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使われたセル画は4万5000枚超。作者が自宅を抵当に入れてまで作った狂気の手描きアニメゲーム『Cuphead』のヤバさを今さら語りたい

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可愛い世界観にそぐわない鬼畜難易度

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 さて、ここまで『Cuphead』のアニメーション部分についてお話してきましたが、続いては、いよいよ本作のゲーム部分について話を進めていきたいと思います。

 『Cuphead』を語る上で欠かせないアニメーション以外の要素は、なんと言ってもその難易度の高さでしょう。その難しさは、“ゲーム本編が忙しすぎてアニメーションを見ている暇がない” という、本作の数少ない欠点を生み出してしまっているほどです。
 まぁ、これだけ素晴らしいアニメーションを使っている作品なので、サクサクとクリアされてしまってはたまらないというのも理解はできるのですが、それにしても難しい。

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 例えば、ラン&ガンは中間地点が用意されておらず、ゲームオーバーになるとステージの最初からやり直しです。アイテムを使わない限り、カップヘッド兄弟の体力は3なので、3回敵や障害物に当たると死んでしまいます。1度当たっただけでゲームオーバーになるようなアクションゲームに比べればまだ有情ですが、この3という数字は、ステージの難易度に対してかなり少ないように感じられます。クリアまでの道のりは険しいものとなるでしょう。

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 そんなラン&ガンでは、ゲームオーバー時に、カップヘッドたちがどこまでゴールに近づけていたのかが分かるようになっています。左端がスタートで、右端がゴール。カップヘッドのシルエットが今回のプレイでの進行度を表します。横スクロールアクションゲームで、ゲームオーバー時に進捗度が分かるというのは珍しいような気がしますが、このシステムのおかげでリトライが捗るというのが、紛れも無い事実。プレイヤーの負けず嫌いに火をつける良システムだと思います。

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 そして、債務者、すなわちボス敵との戦いでは難易度を選択することが可能。通常の難易度はレギュラーで、それより簡単なシンプルでクリアしていったとしても、最終的にラスボスのデビルにはたどり着けなくなるという罠があるため、多くの人はレギュラーで攻略を目指すことになるかと思います。この難易度であれば、実は数分でボスを倒すことができるため、熟達したプレイヤーであれば、撃破までに1分もかからなくなる場面も多いはずです。

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 そう聞くと、短い時間で終わる簡単なゲームに思われるかもしれませんが、多くの激ムズアクションゲームがそうであるように、このボスを倒すまでの数分間の動きを組み立て、実行しきるまでの道のりが非常に険しいのです。

 ラン&ガン同様、基本的にカップヘッド兄弟の体力は3なので、3回ボスの攻撃に当たったらアウト。ボスの攻撃は苛烈であるため、3回も攻撃に当たれると言うよりは、3回しかミスが許されないといった感じ。シングルプレイでは戦闘中に体力を回復させる手段が無いことも、ボス攻略の難しさに拍車をかける要因となっており、私のようなヘボプレイヤーの場合、1体のボスを撃破するまでに1時間以上かかるなんていうことも、よくある話なのです。

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 こういった難易度の高さから、本作のボス戦では必然的にゲームオーバーを繰り返すこととなるのですが、目標の見えない戦い、終わりの分からない戦いというのは辛いものです。

 しかも、本作ではボスの体力が表示されることはなく、ボス戦中は、ボスの形態や攻撃パターンの変化以外に、その減少量を知る術はありません。

 これでは、プレイヤーは終わりの分からない戦いを強いられることになってしまう……のですが、『Cuphead』では、ボスの体力が表示されない代わりに、ゲームオーバーになったその時に、どの程度ボスの体力を削ることができていたのかが分かるようになっています。このシステムこそが、『Cuphead』の面白さを高めている要因の1つではないかと思うのです。

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 システムとしては先程のラン&ガンの時とほぼ同じで、カップヘッドたちへのありったけの煽りが込められたボスの勝利台詞の下に表示されているバーが、今回のボス戦での進行度をプレイヤーに教えてくれます。
 このバーはボスの体力を表していて、左端がMAXで、右端の旗が0。そして、カップヘッドたちのシルエットの位置が、ボスの残り体力を表しています。ちなみに、途中にいくつかある黒い線は、ボスの攻撃パターンや形態が変化するポイントを示したものになります。

