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「インディーやるなら一番大事なのは貯金額」「お金を貯めること=自由にゲームを作れる時間を買うこと」──『くまのレストラン』『メグとばけもの』のDaigoが語る“心が折れないゲーム作り”とは

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インディーゲームの夢の今

──下世話な質問になってしまうのですが、『くまのレストラン』ってインディーゲームとしてはメガヒットタイトルだと思うんです。それでも意外と儲からないものなんですか?

Daigo氏:
それなりのお金にはなりましたけど、全部使っちゃいましたね。なくなっちゃいました。

塩川氏:
夢のある話はないんですか(笑)。

『くまのレストラン』『メグとばけもの』のDaigoが語る“心が折れないゲーム作り”とは_014

Daigo氏:
『メグとばけもの』に関しては、これくらい流行ってくれればフェラーリに乗れてもおかしくないんじゃないかと思ってるんですけど、乗れる気配は全くなく(笑)。

塩川氏:
地域的にはどこが一番売れているんでしょうか。

Daigo氏:
日本が一番売れていますね。あまりこういうことは言いたくないですが、日本市場の小ささを実感せざるを得ない状況にはなっていますね。周りの開発者仲間からも、「日本市場のキャップ(上限)はこれくらいだ」という話をちらほら聞きます。

自分で言うのもあれですけど、インディーでゲームがここまで話題になるってなかなかないだろうと思うんですよ。「これ以上は逆に何をすればいいんだろう」と思うぐらい。だから、日本でヒットするだけではフェラーリには乗れないんだなとという気持ちにはなります。
ちなみにフェラーリが欲しいわけではないです(笑)。

──『メグとばけもの』ってSwitch版、Steam版の売上比率ってどれくらいなんですか?

Daigo氏:
同じぐらいですね。逆に言うと、日本はSteamユーザーがあまりいないイメージだったので「日本でもSteam版がこんなに売れるんだ」と驚きました。
この作品もどちらかと言えば、海外で売れるかなと想定していたんです。もちろん、世界中で売れてくれたら嬉しいですけど、それでも母国で売れるというのは嬉しい誤算というか、認められた感じはありますね。

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『メグとばけもの』

塩川氏:
Daigoさんはインディー業界歴という意味でもけっこう長いじゃないですか。その中で、「こう変わってきたな」みたいなものはありますか?

Daigo氏:
もはや「インディー歴」なんてものが付くんですねぇ~(笑)。

塩川氏:
いやいや、私にとってはインディー業界の大先輩ですから……。

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Daigo氏:
一番最初に日本のインディー業界で認識されるようになったのは、2018年の『くまのレストラン』ですかね。その後にGoogleのインディーフェスティバルで受賞して、その前後でOdencatを設立して。その頃はずっとモバイルでゲームを作っていたので、自分はモバイルの世界のことしか知らなかったんです。Switch版とか夢のまた夢だったし、出すつもりもなかったし。

『くまのレストラン』ってすごくシンプルな話だし、これをSteamやSwitchに移植したところで、期待値がすごく高い世界だから、「どうせ『UNDERTALE』とかと比較されて、ボロクソに言われて終わるだろうな」と思ってたんです。

しかし実際に移植して出してみると、思ったより話題になったんですよ。絶対「モバイル版が無料」ってところがネックになって、比較されて売れないだろうなと思っていたんですけど、そこも全然問題なくて。むしろモバイルがあったから、こんなに売れたという結果になって

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『UNDERTALE』

一方でモバイルのインディーは、最近ちょっと“弱まってきた感”があります。モバイルでインディーやってた人達が、SteamなどPC・コンソールを目指すという流れになってきているのを感じますし、バブルが弾けた感とでも言うべきかな。

──スマホが普及しだした頃の「アプリドリーム」みたいなものも、いまは完全に無いですよね。

Daigo氏:
そういうバブルが収束しそうなところで、インディーでまたちょっと盛り上がった。なんですけど、最近は広告収入が減ってきたとか、レギュレーションが増えて面倒くさくなったのが大きく関係していると思います。あと、一昔前は中国でアプリがよく売れたので「チャイナドリーム」があったんですけど、それもなくなっちゃったんで、萎んできているのかなというのがモバイル側の視点だったりします。

