スパイダーマンになれる──。
もし『Marvel’s Spider-Man』の魅力をひと言で語れ、と言われたら筆者はこう答えるだろう。
コントローラーを握った瞬間、「自分ではないすごい何か」になれるというのは分かりやすいゲームの魅力だ。そして『Marvel’s Spider-Man』は、言わずと知れた超有名ヒーロー・スパイダーマンで“それ”を可能にしてくれた。大げさに表現すれば「ヒーローになりたい」という願望を叶えてくれた作品……とも言えるかもしれない。
ついに発売を迎えるナンバリングの続編『Marvel’s Spider-Man 2』でも、その根幹の魅力は変わっていない。今作でもプレイヤーはスパイダーマンになり、ニューヨークの街を飛び回り、悪名高きヴィランたちに立ち向かい、ときどきジョークで笑う。
では、そこに新鮮さはあるのか? この答えはイエスだ。“ふたりのスパイダーマン”の切り替えが可能になっていたり、ピーター・パーカーが“シンビオート”の力を振るっていたり、またヴィランでは「クレイヴン・ザ・ハンター」や「ヴェノム」が出演したり……と目に付くポイントはたくさんある。
そして正直なところ、「変わっていない」という表現をすべきかどうか、筆者は迷った。
オリジナルの初代『Marvel’s Spider-Man』が発売されたのは2018年。この約5年間でハードウェアもPS4からPS5へと移り、いわゆる“大作ゲーム”に求められるクオリティも当時と比べてさらに跳ね上がっている。その上で、好評を得た前作と同じくらいプレイヤーを満足させるには、実のところ相当「変化している」必要があると思うからだ。
しかし本作はそのハードルを越え、あの『Marvel’s Spider-Man』の続編としてふさわしいタイトルに仕上げられている。今回はSIEから発売前にコードを受領したため、ゲーム序盤の印象的なシチュエーションを中心としつつ、先行プレイを通じて感じたその魅力をお届けしていきたいと思う。
※株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントから商品の提供を受けています。
※記事中のスクリーンショットはいずれもPS5にて「忠実度優先」の設定で撮影したものです。
見ごたえ抜群の演出と、アイデア盛りだくさんのシチュエーション
まず筆者が考える本作最大の魅力……それは圧倒的な「演出」による魅せ方だ。
誤解を招かないように補足しておくと、本作はシステム面でも非常に洗練された作品であるし、過去の『Marvel’s Spider-Man』シリーズタイトルと比べても多岐にわたる面で進化を遂げている。ただそういったシステム周りの話をする前に少しだけ、衝撃を受けたメインミッションのお話を少しさせていただきたい。
ゲームスタート後、すぐに訪れるのがボス「サンドマン」との戦闘だ。ピーター、マイルズの“ふたりのスパイダーマン”による共闘が開幕と同時に見られるのも嬉しいポイントのひとつだが、それに加えてこのボス戦はスケール感がすごい。サンドマンの巨体もさることながら、過去作で駆け回ってきた街の一角が砂に埋もれてしまっている様子は、その脅威を非常にありありと表している。
また、ボスバトルの終盤ではピーターとマイルズが並んで戦うシーンも用意されている。ふたりのスパイダーマンを切り替えながらストーリーを進めていくのは今作の大きな特徴のひとつだが、同時に自動で操作されるキャラクターとの共闘シチュエーションも豊富に取り入れられており、その演出も目を引くものがあった。
その“共闘”という意味で強く印象に残っているのは、メインストーリーの序盤で描かれるマイルズとブラックキャット(フェリシア)の共闘シーンだ。ここでのブラックキャットはテレポート可能なポータルを作り出せる魔法の杖を所持しており、戦闘中も突然マイルズの前に現れて敵を打ち倒す。
