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SNSとコロナ禍の影響で、人との向き合いかたが分からなくなった?──コミュニケーションが苦手な主人公が増えた理由を、『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』を見ながら考えてみた

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 人と向き合うことって、どうしてこんなに難しいんだろう?

 ──そう思ったことはないだろうか?

 ネット(SNS)が発達してコミュニケーション手段は増え、人は繋がりやすくなった──はずなのだが、一方では、本当の意味での人との距離感や向き合い方に、戸惑う人はむしろ増えているようにさえ思う。

 そうした背景を受けてか、近年では『ぼっち・ざ・ろっく!』の後藤ひとりや『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のスレッタ・マーキュリーなど、内向的でコミュニケーションが苦手なキャラクターを主人公に据えた作品が登場しており、そういった作品が多くの現代人/若年層から支持されて、共感を得ている。

 現在絶賛放映中の『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』も、そうした流れを汲む作品だと言えるだろう。

 ただ、今回の記事でお伝えしたいのは、『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』が現代人/若年層の支持を得ている……ということではなく、さらにその先の効能として、

 現代人、特に若年層に向けた人間関係の教科書

 としても有用(ちょっと大げさかもしれないが)なのではないか?──ということを考えてみたい。

 どうして、そう思ったのか?

 というのも、本作では、登場人物たちのそれぞれの思いがすれ違い、人間関係が上手くいかない様子がこれでもかと描かれていくのだが、その描写が類を見ないほど細かく、しかも繰り返し描かれている(同じシーンでも、キャラクターの視点を変えて何度も描かれる)からだ。

 たとえば、一見すると、はにかんで笑っただけの場面でも、受け取る側にとっては「バカにされた」「否定された」と思ってしまう──特に、心が弱っているときはそう感じてしまうことがある。

 そういった心の機微をもの凄く丁寧に、キャラクターの視点を変えながら緻密に描いている。

 そのほかにも、同じ物事に対しても何を重要視しているか、大切に思っているかは目線や立場が変われば違ってくる。そういった認識の違い、感覚の違いが多くのすれ違いを生んでしまう……そして、そのことについてどう向き合うか?歩み寄るか?というのが本作の物語の根幹をなしている。

 そこで、本稿では『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』が持つ人間関係の教科書的な効能に着目しながら、作中で人と人がすれ違ってしまうシーンなどについて、できるだけ細かく解説してみたいと思う。

 特に、筆者が誇張なく自分のことのように感じて、共感させられたキャラクター「高松燈(たかまつ ともり)」の目線に寄り添って、なぜそう感じてしまうのか?
 なぜそんな行動をとってしまうのか?などなどを書き綴っていきたい。

 なお、9月3日(日)10:30よりABEMAにて『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』の一挙配信が予定されている。無料で視聴できるので、ぜひこの機会にご視聴いただければ幸いだ。

『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』(マイゴ)考察:現代の人間関係の教科書として見る_001

文/Leyvan

※この記事では、第10話までの内容およびネタバレを含みます。
本作を知らない人にも読んでほしいところなのですが、正しく『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』の魅力を伝えるためには、ある程度踏み込んだ記述があった方が良いという判断をさせていただきました。


「居場所」を失い、傷ついた人たちの「傷」とは何かを探っていく物語

 本作で一番最初の場面として流れるのが、中学生の女の子たちの「バンド」が解散するシーンだ。
 それはつまり、この作品のストーリーが「仲間との絆」であったり、「居場所」を失うことを体験して、「傷ついた人たち」の物語であることを示している。

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 言い争っている登場人物たちの様子を映しながら、流れ続けるショパンの前奏曲「雨だれ」の激しい旋律が不安をあおる。
 そのあいだ、ピアノの音と重なるように、窓の外では雨音が地面を強く打ち付けていた。

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 バンドのメンバーたちがずっと言い争っている中、ほかのメンバーたちに背を向けながら、「窓の外」を見つめている人がいた。彼女は、ほかのメンバーのことを見ていない。

 つまり、彼女は誰とも向き合おうとしていない。

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 「私は……バンド、楽しいって思ったこと一度もない」

 彼女がバンドメンバーたちに対して、“決定的なすれ違い”を示す言葉を口にした瞬間に、その場の全員が絶句し、「彼女たちのバンド」は崩壊した。

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 その時のことについて、第2話でバンドの一員だった長崎そよ(ながさき そよ)が複雑な表情と仕草から漏らす言葉には、バンドが解散したときの傷ついた気持ちと、その背景にある情念を物語る“重み”があった。

