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ダイスを振る「TRPG」らしいプレイが特徴のアドベンチャーゲーム『Cthulhu Mythos ADV 呪禍に沈む島』は、「日本の信仰体系」とクトゥルフが融合し、両方の“じっとりと湿った不快感”を味わえる作品

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日本でも多くのユーザーを抱えるTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)。中でももっとも有名なのは名状しがたい存在との対峙を描く「クトゥルフ神話」に関するものだろう。

今回紹介する『Cthulhu Mythos ADV 呪禍に沈む島』は、クトゥルフ神話の要素はもちろん、「ダイスで物語の展開が決まる」というTRPGらしさそのものをデジタルで楽しむことができる作品だ。

TRPGのように10面ダイスを振って、プレイヤーはそのダイスの目に正気度をガンガン減らされる。そんなTRPGさながらのプレイ体験を味わえる。

日本の神仏的世界観と見事に融合したクトゥルフ神話の世界作り、魅力的なキャラクターたち、島に隠されたおぞましい謎を追うというワクワク感と恐怖に溢れたシナリオなども相まって、とてもキャッチーな作品もあるように感じた。

しかしあいにく、筆者はクトゥルフ神話にもTRPGにも疎い人間だ。本作がどれほどTRPG的な体験を反映しているのか、どれほど「クトゥルフ神話」らしいかという部分については詳細に記すことができない。

なので今回は、ド素人である筆者がはじめて「クトゥルフ」に触れた感想や、日本の文化と融合した「名状しがたい存在」が登場する本作の世界観などを紹介できればと思う。

『Cthulhu Mythos ADV 呪禍に沈む島』プレビュー:ダイスを振る「TRPG」風のプレイが特徴のアドベンチャーゲーム_001

文/植田亮平

※この記事は『Cthulhu Mythos ADV 呪禍に沈む島』の魅力をもっと知ってもらいたいGotcha Gotcha Gamesさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。


えっ、クトゥルフって海外っぽい世界観だけじゃないの?神道や仏教などを含めた「日本の信仰体系」を物語の中に取り込んだ、日本ならではの魅力的な世界観

ゲームについて説明する前に、まずは本作のあらすじを簡単に紹介しよう。

物語の舞台は2024年の7月。主人公であるプレイヤーは、ひょんなことから大学の友人である「レイジ」と「ハツミ」に誘われ、瀬戸内海に浮かぶ「阿菩島(あぶしま)」へのお遍路旅行に同行することとなる。

始めはなんということもない平和な旅行のはずだったのだが、どこか様子のおかしい島民たちや数々の奇妙な現象に遭遇していくうちに、主人公はこの島に巣食う巨大な闇、そして内なる狂気へと次第に飲み込まれてゆく。

クトゥルフ神話へあまり馴染みのない私にとって、クトゥルフとは海外のお話であり、『Bloodborne』みたいな世界観で繰り広げられるのかなという雑なイメージを持っていたが、違うようだ。

どうやらこういったゴリゴリの「日本」な世界観でも十分にクトゥルフ神話をやることは可能らしい。すごい、懐が深い。しかも「海外のクトゥルフを日本でやる」と言うより、「日本だからこそ出来るクトゥルフ」という趣なのも、プレイヤーを喜ばせてくれる。

具体的に言うと、神道や仏教などを含めた日本の信仰体系を物語の中に取り込んでいるのだ。物語の中で神話生物(クトゥルフ神話における神、化け物的な存在)は神や宇宙人的な性格よりも妖怪としての色が強く、そのほとんどが和名で呼称されている点も大きな特徴だろう。

『Cthulhu Mythos ADV 呪禍に沈む島』プレビュー:ダイスを振る「TRPG」風のプレイが特徴のアドベンチャーゲーム_002

そんな日本土着のクトゥルフの神と相まみえるのが本作なのだが、怖がらせ方も日本特有のものを感じて面白い。一見歓迎ムードの島民たちが不意に見せる「よそ者」への怪しい視線、井戸の中から這い出てくるナニカ──といったようなJホラー・村ホラー鉄板の展開を押さえつつも、時にはおぞましい異形と遭遇したり、「雛見沢症候群」のように主人公が狂気に陥るなど、とにかく多彩。

慣れ親しんだホラーシチュエーションは、知っているからこそ片鱗が見えると「余白」の部分を想像してゾクっとさせてくれる。

もっとも、本作においてはそれらの展開はホラーというよりも「クトゥルフ」というジャンルとして定義した方がいいかもしれない。一見平和に見えるがその裏にはじっとりと湿った不快感が常に張り付いており、ジャンプスケア抜きに少しずつこちらの精神を蝕んでいく感覚は、「なるほど、これがクトゥルフか」と恐怖とともに納得させられるものであった。

