11月25日は『ダンガンロンパ』シリーズが生まれた日だ。
『ダンガンロンパ』は当時のスパイク(現スパイク・チュンソフト)が移植や版権モノ、続編モノを多く手掛けていたため、独自IPの創出を命題にしていたことから誕生したタイトルである。
シナリオライターの小高和剛氏が企画書を作成し、『侍道』などのプロデューサーとしても知られる寺澤善徳氏とのやり取りを経て洗練された本作の原型は、企画会議の最初のプレゼンで「キャラクターなどのセンスは良いが、セールスポイントがわかりづらい」「PSPのアドベンチャーは売れても4万本」といった意見により、ネガティブな評価で終わっていた。
そこからさらにブラッシュアップに取り組んだ小高氏は、本作のジャンルを「アドベンチャー」ではなく「ハイスピード推理アクション」へと大きく変更する。グラフィックやシステム、ストーリー展開を再構築して再度プレゼンに臨んだ小高氏と寺澤氏は、当時すでに「絶対売れる」という確信を持っていたが、結果は「グロい」「1~2万本しか売れないのではないか」とさんざんな評価であった。
しかしそこで小高氏や寺澤氏をはじめとしたスタッフの熱意が絶えることはなく、情熱で経営陣を説得し、最終的に製品版着手のGOサインを掴み取ることとなる。
このように『ダンガンロンパ』は、制作者の熱意によって支えられ生み出された、新たな挑戦のタイトルであった。本稿ではその軌跡を初代『ダンガンロンパ』から順に追っていきたい。
文/夏川77
「サイコポップ」をテーマに生まれ、アニメ化にまでいたった『ダンガンロンパ』
第1作の『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』は2010年11月25日に、PlayStation Portable(以下、PSP)向けに発売された。
ストーリーは、「超高校級」と呼ばれる非常に高い能力を有した生徒しか入学が許されず、「卒業すれば人生の成功が約束される」と言われる私立希望ヶ峰学園に、抽選で「超高校級の幸運」として選ばれた主人公・苗木誠が入学したところから始まる。
そこで体育館に集められた同級生たちは、謎のキャラクター・モノクマに「卒業するためには仲間を殺すこと」という過酷な校則を告げられ、閉鎖された校舎での「コロシアイ学園生活」を課されることになる。
ゲームの流れは各章で発生した殺人事件を「学級裁判」で解決し、「クロ」(犯人)を突き止め、自身の生存を目指しながら、なぜ自分たちが異常な「コロシアイ学園生活」を強いられなければならないのか、という真相に迫っていく内容となっている。
本作は(非)日常パートと学級裁判パートでゲーム性が大きく異なる。(非)日常パートは仲間たちとの会話や調査による情報収集がメインで、アドベンチャー要素が強い。
一方の学級裁判パートは、「ノンストップ議論」で事件に対するさまざまな主張がくり広げられる中で、装填している言弾(コトダマ)で矛盾した主張を撃ち抜くアクションゲームとなっている。他にも「閃きアナグラム」「マシンガントークバトル」など、瞬発力と推理力を同時に活かさなければならないアクションゲーム要素が、随所で裁判のスピード感と緊張感を盛り上げている。
本作は「サイコポップ」をテーマにしている。『ダンガンロンパ』はアニメやライトノベルのような要素を、メフィスト系のような新本格ミステリジャンルに合わせたものがイメージされていたのだが、当時の小高和剛氏の周囲では「メフィスト系」や「新本格」といった言葉が認知されていないという状況があった。そこで本作を表すテーマであり、「アクが強い推理モノ」を端的に指す言葉として「サイコポップ」が生み出された。
『ダンガンロンパ』シリーズのキャラクターは、印象的なデザインもさることながら、それぞれの「超高校級」の能力と相まって、どのキャラクターにもアクが強い魅力がある点が大きな特徴だ。
声優陣も非常に豪華で、特にモノクマの声優を『ドラえもん』でドラえもん役を演じていた大山のぶ代氏が担当したことは大きな話題を呼んだ。ドラえもんとイメージが重なるボイスで「ワックワクのドッキドキだよね」とポップに言い放ちながら、直後に凄惨で絶望的な状況を突きつけるモノクマのキャラクターは、「アクが強い」という表現では到底足りない強烈さである。
『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』の初週売上は約3万本で、大きな数字とはならなかったが、口コミの評価が高く、ファンの中には『デュラララ!!』シリーズなどで知られる小説家の成田良悟氏などもおり、2011年9月には売上10万本を達成している。