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 「みんな傷ついてるよ」

 そうやって、彼女たちが自分の気持ちを振り絞りながら(あるいは、隠しながら)吐き出す言葉を受け止めるたびに、その言葉の意味を考えさせられてしまう。

今、目の前にいる人をよく見て「向き合う」ことの大切さ

 『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』の物語において、状況を牽引する「鍵を握る人」である千早愛音(ちはや あのん)も、過去に傷を抱えた人物だ。

 自分の優秀さを疑わずに海外留学したものの、現実という壁にぶつかって挫折を経験した彼女は、「やり直し」を求めて「羽丘女子学園」に遅れて入学してくる。

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 「ここで、やり直すんだ」

 自分にそう言い聞かせて、自分を奮い立たせている愛音。

 ちょうどそのときに、目の前でマイペースに石を拾っている高松燈(たかまつ ともり)と出会う。

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 愛音を見るなり、そそくさと立ち去っていく燈。

 これが愛音と燈のファースト・コンタクトだった。

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 登校初日に、一度会ったことのある燈を見かけて、愛音はおもわず声をかけてはみたものの、どこか遠慮がちになっている。

 愛音は、うまく新しい環境に馴染めるように、まわりをよく見て、様子をうかがって、あまり「自分」を出しすぎないように、自分がうまく人と仲良くなれるように、もう一度、「居場所」を見出そうと必死になっている。

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 愛音には中学時代に生徒会長を務めるほどの積極性と協調性、行動力があって、それは間違いなく彼女の強さであり、大きな武器だ。
 ちゃんとまわりを見渡して、まわりに溶け込もうと努めている。しかし、このときの愛音は、とにかく自分のことばかり考えている。

 自分、自分、頭の中は「自分でいっぱい」だ。

 自分の力ではダメだった、という挫折の経験が彼女を必要以上に急かすと同時に、気持ちを萎縮させてしまっている。
 はやく自分の居場所と自信を取り戻さなければいけないと焦っている。

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 「みんなバンドやってんだもんね……私もやらなきゃ」

 みんなと一緒じゃないといけないと焦っている愛音には、「自分」を押し殺してでも、まわりに合わせないといけない、そんな不安がひろがっているように見える。

 そんなときに、愛音は思いがけない出会いをした燈のことが気になった。

 自分以上に自信がなさそうで、おどおどビクビクしている様子の燈が気になって、「この子は人気があるみたいだし、バンドに誘えば私も目立てるかも」と、打算的に近づこうとした。

 そうして、愛音が燈に興味を持ったことによって、運命の歯車がカチリと音を立ててかみ合い、回り始める。

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 クラスのマスコット的存在の燈を誘ってバンドを組めば、自分も目立てる……そんな自己中心的な考えかたではあるものの、愛音は燈に対して、「一緒にバンドをやろう」と声をかける。

 しかし、燈は訳ありな様子で、その誘いを頑なに拒む。

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 「バンド、やっても……またダメになる、から……」

 愛音は、そんな風に落ち込む燈を「自分なりのやり方」で励まそうとして、燈をカラオケに(半ば強引に)連れ出した。

 持ち前の積極性と行動力を発揮して、燈の手を力強く引っ張った。

 そして、落ち込んでいる燈に次の言葉を伝えた。

 「でも、またダメにならないように頑張ればよくない?」

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 「え?」

 ずっと、うつむいていた燈の表情が、明るく輝く。

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 「一回ダメになってもやり直せるって思わないと」

 学校でのどこか不安げで愛想笑いな愛音とは違って、とても真剣な眼差しで、真摯な言葉。

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 「人生長いんだし、やってけないよー?」

 愛音は明るく振る舞おうとしているが、このときの愛音の表情は、強がりや戸惑いの色を隠せていない……そのように見える。

 続けて、愛音は燈に対してこのように伝えた。

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 「今度は奇跡的にめちゃくちゃいいメンバーに出会えるかもしれないし。あー、私がそれとは限らないけど。でもバンドはやってほし~♪、なんて」

 強気なんだか弱気なんだかよくわからない様子で、愛音は愛音なりに燈を必死に励まそうとしているようだ。

 燈は、そんな表情を見て、その言葉に込められた愛音の気持ちを燈なりに汲み取って、愛音に歩み寄る。

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 「じゃあ……一生、バンドしてくれる?」

 いやいや、それはいくらなんでも重いよ!と“普通”なら思うだろうし、愛音も、驚いた様子を見せつつも、「え?一生?」と笑ってごまかした。

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 それを見て、燈はすぐにその場から飛び出していってしまった。

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 このとき、なぜ燈は飛び出していったのか?