コンソールもどうですかね。『メグとばけもの』の主題歌をやってくださっている鴫原ローラさんという方がいて、彼女はアメリカの業界にも詳しいんですけど、彼女からするとベイエリアのインディーの人たちが大人しくなっていっているそうです。
それには自分も同意見で、ベイエリアはもうゲームの中心じゃなくなっていると感じている。インディー開発の中心がアメリカから別の場所にシフトしているのかなと思います。

塩川氏:
その元気がなくなっていっているというか、衰退していると感じる部分はどういうポイントなんですか?

Daigo氏:
もちろん、自分達の見ている範囲の世界でしかないから、バイアスがかかってる可能性は十分あると思うんですけど、ベイエリアでいうとやっぱりIT人材が高騰しすぎているんですよ
あまりに高すぎて「ここに住んでいる意味ないよね」みたいになっちゃったし、その結果
、ゲーム会社もどんどん撤退した。だから、今もベイエリアに残っている会社って、ゲームらしいゲームというよりは、アプリ内課金とか3マッチパズルとか、そういうカジュアルゲーム系らしくて。

当時ベイエリアを席巻していたインディーゲームの話みたいなのもあまり聞かなくなってますよね。「みんな結婚したり家庭を持って大人しくなっただけ」という説もあるんで、全体としてどうかは僕には分からないですけど、やっぱり変化は感じますよね。

「社長業」は自由の代償?

──今、Daigoさんの会社(Odencat)はどれくらいの規模なんですか?

Daigo氏:
基本は業務委託で、今は10人ぐらいで回してますね。そこからちょうど今月、正社員をひとり雇おうとしていたところでした。

そういう意味では、ハングリーにずっと開発だけしているわけにもいかなくなってきて。何か色気づいた……というわけじゃないですけど、他にやることも増えてきちゃいました。

塩川氏:
やはり開発に戻りたいですか?

Daigo氏:
つらい時期に戻りたいわけではないんですけど、あの時の自分のアウトプットを思い返すと、そういう開発者や、クリエイターとしての強さを取り戻したいなとは思います。とはいえ、会社としてやっていくには、全部自分がやるのではなくて、「人に任せる」ってことをやっぱりしていかなきゃいけないんだろうなって。

ただ、社長を交代して開発に専念したいかというと、やっぱそれはそれで不安なので、まだそれはできない。課題をクリエイティブに解決するのが好きだから、何とかしたいとは思っています。

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塩川氏:
自分の場合は事務作業とか本当に苦手なんですけど、「これは自由の代償かな」と思ってなんとかやっています。

Daigo氏:
「自由の代償」という意味では、最近リリースした『メグとばけもの』はそうかもしれません。
ありがたいことに一定数の反響があったので、会社としては成功なんですけど、クリエイターとしてはとても悔しいんです。

というのも、今作は僕一人で作った作品ではなくて、弊社のリョータさんが中心になって開発したゲームなんです。今作では、僕はプロデューサー的な立ち位置で、内容についても議論はするんだけれども、キャラクターの台詞回しだとか、バトルシーンでどういう敵が出てくるとか、具体的な企画やゲームの細部を考えたわけではないです。神は細部に宿ると言いますけども、その細部をやっていない。だから、「Odencat作品」「リョータ作品」ではあっても「Daigo作品」とは言えないんですよね。

人が増えてきたことで、余計に「クリエイターとしての自分、社長としての自分」の乖離みたいなものを最近感じてますね。

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『メグとばけもの』

──スケールアップというか、Daigoさんおひとりからチームになっていくのはどういった経緯だったんですか?

