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元パチプロ、ボロ負けした結果ゲームクリエイターになり、左半身が動かなくなる重病を乗り越えてインディーゲームを作る。『ちびロボ!』『城ドラ』を手がけた森山尋氏の波乱万丈すぎる半生を聞いてみた

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『機兵とドラゴン』と『モンスタークリエイト』、同時並行で開発した理由は「2本作っているのが一番ちょうどいいから」!?

──ちなみに『モンスタークリエイト』と同じタイミングで、もうひとつの新作である『機兵とドラゴン』も配信されましたが、この『機兵とドラゴン』はPICTOYの仕事ではないんですか?

森山氏:
はい。アソビズムを退職した後、体調が少し復活し始めた時に個人としても活動したい思いがあったんです。PICTOYではできない仕事をしてみたかったんですね。先ほど言いましたが、僕自身、死にかけていたじゃないですか。ですから「死ぬまでにしておきたいことはやっておこう」と思って、やりたいことを書き出したんです。その上の方に「安藤さんとゲームを作る」があったんですね。

安藤さんとは小さい仕事をふたりで一緒にできればと思っていたんですが、たまたま電話をかけたとき、DONUTSの役員になられたんですよ。それで「DONUTSで作りませんか?」と言われたんです。

──それで安藤さんに『機兵とドラゴン』のアイディアを伝える流れになったわけですね。

森山氏:
はい。ただ『機兵とドラゴン』のアイディアというのは、小さく作ることも大きく作ることもできるものだったんです。規模とかは全然考えていませんでしたし、作る会社もどこでも良かったんですね。

それで安藤さんにアイディアを話しましたら、「メッチャ面白い!」と言ってくれまして、DONUTSの開発トップの方を連れてきてくれました。その方は、元々セガで『ハングオン』『バーチャストライカー』などを作られた重鎮だったんですね。僕も遊んでいたゲームを作られた御方で、その人がディレクターを務め、僕が原案という座組みで最初は始まったんです。

結局、そのコンビはダメになるんですけど(笑)。

──なぜそのようなことに……?

森山氏:
僕は任天堂さんと仕事をしてきたことから、そのやり方が身についていたんですけど、それとその方の持つセガのやり方があまりにも違い過ぎて、水と油だったんですよ(笑)。それで最終的には「お互い、これは止めた方がいい……」となって解消となりました。

ただ、その方は今も尊敬していますし、その後も色々と手伝っていただきました。

──しかし、外部の方と作るのって、お互いの性格とか相性を全然知らないですから、ゲームを作っていくのが相当難しいのではないんでしょうか。特にニュアンスみたいなところをいかに伝えるかで苦労するという話はかなり耳にしていて。

森山氏:
いや、それは本当に大変でした!しかも今回、コロナ禍のこともあって、リモートでのスタートになりましたから余計に大変でしたね。初めての方々とやるだけでも大変なのに、加えてリモートですから相手の表情が分かりにくく、さらに経歴や性格も分かりませんから。

でも、DONUTSさんの『機兵とドラゴン』のチームは「森山作品を作る!」との思いで取り組んでいただきました。それは安藤さんが粘り強く言い続けてくれたことと、中心メンバーと現場の方々が頑張ってくれたおかげで、本当に感謝の限りです。

『モンスタークリエイト』森山尋氏インタビュー:パチプロ出身ゲームクリエイターの波乱万丈すぎる半生に迫る_012

──それにしても、『モンスタークリエイト』も『機兵とドラゴン』も両方ディレクターをされているんですよね。実際、並行して作っていたんですか。

森山氏:
そうですね。元々、2本同時はアソビズム時代にもやっていたんで、違和感がないんです。僕は2本ぐらいやっているのが一番ちょうどいいと思っているんですよ。

──え!?

