漫画編集者の仕事は、長期に渡って作家を支え続ける「総合編集サービス」である
白井氏:
やっぱり漫画がこう売れなくなってくると、印税で仕事場を借りて、お弟子さんの給料を払って、いろいろ家族を養ってというのが、不可能になってくるんですよね。今のサイクルでいくと。
鳥嶋氏:
だからひとりで描く以外なくなると。
白井氏:
昔は、アシスタントというのは給料をほとんど払わずに、その代わり技術を盗んでいくものだったから。むしろ授業料をもらいたいというほどで。
住むところと飯は食わせるけど、決められた月給がいくらという時代じゃなかったんです。
今は、アシスタントというのはひとつの確立した仕事ですから、相当なギャラを払わないと。アシスタントにも家族があって、子どもがいるとさ……
鳥嶋氏:
結婚して子どもができたら、ズッシリと重くなりますよね。
白井氏:
月収15万とかじゃ、なかなか生活できなくなってくるよね。
鳥嶋氏:
退職金の用意もしなきゃいけない。
白井氏:
そうすると、相当稼がないと。
鳥嶋氏:
以前は漫画家さんが職業プロとしては消えていったりして、長く続けることってなかったじゃないですか。
でも今はけっこう長いこと、60歳とか70歳、先ほど話題に出た楳図かずお先生なんかは80歳を過ぎても現役で描いておられる。このへんのところはどうご覧になってます?
白井氏:
でもこれからはそういう、粘りがあって仕事を続けられる人って、そうは出ないんじゃない。長丁場をしのげるだけの体力と知力を持った人は、昭和10年代生まれぐらい、あるいはさっき話に出た池上遼一さんとか永井豪さんとか、あのへんが72〜73歳でしょう。本宮ひろ志さんもそうですよね。
そうするとやっぱり、『鬼滅の刃』の先生だって、次のヒットが出るかどうかは……
鳥嶋氏:
分かんないですからね。
白井氏:
だから1作ヒットを当ててそれでおしまいという人も、けっこう増えてくるんじゃないですかね。長丁場をこれに賭けていこうというよりは。
鳥嶋氏:
そうすると、作家さんの後に作品と著作権が残るじゃないですか。このへんの保護とか保存とか……
白井氏:
これから大変だと思う。著作権は財産だから、どこに行っちゃうかをちゃんと見ておかないと、ヘンなところに持っていかれたら、その人の許可がないと何にもできなくなっちゃうから。
今、著作権の保護期間は70年だっけ? だからそれを財団にひとつにまとめるか、どうするか。遺産贈与の時に、兄弟全部に著作権が分かれちゃったり、作品別に分かれちゃったりしたら、それはすごく大変ですよ。
鳥嶋氏:
大変ですよね。白井さんは今でも、そういう相談とかに乗ってらっしゃる?
白井氏:
やってるよ。遺言状、弁護士の紹介、それからお医者さんの紹介。
鳥嶋氏:
あぁ、はいはい。なるほど。
白井氏:
けっこう忙しいんだよ、お医者の紹介は(笑)。病院じゃなくて「この病気ならこのお医者さん」って決めて、その人たちと食事をしたり、仲良くしていないと、急にはできないから。
鳥嶋氏:
それもプレゼントにつながるんですか?(笑)
白井氏:
そうそう。何百人か飛ばして入院させてもらったり、それも御礼のひとつですよ。
鳥嶋氏:
ということは白井さんは、ずーっと続いている「編集総合サービス」なんだ。
白井氏:
そうそう(笑)。認知症になるまではやりますよ。
鳥嶋氏:
白井さんがそこまで気遣いをしているから、小学館に著作権が残ってくる?
