インディーゲームは作品だけでなく、その背景をも見られる
塩川氏:
もうひとつご相談したいのが、コミュニケーションについてです。
お恥ずかしい話なのですが、私は人とのコミュニケーションが得意じゃないんです。しかも、たとえば映画を2時間観るんだったら、そのぶん2時間何か手を動かして、アウトプットすることに割きたい……と考えてしまうタイプで。
でも、流石に独立した今は社長としてこれはマズいかなと思って、「積極的に人と会おう」みたいな期間を設けては、それが終わったらまた引きこもってという暮らしを繰り返しているのですが、これがなかなか上手くいっている感じがしなくて……。
一方で、Daigoさんは作家さんたちだけでなく、インディー界隈のいろいろな方々と情報を交換したりと、円滑なコミュニケーションをとられていると思っておりまして、何かその秘訣といいますか、どうしたらいいかをお聞きしたくて。
Daigo氏:
アドバイスかあ……あまり無理しなくてもいいんじゃないですか(笑)。
僕の場合は、別にコミュニケーションを取ろうと思ってやっているんじゃなくて、ただ楽しいからやっているところが大きくて……なんなら開発がつらいからちょっと逃げている部分もあります。もちろん、それが回り回って何かの役に立つことはあるんですけど、本質的には「コミュニケーションをしよう」と思ってしているわけではないですね。
実際、僕もしょっちゅう人に会ったりしているわけではなくて、Discordで駄弁ってるみたいなときのほうが多いですし。
──塩川さんが対等な立場で話せる方っていらっしゃるんですか?
塩川氏:
対等な立場で、とか友達のような間柄の方は少ないと思います。
もう3年おきとかそういうレベルなんですけど、「何かあったら連絡ちょうだいよ」とたまに連絡を取り合って……という方はいるにはいるのですが。
Daigo氏:
え、友達いるじゃないですか!
塩川氏:
友達ではないかもしれないですけど……。
Daigo氏:
そこは友達って言っちゃっていいんですよ! 友達がいないんじゃなくて、塩川さんがカウントしていないだけだった(笑)。
塩川氏:
勝手に友達呼ばわりして、相手から怒られたりしないですかね……?(笑)
Daigo氏:
「3年おきぐらい」と聞いて、その方との繋がりは「残り続けた猛者たちのつながり」のようなものだと感じました。
自分の例でいうと『メグとばけもの』の音楽は裏谷玲央さんという元カプコンで『モンスターハンター』などの楽曲を手掛けていた方に担当いただいたんですが、そのきっかけはCEDECで発表したときにお声がけいただいたからなんです。
「自分が昔に作ったゲームが好きだったから、今度何か一緒にできたらいいね」と。まさか自分が19歳の時に作ったゲームがきっかけで、20年越しにコラボができるとは思わなかったですけど(笑)。
そこの繋がりも「彼が“元カプコン”という箔が付いてて、彼に頼めば売れるから」という発想ではなくて、単に彼が独立して「インディーでやりたい!」というパッションがあって、さらにありがたいことにうちのゲームのファンだったから成立したことであって。
とはいえ、そこも何も言わなければ「元カプコンのすごい人に頼みに行ったんだな」みたいに思われるかもしれないんですけどね。この手の話って、それこそインタビューか何かで言わないと伝わらないことではあるのかな。
──伝え方にもよるところなのかなと思います。たとえば、裏谷さんに楽曲を依頼した背景をプレスリリースで伝えると「上から」に見えてしまうだろうし、逆にこうした場所で伝えるとある種「下から」に見えるかもしれない。
Daigo氏:
その意味では、インディーゲームって作品だけじゃなくて、背景もすごく見られてると思うんですよ。昔からの友達と一緒に作っているとか、何十年もずっとインディーでやりたい想いがあって、とか。そういうウェットな感じが大事ですよね。
たとえば、『くまのレストラン』と『フィッシング・パラダイス』の音楽は大学の友達に頼んだし、その『フィッシング・パラダイス』のサブイベントを全部作ったのも中高の友達。みんな昔の友達なんですよ。
リョータさんや裏谷さんは昔からの友達というわけではありませんが、ただ業務をお願いしているというだけではなくて、どこか個人的なつながりだったり関係だったりする部分はあるなと思っています。
特に裏谷さんとは「インディー」と「プロ」の視点での衝突が当初あったと思っていまして、お互い傷つきあったりしたこともあったのですが、そういうドラマも含めてインディーゲームだなぁ、と今では思ったりもしています。
実際にプレイヤーさんはそういう背景があった、とは直接にはわからないと思うんですけど、「にじみ出る」というか、自然と何かが伝わるものがあるのだと思います。
──お話を聞いていると、Daigoさんはやっぱり、そもそも人徳があると感じます。「中高の友達に仕事を頼める人」ってあんまりいないと思います(笑)。
Daigo氏:
中高から『ツクール』をやっていたので、その頃から趣味の友達が多いというのはあるかもしれないですが。
でもたしかに言われてみれば、何も用がなくても声を掛けたりとかはたまにしますね。Facebookとかで「こいつどうしてんだろうな」とか、旅行しに行く時は「こいつここら辺に住んでたはずだな」みたいな感じで声かけたりとか、意外とそうすると、向こうもまんざらでもないことがけっこうあったりする。知らず知らずのうちに、お互いに変に遠慮しているのかなと思うこともありますね。
ちょっと勇気を持って声をかけると、その絆がまた復興するのに、みんな声をかけずに終わっちゃうことって、案外多いのかもしれません。
塩川氏:
勉強になります。身に染みますね……。
「『FGO』の人」から「『つるぎ姫』の人」になれるのか?