 このシステムのおかげで、今のボス戦がどの程度惜しかったのか、どの程度無様だったのかが一目瞭然となっており、この情報がそのままリトライの糧となるのです。ゲームオーバー画面をオカズに、ボス戦を喰らう。ゲームとしては理想的な流れが構築されているように思います。
 また、ボス戦のリトライはボタン1つですぐに可能。このリトライ性の高さから、あれよあれよと言う間にカップヘッド達の屍の山が築かれ、時がゴウゴウと流れていくのです。

 これは私の個人的な話ですが、体力が見えるボス戦をプレイしていると、相手の体力が残り少なくなってきた時に非常に緊張してしまうんですが、このシステムだと、そういったストレスが発生しないのも嬉しいところ。
 「おい!まだ終わんねぇのかよ!さっさと倒れろよ!」という別種の焦りと悪態がその産声を上げてくるのもまた事実なのですが、ゲームオーバーになるその時まで、ボスの体力をどこまで削れているのかが分からないという面白さは格別で、とても心地いいものなのです。

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 まだかまだかと張り詰めた空気の中でミスをしてしまい、緊張の糸が切れた状態で画面に目をやると、進行度が撃破寸前だったなんて日にはもう発狂寸前。時と場所を考えずに叫びたくなってしまうのも、自然の摂理というものでしょう。近隣の皆様、その節は大変申し訳ございませんでした。

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 さて、『Cuphead』が高い難易度を有しながらも確かな面白さがあるのは、リトライを促すシステム、アニメーションの凄さの他に、ボス戦のギミックのバリエーションの豊かさがその理由として挙げられます。

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 例えば、パリィというアクションを駆使してカップヘッドたちが乗っている車の位置を操作して戦う幽霊列車や、

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 落下してしまうとダメージ判定が出て体力が1削られてしまうため、狭い足場を乗り継ぎながら戦わなければならないグリム・マッチスティックなど。こういった一工夫は、難易度の高さにも繋がりますね。こういった要素のおかげで、ただただボスを倒し続ける作業感というものが薄れているような気がします。

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 中でも特にギミックが面白いと感じた一戦が、キングダイスの『賭けの行方』
 ネタバレになってしまうので細かくは触れませんが、このギミックを知った時、今後への期待感と絶望感という、かわいい双子の赤ちゃんが私の脳内に産まれたことはお伝えさせていただきます。『ガンスターヒーローズ』が元ネタであるという、そのギミックの詳しい中身は、是非本編にてご確認ください。

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 また、難しすぎてどうやってもクリアできないよ!と言う人には、協力プレイという選択肢もあります。
 この協力プレイでは、両方のプレイヤーがやられない限りは戦闘が続行される上、片方のプレイヤーがやられてしまったとしても、仲間を救出する手段が残されています。体力面に若干の余裕ができるため、少しは戦闘が楽になるかもしれません。

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 ……一緒に遊んでくれる人を探すことが一番難易度が高いという方は、1人で強く羽ばたいてください。

何度聞いても聞き飽きないBGM

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 それでは、ここまで『Cuphead』の魅力について色々と書いてきましたが、最後に本作のBGMについて触れておきたいと思います。

 ビッグバンドの生演奏によって収録されたBGMは、とんでもねぇカッコよさを持ったジャズナンバーであり、本作のサウンドトラックは、アメリカのビルボードのジャズ・チャートで初登場1位を獲得するという快挙を達成。これは、ゲームサントラでは史上初の快挙とのこと。
 ……そもそもジャズをBGMに使ったゲームの数が少ないのでは?ということも考えてしまいますが、それは一旦置いておきましょう。このゲームのBGMが素晴らしいことに変わりはありませんから。

 更に、『Cuphead』のサントラは、本作がリスペクトを寄せる1930年代を意識して、レコードでも販売されています。

 今回は、そんな魅力タップリの本作BGMの中から、私のお気に入りをいくつかご紹介していきたいと思います。当然原稿上でそのBGMが流れるはずもないため、未プレイの方にとってはただただ漫然と文字が流れていくだけになるかとは思いますが、ご了承ください。