白井氏:
そんなことは分かんないけど(笑)。
鳥嶋氏:
常々小学館に感心しているのは、そこなんですよ。集英社は作品を長く保管して運営するのがヘタで。
作品の権利が小学館に残っていて、上手く運営しているじゃないですか。小プロ(小学館集英社プロダクション)とかいろいろ含めてね。やっぱりそれはね、白井さんみたいな人の気遣いってのが、作家をちゃんとつなぎ止めているんですね。
白井氏:
それはどうか分かんないけどね、僕も自分が今できることはそのぐらいだなと思ってるから、今やってるだけでね。
鳥嶋氏:
残念ながら、集英社には白井さんに当たる人がいませんね(笑)。
作家さんが心から喜んでくれるのが、自分のモチベーションになる
鳥嶋氏:
白井さんの話を今日聞いていて思うのは、編集というのは相手の視点に立って、どう思われるかということの判断で動いているということですね。
さっき言ったように白井さん自身の問題は、今日明日のことなの。だけど作家さんのことは、けっこう先まで考えている。この時間軸の違いは今日、明快に感じたな。
──「お正月におせちを届けに行く」みたいな白井さんのやり方って、部下の方も真似していったんですか? それとも白井さん独特のやり方ですか?
白井氏:
もう真似はできないんじゃない。家族に「じゃあ大晦日は頼むよな」なんて、言えないじゃないですか。それは人ん家の正月をメチャクチャにするわけだから。
おせちを料理屋に受け取りに行く時間って、大晦日の、しかも午前中なわけですよ。これは今だったら、届けてもらってもいいんですよ。
鳥嶋氏:
でも、わざわざ持っていく。
白井氏:
そう、わざわざ持っていって、一年間の話をしながら「がんばってください」みたいなことをさ。
──それをやる原動力というかモチベーションって、作家さんと話していて面白いというのがあるんですか? それとも他誌に負けたくないというところが?
白井氏:
作家さんも心から喜んでくれるというのがありますよね。作家さんって、もう大金持ちになっているわけじゃないですか。料理屋を一軒運営したっていいみたいなもんですよ。
それに自分からお金を出せば何カ所からでも取り寄せられるけど、でも私が持っていくことにお金プラスアルファが入っていると思うから。
一回ね、高橋留美子さんのお父様が亡くなられた時に「今年はやらないほうがいいんじゃないかな」と思ったんです。そうしたら彼女から「それはそれで、おせちはおせちですから」って言われて(笑)。
鳥嶋氏:
(笑)。白井さんが来るのを、楽しみに待っているんですよ。そこで来ないと、一年が終わった感じがしないんでしょう。
白井氏:
不祝儀の年も、大晦日に行ったことがありますけど。でもやっぱり、そう長話はできないけど、「今、他社の本では何を読んでいるんですか?」とか、「自分のお好きな漫画で今年のナンバーワンはなんですか?」とかね、いろいろと聞いたり。
あと、これはあんまり言っちゃいけないんだろうけど、高橋さんにそろそろ新しいものをやってほしいと思うんだけど、現場はなかなか言えないこともあるわけですよ。
鳥嶋氏:
それを白井さんが代わりに言ってるんだ。
白井氏:
「そろそろ新しい作品はどうですか?」みたいなことを。でも彼女はきっぱりね、「終わりは自分で決めたい」みたいなことを言うから。意志は曲げないよね、人の意見ではね。
鳥嶋氏:
僕は高橋留美子さんを口説いたことがあるんですよ。持ち込みは忘れていたけど、その後ね。『Vジャンプ』をやる時に、鳥山明さんの男子キャラと高橋さんの女性キャラでRPGを作れないかと思って、二晩口説いたんだけど、まったくダメでしたね(笑)。
逆に『サンデー』の漫画の相談をされて。
白井氏:
良い話だなぁ(笑)。
──その逆に、白井さんが口説きに行って、ぜんぜんダメだったという失敗談はありますか?
白井氏:
誰だろうなぁ。
鳥嶋氏:
忘れてるんじゃない、失敗したのは。
白井氏:
そう、忘れることも大事なんだよ(笑)。……女性漫画家でひとり、獲れなかった人がいたよね。『あさきゆめみし』を描いている人。大和和紀。
鳥嶋氏:
講談社の人でしょ。『はいからさんが通る』とかを描いている。
白井氏:
大和和紀を一回獲りに行って、北海道まで行ったと思うんだけど。
里中満智子さんは一回、『ビッグコミック』で描いてもらった。里中さんもちばてつや先生とふたりで、講談社の宝として扱われていたので。
鳥嶋氏:
ですね。
白井氏:
相手の宝を獲りたい。相手のいちばん大事なものをとにかく獲りたいという(笑)。
鳥嶋氏:
もう、趣味が悪いね(笑)。ホントに厄介だよ。
白井氏:
里中さんは今でもおつきあいがあるし。大和和紀は上手くいかなかったね、どうも。
鳥嶋氏:
悔しい?
