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ぼっちちゃんはなぜネガティブな妄想や奇行を繰り返すのか?その理由とともに「ぼっち・ざ・ろっく!」の魅力を紐解く

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 ここのところ毎日、結束バンドのアルバムをひたすら聴き続けている。

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(画像はAmazon「結束バンド」販売ページより)

 アニメ終盤の勢いと感動が楽曲とともに深く刻み込まれており、アニメ放送を終えてしばらく経つが、「ぼっち・ざ・ろっく!」旋風がいまだに止まらない。止められない。

 一体、この面白さと爆発的な人気の理由とはなんなのだろうか?

 アニメとしてのクオリティの高さ、制作陣の原作への愛の深さが理由であることは間違いないのだが、それだけではない。本作の何が、そんなに心を掴んだのか?

 それはなんといっても、主人公の「後藤ひとり」こと、ぼっちちゃんの魅力が極めて大きい。

 事あるごとに弱気になって自己否定してしまう様子と、面白おかしく表現されているものの、奇行に走ったり、ネガティブな妄想をする様に妙な解像度の高さがあり、少なからず自分にも覚えのあることとして共感させられる。

 そして、暗くて後ろ向きでありながらも、勇気を振り絞って力強く立ち上がるぼっちちゃんの姿に、「現代における主人公像」の在り方を見せられたような気がしてならないのだ。

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(画像は【LIVE映像】結束バンド「ギターと孤独と蒼い惑星」LIVE at STARRY / 「ぼっち・ざ・ろっく!」劇中曲より)

 もうひとつは楽曲の魅力。注目すべき楽曲はアニメで使用されたものだけではない。

 アルバムの2曲目に収録されている「ひとりぼっち東京」の切なく、寂しくも力強くて前向きなメロディと情景描写の巧みさは、アニメで使用されていないのが本当にもったいないと思うほどだ。

 とても気が早い話だが、たとえば、もしもこれが劇場版のテーマソングや挿入歌として流れたら泣いてしまう自信がある。

 そのほかの楽曲も押し並べて完成度が高く、アルバムを聴くことで、ぼっちちゃんと結束バンドの成長の軌跡を追うことができるのが、ループ再生を止められない理由の一つでもあるだろう。

 そんな風に「ぼっち・ざ・ろっく!」ループをキメてる人が多いのか、TVアニメ公式Twitterにて「ギターと孤独と蒼い惑星」LyricVideoが1000万再生を突破したというツイートが流れた。

 そして、アルバム「結束バンド」はオリコン音楽ランキング(2023/1/9付)にて「週間合算アルバムランキング」、「週間アルバムランキング」、「週間デジタルアルバムランキング」の3冠を達成し、1月18日公開のBillboard JAPANの総合アルバム・チャートでも1位を獲得。もはや、圧倒的な勢いである。

 とどまることを知らない「ぼっち・ざ・ろっく!」の人気。
 本稿では、主人公であるぼっちちゃんの人気の理由と、なぜ彼女が自己否定を繰り返すのか、ネガティブな妄想や奇行を繰り返すのか? その理由について考察をしてみたいと思う。
 そして、楽曲の作詞をしているときのぼっちちゃんの気持ちに寄り添いながら、結束バンドの楽曲の魅力とは何かを紐解いていきたい。

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ぼっちちゃんが着用しているヘッドホンのモデルだと思われるAKGの定番機「K240 MkII」をMNG(my new gear…)してしまった……。「けいおん!」でのK701ブームといい、ガールズバンドアニメを好きになった者はAKGのヘッドホンを買う運命にあるのか?

文/Leyvan


“不健全な自己愛”によって、自らの心を守るために自己否定を繰り返してしまうぼっちちゃんの苦悩

 まずは、「ぼっち・ざ・ろっく!」の魅力を生み出している源泉であり、多くの人が共感を寄せる後藤ひとり(ぼっちちゃん)について解説していきたい。

 人と関わるのが苦手で引っ込み思案なぼっちちゃんは、自分がいわゆる「陰キャ」な人間であることを自認しており、とにかく自己否定しまくる。その自己否定の仕方が、しばしば珍妙な行動であったり、過剰な被害妄想としてコミカルに、そしてキュートに描かれる。

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(画像はまんがタイムきらら編集部Twitter「ぼっちちゃんよくばりセット」より)

