いま読まれている記事

元パチプロ、ボロ負けした結果ゲームクリエイターになり、左半身が動かなくなる重病を乗り越えてインディーゲームを作る。『ちびロボ!』『城ドラ』を手がけた森山尋氏の波乱万丈すぎる半生を聞いてみた

article-thumbnail-240618b

1

2

3

4

5

「宣伝費ゼロなのに、無料ランキング8位まで行けちゃいました」

──その『モンスタークリエイト』は今のところ、小学生のユーザーには届いていたりするのでしょうか。まだ、これからといった状況なのでしょうか。

森山氏:
ボチボチ届き始めていますね。やっぱり、子どもって上のきょうだいが遊んでいるものを遊ぶ傾向があって、『城とドラゴン』はまさにそうだったんです。最初は高校生から始まって、そこから中学生へ伝わり、小学生に行き着く感じですね。それでクラス内で流行ることが起きれば申し分ない感じです。

あと、一緒に遊ぶ点においては『城とドラゴン』よりも効果が高いと感じているんです。長年組んできた仕事仲間がいるんですが、彼の5歳くらいの娘さんが面白くてハマっているらしいんです。それで、彼自身は娘が作ったキャラクターで遊んでいるようで、ある日に「娘が作ったキャラでシルバークラスまで上がりました!」なんてLINEが来たんですよ(笑)。

一同:
(笑)。

森山氏:
彼はふだんからすごくゲームをするタイプの人間ではないんですが、それでもやっぱり、娘が作ったキャラクターが愛おしいんでしょうね。それは本当、狙い通りと言いますか、IPのキャラクターでは難しい、値段に変えられない体験だろうなと思っています。まさにプライスレスですね。

──確かにお話を聞いているとこのゲームは、小学生や幼稚園の年齢層にウケる気がします。私が子どもの頃もそうだったんですけど、子どもってタダで遊べるものへの情熱がものすごいじゃないですか。私もひたすらに無料の体験版みたいなものを遊び倒した思い出がありますので……(笑)。

森山氏:
完全無課金だと1年は遊べると思いますね。急ぎたい人は課金して早く辞めてしまってもいいんです。ただ、無課金なら本当にゆっくり遊べると思います。

実際にX(Twitter)でも「無課金だけど、全然面白い」とか、「今後も無課金で楽しもう」と進捗のスピード感も含めて満足されている方が多いんですね。僕としても「無課金で遊べる」と言われるのは逆に嬉しいです。ゾクゾクしちゃいます(笑)。

──「無課金でも全然遊べる」というのは、大きなアピールポイントにもなるんじゃないでしょうか。

森山氏:
そう思いますね。たまたまスタジオジブリが『君たちはどう生きるか』で広告なしみたいなことをしましたけど、我々も「宣伝費ゼロなのに無料ランキング8位まで行けました」というのが宣伝になるんですね。別に僕らはスタジオジブリをマネたわけではないんですが、宣伝費をかけていないのに盛り上がっている、その現象自体が宣伝になっちゃうんです。

──確かにそれだけでインパクトがあると言いますか、「どうして!?」「どんな作品なんだ?」って関心も集まりやすいですね。

森山氏:
はい。ただ、まだ届いていない所もあるんです。僕のゲームを遊んでいた知り合いの子どもに「僕のゲームがもうすぐ出るんだよ」って言ったら、「え、森山さんのゲーム、出るの!?やりたい!」って反応したんです。

そういう反応が出るのは、まだ知られていないから、プロモーションが行き届いていないからなんです。だから、口コミで火が少しでも付けば、もっと広まる可能性があるというか。まだまだ、開拓の余地はあるイメージですね。

『モンスタークリエイト』森山尋氏インタビュー:パチプロ出身ゲームクリエイターの波乱万丈すぎる半生に迫る_010

──実際、インディーゲームって小学生くらいの子どもに向けたものがほとんどないんですよね。Steamになると、パソコンを持っていないとなってしまうので、結果的に若くてもハイティーン狙いになってしまう。インディーゲームで小学生をターゲットにしていて、なおかつ無料でたっぷり遊べるものというのは本当に珍しいかもしれません。