白井氏:
悔しい(笑)。
──ちなみに、獲って獲り返されたとか、獲られたことってあるんですか?
白井氏:
獲られたことって、誰があるんだろうなぁ?
鳥嶋氏:
白井さんの時はないかもしれない。その後、白井さんが出ていった後は聞いたりするけど。
白井氏:
獲り返されたら、それこそ倍返しするよ。今の流行り言葉で言えば、倍返しだ。
鳥嶋氏:
4倍になる(笑)。
読者が喜ぶコンテンツを作るという情熱を、今、どれだけ持っているのか
──ちなみに『ポケモン』って、白井さんとは関わりが深いものなんですか?
白井氏:
『ポケモン』はね、以前にこれだけお世話になっているのに無神経なミスをして、石原社長(※株式会社ポケモン社長 石原恒和氏)をたいそうご立腹させたことがあったんです。小集プロ、小学館、全てこれで絶縁されても仕方ないぐらいに。
キャラクターを大切に大切に育てている相手に対して取り返しのつかないことをしたので、それをリカバーするために、私が平身低頭お詫びをして、なんとか許して頂きました。でもその後、急に距離が近くなり、今では月二回ぐらい石原御夫妻と食事をご一緒します。さっき、LINEをしているって話をしたけれども、じつは今、私は石原ご夫妻とだけLINEをやっているんですよ。「三國同盟」という名前なんですけど。
──そうなんですか!
白井氏:
ふだん、石原さんとは何の仕事の話もしないで、食事だけね。4、5分だけ仕事の話が入る時もあるけど。あとは、次、どこで食べるかとか。(笑)
鳥嶋氏:
あとは一切、しないんですか?
白井氏:
しません。
鳥嶋氏:
そこがスゴイんだよなぁ。ただ今日、ずっと白井さんのお話を聞いていて、その一端は分かりました。
白井氏:
一端は(笑)。
鳥嶋氏:
つまりコミュニケーションを取っている安心感ですね。小学館と仕事をやっていることの安心感を、白井さんによって担保されている。
白井氏:
そんなに大げさなもんじゃないけど。
鳥嶋氏:
いやいや、そうだと思いますよ。ただ、白井さんがさっきからおっしゃっているように、これは他の人には無理だね。
白井氏:
そう、それはね、みんな「それ流」で生きていくしかないから。時代も大きく変わっているしね。こういう時代になってくると作家との関係性も希薄になって、もっとビジネスライクになるかもしれないし。また新しい付き合い方の中で、その中で名作が生まれる可能性もあるし。だからそれを伝承するというのは、なかなか難しいよね。
ただやっぱり、読者を第一に、読者の喜んでくれるものを一生懸命作るというね。コンテンツ作りに情熱を持つということだけは不滅だと思うけど、その不滅の火がだんだん揺らいできたのがちょっとね。そこが心配っちゃ心配だよね。負ける悔しさみたいなものを持っているのか。だってずっと負けてるんだから。
『週刊少年ジャンプ』創刊編集長の長野規さんという、もう亡くなってしまいましたけど、私の大先輩の方は手帳にね、「10万何千部」というのをちゃんと書いてたの。
鳥嶋氏:
10万5千部(※編注:『週刊少年ジャンプ』創刊号の発行部数)。
白井氏:
それを“屈辱の部数”として、ここがスタートだと。
その時は『サンデー』『マガジン』が全部、「作家は『ジャンプ』に描かせるな」って押さえこんでいて。でもその中で本宮ひろ志さんが生まれ、永井豪さんが生まれてきたわけですから。
……そりゃあね、『ハレンチ学園』なんか小学館に持ってこられても、出せないですけど(笑)。
鳥嶋氏:
『進撃の巨人』と一緒だ(笑)。
「悔しい」と思う気持ちをバネにして、もう1ランク上を目指してほしい
鳥嶋氏:
文芸や美術書を志望して小学館に入って、漫画に携わったことは、白井さんにとっては結果、良かったですか?
