古きよきレトロゲームへのオマージュ
さて、ここまで『Cuphead』の持つ1900年代初頭の古きよきカートゥーンに対するオマージュをご紹介してきましたが、本作で発露されているリスペクトは、それだけに留まりません。実は『Cuphead』には、1980〜90年代の古きよきレトロゲームに対するオマージュも、多数含まれているのです。
ここが、カートゥーン好きだけでなくゲーム好きのテンションも大いに高めてくれるポイントの1つと言えるでしょう。
早いもので3度目の登場になりますこちらの画像、ご存知カップヘッド&マグマンです。主人公の彼らが兄弟であるということは、押しも押されもせぬ横スクロールアクションの大傑作、ゲームの歴史を変えたと言っても過言ではない『スーパーマリオブラザーズ』を意識してのことでしょう。そのパンツの色も赤と緑で……はなく、赤と青になっていますが、これは、これまた横スクロールアクションの名シリーズ『魂斗羅』シリーズをイメージしているとのこと。
……ディズニーアニメ好きとしては、ミッキーとしあわせウサギのオズワルドが元ネタなのかと思っていましたが、ビックリするくらい違っていました。しあわせウサギのオズワルドもかなり面白い背景を持つキャラクターなのですが、あまりにも本筋から逸れてしまいますので、今回は省略いたします。
さて、カップヘッド&マグマンの配色の元ネタとなった『魂斗羅』シリーズは、モルデンハウワー兄弟にとっては幼少期の思い出を彩る大切なゲームとのことで、作中のいたるところにオマージュが見られます。
特にラン&ガンは、そのゲームコンセプトそのものが、『魂斗羅』や『ガンスターヒーローズ』といった横スクロールアクションに材をとられたもの。こういった古きよきゲームへのリスペクトが、本作のゲームとしての面白さをより一層引きだしているのです。
例えば、操作キャラクターがマップ上を歩いてボスやステージを選ぶシステムは、『スーパーマリオワールド』をイメージしたもので、
操作キャラが死亡時に幽霊になるという演出は、SEGAのゲーム『アレックスキッド』をイメージしているといった具合。
……世代的に、『ピクミン』が真っ先に思い浮かんでいたのですが、ビックリするくらい違っていました。
その他にも、大ヒットアーケードゲーム『パックマン』の主人公であるパックマンにしかみえない形状の敵、
『ファイナルファイト』シリーズや『ストリートファイター』シリーズに登場するロレントっぽい服装の敵、
『ロックマン2』のメカドラゴンのようなデザインのグリム・マッチスティック……等々。
元ネタとなっているゲームの種類こそ多岐に渡りますが、元ネタをプレイしたことがある人ならば、すぐにその作品のオマージュだと分かりそうな位、キャラクターデザインにハッキリとモチーフが取り入れられています。
中でもリビー&クロークスとの対決は、ゲームへのリスペクトが特に強く前面に押し出されたステージで、その元ネタである『ストリートファイター』ステージと言っても過言ではないレベルの仕上がり。
例えば、彼らが着ている胴着とグローブは、主人公のリュウとライバルであるケンをイメージしたものですし、背景でカップヘッド達の戦いを見守る野次馬は、『ストリートファイター』シリーズのステージ背景のオマージュ。
ネタバレになってしまうので今回は触れませんが、この他にも、攻撃方法や立ち振る舞い、形態変化など、様々な場所に『ストリートファイター』シリーズのエッセンスが盛り込まれています。
また、先ほど登場したミルト・カール……否、カール博士は、『ロックマン』シリーズと『ソニック』シリーズの永遠の宿敵ともいえる科学者、Dr.ワイリーとDr.エッグマンがそのデザインの元ネタ。彼らの持つ憎たらしさが存分に醸し出されていますね。
そして、ロボットが繰り出す攻撃の中には、『TATSUJIN』というシューティングゲームに登場するタツジンボムによく似た爆風の爆弾が登場。
タツジンボムとは、シューティングゲームによく見られるシステムであるボムの元祖とされているアイテム。その見た目のインパクトの強さもさることながら、シューティングゲーム史においても強い影響を及ぼしたシステムとして知られています。
このオマージュに関しては、『Cuphead』クリアから数年後に『TATSUJIN』をプレイするという順番だったため、『TATSUJIN』を見た瞬間、「『Cuphead』のあそこのアレじゃねーか!」と、語彙の無いズレたテンションの上がり方をしてしまいました。『Cuphead』をプレイしていると、レトロゲームをプレイした際に思いがけない感動が降り注ぐこともあるのです。
また、本作には背景にもかなりの小ネタが仕込まれています。中でも、カップヘッドたちの冒険を助けてくれるアイテムが売られているポークリンド雑貨店では、背景の棚に陳列された様々な物品の中に、ゲームオマージュが多く隠されているとのこと。
僅かな間をあけての再登場となりましたが、博士のロボットステージの背景の大きなゴミの山の中にも、ゲームの小ネタが数多く仕込まれているそう。
これだけ随所に大小問わずネタが仕込まれているということになりますと、本作に埋め込まれたオマージュの全てを把握することは至難の業と言えるでしょう。
またもや余談ですが、このステージでカップヘッドたちが戦う債務者は、“博士のロボット” なので、カール博士は完全にオマケというジョークも添えておきたいと思います。これもまた、気がつくと すこし しあわせになれる、楽しいポイントです。
それでは、この項目の最後に、カートゥーンやゲームには関係なく、どちらもあまり詳しくない方でも元ネタが分かるようなキャラクターをご紹介しましょう。
上の画像で、「よお、オメエら!また会ったな!」と高らかに叫ぶ、かじられたリンゴのキャラクターの名前は、マック。言うだけ野暮というレベルに達しているほど分かり易いパロディなので、元ネタへの言及は差し控えますが、“アナログなものを使った現代のゲーム” というコンセプトを端的に表現しているかのようなキャラクターです。