本作の物語はJホラー、特に村ホラーのような展開が目白押しである。本作をプレイするまで予想もつかなかったが、人智を超えた存在を描く「クトゥルフ」と、非日常として描かれるいわゆる「田舎」のムードの組み合わせはバッチリだ。

圧倒的に「顔がいい」美男美女と往く田舎の島。儚げな彼ら彼女らが夏の日差しと相まってエモーショナルな魅力を放つ

本作はそれほど多くのキャラが絡み合うような作品ではない。主要キャラクターの数だけで見れば意外とあっさりしているものの、主要キャラクターはみな個性豊かで物語にもがっつり関わってくるキャラばかりだ。

特に主人公の同行者であるレイジ、ハツミには主人公と同じようにパラメータが振られているので、自分以外のキャラクターが物語の展開そのものを左右することもある(パラメータについては後述する)。

レイジ、ハツミ以外のキャラにもそれぞれに友好度が存在し、この友好度に応じて物語の展開が変化していく点も面白い。友好度が存在するキャラクターは軒並みビジュアルが良く、友好度が変化するタイミングでの選択肢を選ぶときなんて、ギャルゲーを思わせるトキメキを抱いた。

二次創作が「かなり」捗りそうな展開も用意されているのも、キャラが魅力的な本作ではうれしいポイントだ。島で出会う二人の登場人物、「ホタル」と「ユキツネ」はどちらも友好度システムによって印象がかなり左右される。

『Cthulhu Mythos ADV 呪禍に沈む島』プレビュー:ダイスを振る「TRPG」風のプレイが特徴のアドベンチャーゲーム_003

ミステリアスで可憐な少女ホタルは、上のスクリーンショットからも分かる通り、佇まいが完全に「泣きゲーのヒロイン」である。

天真爛漫で快活なキャラクターであるが、体質から運動が苦手。島の外へ興味津々であるものの、厳しい両親と「とある理由」からずっと島での退屈な暮らしを送っている。どう考えてもメインヒロインポジションなのだが、これも好感度によってはそうならない点が面白い。儚げなビジュアルとハマったキャラ造形で、個人的にドンズバなキャラクターであった。

もう一方の美男子、「ユキツネ」も非常に造形がいい。顔がいい。

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彼の立ち回りは初見では完全に『エヴァンゲリオン』におけるカヲルくんなのだが、ミステリアスキャラとして一枚岩ではないところが彼のキモである。

というのも、彼はバックグラウンドにかなり大きな秘密を抱えている様子。ちょっとやそっとではない、誇張でもなくだいぶ「大きな秘密」だ。

しかも、彼の立ち位置は物語の中で二転三転と裏返っていく。そんな中、主人公と奇妙で特別な友好関係を築いていくのがなんとも乙である。

もちろん、主人公パーティに同行するレイジとハツミも彼らに並ぶほどの魅力あるキャラであるし、彼ら主要キャラ以外にも個性豊かなキャラクターが登場する。不穏さたっぷりではあるが、それぞれのキャラクターの行く末も含めて楽しんでみてほしい。

ダイスで全てが決まるTRPG風のシステムを搭載。ダイスに任せるドキドキ感をデジタルでしっかり味わえる

さて、いよいよ目玉となる本作のゲームプレイ部分について触れていこう。

本作『Cthulhu Mythos ADV 呪禍に沈む島』はジャンルとしてはアドベンチャーゲームだが、その進行方法はアドベンチャーというよりもTRPG的だ。それを象徴するのはやはり、ダイスの正否でシナリオが変化するゲームシステムだろう。

『Cthulhu Mythos ADV 呪禍に沈む島』プレビュー:ダイスを振る「TRPG」風のプレイが特徴のアドベンチャーゲーム_005

本作ならではのユニークな点として、物語を始める前の「質問」が挙げられる。質問は「旅行はどんなふうに楽しみたいか」といったごくごく日常的なものから、「罪のない人の死は許されるべきか」といった哲学的な問題にまで及ぶ。

これらの質問に答えると、プレイヤーには自分固有のステータスが与えられるのだ。自身の考えを基にステータスが決定するというのはあまり見ない形式で、非常に新鮮であった。

それとともに、自分の意思決定を注いで完成した主人公というのは、愛着が湧きやすい気もする。画面を隔てた向こうの主人公──精神を分かつ自らの分身が「怖い目に遭っている」とき、より恐怖心を感じるだろう。

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そうして物語がスタートすると、会話の中でプレイヤーにいくつかの選択肢が提示されるポイントがある。これだけであればテキスト主体のアドベンチャーゲームだが、このゲームの大きなポイントはTRPG要素。「ダイスを振る選択肢」が時折提示されるのだ。

