昨年11月にもWall Street Journalが報じるなど噂になっていた「マリオ」の映画化が、2月1日、任天堂より正式に発表された。『ミニオンズ』などの3Dアニメを手がけたアメリカの映画制作スタジオであるイルミネーションと共同で企画開発され、イルミネーション代表・Chris Meledandri氏と任天堂フェロー・宮本茂氏が共同でプロデュースを担当する。
発表において任天堂は「自社IPの積極的な活用」も表明している。リオ五輪閉会式での「マリオ」の登場や、2020年にUSJにオープン予定の「SUPER NINTENDO WORLD」に続き、自社ブランドの活用の道を歩き始めたということだろう。
文/Nobuhiko Nakanishi
編集/ishigenn
1993年に生み落とされた実写映画版「マリオ」を知っているか
さて、「マリオ」の映画化といえば、1993年に公開された実写ハリウッド映画『スーパーマリオ 魔界帝国の女神(原題 Super Mario Bros.)』を思いだす人も多いかもしれない。『スーパーマリオブラザーズ』の映画化として、当時50億円もの制作資金が投じられた作品である。
この怪作映画そのものや登場した俳優たちは、いまなにをしているのだろうか。
『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』は、いまでこそゲーム実写映画化における作家性の発露と好意的に見ることができるかもしれないが、いわゆる原作からの大きな乖離が見られる作品でもあった。
マリオとルイージのあいだに血のつながりがなかったり、クッパが人間の姿をした恐竜だったり、ヒロインがピーチではなくデイジーであったり。さらにクリボーが『バイオハザード』に登場するタイラントのような外見であったり、ヨッシーは可愛らしさの欠片もない異様にリアルな恐竜の姿であったこともあり、当時トラウマを抱えてしまった人もいるかもしれない。
『モナリザ』、『ロジャー・ラビット』などでも知られる主演のマリオ・マリオ【※】役ボブ・ホスキンス氏は、2007年のThe Guardianの取材にて同作を「自分のキャリア史上最悪」、「金を投げ返したかった」と酷評している。ただ、ホプキンス氏自身が撮影途中まで「マリオ」そのものを知らなかったという話もあり、単純に「マリオ」の実写化としての映画の出来に不満だったかどうかはわからない。ホスキンス氏はその後も『マスク2』などの映画に出演するなど順調に俳優としてのキャリアを歩むが、2014年に急性肺炎で逝去した。
まったく似ていないルイージ役のジョン・レグイザモ氏は、レオナルド・ディカプリオ主演の『ロミオ×ジュリエット』でのティボルト役などで独特の色気のある演技を見せ、近年はキアヌ・リーヴス主演の『ジョン・ウィック』などにも出演。名バイプレイヤーとして活躍している。
『理由なき反抗』、『ゴッドファーザー』、『ブルーベルベット』など驚異的なキャリアを持つ名優デニス・ホッパー氏は、同作ではまさかのクッパ役として出演した。氏は2009年に癌をわずらっていることが明らかとなり、2010年に他界。同年にはハリウッド殿堂入りをはたしている。なおデニス・ホッパー氏は、『グランド・セフト・オート・バイスシティ』でポルノ映画監督役の声を演じるなど、実写ハリウッド映画版「マリオ」の後も不思議なオファーを受けていた。
クッパの“妻”という謎のキャストを演じたフィオナ・ショウ氏は、もしかしたら「ハリーポッター」シリーズでポッターに嫌味を吐く伯母役と言った方がピンとくる人も多いかもしれない。
このように、それぞれのキャストは実写映画に出演して以降もキャリアを積んでいる。
実写映画版「マリオ」には非公式の続編Webコミックも
では『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』そのものはどうなっているか? 実は映画版の設定を生かした続編が非公認でオンラインコミック化されており、デイジーが銃を乱射したりと原作のケレン味を活かした作風が魅力となっている。
これは2013年、ロサンゼルスで開催されたファンによる実写映画の20周年記念上映会の際に発表されたもの。けっして任天堂などは関わっておらずオフィシャルなものではないが、映画版の脚本家の一人パーカー・ベネット氏が、続編のプロットとして考えていた構想を元に描いている。
実写映画版は、あきらかに続編を示唆するクリフハンガーで終わっているにも関わらず、興行的な失敗により続編を制作することは不可能になったと見られている。ゆえにこのコミック版は、宙に浮いてしまった正当な幻の“後編”なのである。
ただ、扉絵を見た瞬間に、その『スーパーマリオブラザーズ』とはまったく異なる作風から、「映画の続編がなくて良かったのかもしれない」と思う読者も多いかもしれない。同作品は2015年から更新がなく、未完。
なんにせよ、関わった俳優たちだけではなく、『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』という単体の作品そのものがファンのカルト的人気に支えられて今なお息づいている。
「マリオ」の映画化は嬉しいニュースである反面、多くの人にモヤモヤとした気持ちを去来させるニュースであるのも確かだ。任天堂のキャラクターが多くの人を笑顔にさせるポテンシャルを持つのは間違いなく、今後の動きに注目したい。
なお、「マリオ」の映画というとどうしても『魔界帝国』を想起するが、1986年にはアニメ映画『スーパーマリオブラザーズ ピーチ姫救出大作戦!』なども公開されており、過去に映画化は幾度かおこなわれてきた。
同作との同時上映作品である『スーパーマリオブラザース2 完全攻略法』は、マリオの声はアムロ・レイで知られる古谷徹氏、クッパ役は和田アキ子氏が演じた。クッパというキャラクターのキャスティングは、とにかく大物をあてるというのは、どうもマリオ界の常識のようである。
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