまうあたり、これが皮肉的な言い回しなのだとしても、ネイキッドのザ・ボスへの深い想いが伺えます。
さて、この「バーチャスミッション」でネイキッドが潜入するのは冷戦下のソ連領地内。不法侵入したアメリカ兵士の存在がソ連側にバレてしまえば、国際問題を避けることはできないという状況下であるため、このミッションでネイキッドは、敵に見つかってはならないのは当然のこととして、潜入した形跡すらも敵に悟られてはいけないのです。
そのため、武器や装備品、食糧の類は現地調達となります。ネイキッドはそのコードネーム通り、丸裸の状態というわけですね。
そして、『METAL GEAR SOLID 3』がこれまでのシリーズ作品と大きく異なるのが、物語の主な舞台がジャングルの中であるということ。
本作では、施設内を舞台としていたこれまでのシリーズ作品よりもサバイバルに重きが置かれているのです。
そんな本作で重要となるのが、スタミナの概念。これはLIFEゲージの下に表示されたゲージで表されていて、その量が低下すると正確な射撃ができなくなったり傷の治りが悪くなったりします。
そして、このスタミナの概念の導入により、これまでの作品ではレーションを食べれば即座に回復させることができたLIFEの扱いが本作から変化しています。
ネイキッドが現地調達した食糧を食べることで回復させることができるのは、スタミナゲージだけで、LIFEは一切回復しません。ただ、このスタミナゲージの量がLIFEの自動回復速度に影響を及ぼすため、結果的にスタミナゲージを高い値に保つことがLIFEの回復において重要になってきます。
このスタミナの回復量は、食糧の味によって大きく変化。美味しいものであれば一気にゲージを回復させることができますが、不味いものは数を多く確保しなければ、中々満足のいく回復量を得ることはできません。レーションを食べるくらいなら多少腐っていても蛇の方がいいとはネイキッドの談。一応、LIFEを即座に回復するアイテムもあるのですが、その数は限られているため、十分な食糧の確保が大切です。
ちなみにですが、スタミナゲージが低いと空腹状態になって腹が鳴り、敵兵に気づかれてしまうなんてこともあるので注意が必要です。
また、敵の攻撃を受けたりすることで、ネイキッドが重傷を負ってしまう場合があります。これらの怪我はLIFEの最大値を減少させてしまうため、迅速な治療が必要です。戦場で負った怪我をその場で処置する。この、『ランボー』の有名シーンを思い出させるかのようなシステムが、本作のサバイバル感をより一層高めています。
そして本作からは「カムフラージュ」の概念も登場。草むらや砂地などといった周囲の環境の変化に合わせて服やフェイスペイントを変えることでカムフラージュ率が上下し、その場所に適した高いカムフラージュ率を持つ装備を身に着けることで、敵に発見される確率を下げることができるのです。
基本的には作戦に有用なものが充実している服やフェイスペイントですが、全てを脱ぎ捨て上裸になったり、
アメリカ国旗を顔に塗りたくったりして、ネタに走ることもできます。特にフェイスペイントはネタのバリエーションが豊富な気がしますね。
これらのカムフラージュ装備は、ムービーシーンにも反映されてしまうので、初見プレイでは緊迫した場面でネタに走りすぎるのは控えた方がいいかもしれません。
ちなみにですが、熟達した伝説のプレイヤーたちによって、これらのネタ装備を利用した服装縛りプレイも行われていたりします。
更に本作では、敵への攻撃手段として、CQC(クロース・クォーターズ・コンバット)という近接戦闘術が使用可能に。
これを使うと、敵を投げ飛ばしたり拘束したりすることが可能になり、拘束した敵は他の敵兵の攻撃から身を守るための盾にしたり、脅して情報を聞きだしたりすることができます。
このように、スタミナやカムフラージュ率、CQCといった要素があることで、以前のシリーズ作品と比較してサバイバル感や潜入感が更に高まっている『METAL GEAR SOLID 3』には、本作でなければ味わえない魅力があるのです。
さて、無事にソコロフと合流したネイキッドは、
ソ連の若き少佐、オセロットに出くわすなどのアクシデントに見舞われつつも彼を難なく退け、任務達成まであと少しというところまでこぎつけます。