森山氏:
『機兵とドラゴン』でご一緒した安藤さん【※】に昔、「子どもを狙って採れるクリエイターって割と少ないんですよ」って言われたことがあったんですね。僕は別に子どもを狙っている訳ではないんですが、確かに子ども受けはすごくいいんですよね。

それは元々、『ちびロボ!』などをやっていたこともあるのかもしれません。まあ、僕自身が子どもみたいなもので(笑)。僕が面白いと思うものと、子どもが面白いと思うことが近いのかもしれません。

※安藤武博(あんどう たけひろ):エニックス時代に『鈴木爆発』『ヘビーメタルサンダー』、スクウェア・エニックス時代に『ケイオスリングス』シリーズ、『拡散性ミリオンアーサー』などを手がけたプロデューサー。2024年現在、株式会社シシララ代表取締役社長。2019年からは株式会社DONUTS執行役員兼ゲーム事業部長も務めている。

それにしても、この2024年3月、4月ってものすごい数の大作ゲームが出たじゃないですか。そんな中でよく『モンスタークリエイト』がウケてくれたな、と思いますよ。もしかしたら、話題にしてくれるユーザーさんの中には僕自身のファンの方もいらっしゃるのかもしれませんが、本当にありがたい限りですね。

「ユーザーが遊びながらデータを作ってくれる」のもオンラインならではの強み

──今回の『モンスタークリエイト』や『機兵とドラゴン』もですが、森山さんのゲームってオンラインの要素が結構、ゲームデザイン的に重要な位置付けとされている印象があるのですが、実際、オンラインにはこだわりがあるんでしょうか。

森山氏:
そうですね。小さい会社にとって、オンラインはアイディアで勝負できる唯一のテーマだと思っているんです。特に爆発的に色んな人にゲームの面白さを届けるのに当たって、オンラインは上手く作れば物量が要らないんですよ。

──物量が要らない……?

森山氏:
何故かと言いますと、ユーザーの敵はユーザーだからです。色んなユーザーが生まれるのは、色んなキャラクターが生まれることと同じなんですね。さらにストーリーもこちらが用意したものではなく、ユーザーのみんなが次の分からないストーリーを紡いでくれる。協力すれば戦友になりますし、何度も戦いになれば自然にライバルになったりしますよね。

『城とドラゴン』で、ずっと組んでいる味方や何年も争っているライバルがいることなんて、本当にこちらが用意しない物語そのものなんですね。

今の時代、小さな会社で長編のRPGを作ろうとすれば、それこそトリプルAみたいな予算がかかってしまう。けど、オンラインなら少ない予算で、ユーザーごとに様々な物語を生み出すことができる。それこそが通信を使った遊びだと僕は思うんですね。

──その考え方には言われてみれば、となりますね……。

森山氏:
『モンスタークリエイト』も僕らが用意しているモンスターは少ないんです。これが大企業なら何千体も用意できますけど、僕らは数十体ぐらいになる。ですけど、オンラインであればユーザーさんが何千体も作ってくれるじゃないですか。結果として、本当に想像を絶する量のキャラクターが今、生まれているんですけど、これがオンラインのすごさだと思うんですね。

──過去に手がけられた『いきものづくりクリエイトーイ』でも、そうした現象は見られましたね。

森山氏:
『クリエイトーイ』も本当はオンラインがやりたかったんです。ただ、ニンテンドー3DSでのオンラインは難しく、すれちがい通信を使った遊びしか入れられなかったんです。今回の『モンスタークリエイト』はオンラインなんで、本当にログインするたびに色んなキャラクターが歩いてくるんですね。なので、「これ、ログインするだけでも楽しいじゃん!」って思っていて。そういうユニークなゲームが作れたとの手応えがありますね。

