名実ともに“国民的”RPGな『ファイナルファンタジー』(以下、FF)シリーズ。でも、「実は初期の作品とか遊んだことなくて……」という方、意外といらっしゃるんじゃないでしょうか? 正直なところ、筆者もそのひとりなんです。
お恥ずかしながら、筆者は「RPGが大好き!」と言いつつ、なぜか本当に『FF』シリーズだけまともにプレイできていません。同じRPGでも、日本ファルコムさんの作品などを中心に育ったのでプレイする機会を逃した……といえばそれまでなのですが、ちゃんと触った『FF』は『FF7』と『FF10』だけ。つまり、大変恐縮ですがドット『FF』のプレイ経験が一切ないのです!
ただ、ドット『FF』シリーズは植松さんによるBGMが大好きで聞いたり、爆速で進むせいで何もストーリーが分からないRTAなどでやたらと見たことだけはあります。
そんなRTAをプレイしているわけでもないのに、リアルタイムに追われる「アクティブタイムバトル(以下、ATB)」が筆者は大変に苦手。そんな理由で『FF』を避け続けてきたのですが、実は『FF4』は初めてATBが採用された元祖そのものなんです。ATBに抱く苦手感を、元祖で克服してやろうじゃあないですか!
……と思って意気込んでプレイを開始したんですけど、ATBどうこうより「『FF4』を生きる登場人物の生き様」がぶっ刺さったので、ストーリーに関することを書くことにします。
ということで、本記事で華々しくドット『FF』デビューを令和の時代に飾らせていただきます。どうぞお付き合いくださいませ。
※本稿には『ファイナルファンタジーIV』のストーリーに関するネタバレが一部含まれています。あらかじめご注意ください。
文/八羽汰わちは
いきなり肩書を失うバッドエンドみたいな導入を浴びた正直者主人公・セシルを愛でたい
さあ始まりました『FF4』! 舞台は青い空に浮かぶ船……なるほど、どうやら飛行船からスタートした様子。『ルーンファクトリー4』のイントロを思い出しました。
この真ん中に居る、見るからに悪役っぽい黒いキャラが今作の敵かな?名前は「セシル」って言うのか。なんか聞いたことあるな……。
いや操作できるし、これ主人公じゃないか!そういえば「セシル」って主人公の名前でしたね。こんな悪役みたいな見た目だったのか!?
そう、彼こそが『FF4』で主人公をマジで立派に務める暗黒騎士・セシル。主人公なのに“暗黒”騎士です。
セシルは飛行艇団「赤い翼」の部隊長という立派な中間管理職な肩書きを持ちながら、上司であるバロン国を治める陛下の無理難題に悩まされている様子。心が綺麗な青年が、命令に従って罪のない人々に対し暴力を振るわなければならなくなってしまう……縦社会のつらいところです。
しかし、縦社会もなんのその。セシルくんはクソ真面目なので、上司に向かって反発します。なんか王道ファンタジーRPGの始まりとは思えない導入だな、『FF』ってこういうものなんですか……?
そしてゲームが始まったと思ったら、いきなり選択ミスで招いたバッドエンドみたいな文字ロールが始まっている。主人公の見た目もラスボスっぽいし、もしかしてエンディングを見てたのか?
「中古でゲームを買ったらいきなり闇落ちエンドを踏んだ」みたいなプロローグを終えて、再び操作可能になってからがいよいよ本番。ランダムエンカウントが襲いかかるワクワク感満載のフィールドが眼前に広がり、RPGらしくない導入から一転、一気にRPGらしくなりました。
セシルとよく似た見た目をした、のちに裏切る相棒のカインとともにミストの村へ旅立ちましょう!(セシルくん、相棒にも裏切られるのか……)
パーティーメンバーが“全員死ぬ”波乱の展開。そしてセシルの素顔とご対面
しかし、セシルたちが村に入った瞬間、炎上。人を傷つけるのはおかしいと反発して肩書きを剥奪されたセシルでしたが、皮肉なことにまたもや自身のせいで村人を巻き込んでしまいます。この男……クソ真面目が故に幸が薄すぎないか? いきなり気の毒になってきた。
この事件の被害者であるとともに、のちに仲間となる可愛い幼女・リディアから出たムキムキマッスルな召喚獣で攻撃されてしまうセシル。割と終始こんな感じで『FF4』は展開されます。セシル、強く生きろ……。
その後は踏んだり蹴ったりの展開が続きながらも、RPGらしく順調に仲間を増やしていきます。しかしそれも束の間、船旅道中にトラブルに巻き込まれ、セシル以外が全員死にました。
うそだろ。一気にパーティメンバーが全員死ぬとか、そんなことある?
