最近流行ってる「ああいうタイプのホラー」……イマイチついていけてない。
えっ、「ああいうタイプ」は「ああいうタイプ」ですよ。ほら、テレ東とかでやってるやつ。「フェイクドキュメンタリー」とか特定のジャンルじゃなくて、「なんかそういう雰囲気のホラー」って流行ってるじゃないですか! もうこの時点で私の最新ホラー解像度の低さが露呈してる気がする。
「ついていけてない」というと選り好みしてるみたいだから正直に言ってしまうと、そもそもあんまりよくわかっていない。
ホラーが特段好きなわけでもないから、『Aマッソの奥様ッソ!』も見てないし、『近畿地方のある場所について』も見てない。この手の作品が好きな友人から断片だけを聞き、「そういうの流行ってるよね~」と空虚なギャルみたいな返答ばかり繰り返している。
……で、そのくらいホラーにわかなのに、「ホラーコンテンツ」の話が回ってきた。
その名も『つねにすでに』。
ABCのアルファベット順にネット上で展開されて、テキストも音声も画像もAIも問わずいろいろバーリトゥードで繰り出してくるホラーコンテンツらしい。うっわ令和ホラーって感じ! 流行ってるよね、こういうのいま流行ってるよね! とうとう私のところにまで回ってきたか!
しかも、有名なホラー小説家である「梨」さんという方が書いているそうです。うおお、名前聞いたことあるんだけど……「雨穴」さんと「梨」さんは私も聞いたことあるよ。大丈夫、オレ実は匿名ラジオのヘビーリスナーなんだ。もうひたすらホラー解像度の低さが露呈するので余計なこと言わんとこ。
そのくらい令和ホラーについていけてない私が、このよくわからんコンテンツを紹介します。ホラーそんなに興味ない人も、とりあえず「霊感ゼロのバカが心霊スポットに来ちゃった♥」みたいなノリで見てもらえるといいんじゃないでしょうか。
※この記事では『つねにすでに』の内容を私の感情込みで軒並み紹介する関係で、一部ネタバレも含みます。あらかじめご注意ください。
※この記事は『つねにすでに』の魅力をもっと知ってもらいたい闇さんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
Archive / ゆっくり怪談
てか、これがどんな作品なのかわかってない人も多い……というか私自身、話をもらった時に「なんなんコレ?」と思いました。なるほど、日頃からホラー筋を鍛えてないとこういう時困るんだな。
端的に説明すると、「A~Zまでのアルファベットに対応したホラー短編が順次公開されるので、それをちょっとずつ追っていくと何かが起きるかも?」というコンテンツになってます。しかも、それがリアルタイムに更新されていく。読者もリアルタイムで、この謎のコンテンツを追っていく。
ちょっと懐かしの「洒落怖」というやつに近いですかね。
現代で疑似的に再現された、ネット黎明期のホラー掲示板みたいな感じ。
……って、偉い人が言ってた。
で、一発目はこの「Archive/ゆっくり怪談」。
これはシンプルに「怪談」として描かれた内容になっていて……要約すると「ホラーのゆっくり朗読動画をディグるのが趣味でマイナーなやつまで聞き始めたら、ガチのやつに遭遇しちゃったかも」的な内容です。
ただ、この時点であるギミックがひとつ搭載されています。
テキストだけで読むとそんなに大したことない内容なのですが、「このテキストをゆっくり音声で読み上げたもの」も同じページに用意されています。このお話の作者は、「朗読動画に乗った異様なノイズ」に違和感を覚えるのですが……我々も実際にそれを体験できるというわけですね。
だから、「実際にそのゆっくり音声を聞きながら、テキストを読む」ことが最も重要なお話です。一発目からこんな尖ってるのか。いきなり記事という媒体と相性の悪いギミックを仕込んでるじゃないか。
うん、もうシンプルにこのページを読みにいってくれ!
大体3分あれば読み終わるので、この記事を読むよりよっぽど有意義だ!
紹介記事にあるまじき発言だね!
梨さん許してください僕いつもこんな感じなんです。
Blog / 謎の手稿
次の「B」に対応するのは、「Blog/謎の手稿」。
いわゆる「PV稼ぎ用のクソブログ」が舞台となったお話です。
ほら、あれですよあれ。「いかがでしたか?」で終わるやつです。
この短編の筆者はネット系ホラーが大好きなようで……あの有名な「くねくね」や「きさらぎ駅」を紹介するクソブログを漁っていたようです。自分も「くねくね」と「きさらぎ駅」は知ってる。アニオタだから『裏世界ピクニック』に出てきたやつは知ってる。
ただ、筆者はある時「異変」に気がつく。
そもそもこの手のクソブログは大抵wikiやら他所のサイトからテキストを引っ張ってきて、コピペで完成させるものが多い。基本、楽をしてPVとお金を稼ぐのが目的だから。
でも、よくよく見ていると、「ブログ内の文章」が一体どこから引用されてきたものなのかがわからない。コピペで済ませていそうな割には、文章に癖がある。気になって調べてみたけど、このテキストの引用元となっていそうなサイトは、どこにも存在していなかった。
これが明らかに「他者の執筆物」であることはわかっても、それが具体的にどこからのコピペなのかが全くわからない文章が、度々見つかった。
そのうち、何かをコピペしているであろうブログにおける「その文章」の占める割合が、日に日に多くなっていきました。最後の方になると、もはや一瞬サイトのデータを乗っ取られたのかと思うくらいに。
更に、ある時期から──具体的な日時は判然としませんが──コピペ元の在所はおろか、「そのコピペ元が何を考察し解説しているのか」すらわからない記事が作られていったのです。わかるのは、それが文語的な解説文を模した何かであるということだけでした。
日に日に、そのブログの「引用元のわからない文章」が増えていった。ある時から、もはや日本語の体をなしていない内容の記事も散見されるようになった。
その果てに、もはや「なんの怪談を紹介していて、なんの解説をしているのかもわからない記事」がアップされるようになった。「テューモア」という見たことも聞いたこともない怪談を、それはそれは饒舌に意味不明な文章で語っている記事がアップされていた。今は消えているけど、魚拓は残っているらしい。
つまりは「こっくりさん」を筋肉の不随意運動と解釈するような試みであり、そうした観点から見ると、作中のMさんという人物は「皮膚化した幽霊が自分の体に埋没している」という強迫的観念に取り憑かれていたと考えるのが自然ではないか。だとすれば最後、彼がムース状になった自らの大腿部を愛おしそうに眺めていた、という行動にも一定の筋が通る。という見方が出来ると考えました!