白井氏:
良かったんじゃないですか。だって当時の小学館には文庫もなければ文芸もないし。そういう意味では百科事典と美術書と『少年サンデー』ぐらいのもんでしょ。
その中で青年漫画の創生期、『ビッグコミック』の創刊とかそういう流れの中で、漫画に対して「これは会社の柱になるものだ、儲けになるものだ」とみんなが認識するようになる、10年ぐらいの時期にいたわけだから。
最初の頃は、漫画の単行本を出さなかったんですよ、『少年サンデー』の連載が終わったものを、秋田書店が単行本にした【※】んだから。
※秋田書店が単行本にした
秋田書店が刊行している「サンデーコミックス」には、『サイボーグ009』『伊賀の影丸』『どろろ』など、1960年代後半から1970年代前半にかけて『週刊少年サンデー』で連載されていた作品が多数ある。またサンデーコミックスには、『週刊少年マガジン』(講談社)連載の『8マン』や、『少年』(光文社)連載の『鉄人28号』などもある。
鳥嶋氏:
集英社で言うと、創美社【※】って子会社で出してましたよ。
※創美社
集英社の関連会社。『週刊少年ジャンプ』連載作品の一部や、読み切り作品を集めた短編集などが、同社から「ジャンプスーパーコミックス」として刊行されていた。創美社は2012年に「集英社クリエイティブ」へと社名を変更している。
白井氏:
「単行本が売れる」なんて誰も考えない時代だったから。雑誌が終わればそれでおしまいで、ヨソにあげていたんだから。それは今からだと信じられないですよね。昭和40年代の後半ぐらいからじゃないですか、漫画の単行本が売れるというのは。
鳥嶋氏:
そうですね。
白井氏:
それにしても、『鬼滅』は儲かったよね。僕は今、『HERO’S』をやってるから。『HERO’S』にひとつぐらいヒット作が欲しいな、と思ってやってるんだよね。
鳥嶋氏:
じゃあ、編集長をやってるんじゃないですか。
白井氏:
社長ですよ。編集長は別にいますから。
鳥嶋氏:
なるほど、社長ですか。
白井氏:
でもね、『HERO’S』もアニメ化が殺到している作品があったり、ようやくね。
『月刊HERO’S』は紙を止めたんですよ。もう全部デジタルだけにして。
鳥嶋氏:
現場の漫画の編集とは話をすることがあるんですか?
白井氏:
するする。飯を食ったりしますが、仕事にはあまり口を挟まないです。
鳥嶋氏:
『HERO’S』の編集と話したりして、どうですか? 手応えとか話は。
白井氏:
「とにかく当てたら、賃金や賞与で還元する」ってハッパをかけています。みんな毎日、少数精鋭でがんばってますよ。30人ぐらいかな、今。
鳥嶋氏:
じゃあ、漫画および漫画編集部には、まだ可能性があると?
白井氏:
あると思います。
──僕は今43歳ですけど、僕らの世代が鳥嶋さんや白井さんの世代の方々の話を聞くと、そのエネルギーや情熱みたいなものに圧倒されて、すごく悔しい思いがあるんです。
今は経済成長の時代ではないというところを加味しても、僕らの時代と鳥嶋さんたちの時代ではいったい何が違うんだろうか? というのは、鳥嶋さんとおつきあいする中で、僕自身の裏テーマでもあるんです。
白井さんから見て、もっとこうしたらいいとか、何か足りないんじゃないの、とか何か感じるものがあるんだとしたら、聞いてみたいなと。
鳥嶋氏:
今の若い現場の編集に?
白井氏:
どうなんだろうなぁ。僕が言うとみんな古くなるよ(笑)。
鳥嶋氏:
でも、思ってるでしょ?