一人ぼっちになってしまったセシルは、流れ着いた先で「ミシディア」に漂着。しかし、ミシディアは冒頭でセシルが襲撃した村そのもの。
当然、住人たちからは因果応報と言わんばかりの心ない罵詈雑言を投げかけられ、カエルにされたり豚にされたり毒を盛られたりもする。この罠、「村人全員に話しかけたい病」を患っている筆者には大打撃でした。
心身ともにすでに焦燥しきったセシルに対し、追い討ちが止まりません。果たして彼が報われる日は訪れるのか?
ところで、正直に告白すると筆者のゲームプレイに対するモチベーションは結構、主要キャラクターに好みな見た目のキャラが居るかどうかで左右されます。
『FF4』は肝心な主人公のセシルの顔が見えないので、プレイ開始早々は「この悪役みたいな見た目を操作するのか……」と思ってしまっていました。ほんの少し、最初だけね!
そんなセシルの“暗黒騎士”っぷりにも慣れてきた頃、なんと衣装チェンジイベントが発生します。今こそ、血塗られた過去と決別するとき。
“暗黒騎士”だった昨日までの自分とはおさらば。少年漫画よろしく激アツ展開を繰り広げる自分VS自分の戦いをきっかけに、セシルは聖騎士“パラディン”へとジョブチェンジを果たします!
雑魚殲滅でお世話になった専用コマンド「あんこく」を犠牲にな!(この犠牲が結構困るんだよな……)
こうして『聖闘士星矢』みたいな見た目になったセシル。暗黒騎士とは一転して白っぽい衣装になって主人公オーラを放っているけど、一体どんな顔なんだろう?ステータス画面から顔グラを見なきゃなー。
えっ…………………誰!?セシル、中身そんなイケメンだったんか!?!?しかもロン毛の男だと…………?予想外な見た目すぎないか……?イケメンはなんぼあってもいいからな。ありがとうございます!!
おそらく体感ゲーム内進捗30%ぐらいの段階だと思うのですが、ようやく主人公の見た目が主人公らしくなりました。1991年に初登場したネタに対して、2024年に衝撃を受けています。ここめっちゃ「初見の感想」っぽいですね。
パラディンになって素顔もオープンになったセシルに対し、あれだけボロクソ言っていたミシディアの人々の態度もやや軟化していきます。直後に挑むことになるダンジョン「磁力の洞窟」の難易度は全然優しくなかったけど。
いやあ、良かった……苦難続きだったセシルの旅も、ここから先は“光”の未来が待っているかもしれない!それいけセシルくん!がんばれセシルくん!
セシルを取り巻く仲間は幼女からイケオジまでよりどりみどり! なお半数がロスト!?
さて、文中で「仲間はセシル以外全員死んだ」と言いましたが、『FF4』はとにかくパーティメンバーの出入りが激しいゲームです。
パーティに加入するキャラは合計12人という情報をなぜかプレイ前から知っていた筆者は、「いやいや、そんな『スターオーシャン』や『幻想水滸伝』じゃないんだから……SFCのRPGでそんなに仲間多くても育成しきれないし、ストーリーに入り切らないでしょ?」などと思っておりました。
大丈夫、全員に見せ場があります。
打線は常に最大5人ですが、出入りが激しすぎるので同時に5人以上仲間になることはありません。しかし見せ場がある……ということは?
つまり、仲間になったメンバーが軒並み死んでいくということです。
いや死人が出過ぎだろこれは!!
リディア・テラ・ギルバート・ヤン・パロム・ポロム・シド……今羅列したキャラクターたち、全員1回死にます。これには作中で死なない(裏切りはする)カインも「どいつも死に急ぎやがって!」とご立腹。
半数以上ロスしてるの、どういうことなんだ。『FF』ってこんなに死人が出るものなんですか……?
とはいえ、先ほど「“1回”死ぬ」と言いましたね。そうです、実は生きているので1人を除いて全員生き返ります。最終決戦ではご覧のとおり集結することに。
セシルは「殺したって死ぬような人じゃない」たくましい仲間たちに恵まれたようで、一度は不慮の事故でパーティを離脱したメンバーも最終決戦では再集結!「お前生きてたんかいッッッ!!」ってツッコミを何回でも入れられます。
出会いと別れを繰り返して、セシルは聖騎士として歩みを進めていく。
本作ではその出入りの激しさのあまり、ときには“男しか居ない”パーティになることも。
いやこれ、RPGにあるまじきパーティになってるじゃねえか!美少女はどこだよ。むさ苦しいにも程があるだろ……と言おうとしたけど、セシルが若いからギリギリセーフかも。いかん、あまりの入れ替わりで基準がガバガバになる。
ちなみにこのパーティメンバー、「伝説のパーティ」と『FF』ファンの間では呼称されているようです……愛すべきパーティだなぁ。
友愛・恋愛・家族愛・テラ愛
RPGといえばキャラクターがよく喋り、濃いストーリーが展開されるものですが、筆者がRPGに惹かれる要因もそこにあります。新しいRPGをプレイし始めると、まず最初に「誰を好きになるかな?誰に感情移入するかな?」とワクワクします。
ここまで、あまりの入れ代わりの激しさと実は生きてた展開の多さにやられて、“死”という人が生きるにあたって避けられない重いテーマを少々軽く語ってしまいました。が、『FF4』のキャラクターたちは幼女からおじさんまで魅力あふれる粒ぞろいで構成されています。
だからこそ、死なれると寂しすぎて困るんですよ……!パーティの枠が空くのはもちろん、プレイヤーの心にも穴が空いちゃうよ!!