塩川氏:
先ほどお話しにあった「インディーゲームでは作品だけでなく、開発背景もすごく見られる」という点はまさしくDaigoさんのおっしゃるとおりだと思います。
その点では、私の場合はまだまだ「『FGO』の人」として見ていただいてる部分もあって……。
Daigo氏:
過去の作品で知名度があったり、有名な人たちってそれゆえに色眼鏡で見られてしまいがちですよね。インディーをやりたいと思っているのに、その色眼鏡ゆえに、なかなかそういうことができない……みたいな話も聞きます。
今の塩川さんだったら、もうそれこそ『FGO』というフィルターを通して見られることがほとんどになっちゃいますよね。
──普通のユーザーさんとか、ちょっと距離がある人からすると、それこそ「めっちゃお金持ってそう」みたいな色眼鏡は確実にありますよね。
Daigo氏:
やっぱり『FGO』のインパクトは大きくて、「何かスゲェ車乗ってんだろうな」みたいなイメージはあります(笑)。派手なイメージはどうしても出ちゃいますよね。
塩川氏:
実際はボロボロのオフィスで、「会社は1年続けばいいかな」みたいな状態でなんとかやっている、みたいな状況なんですけどね……(笑)。
Daigo氏:
とはいえ、やっぱり塩川さんの名前がクレジットに乗っちゃっている時点で、「インディーじゃないじゃん」と思われても、ある程度は仕方がないのかなとは思います。
塩川氏:
そう思われますかね。
Daigo氏:
ユーザーさんたちからは怖いというか、冷徹なイメージがあるんですかねえ。
でも、これはかなり特有の悩みだと思います(笑)。普通のインディーでは、まずない悩みなんじゃないですか?
塩川氏:
『FGO』に限らず、基本無料のスマホゲームにおけるユーザーさんの熱量みたいなところは、他のゲームと比較して特有な部分はあるのかなとは受けとめています。一つのゲームにかけるお金も時間も多くなってくるし、熱量を持っている人であればあるほど生活の一部になってくるから、思い入れの形もそれだけ大きくなってくる。
──インディーゲームって、やっぱり好きな人しかそもそも興味関心を持っていないので、自然とユーザー層もピュアになっていくと思うんです。一方でメジャータイトルになると、もっといろいろな層が増えるし、不満を持っている人の絶対数も増える。
たとえ良いものだろうと「あの塩川が作ったやつか」で終わってしまうのは、やっぱりもったいないなと思うんです。
Daigo氏:
たしかに塩川さんを不満に思っている人はいるかもしれないけれども、それ以上に「別にそうじゃない人」もいっぱいいるんじゃないですか。
ちなみに、『FGO』時代に塩川さん自身がつらかったことってありました?