白井氏:
裕福さとかに慣れちゃうと、そこにいれば部数が落ちようが落ちまいが、普通に給料が出るわ、賞与は出るわ、自分のやったことに対する評価みたいなものがないじゃない。
万民平等な会社だから。中国の人が来て、ビックリするんだよ。男女同じ賃金だし、同じ年に入った人は同じ給料だし。
鳥嶋氏:
そうですね。
白井氏:
賞与も、じゃあ『鬼滅の刃』をやった人が一挙に1000万円もらえるかというと、絶対にないし。中国では極端な話、工場で働く人が帽子で色分けされてるんだよね。できる人の帽子と、できない人の帽子。万民平等の共産主義の国の人からビックリされる、平等な会社ですから(笑)。
そういう平等な会社の中で、今の若い人が自分の存在感を、「この仕事を選んで良かったな」としみじみ感じる時をね、自分が持たないと。
『鬼滅』を作ったのも『Dr.スランプ』を作ったのも、同じ人間がやったことなんだから、自分にできないことはないって。時代のせいとか人のせいにしないで、自分の能力のなさを見つめてもう1ランク上に行こうという、そういうものを目指さないとね、競争社会だから。編集者がもたれ合いながら、お互いに傷を舐め合いながら生きていると、そこからは何も生まれないよね。
鳥嶋さんだって、嫌いな人は嫌いだから。僕のことだって、嫌いな人はいっぱいいると思うよ。「いい人」なんて言われてる時はダメなんだよ(笑)。
「味方千人、敵千人」ってさ。鳥嶋さんのやってきたことは『ジャンプ』にとっては多大な評価だろうけど、それを気に入らないって人もいるだろうし。
鳥嶋氏:
よくご存じで(笑)。
白井氏:
そういう意味で、「このやろう!」ってどこかで思って仕事をして、後ろから斬るとか足を引っ張るんじゃなくて、正攻法で「アイツを見返したい」とかさ。
「アイツができたんなら僕にできないことはない」というようなことを、ひとりひとりが思わないと。これからやっぱり相当厳しい時代に入っていくと思うんでね、我々の時と違って。
鳥嶋氏:
でもさっきから白井さんは「悔しい」って言うけど、それは「世の中を動かしたい」という欲があると思うんですよね。どんな形でも。
白井氏:
そんなのないよ。
鳥嶋氏:
いやいや、あるでしょ。まだ編集長もやりたいし、江口寿史の本も出したいって言ってたじゃない。
「世の中を動かしたい」って気持ちと、あとは作家に対する愛情が、白井さんは深いですよね。
白井氏:
それはあるかもしれないね。(了)
白井氏や鳥嶋氏が活躍した1970〜80年代は、漫画が小説の地位を追い抜き、出版業だけでなくTVや映画、そしてゲームの世界をも左右するような、日本を代表する一大コンテンツ産業へと育っていった時期にあたる。それだけに、両氏から披露されるエピソードの中には、現在の我々から見ればまさに「昭和のモーレツ社員」といった感じの、豪快極まる内容も少なくない。
だが、特に白井氏の言葉の端々から伺えるのは、大ヒット作を生み出す漫画家に対して、編集者がじつに細やかな気配りをしているということだ。
他誌の人気作家を引き抜くために漫画家の自宅に通い詰め、誕生日やクリスマスには贈り物を欠かさないという白井氏の行動は、鳥嶋氏も言うように、ある面では「作家にこびを売る」ように見えるかもしれない。
だが一方でそうした行動は、漫画家の気持ちをつかみ、自分の雑誌でいかに気持ちよく仕事をしてもらうかという気配りの表れでもある。さらに、現役の編集者を退いた後も相手の健康を気遣い、仕事や私生活の相談に乗るというその姿勢からは、ヒット作を生み出した漫画家に対する白井氏の敬意が伝わってくる。
もちろん、現在では漫画家と編集者の関係、さらには職場での人間関係も変化しており、かつてよりはドライに見える関係になっているかもしれない。
だがそれでも、『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』を例にとって語られたように、漫画家の秘めている情熱を敏感に感じ取り、それを十二分に発揮できるように支え続けるという編集者の役割は、今なお変わらないのではないだろうか。
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