Daigo氏:
これは投資されていないスタートアップに多いと思うんですけど、気付いたら会社にしていた系です。「株式会社ってカッコいいよね」とか、「売上が1,000万を超えたら会社化した方がいいよ」みたいな節税目的とか、そういうノリでした。

──他人のゲームをプロデュースする側に回るのは、「Daigoさんがやりたいこと」とちょっと変わってきているのかなと思いました。

Daigo氏:
プロデュースに関しては、まだ経験が浅いのであまり上手いことは言えないのですが……「他人と意見の衝突があって、相手の意見を優先する」ことがあるというのは、自分にとっては新鮮な体験でした。「絶対これダメだろう」「いやいや」とか議論はするんですけど。

『メグとばけもの』のシナリオを担当してくれたリョータさんは意志が強い人で、自分が「絶対こっちのほうがいいよ」と言っても「イヤ、ダメです」みたいな(笑)。そこでバトってどっちが勝つか分からない、みたいな状況が増えてきて。面白くもあるんですけど、自分が負けることもあるから悔しいなと思ってます。
その最終的な答えは、ユーザーさんの意見になるんですけども、それを見ると「彼が正しかったな」と思うことはけっこうありますね……。

「マネジメントしないゲーム作り」とは……?

塩川氏:
なるほど……。ここでひとつ、お悩み相談をしていいですか。

Daigo氏:
気になりますね(笑)。

塩川氏:
端的に言えば、「どうやってうまく開発を回していますか?」ということです。

やっぱり自分たちだけでできることって限られちゃうから、社外の方にも仕事をお願いすることになるじゃないですか。先ほどほとんど業務委託で回しているとおっしゃってましたので、Daigoさんはどうやって人を束ねて成果を出しているのかな、と。

Daigo氏:
ちゃんと束ねることはできてないと思います。単純にマネジメントできてなくて、お金だけ払ってます(笑)。どうせお互いに守れないから、締め切りを決めても意味がないので、「できたら教えて」みたいな感じでやっています

塩川氏:
それでいいんですか!?(笑)

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Daigo氏:
たぶん、ダメだと思います(笑)。もちろん、あまりにスケジュール感のずれがあるときは話し合いますが。

ただ、自分の場合は「なるべくずっと一緒にやろう」としているところがあって。信頼ベースでやっているので、「ここまでにやれ!」とか怒ってもしょうがないかなと……。そもそもクリエイティブな仕事だと見積もりが難しいこともありますし。とはいえ、向かってる方向が一緒で信頼関係があるのが大前提ですね。

開発ラインを作家ベースでそれぞれに立ち上げて、自分はそれを束ねてOdencatとしてまとめる……という役回りをしている感じですかね。今はそんなに日の目を見ている物がたくさんあるわけではないんですけど、昔出した『潮騒の街』『エンゼル・ロード』という作品は、他の作家さんのものを移植した作品なので、そういう意味ではいろいろな色を出せたらいいなって。

複数ラインを走らせているといっても、「できたらいいかな」くらいの感覚で、コミットメントはそこまで求めていなくて。ゲームって1カ月や2カ月でできるものじゃないし、ものによっては数年かかることもあるので、「種まき」みたいな感覚で、なるべく早くスタートすることにしているんです

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『潮騒の街』
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『エンゼル・ロード』

結局のところは波長が合う人とやっているという感じです。なるべく『UNDERTALE』や『MOTHER』が好きな人がいいですね(笑)。面白い人がいるから、一緒にやるかという感じ。

──Daigoさんと仕事をする個人の作家さんからしたら、なにがお互いのメリットになるんでしょう?

Daigo氏:
お金の話もありますけど、一番は自己実現じゃないですかね。『メグとばけもの』もリョータさんの色を存分に出してる作品だし、みんなの承認欲求を満たせているというところは確実にあると思います。

あと、一人でゲームを作って売るってなんだかんだ言ってすごく大変ですし。自分一人でゲームを作って売るところまでやれるタイプの人は自分でやった方がいいのでは、と思いますけど。Odencatの思想に共感した物好きな人が勝手に集まってきた結果が今のOdencatです。たぶん(笑)。

……ということで残念ながら、マネジメントの悩みには答えられませんでしたね。マネジメントすることをあきらめてしまっているので……(笑)。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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