森山氏:
僕ぐらいの規模のゲームだと、作っていてやりたいことが増えることがあるんです。それで2本やっていれば、片方では使えないけど「もう片方では使えそうだから使っちゃえ」ってことができる(笑)。

実際、『ドラゴンポーカー』と『城とドラゴン』も同時に作っていたんですよ。あと『ドラゴンリーグ』と『クリエイトーイ』も並行していましたね。

──な、なんと……。「2本ぐらい作るのがちょうどいい」って言うのは、初めて聞く概念です(笑)。

森山氏:
2本はいいですよ~(笑)。作っていて思いついても使えないアイディアって大抵、封印するじゃないですか。2本並行なら、それを封印せずに使えますから。それがすごく効率的なんですよ。僕自身、効率的なのは大好きなんで。

中には今やらなきゃ意味がない類のアイディアもありますから、捨てるか使うかだったら2本走らせた方がいい。僕はそうやって2本やっているのがバランス的にはいいんです。実際、今までにもそのやり方でいいものが作れているんですね。

──でも、普通は同じディレクターが作った作品でも配信の時期をズラしたりするじゃないですか。だから『モンスタークリエイト』と『機兵とドラゴン』が一緒に出るのは結構、イレギュラーだなと思うんですよね。

森山氏:
まあ、本当にたまたまなんですよ。お互い時間がかかってしまったのもあって。僕自身はポジティブに考えているんですけどね。『モンスタークリエイト』が注目されつつある中で、『機兵とドラゴン』にも同じくらい注目いただけたら、ひとつだけでは難しいパワーを貰える可能性がありますから。

あと、今のアソビズムのトップとも仲は悪くないんで、「一緒に盛り上げない?」って話もしているんです。『城とドラゴン』単体だとなかなか話題にならないし、メディアにも取り上げてもらえないでしょうから。そうしないと今、中国などから出てくるとんでもないゲームに太刀打ちできませんから、色々話し合っているところですね。

いつかは自分たちの力で世界中の人に「面白い!」と言わせたい

──『モンスタークリエイト』と『機兵とドラゴン』を含め、本当に色んなゲームを作りながら様々な紆余曲折や病気も経験され、現在に至っていると思うのですが、今後、森山さん自身はゲーム作りにどう向き合っていきたいのか、そして何を目指したいのかをお聞きできればと思います。

森山氏:
まあ、元々僕は映画が好きで、当然のようにスピルバーグ作品を観ながら育ってきた世代ですので、アメリカに対しての思いが強いんですね。昔から、アメリカ人に自分のゲームを面白いと言ってもらいたい気持ちがすごくあるんです。

──過去に作られたゲームで、アメリカの方で好評を博したタイトルはあったんですか?

森山氏:
任天堂さんと一緒に作った、『咲かせて!ちびロボ!』という、公園でお花を咲かせるゲームをアメリカのウォルマートが採用してくれたことがありました。ちょうど、発売した頃にウォルマートが植林事業キャンペーンをやっていまして、そのキャラクターにちびロボを選んでくれたんです。それで少し売れた、ということがありました。

ただ、自分のブランドで出して売れたことはないんですね。やっぱりアメリカはエンターテインメントの本場で宣伝も大変ですから、遊んでもらうのが本当に難しいと思うんです。けど、世界の人たちに遊んでもらえて、記憶に残るゲームをどうにか作りたいです。

それが『モンスタークリエイト』になるのか、次の作品なのかは分かりませんが、それが今後、一番やりたいことですね。人様の力を借りる選択肢もあるとは思うんですが、なんとか自分たちの力でそれを成し遂げてみたいです。

──森山さん個人の活動としては今後、どうされていきたいですか?

森山氏:
死ぬ前に作りたいオリジナルの企画が何個かありますので、やらせてもらえる環境があるならぜひ、やりたいですね。ありがたいことに、こんな時代でもオリジナルを作らせてくれる会社がまだいくつかありまして。そのチャンスがある限りはやっていきたいです。

──それはやはり、スマートフォンのゲームになるんでしょうか。

森山氏:
いや、それはもう組む会社によって変わってくると思います。Steamにも挑戦してみたいですし、家庭用ゲーム機に帰還してみたいという思いもあります。あまりプラットフォームは一緒にしたくないですね。

『モンスタークリエイト』はスマートフォンに賭けていましたので、他は考えられなかったんですけど。ただ今後、『モンスタークリエイト』が他のプラットフォームに移植されていくみたいなことはあるかもしれません。個人としての活動は幅広くやりたいですね。イメージとしてはサザンオールスターズの桑田佳祐みたいな感じです(笑)。

──そのようにPICTOYの活動と線引きされているのはちょっと興味深いですね。

森山氏:
実際、僕の個人活動にはPICOTYのメンバーは一切関わっていないんですよ。

──時間配分的にはどういう感じなんですか?

