筆者にとっては、『ファイナルファンタジー』(以下、FF)の ピクセルリマスターシリーズ全6作の中で、『FF3』は最も特別な作品だ。
もちろん他の『FF1』を始めとする他5作も特別な作品だが、それでも『FF3』のピクセルリマスターは別格だ。
なぜなら、それは史上初めて2Dドット絵基準でリメイクされた『FF3』であるからだ。
今まで遊べた『FF3』のリメイクは、グラフィックが3DCGで描き直され、ストーリーにも一部変更が加えられた『ファイナルファンタジーIII (3D REMAKE)』(以下、3Dリメイク)。オリジナルのファミリーコンピュータ(ファミコン)版とは少し異なる味付けが成されたリメイクに限られていた。
あとはニンテンドー3DS、Wii Uの「バーチャルコンソール」のサービスにて配信された、オリジナルのファミコン版。しかし、それも2023年3月28日をもって新規に購入できなくなった。
そんな中で、ピクセルリマスター版『FF3』の価値はより引き上がったと言える。2Dドット絵のリメイク作品なのもさることながら、ストーリーなどもファミコン版基準で、3Dリメイク版とは異なる魅力と見所を持った作品になっているからだ。
実を言うと筆者、3Dリメイク版が初めての『FF3』どころか、自らにとっての『FF』シリーズのデビュー作だった。ちなみに2006年8月に発売されたニンテンドーDS版である。
ピクセルリマスター版は、そんな3Dリメイク版で初めて遊んだ筆者のような人間はもちろん、オリジナルのファミコン版をリアルタイムで楽しんだ世代、果ては初めて『FF3』に触れる人にも幅広く応えてくれる作品になっている。
もし、これから『FF3』を始める気なら、このピクセルリマスターはイチオシもイチオシだ。『FF3』のリメイクを巡る過去の話題も少し交えながら、その魅力を綴っていこう。
文/シェループ
『FF1』を正統進化させ、より自由な遊びを可能にした『FF3』
オリジナルであるファミコン版『FF3』が発売されたのは1990年4月27日。次作『FF4』はファミコンの後継機である「スーパーファミコン」で発売され、以降のシリーズもそれに続いたことから、この『FF3』はファミコン最後の『FF』となる。
なんだか同じ意味が重なり過ぎている気がしなくもないが、それはさておき。
レベル制の廃止を始め、後の『サガ』シリーズの源流となるシステムを搭載していた前作『FF2』から一転。本作『FF3』のゲームデザインは、第1作の『FF1』に回帰している。
単刀直入に言うなら、経験値とレベルの概念が復活した。また、魔法も『FF1』と同じく、レベルごとの回数制に戻っている。さらにストーリー面でも、主人公は名もなき4人の少年たちと、『FF1』にやや近い感じの設定になっている。少年たちの名前もプレイヤーが自由に設定可能だ。
新要素および本作の象徴的存在が「ジョブチェンジシステム」だ。ジョブ(職業)の概念そのものは『FF1』の時から存在していたが、基本的にゲームスタート時に決めたら、後から別のジョブに変更することはできない仕組みとなっていた。
『FF3』では、このジョブをプレイヤーが自由に選択・変更可能に。合わせてジョブの数も20以上と大きく増え、さまざまな組み合わせを試せるようになった。なお、選べるジョブの数は本編を進めていくことで段階的に解禁されていく仕組みである。そして、ジョブを変更しても、プレイヤーの基本レベルがリセットされたり、低下するようなこともない。
逆に言えば、戦闘(特にボス戦)ではジョブごとの特徴を踏まえた戦術・戦略を立てることが試される。このような状況に応じた適切な編成(組み合わせ)を考え、困難を乗り越える楽しさがこのシステムの醍醐味であり、本作を本作たらしめるものとなっている。
ジョブに関係するものでは、魔法にも新種として「召喚魔法」が追加された。幻獣を召喚し、強力な攻撃やサポートを得られるというものだ。
通常の魔法に「白」と「黒」の種類があるように、「召喚魔法」にも「白」「黒」「合体」の3種があり、それぞれ召喚した際の効果が大きく変わってくるようになっている。「イフリート」を例に出すなら、「白」ならパーティ全員を回復させる魔法、「黒」なら敵単体に炎攻撃、「合体」なら敵全体に炎攻撃といった感じだ。