しかし、そんな彼の前に姿を現したのは、北極海にいるはずのザ・ボスと、
その部下であるコブラ部隊の面々。彼女たちはネイキッドからソコロフを奪い返します。
予想外すぎる事態に困惑するネイキッドの前に現れたのは、ソ連のGRUに所属するヴォルギン大佐。
そしてこの場でザ・ボスは、ソコロフの身柄を手土産にソ連への亡命をすると宣言。その企みを阻止しようと彼女に戦いを挑むネイキッドですが、手も足も出ず、まるで赤子の手を捻るかのようにねじ伏せられてしまい、橋の上から投げ落とされてしまいます。
ソコロフを奪還し、ザ・ボスの亡命を受け入れたヴォルギン大佐は、あろうことかザ・ボスが手土産として持ってきた無反動核弾頭を敵対する組織(KGB)の施設であるソコロフの設計局に向けて発射し、破壊してしまいます。
そして、どうにか一命は取り留めていたネイキッドも、この核攻撃の余波を受けてしまいました。
バーチャスミッションは完全なる失敗という形で幕を閉じ、ネイキッドは仲間の救援を待つこととなります。
そしてこのタイミングで初めてタイトルバックが流れます。
つまり、ここからが『METAL GEAR SOLID 3』の本当の始まり。「バーチャスミッション」は、「スネークイーター作戦」へと至る序章、プロローグに過ぎないのです。
シリーズファンの方にしか伝わらない例えを出したところであまり意味はありませんが、言うなれば「バーチャスミッション」は、『METAL GEAR SOLID V: GROUND ZEROES』のようなもの、『METAL GEAR SOLID 2』の「タンカー編」のようなものというわけですね。
ちなみにですが、このタイトルバックで流れるCynthia Harrellによる『Snake Eater』は、イントロからして神がかっていまして、その威力は、初めて曲を聞いたその瞬間から一気に心をつかまれ、人生で初めてゲームのサントラ購入を即座に決めたほどです。
今回改めてじっくりとプレイさせていただいて、曲の素晴らしさを堪能したわけなんですが、ゲーム内でこの曲を聞くと、音楽プレイヤーで聞くときとはまた違った味わいが生まれて、マジで泣きそうになってしまいます。
いわゆる神曲が多すぎるメタルギアシリーズですが、その中でも特に人気が高いのではないでしょうか。
先日開催されたメタルギアコンサートにおいても、Cynthia Harrellさんが来日され、大トリとして『Snake Eater』の歌唱を披露してくださいました。メタルギアの名曲だけで作り上げられているコンサートにおいてもラストを飾る曲目として非常に説得力があるというところからも、その人気の高さが伺えます。
また、『Snake Eater』は、和田アキ子さん、小柳ゆきさん、The 8-Bit Big Bandのカバーも最高ですので、是非そちらも何かしらの機会に聴いてみていただければと思います。
ちなみに『Snake Eater』はカラオケでも歌うことができます。ちなみに私の十八番です。ちなみに私の『Snake Eater』は最低です。
……まだまだ『Snake Eater』について喋り続けていきたいところではありますが、このままではいつまで経っても終わらなくなってしまいますので、話を戻したいと思います。
物語のメインとなる「スネークイーター作戦」が実行されることになったのは、「バーチャスミッション」から2週間後。
とんでもない重傷を負ったばかりで体調が万全とは言い難いネイキッドのもとにゼロ少佐が現れ、政府からFOXに新たなミッションが発令された事をネイキッドに伝えます。
FOX部隊にとって最後のチャンスとなるそのミッションのきっかけとなったのが、ソ連のフルシチョフからアメリカ大統領あてにかかってきた一本の電話。
その内容は、先日ソ連の設計局が何者かの核攻撃により消滅したことと、その時レーダーがアメリカの軍用機らしき機影を確認していることから、この核攻撃がアメリカによるものではないかと問い詰めるものでした。
このままではアメリカへの報復体制を整えなければならないと訴えるフルシチョフに対して大統領は、この件にアメリカ政府は一切関与しておらず、ヴォルギン大佐の手引きによって、開発中の核弾頭と共にザ・ボスがソ連へ亡命したことで引き起こされたものだと告げます。