森山氏:
PICOTYの活動の方が多いですね。時期にもよりますけど、多くても外が半分以上になったりはしないです。PICOTYの中が6割、外が4割が最大みたいな感じですね。本当に外は週に行けても1回か、多くて2回ぐらいな感じです。

ただまあ、本当にチャンスがある限り、個人としては色々やっていきたいですね。あと、個人で仕事をする時は必ず若い人をつけてもらいたいことを言っているんです。僕のゲームの作り方を少しでも参考にしてもらいたいと思っているんですね。ちょっと普通の人とは違うかもしれませんが、何か得られるものはあるんじゃないのかなと。

──そろそろお時間が迫ってきましたので最後となりますが、この記事を読まれた読者の方々に向けて、森山さんからメッセージをいただければと思います。

森山氏:
そういうのって実は苦手なんですよね……(笑)。まあ、本当にその場ごとにやりたいと思ったことをやって、ユーザーに「面白い!」と言ってもらえるゲームを作っている、シンプルな行動原理に基づいて動いているおじさんです。今回の『モンスタークリエイト』と『機兵とドラゴン』も、どちらかは刺さるのではとの思いがありますので、ぜひ1回遊んでいただければと思います。

本当にこの時代にこんなオリジナルのゲームを出すのも珍しいし、『機兵とドラゴン』についてはDONUTSのメンバーの熱意がすごくて、現場としても素晴らしかったんです。だから、こういう素晴らしい現場で作ったいいものが売れる時代で会って欲しいですし、そういう業界であって欲しいとの思いがあります。

あと、『機兵とドラゴン』は若いメンバー中心に作られたので、彼らに成功体験をさせてあげたい思いがあります。その意味でも僕だけの作品でもありませんから、ぜひ、『モンスタークリエイト』共々遊んでいただければと思います。よろしくお願いします。(了)

『モンスタークリエイト』森山尋氏インタビュー:パチプロ出身ゲームクリエイターの波乱万丈すぎる半生に迫る_013


純粋に「面白い!」とユーザーが言ってくれることを目標にゲームを作っている。そして、そんな面白さをひとりでも多くの人に味わってもらいたいからこそ、基本無料にこだわり、課金することも押し付けないようにしている。

取材を通して見えてきたのは、本当にゲームとしての面白さ、おもちゃを遊ぶことに近い純粋な喜びに近い感情を大事にしているゲームデザイナーとしての姿だった。そのような思いが結果として子どもたちの心をつかみ、ソーシャルゲームとしては比較的珍しい、若年層からの強い支持を得ているのも興味深い。かつて『ちびロボ!』などで、任天堂との仕事を長く経験されたことも大きいのかもしれないが、これほど若年層、特に小学生のユーザーからの支持が強いゲームを作られているクリエイターも、今の時代では稀少であるように思う。

事実、ソーシャルゲームもさることながら、インディーゲームには小学生辺りの年齢層をターゲットにした作品は少ない。どちらかというと、もう少し上の世代を狙ったタイトルが大半を占め、いわゆる任天堂の『マリオ』シリーズに代表される年齢層関係なく、気負わず手を伸ばせるゲームはなかなか見られない。

そうした現状もまた、森山氏の手がけるゲームの強い支持に繋がっていると同時に、現在、玉石混交で二極化の傾向が見られるインディーゲームやソーシャルゲーム世界における、新たな可能性を切り開く突破口が隠れているのではないだろうか。

直近の新作『モンスタークリエイト』と『機兵とドラゴン』においても、親しみやすい雰囲気と課金を押し付けられないなりの親しみやすさを前面に出している森山氏の作品。
今後、PICTOYと個人の活動において、どのような親しみやすく、ただ純粋に「面白い!」と言えるゲームを作られていくのか。将来的にはSteamへの挑戦、家庭用ゲーム機への帰還も考えられているという、森山氏の今後に期待するばかりだ。

……ただし、最後にこれだけは書いて伝えておきたい。

一度、病気で身体を崩され、今も後遺症がわずかに残されているとのことです。くれぐれも無理はしないよう、ご自愛ください。PICTOYの他のメンバーの方々も一日3食、しっかり食べて睡眠を取るよう心がけてください……。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999

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