「真島ヒロ」と言えば、『RAVE』『FAIRY TAIL』『EDENS ZERO』など数々のヒット作を生み出している人気漫画家だ。同時に「大のゲーム好き」としてもその名を知られている。
漫画の週刊連載を続ける傍ら、1日2、3時間はゲームをプレイする生活を送る。好きなゲームの発売直後は1週間ほど仕事を休み、そのゲームにのめり込む。その時間を確保するために2、3ヵ月前から原稿を描き貯めておく。
ネットでまことしやかに噂される「『モンハン』を2000時間プレイしている」は事実であるし、Unity、Unreal Engine(UE)といったゲームエンジンの勉強にまで手を出しているそうだ。
……正直、ゲームへの愛と情熱がすごすぎる。
そんな真島ヒロ先生が、自腹で1000万(+講談社側からも500万円)を出して、『FAIRY TAIL』のオリジナルゲーム制作を支援する動きを見せた。およそ3年ほど前のことだ。
真島ヒロ先生
— 講談社ゲームクリエイターズラボ (@kodanshaGCL) November 6, 2021
まさかの自腹1000万円!
(+講談社から500万円)#FAIRYTALオリジナルゲームコンテスト
どんなジャンルでもOK!
企画書のみで応募可能!
応募期間は12/1〜1/17です
よろしくお願いします🔥#講談社ゲームクリエイターズラボ pic.twitter.com/4bx5uYMoy8
この取り組みは、「年間最大1000万円差し上げますから、好きなゲームを作りませんか?」をキャッチコピーに、インディゲームクリエイターを支援する講談社ゲームクリエイターズラボに、真島ヒロ先生が企画を持ち込んで実現したものだ。
発表当時は「原作者が自腹で1000万円を払う」という衝撃の情報も含めて大きな反響を巻き起こした。しかし、この半年後、事態は急転。本来は1作品だった大賞作品に3作品が選ばれたのだ。これにより、真島ヒロ先生の自腹額が1000万円から3倍の3000万円に増額となった。
【FAIRY TAILオリジナルゲームコンテスト】
— 講談社ゲームクリエイターズラボ (@kodanshaGCL) May 20, 2022
大賞作品発表
下記URLにて、大賞作品を発表しました。
1作品の予定だった大賞が3作品選ばれるという空前絶後の事態に❗️
なんと…増えた分も真島先生の自腹です…‼️https://t.co/0Gmsrlw2hq#FairyTail #フェアリーテイル#ゲームクリエイターズラボ
結果発表からおよそ2年、コンテストで大賞を受賞したゲームの発売が近づいてきた2024年6月某日、ありがたいことに電ファミニコゲーマーでは、再び真島ヒロ先生へインタビューする機会に恵まれた。
お話のなかでは、ゲーム制作に原作者としてどのように関わったのか、発売される3作品はどのようなゲームになっているのか。この2年間にわたる『FAIRY TAIL』のオリジナルゲーム制作の歩みについてお伺いすることができた。
さらには、週刊連載が落ち着いたことで、1日中ゲームをするようになったという、真島ヒロ先生の最近のゲーム事情についても話が波及。『Rise of the Ronin』や『バニーガーデン』など、相変わらずプレイしている量がすさまじく、驚きの連続であった。
※この記事は『FAIRY TAIL』オリジナルゲームをもっと知ってもらいたい講談社クリエイターズラボさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
なぜ、自腹で3000万円を出してまで『FAIRY TAIL』のオリジナルゲーム制作を支援したのか
──2021年11月に突如として発表された『FAIRY TAIL』のオリジナルゲーム制作コンテストですが、原作者である真島先生自身が制作支援金として1000万円を自腹で出すという驚きの情報で大きな反響が寄せられました。そして、2022年5月の結果発表では、本来は1作品の予定だった大賞作品が3作品になり、その結果として真島先生の自腹額も3倍に……。
真島ヒロ氏(以下、真島氏):
ありがたいことに今回のコンテストにはたくさんの応募をいただいて、選考していくなかでどうしても1本に絞り切れなくて……3作品の選出を決めました! 同時に自腹も3本分の3000万円になりましたが(笑)。
──いやいや、笑いごとで済ませられるレベルの金額じゃないですよ(笑)。単刀直入にお聞きしますが、なぜ3本に増やしたんですか?
