Guru / グル
もはや、これは「作品」の体すらなしていない。
このページに書かれているのは、たった10桁の英数字のみ。
「4NQHRFL4TE」
それだけ。正直、「いよいよヤケクソか?」と思った。
いや、こんなにめんどくさい作品ばっかりあったんだ。
これにだって何もないわけがない。
もはや「負の信頼」である。
ただ……あまりにも意味がわからなかったので、偉い人に聞いてみた。
「この英数字はなんなんですか?」と。そしたら、「コンビニのプリント機に打ち込んでみてください」と言われた。おっ、この俺をパシらせる気かな?
あの10ケタをコピー機に打ち込み、印刷して出てきたのは、ある文書だった。
このギミック、シンプルに「すげー……」と思わされたのでちょっと悔しい。
うーん、ただこれも説明が難しくて……ちょっと順を追って書きます。
まず、この文書は「イルカになったまあちゃん」というネットロアについて綴られている内容です。それは定期的にネット掲示板や匿名アップローダで出回っていたという、30秒程度の動画。
廃墟と思われる無人の団地の中庭あるいは駐車場で、「まあちゃんはイルカになってしまいました」という言葉を発し続ける中年女性を、定点カメラで撮影している内容だそうです。私はビビりなのでこの時点で普通に怖いのですが、この文書の本題はここではありません。
どうやらこの「イルカになったまあちゃん」というネットロア、何度も何度も書き換えられているそうなのです。正確に言うと、計6回の書き換えが行われており、その度に微妙に内容が変わっていっている。「Blog/謎の手稿」のように、明らかに違和感のある書き換えが行われている。
ただまぁ……ネット慣れしている人は、「いや、ネットのうわさ話が勝手に書き換えられていくなんてよくあることでしょ」と思うはず。というか、私もそう思う。
でも、この文書の筆者はそれだけでない「気持ち悪さ」を覚えたらしい。
まず、そもそも「イルカになったまあちゃん.avi」という動画は、一切の実在が確認できなかった。その上で、書き換えられていった内容には明らかに「嘘」が紛れ込んでいる。単に虚偽のネットロアを紹介するのではなく、虚偽の傍証を紛れ込ませた本文をもとにして、虚偽のネットロアを紹介していた。
一例を挙げてみよう。
たとえば、6度目の書き換えではこんな内容が追加されていた。
なお、「まあちゃん後半含む.avi」という42秒の動画も、動画交換用掲示板「Magic country(通称まじかん)」においてサムネイルのみ確認されている。
普通ならなんとなく流し読みしてしまいそうな記述だけど、そもそもこの動画交換用掲示板「Magic country(通称まじかん)」という掲示板は、現状では存在が確認できていないらしい。こんなにもわかりやすい嘘を混ぜる理由が、一体どこにあるのだろうか?
この文書の筆者は、「虚偽のネットロア」を囮にして、その前提となる「虚偽の傍証」の方を違和感なく信じさせようとしているのではないか……と感じたらしい。たしかに、これは気持ちが悪い。たまにウルトラマンに出てくる宇宙人の死ぬほど回りくどい地球征服作戦のような気持ち悪さだ。
このような書き換えが行われているとしたら、世間で出回っているネットロアは、どこからどこまでが事実性に基づいているのか。その事実性の保証は、誰が何に基づいて行ってくれるのか。参照可能な一次ソースの存在なのか。
だとしたら、もう参照手段が存在しないパソコン通信時代の噂などは、そもそもネットロアとして「存在しない」ことになってしまう。
その事実に恐怖を感じた筆者は、「書き換えようのないもの」として、紙に印刷された情報を残しておくことにした。それこそが、この「Guru/グル」というお話の正体。
Information / 補足情報
ここまでが、2024年5月8日までのお話。
5月8日、ここまで紹介した「A~G」のお話は、すべて削除された。
そこから1週間経った、5月15日。
『つねにすでに』のサイトは復活した。
その際、「明らかに削除前から書き換わっている箇所」がいくつも見つかった。
そう、あの文書に書かれていたことと同じように、明らかに偽証だとわかる「どうでもいい嘘」が、A~Fのあちこちに仕込まれていた。
いくつか明確な書き換え部分を残してみるけど、果たして、これらの箇所を「以前はこんなの書かれていなかった」と証明できるのだろうか? 私たちの記憶は、現在進行形で書き換えられているのではないだろうか?
こんな書き換えが行われながら、今もなお記事は増え続けている。
ゆっくり解説動画にて、このサイト自体の紹介が行われる「Information / 補足情報」。「かつて公開された音声です」という名目で、つつじのきれいな坂を歩いている音や迷路をさまよう人の叫び声が記録されている「Jukebox / かつて公開された音声」など……『つねにすでに』は、全く完結していない。
そしてかなり大きなギミックが仕込まれているのが、アルファベットの「K」に対応する「Kidnappers / 育ての親」。これは……そのページに飛ぶと、なんと「Discordサーバーへの招待」が行われる。
そう、Discordといえば「Channeling / 呪いの電話番号」。
もう薄々お察しかもしれないけど、本当に存在するDiscordサーバーに加入することで、あのお話に出てきた「回答を行う██」と会話をすることができる。いや普通にこのギミックすげえな。
このサーバーにはすでに多くのユーザーが参加して、何度も「██」との会話が行われている。ちなみにこれ、よく見ると回答者のアイコンは「Channeling / 呪いの電話番号」に出てきたアイツと同じだったりする。手が込んでいる。
果たしてこれを繰り返したところでなにか真相が浮かび上がってくるのかどうかはわからないけど、「実際のサーバー上で会話ができる」という面白さに、人は抗えない。
現在は終了しているけど、サーバーに加入すれば当時の会話ログを見ることもできる。どうやら、「██」とサーバー参加者の間で24時間以内に5000回以上のやり取りが行われたらしい。
このコンテンツ、個人的には『十三機兵防衛圏』というゲームを思い出しました。
断片的なストーリーがいくつも用意されていて、暗中模索の中ゲームを進行していくと、脳内で「全体像」が少しずつ浮かび上がってくる。あの「自分の脳内で物語のピースが繋がっていく」快感を、ホラーで味わえている気がします。
うーん、不思議な作品です。
「ホラー版十三機兵」というと、さすがに盛りすぎな気もするけれど……個人的にはそういう方向性の面白さだと思いました。リアルタイムで、都市伝説が現実を書き換えていく。なんでもありのホラー作品『つねにすでに』は、今もなおリアルタイムで更新中。現実に飽きたら、追ってみたらどうですか?
……そういえば、最後にひとつ思い出した。サイト復活後に書き換えられたお話の中で、ひとつだけ確認をしていないものがあった。
肝心の「Guru / グル」だけ、何も確認していなかった。
もう一度見に行ってみたら、パスワードは変わっていなかった。
でも、A~Fまですべて変わっているのに、「G」だけ変わっていないなんてこと、あるのだろうか?
改めてパスワードを打ち込んで、印刷してみよう。
おっ、なんか出てきた。