映画のように、という言葉がピッタリなほどキマっている協力アクションだが、この間にプレイヤーに特別な操作は一切要求されていない。そのため「相手が合わせてくれた」というイメージを抱きやすく、一緒に戦ってくれているんだな、と自然と心強く感じられるのが本作の共闘の魅せ方として優れていると感じた点だ。
もうひとつ、このミッションでインパクトがあったのは共闘に入る前、テレポートを繰り返しながら逃げ回るフェリシアを追いかけるシチュエーション。もちろんウェブ・スイング等、おなじみのアクションで街を駆け回るわけだが、途中で彼女が作り出したポータルに飛び込み、なんと自分自身もテレポートしながらチェイスを繰り広げる。
次々に背景が切り替わっていくこの演出、個人的には同じくInsomniac Gamesの『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』を思い起こすところだった。一瞬とは言え、恐らくニューヨークではないであろう氷河にまで飛ばされてしまうのにはさすがに意表を突かれたし、思わず前のめりになってしまった瞬間である。
このほかにも、ピーターとハリーの学生時代を回想するステルスパートがあったり、いきなり音ゲーがはじまったり、遊園地でアトラクションを堪能したり……と、ここで挙げているのはどれも序盤のメインミッションにおける要素だが、その内容は非常に多岐にわたる。その体験のリッチさ、アイデアの詰め込まれ方からは本作に注がれた力の大きさが伝わってくるようだった。
歯ごたえ充分、でも爽快感は健在なバトルアクション
さてテーマをシステム面に移すと、やはり気になるのは本作のアクション部分だろう。『Marvel’s Spider-Man』シリーズの魅力と言えば、スーパーヒーロー・スパイダーマンになりきった超人的なアクションの爽快感にある。
結論から言うと、本作でもInsomniac Gamesらしい“動かしているだけで気持ちが良い”アクションは健在だ。基本的な操作性は過去作を踏襲している点も多く、同時に初代作ではスキルを解放しなければ使えなかったアクションが最初から利用できたりもするため、特に過去作プレイヤーは手に馴染みやすい内容となっている。
ひと口にアクションと言ってもいろいろとあるわけだが、まずは「戦闘」にフォーカスして『Marvel’s Spider-Man 2』の特徴をご紹介していきたい。
バトルシステムにおける要点のひとつは「パリィ」の導入だ。あえて説明するならば敵の攻撃を弾く防御手段のひとつといったところだが、重要なのはパリィの導入によって「パリィしなければいけない攻撃」が生まれたことにある。
ボスはもちろん、一部の“ちょっと強いザコ敵”もパリィを要求する攻撃を手にしたことにより、特にパリィが染みついていない段階における戦闘の難易度は上昇しているように感じられた。くわえて一部の敵は「パリィ不可の回避必須攻撃」も持っているため、ディフェンス面ではよりシビアな状況判断を求められるようになったと言えるだろう。
一方、各スパイダーマンが使えるアビリティやガジェットが強力なこともあり、防御面の難しさはありつつも、ザコ敵の大群を相手にしたときの爽快感は決して失われていない。アビリティや「フィニッシュ・ムーブ」の発動中など、要所で頭を冷やせるちょっとした時間があるのも嬉しいところ。
アビリティについてはそれぞれのスパイダーマンが4種類ずつをセットできるようになっており、ここがピーターとマイルズのもっとも大きな違いとなる。逆に言えば基本的な操作は共通しているため、ミッションごとに切り替わっても動かすのに苦労することはほとんどなかった。
特にピーターがゲーム途中から手に入れる“シンビオート”のパワーを駆使したアビリティはどれも強力かつ、見映えが最高にカッコいい。スパイダー・アームのアビリティとどちらを使えるか選べるのだが、あまりのカッコよさにシンビオート側のものばかり使っていた。強大な力に溺れるというのはこういう感触なのかもしれない……。
「どこでもファストトラベル」が快適すぎてもはや未来