塩川氏:
自分が何を言われようと自分自身はつらいとは思わなかったですけど、一方で「『FGO』を楽しんでくださっている方々へ申し訳ない」という思いがすごく強かったですね。
Daigo氏:
お話を聞いていると、塩川さんはとにかくがむしゃらにやっているというか……。「ゲームが好きなんだな。ゲーム作りたいんやな」というのは間違いなくありますよね。
そこのピュアなものって、今の話を聞いてても確実にあったと思うんですけど、僕も塩川さんも、「ゲーム作りの優先度が、人生のなかで最高レベルにある」というのは間違いないんですよ。
──いまおっしゃられたような「求道者的な感じ」は、塩川さんのひとつの魅力だと思うんです。でも、おそらくそれはいままでちゃんと発信されていなかったし、伝わっていなかった。
Daigo氏:
僕もそう思います。さっきおっしゃっていた「コミュニケーションよりもアウトプットしたい」という話もそこに繋がっていますよね。質の高いインプットは質の高いアウトプットに直結するとは分かっていても、欲求としてはアウトプットしたい。
作品を出し続けて、どんどん上書きしていけばいいんじゃないでしょうか。そうしたら、『FGO』の色眼鏡も薄れていくと思うし、インディー開発者としての塩川さんの色の方が強まっていく気がします。
「自分の色を出す」ということ
Daigo氏:
企画の趣旨が変わっちゃうんですけど、逆に僕からお悩み相談してもいいですか?
塩川氏:
もちろんです。
Daigo氏:
先ほどもちょっと話に出ましたけど、社長業が悩みですね。クリエイティブと関係ない作業がすごく多くなってきて。
塩川氏:
自分もめちゃくちゃ苦戦しました。最初の1年ぐらいは「今日は、スライムを一発で倒せるようになったぞ」みたいなノリで、「今日は、経費精算できるようになったぞ」といった小さなことに成長を感じることでなんとかやっていけてましたね。
ただ、それも1年ぐらいが限度で。いまは作業自体は速くなったんですけど、同じことの繰り返しで新たな学びもない部分から少しずつつらくなってきてます(笑)。
Daigo氏:
インディーゲームって、こういうつまらない話は記事にならないんですよ(笑)。確実にそれが我々のリソースを蝕んでいて、ゲームのクオリティに影響しているのにね。
税金、経費、法律とかゲーム作りと関係ないことがすごく多くて、そこって何とかならないのかなと。そういうソリューションをどこかが提供してくれないかな、というのはちょっと思います。
あとはうちってゲームエンジンの制約があって、2DのRPGしか今のところ作る予定がないから「大丈夫かな、飽きられないかな?」って。
塩川氏:
タイトルを重ねてきたがゆえの悩みですよね。
Daigo氏:
将来をそこまで見通せないんで、正直「いつまでこれで戦えるのか」という不安はやっぱりありますよ。
塩川氏:
新しいものにチャレンジするにせよ、やるのであれば両立がいいんじゃないでしょうか。これだけ積み上げてきているものがあるから、そこを捨ててしまうのは非常にもったいないと思います。やっぱり「自分の色を出す」ってすごいことだと思うんです。
Daigo氏:
すごく参考になります。あと聞きたいのが、『つるぎ姫』ってゲームシステムにすごく力が入っているのは分かるんですけど、世界観やストーリーへの思い入れってどうなんですか。全部自分たちでやりたいのか、他のIPにすげ替えても成立するのか、ちょっと気になります。
塩川氏:
その意味で言えば、自分としては「渾然一体のもの」を作っているつもりではいます。『つるぎ姫』もそうなんですけれども、「このシステムがあるからこそ、この設定だ」という感じで、見た目を含めて組み立てていっている感じです。
ですから、「これを他社さんのIPでやります」と言っても、成立しないようにはなっていると思います。
Daigo氏:
売れはするでしょうけど(笑)。
塩川氏:
出発点がゲームシステムで、そこからキャラクターを含めたデザインが入ってくる感じです。アイデアが核にある上で、「運命さえ”クラフト”する、アールピージー。」というコンセプトに肉付けしていく。そういう意味では、わりと色濃くオリジナル作品を作っていこうという思いが強いです。
やっぱり尖ったものを作ろうと思ったら最大公約数じゃ作れないというか、意見を聞いて立ち上げたものではそうはならないし、正解か不正解かは最終的にお客さんしか決められないじゃないですか。だったら、「信じて乗るしかない」という気持ちです。
Daigo氏:
楽しみですね~。モバイルをやる予定はありますか?
塩川氏:
しばらくはPC・コンソールがメインになりそうです。
Daigo氏:
自分は1周回って、モバイルに興味が沸いてるんです。みんなモバイルから離脱しまくってるから隙間が空いているし、うちの会社の懐事情としてもまだモバイルが多いんですよ。だから、そろそろ燃料を入れないとなって。
うちの場合、日本でPCだけだと食っていけないと思っているので、うちがやれることは愚直に全世界に向けてオールプラットフォームで出すだけ。それでもギリギリだし、インディーで成功するのって難しいなと思います。いつの時代もそうだとは思いますけど、これから参入する人は大変だよなあ……と思います。
そういえば、塩川さんが本を書いているのって、教育とか後進育成みたいなお考えがあるということですか?