──なるほど……。しかし、私自身、これまでにいろんなクリエイターさんとお会いしてきて思うのが、内側から作りたいものが出てくる人ってすごく稀有だなって思うんですよ。世間で流行っているからと、外側から作ってしまいがちと言いますか。森山さんは内側から作りたいものを考えられるのを自然にやっているのが本当にすごくて、珍しいなと感じます。

森山氏:
ゲーム作りって膨大な時間とエネルギーを使うじゃないですか。漫画家さんほどではないかもしれませんけど、ディレクターやゲームデザイナーとして、同じくらいエネルギーを使って作品に向き合おうと意識しているんです。そうなると、真似するのって人生全体で見てもったいなくないか、って思うんですよ。

だから影響を受けすぎたり、真似をしすぎるとせっかくのエネルギーと人生が無駄になってしまうような気がしていて……。まあ、僕自身も当然、これまでに遊んだことのあるゲームに影響を受けている面はあると思いますけどね。ただ、それでも挑戦がしたいんです。

人生、何本のゲームを作れるか分からないじゃないですか。いつ死ぬかもわからないですし。だから、真似している暇がないんです。

──もっと「面白い!」と言ってもらえるもの、遊びにこだわりたいということなのですね。

森山氏:
昔で言えば『ドンキーコング』にはジャンプとハンマーがあって、それらをボタンとレバーという決まった操作系の上でどう活かすか、と。レバーの上入力はハシゴを登ることに使いましたから、ジャンプを当てることはできない。それで結果としてはボタンにジャンプが当てられ、ハンマーは全自動になるんですね。

まさにそれは任天堂イズムですけど、そういった制限がある中で「どうやって何回も遊んで楽しめるものを作れるか」を考えるのが僕としては楽しいと思えるんです。

僕はどちらかというと『ゲーム&ウオッチ』が身近だった世代なので、ゲームはもっと身近にあるものというイメージなんです。ただ単純に遊びを作っている。今もそうですが、おもちゃを作っている感覚なんですね。

──ただ、『デモンズソウル』の宮崎英高さん、『メタルギア』の小島秀夫さんもですけど、根っ子の部分は“遊び”を作れるゲームデザイナーだなって思うんですよ。森山さんのゲームもおそらく、同じ考え方や捉え方で作られている気がします。

森山氏:
まあ、基本的に楽をしたいんですよ。『モンスタークリエイト』を例に出すなら、ユーザーに楽しみながらモンスターを作ってもらう。要はユーザーにデータを作ってもらう感じなんですね(笑)。

──ああ……「ユーザーにデータを作ってもらう」は確かに通じるものを感じます。

森山氏:
こちらが用意しなくてもユーザーが面白いことをいっぱい用意してくれる訳ですから。それを活かさない手はないだろう、と。

あと、僕の理想は少人数でバンドみたいにゲーム作りをすることなんです。僕はあまり細かい仕様書を書かないんですね。基本的に口頭で話したり、感覚的なスタイルでやり取りするので、組むメンバーが違えば作れるゲームも変わってくると思うんですよ。そういった仲間たちのアイディアや力を引き出すのが、ディレクターの大事な仕事だと思っています。

なので、作ったゲームが僕の才能によるものとは全然思っていなくて。きっかけのアイディアは僕ですけど、多くのアイディアは仲間たちのおかげなんですね。それを代表する立場、方向性を決める人間として僕がいる感じなんです。

今は少人数のメンバーでやっているんで、自分としてもすごく楽しいし、このやり方が合っているなと思いますね。まあ、どんなものができ上がるのか分からない面もあるんですけど、最終的には着地させる自信がありますので。

「面白い!」って信念とイメージを人に一生懸命伝え、その人を作る気にさせるのは上手い方なんです。そうすると、少人数の方がやりやすいんですね。

『モンスタークリエイト』森山尋氏インタビュー:パチプロ出身ゲームクリエイターの波乱万丈すぎる半生に迫る_011

1

2

3

4

5

編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