いま読まれている記事

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?「人」と「日常空間」の間にフィクションを割り込ませる表現技法を紹介。『Project:;COLD』『人の財布』など実際の作品とともにARGの典型的な3つのスタイルについて語られる【CEDEC2025】

article-thumbnail-250724g

7月23日に「CEDEC 2025」にて、「日常を侵蝕するゲームの作り方 ~ARGのゲーム設計~」が開講された。

「ARG」とは「Alternate Reality Game」の略称で、日本語では「代替現実ゲーム」「日常侵蝕ゲーム」と訳される。私たちが普段生活している現実世界そのものを舞台に、壮大な物語や謎解きに挑む「体験型エンターテイメント」のひとつだ。

その特徴は「ゲームのジャンルであり、表現手法でもある」こと。ここでは最近日本で盛り上がっているARGの紹介と、それらの殆どを制作している「第四境界」の総監督である藤澤仁氏のコメントが引用されていた。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_001
定義が難しいとしながらも「創り手がARGだと認識していること」が大事と石川氏が補足されていた。
日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_002
「人の財布」に関しては、輸入元の業者が「今日本で一番売れている財布」だとちょっとした勘違いも起きているというエピソードも。

そんなARGの面白さはなにかというと、今回のセッションで主に登壇した清木氏は「多様な魅力を持っていること」と挙げていた。というのも、ARGは既存のエンターテイメントで楽しめるさまざまな要素をまとめて楽しむことが出来る、圧倒的な要素の多さが特徴。

そして、キャラクターの物語としてそれを追っていくのではなく、プレイヤー自身の体験として「なにかを成し遂げた」強烈な思い出が残る。というのが最大の魅力になるとのことだ。

つぎに、実際のARG制作時につまづきやすいポイントとして、以下の3点が挙げられた。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_003

これに対しては、代表的な形式を学び、全容を把握しつつ、事例を知っていく。これを地道におこなっていくしかないとしつつ、この「全容の把握」というのが大変だという。

今回は全容把握は省き、代表的な形式と事例から学んでいくという形式が取られることになった。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_004

ここからはARGの典型的な3つのスタイルと、その代表例についてご紹介していく。まずひとつ目は「リアルタイム全体戦」と呼ばれる形式。

これは、プレイヤーのコミュニティに普段日常的に使うメディアを経由して関与し、アクションを起こしてもらうことで物語を進める。というサイクルをリアルタイムで繰り返していくARGの花形である。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_005
「パペットマスター」とは運営者のこと。物語を裏で操る役割を指した言葉だ。
日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_006
『Project:;COLD』は公式で分かりやすいまとめがあるため、こちらもこの問題をクリアしている例として挙げられた。

ふたつ目は、参加者が物語に干渉する方法に制限が加えられていること。本作は参加者と小説の主人公の間を繋げるNPCを挟むことで「プレイヤーの声を全て拾うことはできない」という制限をクリアしているとのことだ。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_007

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_008

また、ARG全体として「おどろき」という感情を与えることがとても大事であるとのこと。慣れてしまったプレイヤーが「そういうものだよね」と感じてしまう前に、現実という舞台の柔軟さを活用し予測できない場所から驚きを提供することが大切となる。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_009

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_010

次に挙げられたARGのスタイルは「オンライン常設型(キーワード探索型)」と呼ばれるもの。これは、どちらかというと個人の体験に焦点が当てられたものだという。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_011

ここで挙げられたのは、『SIRRUT.NET』リリア from deep space』というARG。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_012

また、キーワード探索は検索サイトだけではなく「LINE」でも可能。『リリア from deep space』は、宣伝アカウントと友達登録をすることでイベントの情報を知ることが出来る、というよく知るプロモーションのなかにARGが組み込まれたもの。NPCと実際にメッセージのやりとりをおこなうような形式で参加できるとのことだ。

こういった自身のペースで楽しむことが出来る点と、作品によっては実況も可能なため「人が体験しているところを見て楽しむ」という遊び方とも相性がいいことが、この形式の良いところとして挙げられた。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_013

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_014

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_015

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_016
「オンライン常設型(キーワード探索型)」の体験例として『_かがみの特殊少年更生施設_』が挙げられた。

最後に挙げられたのが「パッケージ型」と呼ばれるもの。これまでのふたつと大きく違う点は、物理的なアイテムを購入することが物語の入口となっている点。

在庫の問題や、最初に手に取ってもらうまでの難しさはありつつも、20年以上ARGというジャンルにおける課題だったマネタイズ面をクリアしているのが最大の特徴となる。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_017

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_018

ここで挙げられた事例はARGの要素がある「謎解きボードゲーム」の『ESCALOGUE(エスカローグ)』

購入することでプレイヤーのLINEグループにNPCを招待でき、そのNPCとやりとりをしながら物語を進めていくという流れで進んでいく。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_019

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_020

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_021
現在入手が難しい状況にあるというお話はありつつも、今なら『人のカレンダー』はパッケージ型とリアルタイム参加型の両方が味わえる作品とのこと。

最後に、これまでの実例やその特徴を基に実際にチームでARGを作成する際に必要な仕組みについて解説がされた。中でも最重要とされたのは「人」と「日常空間」の中に割り込み、そこに体験=ゲームを生み出すことだ。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_022

というのも、基本的に「人間」と「環境」には隙間はなく同じ現実にあるものだが、昨今の技術の発展によって、「すき間」を生み出すことが出来るようになった。

たとえば、以下のふたつのスライドはいずれも現実の町中を舞台にしたもの。基本的には上の画像のように人と日常の間には「すき間」がない。しかし、スマートフォンやARゴーグルのようなテクノロジーによって、そこに割り込み、体験を付与できる余地を生み出すことが可能だ。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_023

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_024

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_025

アイデアはもちろん、テクノロジーをそれぞれの会社が積み上げていくという発想。ARG制作においては、これらふたつがまず大切になっていく。ということで今回のセッションの総括となった。

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_026

日常を侵食するゲーム「ARG」ってどうやって作るの?人と日常空間の間にフィクションを割り込ませる表現技法【CEDEC2025】_027

ライター
アクションゲームとアメコミ映画を愛する三十路ゲーマーで、前職は某ゲーム機のカスタマーサポートとのウワサ。一人用ゲームを好むが、人が好きなものの話を聞くのはもっと好きなので「誘われればどんなゲームでもやる」がモットー。そんなこんなで始めた「スプラトゥーン3」を気づけば1000時間遊んでいたチョロいやつでもありますが、私が書いた文章をきっかけに誰かが「好きなもの」を見つけてくれたらいいなと思っています。
編集者
3D酔いに全敗の神奈川生まれ99’s。好きなゲームは『ベヨネッタ』『ロリポップチェーンソー』『RUINER』。好きな酔い止めはアネロンニスキャップとNAVAMET。
Twitter:@d0ntcry4nym0re

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