2013年には『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 The Animation』として全13話のテレビアニメが放映された。原作ゲームに忠実なアニメ化となっているが、話数に限りがあるため、一部のエピソードが削除されて再構成がされている。
議論の展開が多彩になり、おまけ要素も充実した『スーパーダンガンロンパ2』
シリーズ2作目の『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』は2012年7月26日、PSP用ソフトとして発売された。
シナリオディレクターの小高和剛氏の中では、前作を発売した時点で続編の構想はなく、「2は作れねえ」とプロデューサーの寺澤善徳氏に言っていたという。しかしファンの期待の高まりを受け、前作の発売から約半年後に続編制作が開始された。
本作はテーマが「サイコトロピカル」となっている。ストーリーは主人公・日向創が私立希望ヶ峰学園に入学したところから始まる。入学式の日、実はリゾート地の「ジャバウォック島」に連れてこられていたことが判明した新入生たちは、島に閉じ込められていること、島から脱出するためには仲間を殺さなければならないことを学園長から告げられる。こうして「コロシアイ修学旅行」が幕を開けるのであった。
ゲームの流れは前作同様、章ごとに事件が起きる構成になっており、非日常パートで殺人事件を捜査し、学級裁判で事件の全容を解明して、「クロ」を正しく指名することを目指すものとなっている。
学級裁判でのアクションパートも健在で、「ノンストップ議論」で論破をする点も前作と同様だが、本作では使用する言弾(コトダマ)によっては仲間の主張に「同意」をすることが可能になった。このため、矛盾に反論することがベースだった前作とは異なる議論の展開を楽しむことができる。
本作の学級裁判は新たに追加されたアクション要素がいくつかあり、言刃(コトノハ)でお互いの主張を斬り結ぶ「反論ショーダウン」、パズルゲームへと変化した「閃きアナグラム(改)」や、レースゲームのように画面奥へ進んでいく「ロジカルダイブ」、前作の「マシンガントークバトル」からアクション要素が強化された「パニックトークアクション」などがある。
そして本作でも、登場キャラクターたちはそれぞれ個性的で魅力的だ。声優陣が豪華な点も前作に引けを取っておらず、本作のマスコットキャラクターである「モノミ」の声優は、『サザエさん』でタラちゃん(フグ田タラオ)などを演じている貴家堂子氏である。
さらに本作は、本編クリア後に解放される「おまけモード」が充実している。一例として、仲間たちと修学旅行を楽しむ『だんがんアイランド どきどき修学旅行で大パニック?』(アイランドモード)では、アドベンチャーとシミュレーションゲームを遊ぶことができる。
そのほかにもモノミを操作して敵を蹴散らすアクションゲーム『魔法少女ミラクル☆モノミ』や、『バッカーノ!』や『デュラララ!!』などの小説で知られる成田良悟氏が書き下ろしたIFストーリーも体験することが可能だ。
『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』(以下、『1』)と『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』(以下、『2』)を1本のソフトに収録し、グラフィックを高解像度化した『ダンガンロンパ1・2 Reload』が2013年10月10日にPS Vita向けに発売された。2017年4月にPS4版が発売され、同年7月にDMM GAMESでPC版も配信されている(対応OSはWindows7)。
本作では新要素として『1』におまけモードが追加され、『2』のアイランドモードに近い内容の『スクールモード』が追加されている。また、すでに配信が終了している『1』の体験版が収録されているのもファンには嬉しい追加要素だ。
現在Steam、iOS、Android、Xbox Game Passで配信されている『1』は、『ダンガンロンパ1・2 Reload』に収録されている『1』を単品販売するものとなっている。
2014年9月25日、PS Vita向けに『絶対絶望少女 ダンガンロンパ Another Episode』が発売された。2017年6月にPS4、Steam版も発売している。
本作のプレイアブルキャラクターは『1』の主人公の妹・苗木こまると、『1』に登場した「超高校級の文学少女」の腐川冬子。