戦闘では「バックアタック」なる要素も追加されている。発生すると左に主人公たち、右に敵という特徴的な構図になると同時に、敵から先制して行動するという不利な状況でのスタートになる。
それ以外にも戦闘では、武器を2つ持てばその分の攻撃が反映されるようにも進歩。いわゆる二刀流による攻めが楽しめるようになった。
二刀流はファミコン版のパッケージイラストのほか、3Dリメイク版のタイトルロゴにも記されているが、まさにシンボルとされているなりのズバズバ、ザクザクな快感が味わえる。ちなみに盾も二刀流にでき、防御力を一気に底上げさせることも可能である。
他にマップ探索でもパーティ全員を「小人」、「カエル」にしなければ入れないエリアが登場。その状態での戦闘を余儀なくされる場面も一部あり、その場合は通常攻撃が通らなくなる分、魔法中心に攻めるといった独自の戦術が試されてくる。
フィールドマップのスケールも倍増。中盤以降に地上世界という新たなフィールドが解禁されるのみならず、その海底も探索することになったりと、文字通りの世界をまたにかけた大冒険が繰り広げられる。並行して素早い移動を可能にする「飛空艇」もゲームスタート間もない時点で手に入る上、ストーリーが進むほど豪華な飛空艇が使えるように。そんな乗り物がどんどんパワーアップし、探索範囲が広がっていく面白さを持っているのも、本作『FF3』をたらしめるものと言えるだろう。
唯一、2Dドット絵でリメイクされずに終わった『FF3』苦難の過去
そんなファミコン版『FF』の集大成とも言える『FF3』。しかし、他の『FF』ピクセルリマスター5作と違い、本作は長らく2Dドット絵基準のリメイクが発売されなかった、ただひとつの作品であった。
この『FF3』のリメイクを巡る動きは、シリーズの経験がほとんど無かった当時の筆者の視界にも飛び込んでくるほどだったのを覚えている。
特に強く印象に残っているのが、任天堂の携帯ゲーム機「ゲームボーイアドバンス」で発売された『FF』のリメイク作品だ。
『FF1』と『FF2』を1本にまとめ、グラフィックに音楽、ゲームバランス面の調整を加えた『ファイナルファンタジーI・IIアドバンス』が発売された後、『FF3』ではなく、その次作である『FF4 アドバンス』が発売される展開を見せたのだ。
ちなみにこれより前にも『FF1』、『FF2』はバンダイ(現:バンダイナムコエンターテインメント)から発売された携帯ゲーム『ワンダースワンカラー』でリメイク版が発売。『FF4』から『FF6』までの3作品も、移植ではあるが『ファイナルファンタジーコレクション』としてPlayStation版が発売されている。
もっと遡れば、1994年にファミコンの新モデル『NEWファミコン』が発売された当時にも、『FF1』と『FF2』を1本にまとめた『ファイナルファンタジーI・II』が発売されている。
しかし、『FF3』だけはどういうわけかリメイクも移植も実現しない。ワンダースワンカラー、ゲームボーイアドバンスで発売こそアナウンスされながらも、どちらも立ち消えとなってしまった。
「なんで『FF3』だけ、全然出ないんだ……?」と、一連の情報が流れた当時の筆者は不思議に感じて仕方がなかった。その理由は2024年現在も電撃オンラインなど、一部ゲームメディアに掲載された3Dリメイク版に携わった開発スタッフのインタビューでわずかに語られている。端的にまとめるなら、技術的な問題、容量の不足などの事情から完成に至らず、発売されずにあったとのことである。
16年の間に1度でもリメイクされていれば、2Dでも違和感がなかったと思うのですが……。例えば、ご存知の通りワンダースワンカラーで移植を試みたこともあったのですが、技術的な問題や容量が足りなくなって完成までには至りませんでした。あのとき完成までこぎつけていれば、『FFI』や『II』などのように、それを移植できたのでしょうけどね。(以下略)
(DS版『ファイナルファンタジーIII』エグゼクティブプロデューサー/ ディレクター:田中 弘道氏)▼引用元:インタビュー『ファイナルファンタジーIII』 – 電撃オンライン
https://dengekionline.com/soft/interview/ff3/index.html
しかし、長きに渡る苦難も2006年にニンテンドーDSで発売された3Dリメイク版をもって終わりを迎える。そして筆者も、この一連の流れを見ていく内に大きな関心を持つに至り、オリジナルのファミコン版未経験者でありながらニンテンドーDS版を買うのであった。