スパイダーマンと言えば、ビルの谷間をすっ飛んでいく「ウェブ・スイング」を代表とする華麗なアクション。そんな映画のイメージ通りの移動をオープンワールドで存分に楽しめた……というのは初代『Marvel’s Spider-Man』が高い人気を得た理由のひとつと言えるはずだ。
こちらも基本的には従来通り、まさにスパイダーマンのイメージを再現した移動が楽しめるというのは過去作から変わっていないが、新要素としてウイングスーツのようなスタイルで飛行する「グライド」が追加されている。
公式発表によるとマップの規模は約2倍にも広がっているという『Marvel’s Spider-Man 2』だが、このグライドの恩恵もあって移動のストレスはほとんどない。実体験を話すと、筆者は今回の先行プレイで「ほぼファストトラベルを使わない」まま、特別に不便を感じることもなくストーリーを進められた。
この背景にはまず、グライドのスピードを向上させる気流やパチンコのような形で“スパイダーマン自身が飛んでいく”カタパルトなど、マップ移動を補助するギミックたちの存在が大きい。単純に便利であるというのももちろんあるのだが、同時に「どう動いたら早く目的地につけるか?」というのがゲーム性に結び付いている面も強いと感じた。
「ここから気流に乗るのが良いか、それともあそこのカタパルトまで行くのが良いか」など、オープンワールドでの移動そのものが“効率化”を計るゲームらしい要素に昇華されている。つまるところ本作では、プレイヤーに「移動がめんどくさいからファストトラベルしたい」と思わせないほど、移動そのものが遊びへと変わってしまっているのだ。
もちろんこれは過去の『Marvel’s Spider-Man』シリーズ作品から受け継がれてきたものであるとは思うが、本作でより洗練されたとは言えるはず。結果としてマップの拡張はただ面積が広くなっただけでなく、遊びの幅を広げることにも繋がっているのではないだろうか。
もうひとつ、こちらも過去作でおなじみの要素だが、市民たちからの通報に代表されるランダムイベントやマップのいたるところに配置されたサブイベントの充実も、オープンワールドの移動が退屈にならない理由と言える。各イベントはクリアすれば経験値が手に入るし、エリアごとのレベルが上がればファストトラベルも解放されていく。
ちなみにファストトラベルは特定のポイントではなく、解放されたエリアなら“どこでも好きなところへ”一瞬で飛べる。この仕様は筆者自身も解放するまで気づかなかったのだが……当たり前のようにこれが実装されているのには、さすがに未来を感じてしまった。
これは後述するが、本作のメインストーリーはなかなかに重い。もちろん先が気になる展開が盛りだくさんなのでグイグイ進めていきたくなるところもあるのだが……その反面、メインミッションばかりを次々に攻略していくと少し思い詰めてしまうときもあるはず。
そんなとき、サクッと遊べるサブクエストやランダムイベントを攻略してちょっとした達成感を得たり、市民から感謝されるのは良い清涼剤になるだろう。
加えてロード時間のストレスがほとんどと言って良いほどなかったことも明記しておきたい。決してすべてがシームレスに続くというわけではない本作だが、そのロードにかかる時間は微々たるもの。ファストトラベルやスパイダーマンの切り替えで待ちくたびれることがないどころか、本当にコントローラーを手放すタイミングさえ見当たらないほどだ。
“悩めるヒーロー”を丁寧に描いた物語には重みがある
さて、最後に本作のストーリーについて軽くお話しておきたい。もちろん今の時点で物語の核になる部分に触れるべきではないし、そのつもりもないが、個人的にかなり惹き込まれるテイストではあったのだ。
たびたび“ふたりのスパイダーマン”という単語を出している通り、本作ではピーターとマイルズのふたりを主人公にストーリーが展開していく。時には一緒に敵と戦うこともあれば、単独で立ち向かう場面もある。
ただ、今作における彼らの描き方で共通しているのは、それぞれがスパイダーマンとしてではなく、ひとりの人間としての問題を抱えている姿が強調されている点だ。