テーマは「サイコポップホラー」で、時系列として『1』と『2』の間に位置する外伝的作品となっている。ジャンルは「コトダマアクション」という3人称視点のシューティングゲームとなり、拡声器型ハッキング銃に弾丸となる「コトダマ」をセットして戦う。
本作ではストーリーの合間に、アニメーションのイベントムービーが挿入されている。制作は『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 The Animation』を担当した岸誠二監督と株式会社スタジオ雲雀の「ラルケ」だ。
「希望ヶ峰学園」の物語を完結へ導いた『ダンガンロンパ3』と新たな舞台を用意した『ニューダンガンロンパV3』
続く『ダンガンロンパ』シリーズの3作目は、アニメとゲームでそれぞれ展開し、全く異なる内容となっている。
アニメは『ダンガンロンパ3 -The End of 希望ヶ峰学園-』のタイトルで2016年7月から9月に放映され、ゲームは『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』で2017年1月に発売された。
テレビアニメ『ダンガンロンパ3 -The End of 希望ヶ峰学園-』は、『1』『2』『絶対絶望少女』と世界設定を共有する、希望ヶ峰学園の物語の完結編となっている。
本作は1クールのシリーズ作品を同時期に2シリーズ放映することで、全24話の物語を1クールで完結させるという前代未聞の形式を取っていた。
具体的には『ダンガンロンパ3 -The End of 希望ヶ峰学園- 未来編』(以下、『未来編』)が毎週月曜日、『ダンガンロンパ3 -The End of 希望ヶ峰学園- 絶望編』(以下、『絶望編』)が毎週木曜日に放映され、同じ週に別枠で放映されている2作品を交互に見ることが想定されていた。
時系列として『未来編』は『2』の後、『絶望編』は『1』の前日譚という、全く異なる時間軸を扱う物語なのだが、『ダンガンロンパ3 -The End of 希望ヶ峰学園-』という1作品として交互に見ることが推奨されているため、各話にはそれぞれ『未来編』『絶望編』としての独自の話数とは別に、シリーズとしての「総話数」が割り振られている(例を挙げると絶望編の1話がシリーズ総話数では2話となっており、未来編の2話はシリーズ総話数で3話となっている)。
このような非常に珍しい構成で放映されたことにはもちろん意図があり、異なる時間軸の話を「同時進行で楽しむ」ことを前提とした仕掛けが施されている。
また、総話数24話は未来編でも絶望編でもなく『希望編』となっており、希望ヶ峰学園の物語の最終話となっている。
2017年1月12日、ゲームのナンバリング3作目となる『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』がPS Vita、PS4向けに発売された。同年9月にSteam版も発売されている。
本作では「才囚学園」が舞台となり、世界設定や登場人物が一新されたストーリーとなっている。本作のテーマは「サイコクール」で、トリック作成には『『クロック城』殺人事件』などの『城』シリーズや、スピンオフ小説『ダンガンロンパ霧切』などを手掛けた小説家の北山猛邦氏が協力している。
ゲームの流れは『1』『2』と同様で、各章で事件が起こり、非日常パートと学級裁判パートで「クロ」を特定する流れとなっている。
本作は学園内のカジノを始めとして、アドベンチャー要素の合間に遊べるゲームが増量。また、学級裁判のアクション要素も全般的に強化されている。
「ノンストップ議論」には新たにスコアが増量する「V論破」、コトダマをウソダマに変化させて論破や同意に利用できるようになる「偽証」、本筋とは異なる議論へと繋げる「裏ルート」といった駆け引きが追加されている。「議論スクラム」は1対1ではなくチーム戦の議論で、互いの主張をうまく噛み合わせて応酬し合う形式をとる。
他にも複数人が同時に議論をまくしたてる「パニック議論」や、ベースは同じながら新要素が追加されている「反論ショーダウン・真打」、「閃きアナグラム ver3.0」、ほぼレースゲームの見た目をした「ブレインドライブ」など、議論が進むにつれてアクションと推理が合体した学級裁判の醍醐味が体験できる内容となっている。
声優陣の豪華さは本作でも健在である。マスコットキャラクターのモノクマは、声優が『ちびまる子ちゃん』でまる子(さくらももこ)などを演じているTARAKO氏に変更がされた。モノクマの子供を自称する5匹のモノクマーズは、『アンパンマン』でジャムおじさん、チーズ、カバオ、かまめしどんなどを演じている山寺宏一氏がひとりで5役を演じ分けている。