 そんなぼっちちゃんの奇行や妄想だが、冒頭でも述べたように、これが度々自分にも覚えがあるようなことだったりするので、共感できることも多い。

 作中の描写に妙なリアリティがあるというか、コミュニケーションが苦手な人の気持ちに対する解像度の高さが感じられる内容になっているのも大きな特徴。これをステレオタイプな表現だと決めつけたり、ただのギャグとして消化してしまうのはもったいないほどだ。

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(画像はまんがタイムきらら編集部Twitter「ぼっちちゃんよくばりセット」より)

 ただ、描写がリアルであるからこそ、気になるのは、ぼっちちゃんが自己否定してしまう、その理由だろう。

 どうして、そんなに自己否定を繰り返してしまうのか?
 自己否定を繰り返す、その背景にはいったい何があるのか?

 精神科医・批評家の斎藤環氏によると、自分のことをディスり続けてしまう、自己否定を繰り返してしまう人の根底にあるのは、「自己愛」だという。
 それは、自分を大切にしたいという思いなのだが、それが拗れたかたちで自分の心を守ろうと働いてしまうため、自己否定に繋がっているのだとしている。

あなたの自己否定は、その根底に自己愛、つまり自分を大切にしたいという思いがあるはずです。あなたに自分を否定させているのは、あなた自身の価値観というよりは、世間的な価値観や同調圧力といった要素です。

(書籍『「自傷的自己愛」の精神分析』145ページより引用)

 さらには、頑なに自分を否定し続けてしまう理由、自分の言葉で自分を傷つけてしまう行為の裏にあるのは、「自分がダメであることについては誰よりも自信がある、という逆説的な確信」があり、それによって他人から否定されることを未然に防ぐためだとしている。

「自分が無価値な人間であるということに関しては、自分がいちばんよく知っているのだから、何人にも否定されたくない」という信念ないし確信です。自分がダメであることについては誰よりも自信がある、という逆説的な確信。

(書籍『「自傷的自己愛」の精神分析』21ページより引用)

 これらの記述は、まさにぼっちちゃんのことを言い当てているように思えるのだ。

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(画像はまんがタイムきらら編集部Twitter「ぼっちちゃんよくばりセット」より)

 ぼっちちゃんは、幼少の頃から人の輪に入るのが苦手で、ずっとひとりぼっちだった。そんな自分を変えたいと思い悩んでいたころ、たまたまテレビで耳にした「陰キャでもバンドなら輝ける」という言葉をきっかけに、ギターに目覚める。

 そして、ギターをはじめてから3年間、毎日6時間以上も集中してギターの練習に明け暮れていたため、ギターの腕前はプロ級のものとなった。
 ぼっちちゃんはギターを演奏する動画を「ギターヒーロー」という名義でネットに投稿し続けており、音楽活動をしている人たちや、音楽ライターが注目するほどの人気投稿者となっている。

 しかし、学校生活では相変わらず友達はできず、ひとりぼっちのまま。

 「自分の居場所はネットだけ。だから、これでいいんだ」と自分に言い聞かせつつも、理想の自分になれない現状に不満を抱く。幼少期から今に至るまで対人関係を構築できなかったというコンプレックスは根深い。

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(画像はまんがタイムきらら編集部Twitter「ぼっちちゃんよくばりセット」より)

 当たり前のように友だちができて、友だちと一緒に遊んだりして楽しく過ごす。そんな、ほかの人にとっての「普通」ができない自分はダメな人間なんだ、どうしようもないんだと、自分自身で思いこんでしまう。

 自分で自分のことを「陰キャだから仕方がない」と、負のレッテルを貼って、縛り付けてしまうのだ。

自分自身に烙印やレッテルを貼って、自分の存在を恥ずかしく思い、自分で自分を貶めるような意識につながります。
こうした意識が強すぎると、みずから社会的に不利な状況を予測してしまい、社会参加を望みながらも、それに向けて踏み出せない状況につながってしまいます。

(書籍『「自傷的自己愛」の精神分析』19ページより引用)

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ライター
ゲーム、模型、ファッション、ドール、オーディオなどさまざまなジャンルの沼を渡り歩くスワンプウォーカー。関心のあるものに後先考えずに全てを捧げる狂戦士。手がけた代表的な記事は 「人はなぜ少女にメカをくっ付けるのか」 「うつ病の自分が『DEATH STRANDING』を遊んで、“実感”を取り戻した話」など。
Twitter:@Leyvan44

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