 要するに、愛音はどちらかというと自分に言い聞かせるため、自分に向けてその言葉を放っている。
 愛音が見ているのは自分。自分のことばかり考えているし、目の前の燈のことをちゃんと見ていない。

 だけど、それを燈は「自分に言ってくれている」ものだと思い込んで、「この人ならわかってくれるかも」と、歩み寄った。

 そのことに愛音は気が付かず、燈の真剣な思いを込めた(思い込みすぎなのだけど)言葉を受け止めずに「え、急になに?」と、愛想笑いをしてしまう。

 それを見て、燈は、「ああ、自分と本気で向き合ってくれているわけではない、自分に踏み込んでくれているわけではない」と感じて、飛び出していった──。

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 愛音は、そんな燈の様子を見て、「相手のことをちゃんと見ていなかった!そんなつもりじゃない!」と、すぐに燈を追いかけるのだが……。

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 飛び出していった燈は、「どうせまたダメになる」……そんな気持ちが溢れてしまったのだろう。

 燈のそんな気持ちを感じ取った愛音はすぐに燈を追いかけて、悲痛な表情で燈に精一杯の謝罪をする。

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 「ごめん、笑ったりして」

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 「ううん……変なことを言ったのは私だから。バンド、誘ってくれてありがとう」

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 「でも、ごめんなさい」

 お互いの気持ち、お互いの言い分をしっかり伝え合って、向き合う。
 その結果、ここでは、二人はぶつかりすぎたり、決定的にすれ違うことなく、自分のことも相手のことも受け止められた──という流れになっている。

 このシーンのやり取りのポイントは、すれ違いがあったものの、愛音が燈の様子/ 心情を即座に察することが出来たというところが非常に大きい。これはどういうことかというと、愛音が過去に挫折を経験して、人の痛みだったり、何に対して傷つくのかを想像できるようになったことで、燈のことをちゃんと見て、受け止めて謝ることができたということだ。

 相手の言葉や表情、仕草が、どういった意味を持つのか?

 このように、本作では、こうしたキャラクターのやり取り一つ一つに、相手の気持ちを想像するための“情報量”が埋め込まれている。そして、これは相手のことをちゃんと見ていないと見逃しがちなこと(現実世界もそうであるように)でもある。

“普通”とか“あたりまえ”ってなんだろう

 先述したように、『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』は、他人とのふれあい、交流することを疑似体験して考えさせられるアニメだ。

 そういう目線を持ちながら本作を見ていくと、いろいろなことが分かってくるし、キャラクターたちにもより一層感情移入をしてしまうのだが、それは、バンドのボーカル担当である高松燈(たかまつ ともり)が作る歌詞からも伺うことができる。
 
 今度は、そんな燈の目線(そして、燈が書いた歌詞)で、本作の物語について考えていきたい。

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 まず、たいへん興味深く、燈について知ろうとするうえで参考になったのは、エンディングテーマ曲「栞」の歌詞だ。

 燈が音楽バンド「MyGO!!!!!」のボーカルで、作詞も彼女が担当していることから、MyGO!!!!!の楽曲には彼女の気持ち、彼女の「自分らしさ」が色濃く反映されていると見ていいだろう。

 この解釈をもとに、これから先は燈のことを見つめていく。

 とても温かみのある歌で、NHK「みんなのうた」で流れていても自然と溶け込みそうな、人の気持ちに寄り添ってくれる優しい歌。

 この歌が燈の気持ちを表現していて、燈の目線から見た作品の世界、MyGO!!!!!のみんなのことを歌っている歌であることはほぼ間違いない。

 そして、それだけではなく、これは愛音や燈のような気持ちを抱えて生きている現代人、つまり「現実のわたしたちに向けた応援ソング」だとも言えるだろう。

“普通”とか“あたりまえ” ってなんだろう
今 手にある物差しでは
全然上手く測れなくって

作詞:織田あすか(Elements Garden)
作曲・編曲:藤田淳平(Elements Garden)

 どうしても自分の物差しで物事を捉えて、考えて、自分だけではなく他人のことも測ろうとしてしまうから、人はなかなか分かり合えない。

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 燈の目線では、なんだか自分の気持ちとほかの人の気持ちが合わない。「みんなといるのに独りみたいな」……彼女にとっては、そう感じることが多いようだ。

 燈は、まわりの人とは感覚が違うこと、同じものを見たり、聞いたりしても、みんなと同じ気持ちになれないことに悩んでいる。
 クラスのみんながドラマの感想を言い合っているとき、みんなは「泣いた」と言っているけれど、燈は自分が思ったとおりに「こわかった」と伝えてみるも、共感を得られない。

 自分はみんなと同じじゃない? 自分は、“人間じゃない”?