ただ、結果として他の『FF』5作品とは違い、ただひとつ、2Dドット絵基準でリメイクされない作品になってしまった。
強いてあったとすればWii、ニンテンドー3DS、Wii Uのバーチャルコンソール、そして『ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ』でオリジナルのファミコン版が復刻したぐらいである。
そのような過去を踏まえれば、ピクセルリマスター版の稀少性は想像に難くないだろう。かつてワンダースワンカラー、ゲームボーイアドバンスで一時的に予定されながら、幻に消えた2Dドット絵基準のリメイクが、20年も闇に覆われた状態から脱し、現実になったのだ。
ゆえに本作は間違いなく『FFピクセルリマスター』の中でも特別な存在であり、当時のワンダースワンカラー、ゲームボーイアドバンスでの発売を巡る動きを知っている人にも、悲願とも言える作品なのである。
そして、オリジナル版に限らず、3Dリメイク版のプレイ経験がない人にとっても遊びやすく、入門に最適な『FF3』となっている。
オリジナルのファミコン版、3Dリメイク版とも違ったゲームバランスを持つピクセルリマスター版
ピクセルリマスター版『FF3』は2Dドット絵基準のリメイクということで、ゲームデザイン、ゲームバランスのベースはファミコン版となっている。
ストーリーもファミコン版に準拠。主人公は4人の少年たちで、オープニングも4人が洞窟に落ちてしまうところから始まる。彼らのジョブも全員「たまねぎ剣士」だ。
ただ、名前の入力完了と同時に落下ではなく、直前にプロローグを挟む構成に改められている。
この一例が物語る通り、基本はファミコン版ベースなのだが、全体としてはピクセルリマスター版独自の再調整と変更が施されている。とりわけ大きな変更点は、「ジョブチェンジシステム」である。制約もなく、自由自在にジョブを変更できるようになった。
ファミコン版には「キャパシティ」と称された戦闘を通して得られるポイント、3Dリメイク版は「移行期間」なる一定の間ジョブの変更ができなくなる縛りが設けられ、気軽にジョブを変えることはできなくなっていた。しかし、ピクセルリマスター版ではこのすべてが撤廃された。キャパシティを貯めることも、移行期間の制約に従わずとも、ジョブを好きなタイミングで変えられるようになったのだ。
これにより、システムの元々の特徴である状況に応じた適切な編成(組み合わせ)を考え、困難を乗り越える楽しさも実感しやすくなっている。
さらにジョブの性能も再調整が図られている。「狩人」のジョブであれば「みだれうち」なるコマンド、「ナイト」のジョブなら「まもる」のコマンドが使えるなど、3Dリメイク版由来のアレンジが図られているのだ。
ただし、全部が3Dリメイク版準拠ではない。特に初期のジョブはストーリーが後半になるほど運用が苦しくなってきて、次第にストーリー後半に解禁されるジョブの活用に寄っていくことになる。この辺は「どんなジョブでも最後まで戦えること」をコンセプトにした3Dリメイク版とは明確に違うものであり、本作独自の調整になっている。
なので、3Dリメイク版の経験者はもちろん、ファミコン版の経験者も新鮮な心持ちになれる。初めてプレイする人にも、ジョブの切り替えに制約がないゆえの遊びやすさがあり、その意味では非常に取っつきやすい作りに進歩していると言ってもいいだろう。
ピクセルリマスター版独自の便利機能も取っつきやすさを引き立てている。エンカウントのON・OFF切り替え、オートセーブ、ブースト機能がそれだ。
特にエンカウントのON・OFF切り替え、戦闘で得られる経験値とお金(ギル)を0から4倍に設定可能なブースト機能は、テンポよく本編を進めていきたい欲求のあるプレイヤーには嬉しい機能。ブースト機能は当初、家庭用ゲーム機版に限定されていたが、2024年からはSteamのPC版にもアップデートで追加されている。斜め移動、ダッシュが可能になっているのも地味ながら快適性を高めている。
何より本作『FF3』の場合、ピクセルリマスター版独自の便利機能によって本編最大の難所が攻略しやすくなっている。