大統領の主張を聞いたフルシチョフは、ザ・ボスの亡命が偽装ではないことを示し、アメリカ政府の潔白を証明するために、ソ連ではなくアメリカの手によってザ・ボスを抹殺して欲しいと提案。彼は、この要求が成し遂げられなければ、現在の不安定な政局ではアメリカへの核攻撃は避けられないことを示唆しました。
そして、ネイキッドに課せられた任務は、ソコロフの奪還と、彼が開発していた単独作戦行動が可能な核搭載戦車シャゴホッドの破壊、ヴォルギン大佐の排除に加えて、ザ・ボスの抹殺。
彼は、ゼロ少佐、パラメディックに加えて、新たに武器装備最新テクノロジーに精通している技術者シギントから無線を使ってのサポートを受けつつ、
現地ではスパイのEVAと協力し、世界を核戦争の危機から救うために最愛の人を殺すという、未だかつてない困難を極める任務の達成を目指します。
…………少々長くなってしまいましたが、これが『METAL GEAR SOLID 3』のあらすじとなります。
さて、本作のあらすじがここまでの長さになってしまったのは、本作のストーリーが非常に濃いものであるからに他なりません。この長いあらすじも、『METAL GEAR SOLID 3』全体の中では完全なる序章に過ぎず、物語はここから更に更に深みを増していくのです。
「お前、さっきからそればっかりじゃねぇか」とお思いの方もいらっしゃるかとは思いますが、このストーリーの壮大さこそが『METAL GEAR SOLID』の大きな魅力なのですから仕方がありません。
もっと言ってしまえば、壮大かつ濃厚なストーリーを誇る『METAL GEAR SOLID 3』でさえも、メタルギアサーガという膨大な物語の中では、序章に過ぎないのです。
そんな本作のストーリーの面白さを深めているのが、現実に起こった事件や出来事とフィクションの融合です。
冷戦、キューバ危機、ガガーリンによる世界初の有人宇宙飛行、ケネディ大統領の暗殺……。これらの史実を物語の基盤とし、その上にフィクションとしての『METAL GEAR SOLID 3』の物語が構築されているため、そのストーリーを体験する過程に臨場感と没入感が生まれ、ゲームをプレイする楽しみも増していくのです。
相手に嘘を真実かのように思いこませるためには、嘘の中に真実を少し織り交ぜると良いなんて話がありますが、本作のストーリーはその一例と言ってもいいのかもしれません。
また、『METAL GEAR SOLID 3』は、これまでに紡がれてきたメタルギアサーガの始まりとなる物語ということもあり、「こことここがつながるのか!」という、シリーズファンがニヤリとするような台詞や展開が多く見られます。
そして、そういった要素の中の最たるものが、後に大きな脅威としてソリッド・スネークの前に立ちはだかるメタルギア……その開発へつながる“二足歩行戦車”の研究者であるグラーニンが本編中に登場するということでしょう。
周囲の関心が自分ではなくソコロフに注がれてしまっていることを嘆く彼は、どこへでも移動できる「脚」こそが兵器を革新的に飛躍させるものであると潜入をしてきたネイキッドに対して熱弁をふるいます。
しかしその技術は、最新テクノロジーのエキスパートであるシギントに言わせれば、荒唐無稽で現実的ではない代物とのこと。
そんな冗談のような技術のメタルギアですが、グラーニンにとってはかけがえのない宝物。彼はこの研究成果をアメリカの友人に送るつもりらしく、シギントの朧げな記憶によれば、実際にアメリカにもそんなような内容の論文を発表したエマーソンとかハインリヒとかいう感じの名前の学者がいたとかいなかったとか。
……この二足歩行技術がどのような顛末を辿るのかについては、他の『METAL GEAR SOLID』シリーズの作品をプレイしていくことで明らかになっていくことでしょう。もしもの時のために、ボートを用意しておいた方がいいかもしれません。
さて、見どころしかない骨太な『METAL GEAR SOLID 3』のストーリーですが、それを更に際立たせているのが画面の演出です。
