7月18日から20日にかけて開催されるインディーゲームの祭典「BitSummit the 13th」では、さまざまなインディゲームタイトルが出展されていた。今回はそんな中から、きらりと光るセンスを持ったアドベンチャーゲーム『TIMEMOON』を紹介しよう。
本作は、過去や未来を行き来するタイムトラベルタクシーのドライバーとなり、乗客との会話を通じてさまざまな謎に迫るという、SF好きなら聞いたわけでワクワクしそうな設定の作品である。
主人公はタクシードライバーだが、もちろん本作はレースゲームではない。
『VA-11 Hall-A』や『Neo Cab』などに代表される、会話を主体としたビジュアルノベル形式でストーリーは進んでいく。
プレイヤーは乗客との会話を丁寧に精査し、そこから生まれる問いかけにひとつひとつ答えていく。タクシーという密室空間も相まって、そのやりとりにはどこか異様な緊張感が生じるのだ。
そしてタイムトラベラーたるプレイヤーは最後に、乗客を「過去」か「未来」のどちらへ連れてゆくのかを選択することになる。
乗客は、あらかじめ過去と未来のどちらに向かいたいのかを教えてくれるのだが、それが乗客の真意とは限らない。彼らにも彼らなりに、オモテとウラの部分を持ち合わせているのだ。
プレイヤーは乗客との会話や、その外に散りばめられたさまざまな情報を精査し、乗客の真意を見極めねばならない。そのうえで、プレイヤーは乗客の進む道を文字通り「ハンドリング」することになる。
圧倒的なキャラクター造形のセンス
タクシーに乗り込む乗客は誰も彼も癖があり、かなり「濃ゆい」人物造形となっている。
たとえば今回の試遊で体験できる乗客のラ・ウィルソンは、ライフ・アンド・カンパニーという巨大保険企業のCEOであり、顧客の未来を知ることで利益を上げようという目論みからタクシーに乗り込む。
しかし、これは「オモテ」の理由である。
ウィルソンは拝金主義者であり、金よりも重要なものなどこの世には何もないと言う。時間も、人も、そして愛さえも、金の前では意味をなさないと語りかける彼の眼は、どこか悲しそうだ。
そうして彼との会話を進めていくと、ある地区で起きた痛ましい死亡事故の記事とウィルソンとの間に、オモテでは言及されなかった、「ある繋がり」が浮かび上がってくる。
そのうえで、新聞記事などの外部情報を集めたプレイヤーが推理することで、「オモテ」の理由へとたどり着き、そして、ウィルソンが本当に望むものが明らかになっていく……。
タクシーの乗客全員が「大統領暗殺事件」の容疑者
本作にはいくつかのエピソードが登場するが、これらはまったく別々の内容ではない。
というのも、実は本作のストーリーは「大統領暗殺事件」という一本の軸を中心に展開されている。そして驚くべきことに、この各エピソードに登場する乗客の全員が、暗殺事件の容疑者とされているのだ。
個性的なキャラクターが次々と登場するだけでなく、彼らとの関係が複雑に絡み合う壮大なミステリー仕立ての作品となっているわけだ。
個人的には、同じくタクシー運転手が運ぶ乗客との会話が、失踪した1人の少女へとつながるアニメ作品の『オッドタクシー』を連想した。
最後に、本作のドライバーである主人公クラークの性格について、少し言及しておきたい。
タクシードライバーのキャラクターが、(乗客を中心にすすむというシナリオの都合的にも)寡黙であらねばならないというのは、同種の作品においてほぼ「お約束」といっていい。この作品もその例にもれず、クラークは口数の少ない寡黙なメガネキャラだ(可愛い)。
そんなクラークだが、乗客に揺さぶられて汗をタラリと滴らせ動揺したり、客の表情を確認するためにチラッと背後に目を向けたりなど、かなり人間的な魅力が感じられたのだ。個性豊かな乗客だけでなく、ドライバーのクラークにもぜひ注目していただきたい。