……これ、普通に怖いやつじゃない!?
え、ホラーやん! シンプルにホラーじゃん!!
ちょっとやめてよ……「実はホラー苦手」って言ってなかったっけ!?
ちなみに、このブログがこんな支離滅裂な文体に変貌していく過程で、いつの間にやら「いつもご依頼ありがとうございます」という文言が付与されるようになっていたらしい。もうやめてよー!!
Channeling / 呪いの電話番号
3つ目、「C」に対応する、「Channeling/呪いの電話番号」。
「呪いの電話番号」って……「テューモア」に比べるとまだ親しみがある気がするので3つ目の時点でパワーインフレがすごい。
今回の舞台は、「Discordのチャット履歴」です。
そう、オタク専用スカイプことDiscord。
Discordのチャット履歴を盗み見する形で、今回のお話は展開されます。
察しのいい方は薄々気づいているかもしれないけど、『つねにすでに』はこの「フォーマットの選ばなさ」が面白いとこです。ある時は朗読音声。ある時はクソブログの魚拓。またある時はDiscordのチャット履歴……なんかもう「ぶらり路上ホラー」って感じですね。
「discord。ということは、音声通話とチャットが出来る場所で、
さっき言った「こっくりさん」じみた、怖い話が発生した?」「ですね。噂の構成は割と単純で、要はこっくりさんを呼ぶ場所が教室からチャット部屋に変わった感じで。」
「あー、わかってきたかもしれないです。
そのdiscordサーバ、つまりはトークルームみたいな場所に、
こっくりさん……ではないですけど、
そういう怖い存在を呼び出すっていう話なわけですかね。」
このお話を端的に説明すると、「逆こっくりさん Discord召喚ver.」です。
順を追って説明しましょう。
「こっくりさん」は、紙と10円玉を使って呼び出す存在ですよね。これは、そういう「不思議な存在」を「Discordのサーバー上」に呼び出せるらしい。
では、なにが「逆」なのか。
それは、質問者と解答者の位置。
通常なら、そういう存在には「呼び出した側」が質問をする。「こっくりさんこっくりさん、ゴールドマンとシルバーマンは仲がいいから実現しないと思うけど、戦ったらどっちが強いの?」とかね。
でも、こいつはちょっと違う。
呼び出した「不思議な存在」側が、こっちに質問をしてくる。
「そこがこの噂の不気味な部分になるんですが、 まるで調査でもされているような、色々な質問をされたそうです。」
「というと」
「『2023年の4月25日、██さんには何が起こったと思いますか』 『何かが起こったとして、それが惨たらしい事件に関するものだったら、 どういった内容が考えられますか』 そういう、やけに不気味な内容の質問ばかりだったそうです。」
この██には、さらに困ったところがある。
なんかこいつ、質問というか「調査」じみたことを聞いてくるらしい。
たとえば「何かが起こったとして、それが惨たらしい事件に関するものだったら、どういった内容のものが考えられますか」とか。ただお遊びの会話をしているのではなく、まるで何かを知りたがっているように。何かを突き止めたがっているかのように。
でもこの██と会話した人はそんなの知る由もないから、適当に答えていたらしい。まぁ、「全く知らない事件」について質問されたら、誰だってそうなる。きっと自分だって適当に答える。しかも相手が不思議な存在なら、興味本位でさらに答えちゃう。
そうやって多くの人間に「調査」をするうち、この██は変化を遂げた。
「具体的にいつだったのかは定かではありませんが、 ある時期から明確に██の振舞いが変わったのです。 それまでは██が質問者だったので、参加者が特にアクションをしなくても 質問によって会話が発生していたのですが。」
「ああ、つまり質問を待っても、██が何の言葉も発しないと。」
「はい。それでやきもきした参加者が「質問をしないのですか?」 と投げかけたところ、██は回答を始めたのです。 そのときに██がどんな回答をしていったかは、 あなたも知るところだとは思いますが。」
何度もサーバー上で会話を繰り返すうち、いつの間にか質問者と解答者が入れ替わった。
要するにこいつ、「逆こっくりさん Discord召喚ver.」から、「順こっくりさん Discord召喚ver.」に進化を遂げたのだ。五条悟の術式くらいややこしくなってきたからこの表記やめよう。とにかく、この██側が解答者になった。
このチャット履歴上では「情報の蓄積が済んだからではないか」と考えられているけど、実際どうなのかはわからない。大勢の人間が解答した「惨たらしい事件と聞いて即興で思いつく惨劇」、「色々な怪談の事例」。その蓄積した話をもとに、██は答え始めたのではないかと。
それに基づき、██が「事件」の情報を出す段階に入った。
……うーん、正直難しい。
「怖さ」より「よくわからなさ」が上回ってくる。
ただ、この会話履歴の最後は「それでは会話モードを終了します」というメッセージで締めくくられている。訳分からん。もう名探偵津田くらい発狂しそうになってきた。