本作ではムービーが挿入されるシーンが幾度となく登場するのですが、それらのムービーには、スローモーションや独特なカット割りなど、まるで映画かのようなカッコいい演出が多く見られ、それだけでもゲームをプレイする者の心を躍らせてくれるのです。
こういったムービーによる演出とは少し趣が異なりますが、本作の中で特に強烈な印象として心に残っている演出が、ネイキッド・スネークがハシゴをのぼっていくシーンです。
言葉で聞くだけでは何の変哲もないこのシーンのどこが凄いのかと言いますと、
ハシゴが信じられないくらい長いんです。
その長さを少しでも体感してもらうべく、通常ではあり得ないほどの量の画像を一挙に並べてみましたが、これでもその全てを伝えきれてはいません。
この尋常ならざる長大ハシゴをスネークは、一段一段、ゆっくりゆっくりとのぼっていくんですが、この場所には周囲に敵もいないため、何も音のない空間にスネークの足音だけが響き渡ります。
そして、「なんなんだこれは」と感じ始めたプレイヤーの耳に飛び込んでくるのが、アカペラ版の『Snake Eater』。とんでもない演出です。
長すぎるハシゴ、響き続ける足音、アカペラ版『Snake Eater』……。要素だけを抜き出してみるとカオスと言っても過言ではないこのシーンですが、何度プレイしても鳥肌が止まらなくなってしまいます。
なぜ私は、こんなにもこのハシゴをのぼり続けるだけのシーンが好きなのか。長年その理由を考え続けてはいるのですが、未だにその答えを明確に言語化することができていない辺り、『METAL GEAR SOLID 3』という作品の魔法にかけられているような気がしてなりません。
また、先ほどのハシゴの件に比べるとかなり細かい話になりますが、本作は水の描写も素晴らしいと思います。三人称視点から見る水面の雰囲気にリアリティがあるのはもちろん、
主観視点で水中に潜ってから水上に顔を出した時に画面に付着する水滴の質感がPlayStation2の当時としてはかなりリアルで、初プレイの時には感動のあまり意味もなく何度も水中に潜ったり上がったりを繰り返したことを覚えています。
さて、多彩な演出やシリアスな展開が多い本作ですが、歴代のシリーズ作品と同じようにネタが多いということも、作品の大きな魅力の1つと言えるでしょう。
シリーズを通してプレイをしてきた体感の話になりますが、本作のネタ要素の多さは歴代作品の中でもトップクラスであるように思います。
普通のムービーシーンの中にも思わず笑ってしまうようなギャグが出てきたり、
股間認証と呼ばれるシリーズ作品屈指の迷シーンがあったり、
緊迫の場面であるにも関わらず、コブラ部隊の元メンバーであるザ・ソローが画面内で縦横無尽にはっちゃけていたりしますからね。
ムービー以外の場面で見ることのできるネタ要素としては、EVAの病歴を見ることで、彼女のとある秘密が分かったり、
スネークが現地調達する食料品の中にバランス栄養食のカロリーメイトがあったりもします。これは、『METAL GEAR SOLID』シリーズで見られるコラボですね。ちなみに、カロリーメイトの発売年は1983年で『METAL GEAR SOLID 3』の舞台は1964年。
『METAL GEAR SOLID 3』の時代に存在するはずのないカロリーメイトですが、メタルギアサーガの時系列に照らし合わせると、『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』の頃にはもう発売されていたりします。カロリーメイトにもかなりの歴史があるんですねぇ。
また、本作では無線を使ってのネタ会話も豊富。
それらの中には、シリーズお馴染みのメタなネタが盛り込まれた無線会話もあり、これらのユーモアたっぷりな会話たちを全て集めると、なんと映画一本分を余裕で超えるくらいのボリュームがあります。二周目をプレイしないと聞くことができない無線会話があったりもしますしね。恐らく、本作のネタ無線の数は、歴代作品の中でもナンバーワンではないでしょうか。
また、師匠として慕ってきた最愛のザ・ボスを抹殺しなければならないという壮絶な任務に孤独な戦いを挑むネイキッドですが、ゼロ少佐をはじめとする変わり者ばかりの仲間たちとの会話は和やかなものが多く、プレイヤーに過酷な状況を感じさせないほど和気あいあいとしています。