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 「人間になりたい」

 それが、燈が感じていたこと、そして今の彼女の大きな悩みだった。

 他人と違う感覚、他人と違う感情、他人と違う自己。

 燈は、そんな自分の気持ちをノートに書き続けていた。

「自分のせい」だと思い込みすぎることが、自分自身を傷つけてしまう

 燈は、自分自身を見つめ続けて、自分の共感性の薄さ、感情の薄さ、情動の薄さについて思い悩む一方で、こうだと決めたら絶対に譲らない「自分」の強さ、言い換えれば「意志」の強さを持っている。

 とてもこだわりが強いので、ひとつのことを決めたらそれをずっと貫く。

 ひとつのことへのこだわり、それにはいい面と、あまりよくない面がある。

 あまりよくない面が、「思い込み」の激しさだ。

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 みんなが安心できる居場所だった「CRYCHIC(クライシック)」というバンド。

 燈は、それが「自分のせい」でダメになったんだと思い込んでいた。

 自分のせいだ、自分がみんなの居場所を「ダメにした」。

 そんな気持ちでいっぱいになっている。

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 燈は責任感がとても強く真面目だから、何でも背負いすぎてしまうんだと思う。

 要するに、燈は「頑張りすぎて」しまった。

 「自分を責めすぎる」ことが、燈の「傷」。

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 自分のせいだという思い込みが強すぎるあまりに、「自分の歌はダメだ」と“意識しすぎて”しまった。
 その結果、「ダメ」という言葉や、他人から否定的な対応をされると敏感に反応してしまう。彼女の様子を見ると、そのように受け取れる。

 また、「あたりまえ」という言葉にも反応した様子から、燈は「あたりまえ」という言葉を意識している、気にしていることがうかがえる。これは「栞」の歌詞にもあるとおりだ。

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 燈のことをずっと気にかけて、燈のそういう繊細なところをよく理解している椎名立希(しいな たき)は、燈の歌に感動して、自分では叫べない気持ちを燈が代弁してくれている──そう思って燈のことを守ろうとする。

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 燈が否定的な言葉に反応して怯えてしまったとき、立希はすぐに「ごめん!そういうつもりじゃないから」という姿勢で優しく接するなど、燈をよく見て、常に気を配っている。

 燈は特定の言葉や状況に反応して、過去の嫌な記憶を思い出す。「ダメ」と意識させるものを感じ取る度にフラッシュバックを起こしている。

 記憶した映像や音声が脳裏に浮かび、そのときに感じていた気持ちに戻ってしまうことがつらくて、怖い。そんな状態になっている。

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 CRYCHICのリーダーで、バンドメンバーたちの精神的支柱だった豊川祥子(とがわさきこ)と出会ったときの記憶、祥子に自分がノートに書いた言葉を褒めてもらったときの記憶。

 そして、ノートに書いた言葉を祥子が歌として弾き語りしてくれたときの記憶。

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 それが美しい記憶だとしても、「自分がダメにした」と思い込んでいる燈には、そのことを思い出すのが、つらい。そういった側面もあるのだと思う。

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 仲間との楽しかった思い出も、自分がダメにしてしまった今となっては、もう思い出すことがつらい。

 そうやって、自分のことをダメだと思い込みすぎてしまったせいで、今の自分に自信がなく、自責の念から「自分がまたダメにする状況を作ってしまう」と、そのことを極度に恐れている。

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 だから、最初から自分じゃダメ、バンドをやってもダメ、「バンドはもうやらない」と、自分から否定することで、傷つくことから逃れようとしている。

 これは、以前に『ぼっち・ざ・ろっく!』に関する記事で触れたことにも通じる話なのだが、「やってはいけないことをしてしまう」自分に対しての信用の無さから、どうしても自信が持てなくなってしまう。自分で自分が怖いからこそ、消極的で自己否定的なのではないだろうか。

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 「何かが欠けているのかな、人間として」

 「みんなみたいに、大事なものがない」

 消え入りそうな声で自分のことを語る燈の言葉には、人に対して“あたりまえ”に共感したり、泣くことさえできない「自分への失望」、あるいは「諦め」が込められているように思う。

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ライター
ゲーム、模型、ファッション、ドール、オーディオなどさまざまなジャンルの沼を渡り歩くスワンプウォーカー。関心のあるものに後先考えずに全てを捧げる狂戦士。手がけた代表的な記事は 「人はなぜ少女にメカをくっ付けるのか」 「最高のゲーム用ヘッドフォンを求めて」など。
Twitter:@Leyvan44

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