真島氏:
僕自身が「『FAIRY TAIL』のゲームを1作品でも多く遊びたい!」と思っていること、そしてファンの人たちに『FAIRY TAIL』のゲームを届けたい気持ちが強かったのが大きな理由です。
──それでポンッと3000万円を制作支援金として出資されたと……。
真島氏:
そんなポンッというわけではないですよ(笑)。事前に税理士さんに相談しました。
僕としては、少しでもインディーゲームクリエイターの方々の支援になれるのなら嬉しいですし、おこがましいかもしれないですけど、『FAIRY TAIL』というIPを介して「(クリエイターの方が)より多くの人に知ってもらえるきっかけ」を作れたらいいなと思ったんです。
──そうお聞きしても、にわかには信じがたいです(笑)。
真島氏:
そんなことないですよ! ただのゲーム好きのおっさんですから(笑)。
僕は漫画が好きで漫画家になったんですから。ゲームが好きだからゲームを作りたくなるのも自然な流れだと思うんですよね。
──それでも傍から見るとそのゲームへの熱量はすごいなと思うわけです。真島先生のゲーム好きは有名で、以前インタビューでお話をお聞きした際にも「漫画家を始めた時もゲーム化が目標でした」「ゲーム化を見据えて(漫画の)設定を作っちゃいます」とおっしゃっていましたよね。
真島氏:
そうですね。ゲームは子どものころから大好きで、ゲームに育ててもらったと言っても過言ではないと思っています。ゲームがなかったら漫画家にもなっていなかったと思います。
「ゲーム化を見据えて」と言うと大げさなんですけど、自分の描いた漫画がゲーム化すればいいなと思いながら漫画を描いているところはあります。アニメ化よりもゲーム化したい気持ちのほうが大きいです。
なので、「このキャラクターがゲームでこう活躍してくれたらおもしろいだろうな」や「ゲームになったらこういうアイテムになるんだろうな」というのは考えながら、漫画を描いていますね。
──というと、たとえば「この能力は、この数値で……」というような、ゲーム的な数値をキャラクターを作るときに考えられているんでしょうか。
真島氏:
隠しパラメーターのようなものはあります。たまに単行本のおまけページで公開することもあるんですが、基本的には資料としては残さず、あくまで自分の頭の中にあるものですが。
──なるほど。ゲームを意識して漫画を描かれているとのことですが、逆にゲームで得た体験が漫画作りのアイデアに活かされることはあるんでしょうか?
真島氏:
年を重ねてから気づいたことではあるんですが、『ロマンシング サ・ガ』に登場する用語を漫画の中で無意識に使っていたみたいなんです。
『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』は被らないように意識して使わないようにしていました。でもふと振り返ってみたら、『ロマンシング サ・ガ』の用語はなぜか使っていて。きっと自分の頭の中に刷り込まれているんでしょうね(笑)。
──まさかの(笑)。やはり真島先生のゲームへの熱量はすごいなと。漫画作りと並行して、ご自身でゲームまで作られる漫画家さんというのは珍しいと思います。
真島氏:
いや、でも『DEAD OR SCHOOL』【※】という、制服を着た女の子がゾンビたちと戦うハック&スラッシュのアクションRPGがあって、あの作品を作られているのも漫画家さんじゃないですか。
イラストに惹かれて調べてみたところ、じつは同業者の方と知って、それがきっかけで「漫画家でもゲームは作れるんだ!」って思うようになったんですよ。
※『DEAD OR SCHOOL』:地下育ちの少女「ヒサコ」が、祖母より聞いた「学校」を夢見てゾンビによって制圧された東京を目指すハクスラ・アクションRPG。漫画家の木星在住氏を始めとする3人のチームによって作られたタイトルで、Nintendo Switch、PlayStation 4、PC(Steam)向けに発売中。(Nintendo Switch、PlayStation 4はパッケージ版あり)
週刊連載が落ち着いたこともあって、1日中ゲームをやっているようになった
──先ほど真島先生はご自身のことを「ただのゲーム好きのおっさん」とおっしゃっていましたが、週刊連載を抱えながら1日2、3時間はゲームを遊べるのは「ただのゲーム好きのおっさん」の域を超えてしまっていると思うんです。
2年前のインタビュー記事を掲載した際にも、読者から「どうやって時間を確保しているんだ!?」という反響がありました。あれから2年……最近の真島先生のゲーム事情について何か変化はありますか?
真島氏:
2年前よりもゲームで遊ぶ時間は増えました。
──えっ!?
真島氏:
最近、週刊連載にひと区切りがきましたので、毎日ゲームをしています。下手したら1日中遊んでいるときすらあります(笑)。
──さすがです(笑)。最近はどのようなタイトルをプレイされたんですか?
真島氏:
最近は『デイヴ・ザ・ダイバー』や、発売日からだいぶ時間が空いてしまったのですが『Inscryption』を遊んでいます。
それに、『Rise of the Ronin』に『ドラゴンズドグマ2』、『デジボク地球防衛軍2』、それから……『バニーガーデン』もプレイしました! あと、ずっと好きで続けているのは『オーバーウォッチ』と『ディアブロIV』です。
──おお……かなりプレイされていますし、押さえる所を押さえられていますね。『ディアブロIV』と言うと、何百時間もやり込むイメージがあるのですが、先生はどれぐらいやり込まれているんですか?