そして、この温度差こそが、ゲームそのものやそこに登場するキャラクターたちの魅力を最大限に引き出す因子となっているのです。
そして、ムービーだけを見ているとシリアスな場面が多く、カッコよさが目立つネイキッドですが、無線会話にも耳を傾けてみると、現地調達した動物の味をやたらと気にしたり、
捕獲した動物が美味しかったことを嬉しそうに報告したり、
光るキノコを食べたら何故かバッテリーが回復したり、
皆に笑ってもらおうと、ワニの被り物であるワニキャップをかぶって無線をかけたり、
吸血鬼が怖かったりと人間味に溢れていて、「こりゃあ、みんなビッグボス大好きになるわ」と思わされてしまうくらい、めちゃくちゃ好感の持てる性格をしているということが分かります。
ソリッド・スネークみたいな、ただひたすらに渋くてカッコいいキャラも好きなんですが、ネイキッドのような人の良さが見えるキャラはそれ以上に大好物。プレイの際には、色々な状況で、無線での会話も楽しんでみるのがオススメです。
ダンボールをかぶった状態で無線をすれば、スネークが周囲をドン引きさせるほどの熱量でダンボールの素晴らしさを語ってくれたりもしますよ。
ちなみにですが、『METAL GEAR SOLID』ではメイ・リンによることわざ、『METAL GEAR SOLID 2』の「タンカー編」では、オタコンによりインチキことわざ、「プラント編」では、ローズの詰問を聞くことができたSAVE後の会話ですが、本作ではパラメディックがオススメの映画について語ってくれます。
中には有名なものもありますが、彼女が紹介してくれる作品はその多くがB級映画。私もそれなりに映画好きなのですが、聞いたこともないタイトルがバンバン出てくるので驚きます。
さて、ここまで『METAL GEAR SOLID 3』のストーリーや演出面の素晴らしさについてお話してきましたが、本作はゲームプレイにおいても非常にクオリティの高い作品です。
先ほどもお話しましたように、本作の大きな特徴は、物語の舞台の多くがジャングルであるということ。
そして、本作の舞台となるのは冷戦下のソ連ですから、メイ・リンがソリトンレーダーを開発し既存技術になる遥か前のお話。
本作ではこれまでの作品とは異なり、敵兵の位置とその視線がどのようになっているのかを教えてくれる手段は非常に限られています。
敵兵がどこにどの向きでいるのかが分からず、プレイヤー側から敵兵を視認することも難しい。このことが潜入任務に対してかなりの緊張感を生み出しているため、隠密プレイは緊張の連続です。
しかし、ネイキッドが潜入する場所はジャングルだけではなく、時には研究所といった施設内に入り込まなければならない場面も出てきます。
そういった場所では、科学者などに変装することで敵兵に気が付かれる可能性をかなり下げることができます。この変装をしてタバコ型麻酔銃を使えば、敵兵を簡単に無力化することもできるので、作戦次第でゲームを円滑に進めることができます。ただ、施設内にいる科学者にはネイキッドの変装がバレてしまうため、潜入任務は一筋縄ではいかないのです。
そして、任務を達成しようとするスネークの前に立ちふさがるコブラ部隊のメンバーは、それぞれ戦場で抱く特別な感情をコードネームとしており、
蜂を自在に操り敵を追い詰める、ザ・ペイン
木の上を蜘蛛のように駆け回り、ステルス迷彩を使いこなす、ザ・フィアー
狙撃の父と呼ばれる齢100歳を超える老狙撃兵、ジ・エンド
地球に帰還する際の事故により身を焼かれ、痛みを感じなくなった元宇宙飛行士、ザ・フューリー。
そして、2年前にザ・ボスの手によって殺害された、ザ・ソローと、
現在はザ・ボスの名で呼ばれる、ザ・ジョイの6人で構成されています。
目を引くような強い個性を持つ彼らとの戦いは、正に死闘。熾烈を極めるその戦闘は、常に気を抜くことができません。
時と場合によっては、彼らのような強敵に出会った時に体力が少ない状態で挑まなければならないこともあるかもしれません。
しかし、先ほどもお話しましたように、本作で食料品を食べることで回復させることができるのはスタミナゲージだけ。それでは減ってしまったLIFEを即座に回復することはできません。