「大丈夫」などと供述しつつ、この後2コマ漫画みたいなお決まり展開をしていくギルバートや、幼女だと思っていたらとんでもない美人になって帰ってきたリディア……など、RPGらしく『FF4』のパーティは個性派揃い。
一方、やっぱりセシルは何回噛み砕いても堅物な王道主人公かも。
彼・彼女らはセシルをサポートすると同時に、自身の問題にも向き合っていきます。
たとえば、終盤で仲間になって最終決戦まで居座る「最初から居ましたよ」と言わんばかりの馴染み方を見せるエッジは、魔物となった両親と戦い、別れを経験。
『FF4』は家族愛、恋愛、友愛……少ないテキストで考えさせられるドラマが繰り広げられます。
そして特筆しておきたいキャラクターが、『FF4』だと筆者的にはダークホース枠だった「テラ」です。
ここまでセシルを中心に語ってきていますが、実は実際のプレイ中ではテラが結構なお気に入りになりました。彼は娘・アンナの死のきっかけとなったゴルベーザに対して復讐心を抱き、その身を文字通り復讐に注ぎ込んだ老齢の魔法使い。
老体に鞭打ち、危険だと止める周囲の意見も聞かずに一人で究極魔法「メテオ」の会得に飛び出していく、一途かつ熱いハートを持っています。無茶しやがって……。
娘を若くして亡くしているからか、パロム・ポロムの死亡イベントでの一言もグッと来ますね。ちなみにこのシーン、最大5人パーティなのに6人も出てきたので「絶対に誰か1人死ぬだろ」と察しました。
テラはゲーム性能的な意味でも、序盤で仲間になる割には序盤とは思えない破格の魔法を一通り会得しているので、戦力面でも頼りになります。
そんなテラですが、最期は自身の生命力をすべてMPに変換し、無事に会得した「メテオ」でゴルベーザに攻撃。この行動が致命傷となり、テラは他の仲間に看取られながら道中で倒れることに。
「アンナの復讐」という目的が終始一貫しており、男気、いや親心溢れる行動には思わずスタンディングオベーション。そこにシビれる!あこがれるゥ!……ということで、筆者は一貫性ある行動を魅せたテラに惹かれました。
このときテラが与えたダメージは決して無駄だったわけではなく、のちにセシルの助けとなります。
それにしても、他キャラが軒並み「実は生きてた」な展開を繰り広げていくなか、最終決戦になってもテラだけ再登場する気配が一切ありません。「テラは本当に死んだのか……?」といよいよ『FF4』の死に対して疑心暗鬼になっていたころ。
テラ!?テラじゃないか!!生きてたの!?どっち!?魂だけ!?
……と、このように生死不明の再登場をされたので『FF4』クリア後に一応調べたところ、作中で唯一本当に死んでいるパーティメンバーがテラだそうです。テラ……アンナさんと幸せにな……!
ピクセルリマスター版は快適そのもの。ここが沼の入口だったのか……
気に入ってたテラが死んじゃった……悲しくなってきちゃったかもしれないな……。
うおおおおおお!!「宝箱を開けるほど楽しいことは他にない」と今ここで断言する!!楽しい!楽しすぎるぞ『FF4』!!!
うっひょー!!上から多分イケメン・美女・イケメン・美女・イケメンと実にRPGらしいパーティになってきた!!これが最終メンバーか!ラスボスまで一気に駆け抜けるぜ!待ってろゴルベーザ!!
隠し通路探しもやめられない。
『FF4』、もはや歩いてるだけで楽しい!BGMが良いからランダムエンカウントも全然苦痛じゃねえぜ!
ところで、本記事をご覧の読者様のなかに、“コンプリート収集癖”がある方はいらっしゃいませんか!?