例えばピーターは“メイおばさん”が亡くなっているうえ、ゲーム冒頭でいきなり失職してしまうし、恋人のMJも務めている新聞社の体制変更のあおりを受けている。再会した親友、ハリー・オズボーンとの再会は心温まる一幕なのだが……これ以上は控えておきたい。
一方のマイルズは父親の仇である「マーティン・リー(ミスター・ネガティブ)」が、今作初登場の「クレイブン・ザ・ハンター」の手によって脱獄してしまい、とても心穏やかと言える状態ではない。彼自身も、迫る受験の重圧から逃れるように“スパイダー業”へ打ち込んでいるように筆者の目には映った。
ちなみにこの「クレイブン」というヴィランが非常にカッコよく、悪党ではあるのだが個人的には本作でもトップクラスに好きなキャラクターになってしまった。ゲーム序盤では彼の手によって数々のヴィランが脱獄してしまうのだが、なんとその理由は自らの手でヴィランたちを“狩る”ため……という戦闘狂っぷりがたまらない。
ゲームの話題からは少し逸れるが、彼を主人公にした映画『クレイヴン・ザ・ハンター』は日本でも2024年の公開を予定している。本作を遊んで彼に心奪われた同志は、ぜひこちらも楽しみに待っておこう。
ピーター&マイルズに話を戻そう。実は本作をプレイする前に、本作のシニアクリエイティブディレクター・Bryan Intihar氏から「キーワードは『バランス』です」という興味深いコメントをインタビューを通じていただいていた。
この「バランス」というワードはゲーム中でも印象的な回想シーンを通してプレイヤーに伝えられるし、その後のストーリーのそこかしこでも想起させられる場面が少なくない。ヒーロー活動と私生活の両立のバランス……まず思い当たるのはそういった観点だが、単にそれだけでは言い表せられないほどの意味が込められているように思えた。
抽象的な表現になってしまうが、今作では特にピーターやマイルズ、ヒーローである彼らの“人間的”な部分にフォーカスしたシナリオが描かれていたように思える。カッコいいヒーローの姿というよりは、人間の暗さ、そして泥臭さに焦点を当てたシナリオだった……ような気がしている。
もちろん捉え方は人それぞれであるし、何よりも実際にプレイして感じたものがすべてなので、プレイを検討されている方には筆者の言葉に引きずられすぎないで欲しいと思う。ただ個人的には『Marvel’s Spider-Man 2』の物語は好みにハマるものだったし、自分以外の遊んだ人の感想を聞いてみたいと強く感じた。
「名作の続き」を作るというのは簡単ではない──。これは本作に限らず、またゲームという媒体に限らず、さまざまなエンタメを見る中でたびたび筆者が感じていることだ。
実は本作をプレイする前、自分が「『Marvel’s Spider-Man』の続編を作れ!」と言われたらどうしようか、と考えてみたことがある。が、満足できる答えは出せなかった。
乏しい脳みそを振り絞って「スパイダーマンの新作ゲーム」でやりたいことを考えてみたのだが、結果として大半が初代『Marvel’s Spider-Man』でできてしまっているのでは? という壁にぶつかってしまったのである。
そういう意味で、本作は筆者の期待をはるかに超える作品だった。「スパイダーマンになれる」というシリーズの魅力をまったく損なうことなく、そこには確かに新鮮な楽しみがあった。
代表的な要素で言えば、冒頭でも挙げた「ふたりのスパイダーマン」や「シンビオート・パワーを使ったアビリティ」、「クレイヴン、ヴェノムの登場」などになると思うが、それ以外にも信じられないほどのアイデアが詰め込まれ、本作は成り立っている。本稿の序盤に“メインミッションの演出”の話をしたのには、そのスゴさを少しでも届けたいという想いがあったからだ。
偉大な前作のエッセンスを受け継ぎ、確かな進化を遂げた『Marvel’s Spider-Man 2』がひとりでも多くの人に届くことを願いたい。