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使われたセル画は4万5000枚超。作者が自宅を抵当に入れてまで作った狂気の手描きアニメゲーム『Cuphead』のヤバさを今さら語りたい

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古きよきカートゥーンへのオマージュ

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時々背景が実写になっているのも、昔のカートゥーンの技法を意識したもの

 さて、フライシャー兄弟やディズニーが生み出した1930年代の古き良きカートゥーンの世界観をイメージしつつ、“アナログなものを使った現代のゲーム” をコンセプトに制作された『Cuphead』は、これらのアニメに対するリスペクトが半端ではなく、登場するキャラクターや背景のいたるところに、そのリスペクトを見て取ることができます。

 ここからは、そんなリスペクトのごく一部をご紹介していきたいと思います。

 と、その前に、本作には、『ベティ・ブープ』『ポパイ』を生み出したフライシャー兄弟へのリスペクトが多く含まれているのですが、私がディズニーアニメ好きなので、拾っている小ネタがほぼディズニーアニメであるということはお断りさせていただきます。もっと偏り無く当時のアニメの知識があれば、更に深く『Cuphead』の世界を楽しめたのになぁと考えると悔しさが滲んできますが、趣味の都合上、仕方がありません。ごめんなさい。

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 さて、まずは再登場となるこちらの画像。主人公兄弟、カップヘッド&マグマンです。
 
 彼らのデザインに、どこか見覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 その答えは、カップヘッドの立派なCUPHEAD(カップ頭)を隠し、新しい顔としてMOUSEHEADをあてがってみると見えてくるかもしれません。

 ……そう、カップヘッドは、僕らのクラブのリーダー、ミッキーマウスにソックリなのです。脚の色こそ違うものの、靴・手袋・ズボンのデザインといった部分が、短編アニメ映画で大活躍していた頃のミッキーとかなり似ていて、ここからはバキバキのリスペクトが感じられます。

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 ちなみに、DLCから操作キャラクターとして登場するチャリスは、ミッキーマウスの永遠の恋人、ミニーマウスと服装がソックリ。恐らくですが、短編『ミッキーの恋のライバル』の時のミニーの服が元ネタなんじゃないかな……と思います。

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 また、カップヘッドたちの死亡時に変化する霊体は、短編アニメ『ミッキーのお化け退治』に登場するお化けをリスペクトしたもの。『ミッキーのお化け退治』は、ディズニーアニメファンにはそれなりに知られた名作ですが、一般的な知名度はかなり低いと思われます。ですので、元ネタとなった幽霊については実際に検索をかけていただければと思うのですが、そういったあまり知られていないような作品からもリスペクトが抽出されているというのが、本作の印象的な部分です。

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 そんなカートゥーンリスペクト全部乗せな主人公たちの冒険譚を開始したとき、まず最初にプレイヤーの目に飛び込んでくるのは、本が開くオープニング。これは近年では少なくなってきましたが、昔のディズニー長編アニメではよく見られた演出です。そして、その開かれる本の表紙のデザインは、古い短編アニメでよく見られるタイトルバックを彷彿とさせます。目にもとまらぬ速さで繰り出される怒涛のリスペクトラッシュですね。

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 このオープニング中にも登場するキングダイスは、敵として対峙する時の表情が、ディズニーの長編アニメの傑作『ピノキオ』に登場するコーチマンというキャラクターのオマージュであり、彼の攻撃手段は、ディズニーアニメファンの間で名作として語り継がれるミッキーマウス短編『ミッキーの夢物語』を意識しているであろうことがハッキリと伝わってきます。

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 更に、ラスボスであるデビルのデザインは、より一層深いところからその元ネタが取られています。その元ネタとは、『三匹の子豚』や、我らがドナルドダックのデビュー作『かしこいメンドリ』といった短編を擁するディズニースタジオの短編アニメ映画シリーズ『シリー・シンフォニー』の中の一編、『地獄の悪魔退治』に登場する悪魔。ミッキーマウスのデザインを担当した伝説のアニメーター、アブ・アイワークスの初監督作品という、ディズニーアニメファンからすると記念碑的な宝石の煌きを持つ短編ですが、これまた一般的な知名度はとてつもなく低いことでしょう。「さっきからこいつは何を言っているんだ」と思われている方がほとんどであることも承知しつつ、キーボードを叩いております。

 開始数十秒にしてこの有様ですから、カップヘッド兄弟の前に立ちふさがるボスキャラクターやステージの背景に、そういったカートゥーンリスペクトが盛り込まれるのは必然と言えるでしょう。

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 例えば、先ほど紹介したプルプル・グランの背景は、ディズニースタジオ初の長編カラーアニメーションにして世界初の長編カラーアニメーションである『白雪姫』をモチーフとしています。

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 そして、戦う相手を選択する際に表示されるタイトルは、短編アニメを意識したもの。
 少し話は逸れますが、英語版のタイトルは韻を踏んだ言葉遊びになっているものが多いんですが、ここの翻訳センスがバツグンです。また、タイトルに使用されている書体のセンスも素晴らしく、『Cuphead』の世界観に合ったものとなっています。

