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『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』庵野氏だけじゃない。スタッフから読み解く鶴巻監督の目論見。脚本やデザイン、アニメ技法を基に、鶴巻氏が描く「新生ガンダム像」を分析

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デザインメンバーによるゼロ〜10年代イラストレーターの復権。そして総決算

次にフォーカスしたいのは、作中世界を支えるデザインメンバーである。

まず挙げられるのは、キャラクターデザインやビジュアルワークを担う竹氏mebae氏といった面々だ。

彼らはいずれも、ゼロ年代から10年代にかけてイラストレーション業界で大きな爪痕を残してきた才能である。

一貫して敷かれた“清潔感”や“浮遊感”の裏に、不気味さやエロティックさが潜む。こういったタッチは、『センコロール』の宇木敦哉氏や『虫と歌』の市川春子氏、『CLOTH ROAD』のokama氏などと共に「世代のサブカルチャーの空気感」の構築に一役買ってきた。

上記の作家たちは、かつてはライトノベルの挿絵やCDジャケット、あるいはアートワーク等で頭角を現し“オタク文化”と“美術的価値”の交点を担った人物たちでもある。

そして、ガンダムシリーズが近年進めている新潮流を振り返ると、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』では、mebae氏と共に村上隆が率いる「Kaikai Kiki」を支えてきたアーティスト・JNTHEDがメカデザイナーとして抜擢されている。

見慣れたメカニカルデザインに外側からアート的センスを融合させることで、若年層のファンに訴求する。それと同時に、長くガンダムを愛してきた層にも目新しさを持って受け入れられた。

この流れをさらに推し進める形で『GQuuuuuuX』には、竹氏やmebae氏だけでなく、より若い時代のクリエイターとして絵を描くPETER氏網氏らが参加。

いわば『GQuuuuuuX』のデザインメンバーの顔ぶれからは“ゼロ〜10年代イラストレーターの復権”という意義を有しているのだ。

こうした大衆性と芸術性の融合は、最近の『ポケットモンスター』シリーズでも見られる戦略でもある。

竹氏は『ポケットモンスター サン・ムーン』からキャラクターデザイナーとして参加しており、同じタイミングで市川春子氏も同作のデザインメンバーに抜擢されている。

彼ら彼女らの醸成してきた「清潔感のあるキャラクターデザイン」は今、多様な世代に受け入れられる普遍性を持った作品づくりという目的のために、大手IPの中で積極的に取り入れられつつある。

『GQuuuuuuX』のデザインメンバーからうかがえる“清潔感を目指す姿勢”は、まさにカラーとサンライズが新作ガンダムという巨大な舞台で、絶対に覇権を取るという「本気度」を示している証左でもある。

同時に、これらのスタッフは、早い段階からこれらのクリエイターと仕事を共にしてきた鶴巻和哉らしい座組とも言えるだろう。

このほかに、コンセプトアートの役職に席を置いている「上田創」のクレジットも見逃せない。

上田創とは、鶴巻和哉氏のもう一人の盟友・ウエダハジメ氏の変名だ。これは25日から劇場で頒布される設定原案資料を収めた冊子「DESIGN WORKS」を読めば明らかであるだろう。

ウエダハジメ氏は鶴巻和哉氏の作品にしばしば携わっている。『フリクリ』のコミカライズから始まり、以降も『トップをねらえ2!』においては設定協力、『I can Friday by day!』では原案/脚本を、『龍の歯医者』ではコンセプトデザインを手掛けている。

また、ウエダハジメ氏は竹氏と共に西尾維新の小説「《物語》シリーズ」のビジュアライズを手掛けており、ゼロ年代のサブカルチャーに大きな影響を与えてきた。

ちなみに、『I can Friday by day!』においてキャラクターデザインに竹氏を推薦したのもウエダハジメ氏である。

これらから、鶴巻和哉が『GQuuuuuuX』に自身のフィルモグラフィーの総決算とも呼べるメンツを集めていること、いかに本作に力を注いでいるのかが窺えるはずだ。

鶴巻和哉の到達点と『GQuuuuuuX』が示す「新しいガンダム像」

ガンダムという巨大な歴史を持つ作品は、常に新たなアプローチを取り入れながら発展を続けてきた。

富野由悠季氏が提唱したリアルロボットの世界観から始まり、幾度ものシリーズ作品や外伝、リメイクを通じて、視聴者の価値観や時代性と呼応する形で変容を遂げてきたのである。

そこにスタジオカラーと鶴巻和哉氏が加わった『GQuuuuuuX』は、まさに「ガンダムを現代にアップデートする」という革新の意義を端的に体現している。

具体的に言えば、ファーストガンダムの要素を継ぎながら、新しい布陣で鶴巻監督ならではの演出や美的センスを大胆に組み込む。これは決して「古き良きものの再利用」ではなく、既存の『ガンダム』を新しい切り口で再解釈する行為だと言える。

そして同時に、鶴巻和哉が挑戦するのは『ガンダム』シリーズという物語の普遍性と、「新しい表現」を目指す未来志向を両立させる試みにほかならない。

自身のフィルモグラフィーの総決算とも言える『機動戦士ガンダム GQuuuuuuX』が並々ならぬ期待感をもって今、劇場で公開されていることが伝わっただろうか。鶴巻和哉は『ガンダム』という超ビッグタイトルをひっさげて、今再び“庵野秀明の右腕”を超え“監督:鶴巻和哉”として再誕した。

今後、『GQuuuuuuX』がどのような展開を見せ、ガンダムの歴史に何を刻み込むのか――作品の成功は、鶴巻和哉の到達点のみならず、日本アニメ界における「ガンダムというブランド」の持続的な進化をも示すだろう。

視聴者は新たな地平を切り拓く鶴巻監督の挑戦から、まだまだ目が離せない。

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寄稿者
アニメとASMRのオタク。変化龍・龍変化名義にて主に同人誌で文章の執筆、編集、装丁などを行っている。シャフト批評合同誌『もにも~ど2』や主にDLsiteで売買されるASMR、同人音声にフォーカスした『奇想同人音声評論誌 空耳』などに寄稿。同書の装丁も担当。
Twitter:@otaku_change
編集者
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ライター/編集をしています。

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