真島氏:
言うほどではないですよ。たまたま先ほどゲーム機を入れたときにプレイ時間を見ましたけど、300時間くらいでした。
──連載を持ちながら、それだけゲームをプレイしているというのが本当に信じられません。
真島氏:
まあ、今は週刊連載が終わりましたから、一定の余裕が生まれている感じではありますね。
──そういえば、前回のインタビューでは、UnityやUEといったゲームエンジンを勉強されているというのもお聞きしましたが、そちらの進捗は最近だとどうなのでしょうか。
真島氏:
それも最近、ちょっとではありますがイジっていますよ。ただ、やってみて「難しいな……」って痛感しています。Unreal Engineでアイテムを取得できるようになったり、カメラの使いかたを少し覚えたり、まだまだ初歩の初歩のレベルです。
実際にゲームエンジンに触れることで、ゲームを作られている方々がどれほどすごいのかあらためて実感しました。支援金を払って作ってもらったほうが楽だなと、思っております(笑)。
──ゲーム制作のなかで、これまで漫画を作り続けてきたなかにはなくて、新鮮に感じた体験はあったのでしょうか。
真島氏:
ゲーム制作でおもしろいと思ったのが、シナリオの前半を直せることです。漫画の週刊連載の場合、新しい話をどんどん作って掲載していくので、途中で「あ、そのときのこの設定を変えたい」と思っても、修正することは難しいんです。
ゲームの場合、1本のパッケージとして作って出す形なので、後半のシナリオを書いているときに前半部分を直したくなったら直せるんです。それがすごく楽しかったですし、週刊連載とは違う物語の作りかたで新鮮でした。最初に考えたものを後から調整できるのはメリットだと思います。
──それは週刊連載をしている漫画家らしい視点だと思います。逆に週刊連載の漫画って、毎週更新されることのライブ感が強みやおもしろさでもありますよね。
真島氏:
ええ、週刊連載は本当におもしろいと思う話を毎週毎週考えて描き続けなくちゃいけないんですよ。おもしろくない回があれば、すぐに連載が終わってしまいますから。
だから常におもしろい展開を考えていかないといけない辛さはありますし、逆にそれが楽しさでもあります。それはデメリットなのかもしませんが、人によってはメリットでもあり楽しく感じられることでもあります。
インディーゲームは「クリエイターの方の自由な発想が大事」
──今回の取り組みにおいて、選考後のゲーム制作段階では真島先生はどのような関わりかたをされたんですか?
真島氏:
キャラクターの造形や名称についての確認、オリジナル要素を入れたい際の相談など、監修になりますね。
ほかにも、開発途中のゲームを触らせてもらって、手触りや難易度について感想をお伝えしたことはあります。ただ、本当のことを言うと、こういうフィードバックを送ることもしたくはなかったんです。
──フィードバックを送りたくはなかった、というのは?
真島氏:
インディーゲームってクリエイターの方の自由な発想が大事だと思っていますので、外野が「こうしろ、ああしろ」というのは、その概念から外れちゃいますよね。自分の好きなものを作るというのがインディーズの魅力ですから。
けど、それと同時におもしろいゲームを作ってほしい思いもありますので、いちゲーム好きとして、いち原作者として、自分が感じたことを伝えました。
これは漫画もゲームも一緒だと思っていることなんですが、内々で作っていると「外からどう見えるのか」という視点をたまに忘れちゃうんですよね。
漫画でも、作家と編集の間で「これはめちゃくちゃおもしろい!」と思って作ったものが、いざ外に出してみるとウケが悪かった、というのはよくあることなんです。……というわけで、たまにちょっと余計なことを言ってしまってはいますね。
──それらのやりとりは、講談社のゲームクリエイターズラボの担当者を介して行われたのでしょうか。
真島氏:
はい。クリエイターさんからすれば原作者の僕には直接言いにくいこともあるでしょうし、僕としても意識せざるを得ません。ですので、担当者を挟んでワンクッション入れる形がいいのかなと。
講談社ゲームクリエイターズラボ担当(以下、ラボ担当):
クリエイターさんとのやりとりについては、私から補足させていただければと思います。
いま真島先生のお話にあったように、3作品それぞれのクリエイターの方々とは我々ゲームクリエイターズラボのメンバーが担当を介して、クリエイターさんからの相談や確認、真島先生からのフィードバックのやりとりを進めて参りました。
──大賞作品は3作品となりましたが、ゲームクリエイターズラボとしてはどのような体制でゲーム制作のサポートに臨んだのでしょう。
ラボ担当:
現場担当はふたりですね。そのふたりがペアとなって各クリエイターの方々とやりとりをしていく体制でした。
──担当がふたりというのにはなにか理由が?
ラボ担当:
「漫画家さんと編集者の関係を、ゲームクリエイターさんと編集者に移し替える」というのが、ゲームクリエイターズラボの基本コンセプトですので、それに習って担当者がふたりつく体制になっています。
編集部によって文化が違い、担当編集の人数も違います。うちの場合は少年漫画出身の人間が多いこともあり、おのずとその文化になっていったという背景があります。
──漫画作りの話になってしまうのですが、漫画家さんひとりに対して編集者がふたり担当につくことで何かメリットが生まれるのでしょうか。
ラボ担当:
視点が増えること、クローズドになりすぎないことがあります。たとえば、ひとりが熱が入りすぎてしまっても、もうひとりがいればより冷静な形で作品作りに携われる。そういう点が大きいかなと思います。