本編クリア後のおまけモードは本作にも搭載されており、仲間と交流を深めるアドベンチャーゲーム『宇宙一周ラブバラエティ だんがん紅鮭団』、すごろく型の育成ゲームでキャラクターを強化する『超高校級の才能育成計画』、育てたキャラクターを編成して挑む『絶望のダンジョン モノクマの試練』、ダンジョンで手に入れた資金で新たなキャラクターを入手する『超高校級のカードDEATHマシーン』がある。
この中でも『超高校級の才能育成計画』は『1』『2』と本作の登場キャラクターの全員が希望ヶ峰学園に在籍しているIF設定で、キャラクター同士の掛け合いが全キャラクターに存在する。そのため合計で膨大なイベント数が収録されており、シリーズのキャラクターに愛着があるプレイヤーには見逃せない内容となっている。
スピンオフやメディアミックスを経て、開発陣は新たな道に踏み込む
2021年11月4日、『ダンガンロンパ トリロジーパック + ハッピーダンガンロンパS 超高校級の南国サイコロ合宿』がNintendo Switch向けに発売された。
もともと『ダンガンロンパ トリロジーパック』は『ダンガンロンパ1・2 Reload』と『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』の2タイトルをまとめてダウンロード販売していたもので、パッケージ版は存在しなかった。それがNintendo Switchでも買い求められるようになったもので、パッケージ版が発売されているのはNintendo Switch用のみである。
パッケージ版発売に合わせて収録された新作『ハッピーダンガンロンパS 超高校級の南国サイコロ合宿』は、単品でのダウンロード販売もされており、2022年7月にPS4、Steam向けにも配信された。
本作は『ニューダンガンロンパV3』のおまけモードである『超高校級の才能育成計画』を1本のゲームとして独立させたような作品だが、収録されているイベントは一新されている。また、『絶対絶望少女』から参戦キャラクターが追加されており、キャラクターの掛け合いのパターンはさらに増加している。
歴代の主要キャラクターがほぼ出演しているため、ファンアイテム的な側面が強いように思われるが、やりこみ要素も大いに強化されている。『超高校級の才能育成計画』をすでにやり込んだプレイヤーも十分楽しめるだろう。
ゲーム以外にも、『ダンガンロンパ』シリーズは小説、コミックス、舞台など、多数のメディアミックス作品がある。スピンオフや、ゲームで描写がなかった視点の補完をしている作品が多いが、完全オリジナルの展開をしている作品もある。
そのひとつが、シナリオディレクターの小高和剛氏本人が手掛けた小説『ダンガンロンパ/ゼロ』だ。「『ダンガンロンパ』公式の前日譚」という位置づけで、主人公などの主要な登場人物は小説のオリジナルキャラクターとなっている。挿絵イラストの担当は、ゲーム本編と同じく小松崎類氏だ。
『ダンガンロンパ/ゼロ』は上巻がなんと無期限で全文掲載されているので、シリーズのファンで未読であれば読んでみてはいかがだろうか(※内容にゲーム本編のネタバレが含まれるため、『1』をクリアしていないプレイヤーは注意)。
『ダンガンロンパ』シリーズの主要な制作陣による最新作は、本稿執筆時点で『超探偵レインコード』となっている。
ジャンルは「ダークファンタジー推理アクション」で、ゲームの大きな流れは推理アドベンチャーなのだが、解決に至るまでにふんだんにアクション要素があり、RPGさながらにマップ探索やサブクエスト受注などができる点が、『ダンガンロンパ』と大きく異なっている。
開発に6年かかったという本作の詳細については、弊誌のインタビュー記事等を参照されたい。
また、小高和剛氏と小松崎類氏は、アカツキから配信予定の『トライブナイン』の開発にも参加している。スマートフォン向けに現在も開発が続けられている『トライブナイン』のサービス開始時期は未定だが、ゲームに先がけて公開されているテレビアニメやWebコミックスなどで、世界設定の予習が可能だ。
『超探偵レインコード』を世に送り出したことで、「3Dの大作アドベンチャーゲームを作りたい」という小高和剛氏の夢は「もう叶っちゃってんじゃん」という状態になったそうだ。今後の展望について「その時々に素直に行動できたら一番いい」と語る小高氏が、次はどのような作品を展開していくのか、『トライブナイン』の続報と合わせて楽しみに待ちたい。