出入りが激しい『FF4』ですが、コンプ癖のある筆者は冒頭でカインがいきなり裏切ったところで真っ先にアイテム欄を確認しました。そう、装備持ち逃げが発生していないかの確認です。
結論を言うと、ピクセルリマスター版ではアイテム持ち逃げが発生しません。「あまりに『FF4』が楽しいのでコンプまでプレイしよう……!」という決意を後押ししてくれます。
1個のアイテム回収を逃すだけでデータ消してイチからプレイし始めるような筆者になんて優しい仕様なんだ!?こんなストレスフリーな仕様がSFC時代からあるわけないだろ!
と変に意固地になって確認したのですが、こちらピクセルリマスター版からの変更点となっています。
ようやくピクセルリマスター版らしい話が出てきたところで告白しますが、チラチラと映っていたメニュー画面から見えるプレイ時間とギルの数値で「あ、こいつブースト機能使ってやがんな」とお気付きだった読者もいらっしゃるかもしれません。
そうです、筆者は思いっきりブースト機能を使ってプレイしました。
ご覧ください、この獲得ギルと獲得経験値の数値を!パチンコで777揃えたときみたいなジャラジャラ感!当てたことないけど。
初見でブースト機能とか、ミシディアに漂着したばかりのセシル並みに批判を浴びそうな行動ですが、忙しかったので許してください。
ブースト機能は、RPGで最も時間がかかって面倒になるであろう経験値とお金の入手率を最大で4倍まで引き上げる、忙しい人向け『FF4』を生み出す機能です。
RPGって、古ければ古いほど「テンポが悪い」とか「稼ぎが面倒」とかで腰が重くなりがちですが、ピクセルリマスター版は現代人に優しい仕様がてんこ盛りです。おかげでATBがド下手な筆者も不自由なくプレイできました。
ブースト機能最高!実装ありがとうございます!他のRPGもリメイクするとき、ブースト機能実装されないかな……。
まあ、でもこんな感じでブースト4倍にしようが、全滅するときは全滅する。フースーヤの倒れ方面白すぎない?スライムにしか見えない。このモデルの文鎮フィギュア欲しいな。
そして忘れてはならないBGM!こちらもピクセルリマスター版でアレンジが制作されています。
植松伸夫さんが生み出す楽曲、本当にたまりません。ピクセルリマスター版ではサウンドプレイヤーで原曲とアレンジ版の両方を堪能することができるし、ゲームプレイ中でも設定からいつでも切り替えが可能です。
中ボスで流れる「バトル2」って、やっぱかっけぇよね…………。
筆者が『FF』をちゃんと認識したきっかけは、実は『スーパーマリオRPG』のBGM「対クリスタラー戦」。言わずと知れた下村陽子さん作曲のBGMが1から10まですべてが連続ジャンプのノリで光る『スーパーマリオRPG』ですが、当時「対クリスタラー戦」のみ異彩を放っていたことを強く記憶しています。
あのイントロからメロディまで、「なんかこの曲、全然『スーパーマリオRPG』じゃねえぞ!?」という感覚に陥ったまま調べ、『FF4』の「バトル2」という大名曲に辿り着きました。
そんな筆者にとっては『FF』の第一印象でもあったBGMを、ついにその原曲をゲーム内で浴びることになって感無量です。なんでもっと早くプレイしなかったんだ。俺はこのままサントラを買うぞ(この後買いました)。
BGMも良いし、話も面白いし、キャラも良いし、テンポも良いし、大げさかもしれませんが正真正銘初プレイだった筆者は、ピクセルリマスター版『FF4』に対して新作ゲームを遊んだような感覚を抱きました。
筆者のように「古い『FF』やったことねーよ」って方も、逆に「原作死ぬほどやったよ」って方も、とにかくピクセルリマスター版を遊んでみてください。
筆者は本作のプレイ経験を通じて、ようやく『FF』1~3、5~6をプレイしようと決意しました。せっかくなので、すべてピクセルリマスター版で楽しませていただきます。
あと、世間が『FF7 リバース』で盛り上がっている時期に『FF4』をめちゃくちゃ楽しむという天邪鬼な体験をしたので、本稿を終えたらとりあえず『FF7 リバース』に飛び込んできます。
それでは、新たに光の戦士となった筆者の記事にここまでお付き合いいただいた読者の皆様へ……「せんきゅー!」。
……
あ、まだブラウザバックしないでいてくれたんですね!ありがとうございます。
おまけで書いておきたいのですが、ピクセルリマスター版『FF』シリーズでは、キャラクターのアートワークなどを楽しめる「ギャラリー」が収録されています。皆さんもゲーム本編だけでなく、ギャラリーも堪能してくださいね。
…………テラさん!!!???!お前…………そんなんだったんか!?
© SQUARE ENIX
LOGO & IMAGE ILLUSTRATION:© YOSHITAKA AMANO