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 続いては、コンサイ一家との一戦。背景には、昔のカートゥーンに頻繁に登場する架空の会社、アクメ社の肥料が置かれています。アクメ社は、古きよきカートゥーンに大いなるリスペクトを寄せた映画『ロジャー・ラビット』にも登場していますから、こういった作品では欠かせない存在であるとも言えます。
 ちなみに、ニンジンの眼は、ディズニー長編アニメ『ジャングルブック』に登場する大蛇のカーがモチーフ。

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ヴェルナー伍長(右)

 そして、ネズミのヴェルナー伍長は、ミッキーマウスの没ネームがその名の由来であるミッキーの恋のライバル、モーティマーマウスに非常によく似たデザイン。イヤ~な感じがする性格も、モーティマーマウスに瓜二つ。

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凍尋坊モーティマー

 ちなみにですが、DLCにまで目を通してみると、そのまんまモーティマーという名前のついたボス、“凍尋坊モーティマー” もいたりします。
 そもそも、モーティマーが名前としてボツになった理由の1つに、モーティマーという言葉の響きが、“屈辱を与える、悔しがらせる” といった意味を持つ英単語 “mortify” に似ているというのが挙げられているので、悪役の名前にはピッタリな名前ではあるんですよね。そういった部分も意識して、名前を決めている……のかもしれません。あと、凍尋坊って和訳するセンスもたまりません。

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 さて、数あるリスペクトの中で、特に細かさを感じたのが、上の画像にある、レディ・ボンボンの登場シーン。Readyの文字の後ろにいるので少々見えにくいですが、おかしの国の住人である彼女は、お菓子で出来たステッキで首を引っ掛けられ、門の中に引っ込んでいっています。
 これは、ディズニー短編『ミッキーの芝居見物』という作品で、ドナルドダックが舞台上からステッキに首を引っ掛けられて強制退場させられるシーンの動きと全く同じ。幼少期からこの短編が好きなので、レディ・ボンボンのこのシーンを見た瞬間「『ミッキーの芝居見物』のドナルドのアレだ!」とテンションが爆上がりしたのですが、一般的な生活を送っていれば、まず気がつくことのない細かさでしょう。
 しかも、このシーンは数秒もかからずに終わってしまうような一瞬だけの場面ですから、わざわざこだわる必要も無いシーンです。

 誰が見ているか分からないような一瞬のシーンで、誰が分かるのか分からないような小ネタをぶち込む。このオマージュで同好の士を見つけたような気持ちになった私は完全に制作陣を信用し、『Cuphead』沼の更なる深みへとズブズブと引きずり込まれていきました。

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塩ひげ船長(右上)

 そして、そういった数々のカートゥーンオマージュをギュッと濃縮した最終進化形が、こちらの塩ひげ船長。『ポパイ』のブルートや『ミッキーの海賊退治』のピートなど、有識者が見れば、至る所からカートゥーンへのリスペクトを感じ取ることができるというこのキャラクターは、もはやリスペクトで練成されたキメラと言っても過言ではない存在でしょう。

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 無論、今回お話ししているカートゥーンへのリスペクトは、元々面白いゲームが更に面白くなるよというレベルの薬味的な要素で、何も考えずにただプレイしているだけでも『Cuphead』は十二分に楽しめる作品です。

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 さて、先ほどのコンサイ一家のニンジンなどもそうですが、中には、1930年代のカートゥーンではないアニメへのリスペクトが垣間見えるキャラクターもいます。そのうちの1人が、こちらのカール博士。彼の見た目のデザインは、『ミッキーのお化け屋敷』という、界隈では怖すぎるディズニー短編として知られる作品に登場するマッド・ドクターが一部モデルとなっているのですが、その短編は1933年公開の作品。今回着目したいのは、博士の見た目ではなく名前の方です。
 このカール博士という名前の元ネタは、ディズニーの伝説的なアニメーター、ミルト・カール。彼は1930年代のアニメに深く関わった人物ではありませんが、「ミルト・カールに対するリスペクトはどうしても入れたかった」と、モルデンハウワー兄弟は語ります。

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カラ・マリア

 その兄弟の言葉を証明するかのように、『Cuphead』には、1970年代のディズニー長編アニメ『ビアンカの大冒険』でミルト・カールが作画監督を担当したマダム・メデューサという悪役の要素を取り入れた、カラ・マリアというキャラクターも登場しています。

 ……さて、掘れば掘るほど色々な出口に繋がる、本作のカートゥーンに対するリスペクトとオマージュ。まだまだ語り足りないところではありますが、これ以上続けると収集がつかなくなってしまいますので、今回はここまでにしておきましょう。もっと知りたい方は、是非とも本作の画集、『The Art of Cuphead』を読んでみてください。ディズニーアニメ以外のオマージュも丁寧に記載されていますので(小声)。

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 完全に余談ですが、カラ・マリア戦に登場する亀は、1930年代のディズニー短編『うさぎとかめ』『うさぎとかめと花火合戦』に登場するカメのトビー・トータスがモデルではないかなと思います。元ネタのトビー・トータスはリクガメなのに対し、この亀はウミガメという面白さが……もう終わります。次の話に移りましょう。

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ライター
レトロゲームから最新ゲームまで、面白そうだと感じた家庭用ゲームを後先考えず手当たり次第に買い漁る男。500を越えてから、積み上げたゲームを数えるのは止めました。 ディズニーアニメ・お笑い・音楽・漫画などにも広く浅く手を伸ばし、動画投稿者としても蠢いています。
Twitter:@DuckheadW

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