そういった状況で有効なのが、睡眠をとること。スネークが睡眠をとれば、LIFEやスタミナが自然回復するだけでなく、怪我や病気も自然治癒していきます。
とは言っても、スネークがゲーム中で睡眠を取るということは、スパーッツァでも食べたりしない限りあり得ません。
それでは、プレイヤーはどのようにしてスネークに睡眠を取らせるのかというと、SAVEをしてからゲームを止める。それだけ。
スネークのスタミナやLIFEは、次にデータをロードするまでに空いた時間の長さに応じて回復していきます。
このように、本作ではゲームをしていない間の時間経過という要素が、非常に面白いスパイスとして機能しています。
例えば、時間が経過するとLIFEやスタミナは回復させることができますが、保存食ではない食料は腐ってしまいます。そのため、食材を腐らせたくない場合は、麻酔銃を使って生物を生け捕りにする必要があります。
そして、持久戦の様相を呈する事の多いジ・エンドとの決戦では、時間経過によってその展開が大きく変わるというのも面白いポイントとなっています。
もう1つ、『METAL GEAR SOLID 3』の面白いところが、任務を達成するための解法が1つだけではないということ。
シリーズの他作品でもこのような点は見られますが、本作の面白いところは、スネークがどこで何をしてきたかによって、敵兵の配置や行動に大きな変化があるということ。
例えば、敵基地内にある食糧庫を爆破すると、その食糧庫から供給される食料を食べていた兵士たちは空腹状態になり、気絶させやすくなったり腐った食料を食べさせたりすることができるようになります。
そして、コブラ部隊の中には直接対決をする遥か前の段階で排除することのできる隊員がいたりします。「まさかこんなぬるっとしたタイミングで倒せるわけがないだろう」と思ってしまうような場所で殺害ができるので、結構度肝を抜かれる展開でした。
また、本作のやり込み要素としては、敵に発見されないノーアラートプレイや敵を殺さないノーキルプレイなどといった厳しい条件を乗り越えた先に待つ、FOXHOUNDの称号を目指すプレイの他にも、
ゲーム内に登場する食料品を全て集めれば、次の周回プレイで特殊な武器が使えたり、
ゲーム内の至る所にある人形のケロタンを全て鳴かせれば、次の周回プレイで、かの有名なステルス迷彩が初期装備に入った状態でゲームを開始することができたりと、収集要素も充実しています。
どちらも簡単そうに見えて意外と難しい達成目標であり、敵に発見されただけでゲームオーバーになってしまう最高難易度、EUROPEAN EXTREMEでこれを目指すとなると、更にその難易度は上昇することでしょう。こういった手ごわい任務はサムやゲイブに任せたいところでもありますが、自力で何とかするしかありません。
この食料品の中には、ジ・エンドが飼っているオウムや未確認生物のツチノコなんかも混じっているのですが、ソリッド、リキッド、ソリダスと名のついた蛇を捕まえられる場面も。シリーズ作品を全てプレイしてきたファンの1人としては、捕獲できる場所が場所なだけに、3匹の蛇の辿る運命を知っているだけに、この3匹の蛇を見ているだけで得も言われぬ気持ちになってしまいます。
さて、ここまで『METAL GEAR SOLID 3』の魅力についてお話してきました。
本作は私が人生の中でもトップクラスにハマりこんだゲームということもあり、少々熱が入りすぎてしまった感じはありますが、これでもまだまだ作品の上澄みしか掬い取ることができていません。
この作品のゲームとしての面白さ、ストーリーの深みについては是非とも実際にプレイをして感じ取っていただければと思います。たった1つのボタンを押すだけという簡単な操作がとてつもなく難しく感じられたゲームは、後にも先にも本作しかありません。
ちなみにですが、本作はリメイクとして『METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER』の発売も予定されています。
こちらもまた、非常に楽しみにしている……んですが、本当にいい加減にこの辺で辞めておきたいと思います。この記事も、もうちょっとだけ続きますしね。