塩川氏:
アメリカに出向していた時期があるのですが、使わないと身につかないので、最初は英語の勉強がてら……という感じでしたが、最終的には自分の経験を業界に還元しないと、という気持ちが大きくなっていましたね。CEDECで講演したりするのも、そういう意味合いです。
当時、私は日本でもゲームを作っていて、スクエニという大きな会社でディレクターをやったり、海外でもディレクターをやったり、規模を問わずにいろいろなことをやらせていただいて。上から目線に感じるかもしれないですが、それでも実際にこういう経験がある人は日本のゲーム業界の中には少ないと思うんです。
Daigo氏:
そんな人が悪者扱いされるのはひどい話ですね(笑)。ちなみに塩川さんが監訳した本の著者の教授が、私がアメリカで勉強していたときの教授だったんですよ。「お、塩川さんじゃん」って。
塩川氏:
そんな縁があったとは……。ありがとうございます(笑)。
執筆はお金にならないですしね。時給に換算したら、30円とか50円くらいです(笑)。ですから、ある種ライフワーク的にやってる感じです。
Daigo氏:
でも、その翻訳や講演の時間ってアウトプットにならなくないですか?
塩川氏:
私も最初はそう思ったんですけど、じつはかなりの気づきがありました。自分が持っているノウハウを言葉にして、可視化して人に喋ることで、改めて見直しが入る。
Daigo氏:
確かに自分もCEDECで登壇しましたけど、いい振り返りの機会になりましたね。登壇してみるとか、ブログで発信するというのが大事なのかな。自分のためにもなる。ノウハウをシェアすることをあんまり心配する必要はないとも思っています。知っても実際にやる人はほとんどいないでしょうし。
塩川氏:
自分でやった場数以上のものを知ることで、「他の人は何に苦戦してるんだろう」とか、どんどん知見がバージョンアップされていってる感じはしますね。
──そろそろお時間になるのですが、おふたりは今日お会いしていかがでしたでしょうか?
塩川氏:
まずは本当にありがとうございました。インディーゲーム開発者としても、独立したゲーム会社の社長としても、先輩としていろいろ教えていただき、感謝しかないです。
Daigo氏:
スクエニでは塩川さんのほうが先輩だったのに(笑)。
最後にお会いしてから10年ぶりとなりますが、今日は塩川さんと再びお会いできてうれしかったです。これは得難い縁だなと思います。今日こうして塩川さんと対談していること自体がラッキーだし、こういう場で深く話せるのもすごくラッキー。いきなりプライベートで「3時間話そうぜ!」と言われても「うん」と即答するっていうのはなかなかないですし。今日はすごくいい機会だったなと思いますね。
塩川氏:
お会いしたのは10年ぶりくらいですけど、Daigoさんのご活躍は日頃から拝見していたので。今日はお話ができて、Daigoさんが長年に渡って最前線で戦えている理由を学ばせていただきました。頑張っていいゲームを作っていきたいと思います。
Daigo氏:
こちらこそありがとうございました。『つるぎ姫』のリリースを楽しみにしています!(了)
「自分の作りたいゲームを作って生きていく」。
その言葉の美しさの裏には、ひどく泥臭く、現実的な、あらゆる苦難がうごめいている。そんな感想を抱かざるを得ない対談だったと思う。
自由にゲームを作るには、まずお金で時間を買わなければならない。しかし、お金がありすぎてもいけない。豊かさがクリエティビティを眩ますからだ。
仮に自由を手に入れたとしても、その代償としての社長業がつきまとう。経費精算、銀行振込、契約締結。独立し続けるために必要な事務作業は、リソースを確実に蝕み、ゲームのクオリティにさえ影響する。
こうして書き並べてみると、改めて、インディーゲーム作りは「茨の道」だと思わざるを得ない。Daigo氏が語るように、やはり「狂気」や「ハングリーさ」、「クリエイターとしての強さ」がなければ、やっていくのは難しいだろう。
しかし一方で、対談で交わされる言葉の端々から、彼らふたりがその資質を確実に持っており、そしてその人生を賭けるに値する想いをもってゲーム作りに挑んでいることも、間違いなく伝わったのではないかと思う。
ふたりは今後、どのようなゲームを世に送り出していくのか。その作品たちはどのように受け入れられ、人々の記憶となっていくのだろう。彼らのさらなる躍進から目が離せない。