おそらく、本作を遊んだことのない人も耳にしたことがあるであろう、セーブ無しのまま2~3時間ぶっ通しで攻略しなくてはならないラストダンジョンだ。これがピクセルリマスター版ではオートセーブの追加に加え、エンカウントの切り替え実装によって、さらに攻略しやすくなった。
元々、3Dリメイク版でも中断セーブの追加と全体的なバランスの再調整、バーチャルコンソール版も中断セーブ(まるごとバックアップ機能)のおかげで攻略しやすくなっていたが、ピクセルリマスター版はそこをさらに改良させた感じだ。これに加えてブースト機能により、時間的負担も軽減されている。
なので、ファミコン版と3Dリメイク版で苦汁を飲んだ経験者にとって、本作はその雪辱を果たせる1作になっている。未経験者視点で見ても、突き抜けて難しいダンジョンに適切な緩和が施されたこともあって、気負わず攻略に取り組める。あくまでも攻略しやすくなっただけで、立ちはだかるボスたちの手ごわさは健在だが。ただ、心が折れにくいバランスになったのは大きな改良点だと言えるだろう。
ある意味、『FF3』の世界をじっくり堪能できるようになったこのピクセルリマスター版は、まさにこれから本作を遊ぶのに最適な入門編であり、3Dリメイク版の要素もほどよくブレンドした集大成と言えるだろう。なにより、このバランスはピクセルリマスター版における”初出し”でもある。
オリジナルのファミコン版経験者はもちろん、3Dリメイク版を遊び込んだ人もプレイしてみる価値があるのは言うまでもない。遊べば間違いなく、ファミコン版、3Dリメイク版に続く、新たな第3の『FF3』が生まれた実感を得られるはずだ。
20数年の時を経て誕生した、令和の『FF3』がここに
遊びやすく、さらにファミコン版とも3Dリメイク版とも違ったバランスを持つピクセルリマスター版だが、「欲を言えば……」となる部分も色々ある。特にブースト機能に「熟練度」の項目がないこと。
ジョブは使い込むことで熟練度が上昇し、基礎性能が向上していくのだが、ここだけブースト機能では倍に設定できない。キャパシティと移行期間を無くし、色んなジョブを試せるようになった分、熟練度にも項目を設けても良かったように思う。
ただ、熟練度自体は上げやすくなっている(戦闘時、攻撃を始めとする行動を5回達成するだけ)。それにブースト機能で経験値を0倍にすれば、レベル差ですぐ倒せる敵を集中的に狩れば、熟練度にフォーカスした強化ができる。手間がかかるのがタマにキズだが、上げることに集中したい時は試してみるのも一興だ。
他に3Dリメイク版を先に経験した身としては、途中参戦する仲間キャラクターたちがランダムで支援行動を取ってくれないのが寂しく感じた。これ自体はオリジナルのファミコン版と同じなので、それを忠実に再現した形だが、リメイクが先だった身としては物足りなさが付きまとう。
チュートリアルもオリジナルのファミコン版を再現しているなりに最小限で、「ケアル」などの白魔法をパーティ全員にかける操作など、色々手探りでプレイしなくてはならない所も戸惑いやすい。そのため、事前のマニュアル確認は必須である。
まさに良くも悪くもオリジナルのファミコン版をベースにしたリメイクだが、それでも遊びやすさと快適性は現代に作られたなりに洗練されている。また、ファミコン版とも3Dリメイク版とも違った味を堪能できるのは大きなセールスポイントだ。
20数年前、発売が報じられるも幻に消えた2Dドット絵基準リメイクの『FF3』。ピクセルリマスター版には、そんな20数年前の「もしも」と、合間に3Dリメイクを挟んだことによる味わいがある。
かつて2Dドット絵のリメイク版誕生を切望した人、3Dリメイク版は遊んだことがあるけどファミコン版は経験がない人、そして初めて遊ぶ人にもピクセルリマスター版は最良の1作である。令和に誕生した、新しい『FF3』をこの機に遊んでみてはいかがだろうか。
ちなみに3Dリメイク版は、2024年現在もPC(Steam)、スマートフォン向けに発売中。ピクセルリマスター版を遊んだ後、3Dリメイクを遊んでみると、より一層その違いと独自の魅力が分かるので(逆の順序もよし)、一緒に遊んでみるのも一興である。
あえてニンテンドーDS、もしくはPlayStation Portable本体を引っ張り出し、DS版かPSP版を遊び直したり、並行させるという選択肢もあるぞ。
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