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Die House

 まずは、『Die House』。デビルの側近であるキングダイスのテーマ曲です。
 この楽曲は、本作では珍しいボーカル入りとなっていて、聞こえてくる歌声は低音が響いてとてもハスキー。ただそれだけでも半端なくカッケェ曲なんですが、この曲の面白いところは、更にその奥へ行った場所にあります。
 その面白さとは、『Die House』のボーカルを務めている、アラナ・ブリッジウォーター。なんと、女性です。実際に曲を流せないところで何を言ってもこの衝撃を伝えきるのは難しいんですが、事前情報無くこの曲を聞いた人の中で、その歌声の主が女性であると見抜けた人はほぼほぼいないのではないでしょうか。ちなみに私は、女性が歌っていると分かった上で『Die House』を聞いても、この事実を受け止めきることができていません。
 
 また、『Die House』は、キングダイス本人が歌っている歌という設定で、彼が周囲から「女性のような声で喋る」と陰口を言われている設定ともリンクしています。こういった粋ともいえる細やかな設定が、本作の面白さを更に高めているのです。

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Fiery Frolic

 続いては『Fiery Frolic』。グリム・マッチスティック戦のBGMであるこの曲、何度も個人的な話で恐縮ですが、『Cuphead』をプレイする中で一番多くの回数イントロを聞いた曲で間違いないと思います。つまりはそういうことなんですが、数え切れないくらいのリトライを繰り返しても、この曲のイントロを聞く度に「次こそは!」と気合が入り、無事にカップヘッドのタマシイが天へ昇る様を見届けることができるのです。

 また、知ったこっちゃないっていう話ですが、この『Fiery Frolic』は朝のアラームとして重宝しています。このイントロ一発でバッチリ目が覚めて、ぐっすり快適に二度寝ができるんですよねー。そういった意味でもオススメの楽曲です。

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Bootlegger Boogie

 そして、『Cuphead』は、DLCでもその抜群のBGMセンスが発揮されており、こちらでは『The Delicious Last Course』『Bootlegger Boogie』『Baking the Wondertart』といった名曲を楽しむことができます。

 特に『Bootlegger Boogie』はボス戦では珍しいボーカル入り。明確な歌詞があるというよりは、意味の無い言葉で歌うスキャットと呼ばれる歌唱に近いのですが、その気だるげな感じがボスの雰囲気にもピッタリで、気分も小躍りしてしまいます。

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 ということで、今回は『Cuphead』という作品の魅力について、お話しさせていただきました。今回お伝えしたものはまだ氷山の一角ですし、プレイ済みの方には指差し確認に近い内容ではあったかと思いますが、未プレイの方にも本作の魅力が少しでも伝わっていれば嬉しい限りです。

 また、どこまでこの思いの強さが伝わっているのかは正直分かりかねますが、私はこのゲームが大好きです。続編でもDLCでもなんでもいいです。彼らの新しい冒険をください。何年でも待ちます(真顔)。

 かように素晴らしいゲームには、可能な範囲で金を落としてゆかねばなるまいて……と思い立ち、Switch、PS4、PCと、持ってる機種で出ている『Cuphead』はもう全て買ってしまったのです。本編とDLCのサントラも買いました。『The Art of Cuphead』も英語版と日本語版を買っています。小説とコミックとレコード……については、購入を前向きに検討しています。

 とにかく、溢れんばかりの愛はあるものの、『Cuphead』に対して献金する術がなくなってきてしまっているのです。

 ……となると、次に私が取るべき行動は何か。
 …………そうです。誰かに『Cuphead』を買わせてしまえばいいのです。
 ………………この結論に至った私が、果たして次に何をしたのか。この先は、言わぬが花というものでしょう。もし、この記事を読んで『Cuphead』に興味を持っていただけたのなら、是非購入してみてください。本作にはお値段以上の価値があることを、カップヘッドとマグマンのタマシイを賭けてお約束いたします。

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ライター
レトロゲームから最新ゲームまで、面白そうだと感じた家庭用ゲームを後先考えず手当たり次第に買い漁る男。500を越えてから、積み上げたゲームを数えるのは止めました。 ディズニーアニメ・お笑い・音楽・漫画などにも広く浅く手を伸ばし、動画投稿者としても蠢いています。
Twitter:@DuckheadW

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