ダイスにはプレイヤーのステータスに応じた成功率があり、自身のステータス値がダイスの出目より大きい場合は成功、その逆、ステータス値が出目より小さければ失敗となる。そしてこのダイスの結果によって、自身の選んだ選択肢が上手く転ぶかが変化していく。

また、選択肢によっては自分だけでなくレイジやハツミなどのパーティキャラクターのステータスを参照することもある。このダイスに任せた不安定さが本作のドキドキ感の根幹であり、通常のアドベンチャーゲームとは一味違うところだ。

また、会話の中では選択肢の提示無しにいきなりダイスを回す場面も存在する。これによってプレイヤーのステータスが減ることもあれば、物語の真相を紐解くための重要な手がかりへ繋がることもあるという、よりランダム性の強い要素だ。

いずれの場合においても、本作においてプレイヤーは自由に物語をコントロールすることが出来ない点が興味深い。TRPGにおいてはゲームの物語はゲームマスターのものであるが、プレイヤーが物語を紡いでいくことが一般的なアドベンチャーゲームにおいても、自らが「物語に乗っかっていく」ような感覚が味わえるのが新鮮だ。

『Cthulhu Mythos ADV 呪禍に沈む島』プレビュー:ダイスを振る「TRPG」風のプレイが特徴のアドベンチャーゲーム_007

逆に、TRPGでは煩雑になってしまうであろう行動分岐をデジタルゲームの力で表現している箇所も存在する。例えば島の探索フェーズでは、プレイヤーが自由に行きたい場所を決め、赴いた場所で各種ステータス値やアイテムを獲得できるイベントに遭遇できる。

さらに、このときプレイヤーの行動が後の展開の伏線となることもある。こうした伏線や展開をコンピューター側で管理できるのがビデオゲームの良さだろう。ゲーム内にアナログなTRPG要素が多数あることで、アナログ的な面白さと合わせてデジタルの利便性も再発見することができた。

もちろん「SAN値チェック」もあり。あることをきっかけに「呪い」の症状を表す主人公、正気度を保てなければ……

クトゥルフ神話TRPGをがっつりモチーフにした本作であるが、当然ステータスには皆さんお馴染みの「正気度」が存在する。この正気度が本作で一番醍醐味となるパラメータかもしれない。

物語の序盤、主人公はあることをきっかけに「呪い」の症状を表すようになる。とてつもない飢餓感と強烈な吐き気に襲われ嘔吐すると、口の中からは灰色のアメーバのような奇妙な生物が溢れだす。

これらの症状に加え、主人公は道中でさまざまな幻覚にも襲われることになる。一見普通の島民がおぞましい怪物に見えたり、親友が何かに取りつかれたかのような、他人のような振る舞いを見せ始める。

『Cthulhu Mythos ADV 呪禍に沈む島』プレビュー:ダイスを振る「TRPG」風のプレイが特徴のアドベンチャーゲーム_008

こうした瞬間にダイスを振ることがこのゲームでは多いが、この時失敗するとプレイヤーの正気度が下がり、一定の値を下回ると主人公は狂気に取りつかれることとなる。正気度がもはや保てないレベルになるとあえなくゲームオーバー。

この点がTRPGと一緒なのかは筆者は分からないが、「正気度をある程度保たなければ何かに取りつかれ発狂してしまう」という点は、筆者もクトゥルフ神話TRPGの知識として知っている。

(上の部分を書いた後に調べたことだが、どうやら何かしらの恐怖体験の後にダイスを振ることが俗にいう「SAN値チェック」というやつらしい。インターネットでよく見る言葉を実際に体験できる機会に恵まれて嬉しい。といってもこれはTRPGではないので厳密にはSAN値チェックではないのだが。)

『Cthulhu Mythos ADV 呪禍に沈む島』プレビュー:ダイスを振る「TRPG」風のプレイが特徴のアドベンチャーゲーム_009


『Cthulhu Mythos ADV 呪禍に沈む島』の体験は非常にミニマルだと思う。会話のスキップ機能などを上手いこと活用すれば、一周のプレイ時間は大体3、4時間といったところだろうか。

しかし、このゲームの真の楽しみ方は恐らく周回プレイである。毎回変わるパラメータと毎回変わるダイスの出目によって毎回変わるシナリオと15種類のエンディングは、本作の奥深さを象徴するものだろう。ゲームブックが何度プレイしても新鮮な楽しみを与えてくれるように、本作の謎に満ちたシナリオも、何度もプレイされるべき価値がある。

クトゥルフ神話TRPGが好きな方にはもちろん、クトゥルフ神話初心者にとっても良い入口となる良作アドベンチャーゲームだろう。
ちなみに、Steam版ではキャラクターの見た目を自由な画像に差し替えることもできる。ロールプレイ感を高めたりネタ実況を行いたい方は是非とも活用してみてほしい。

ライター
大阪在住のゲーマー。ゲームに限らずアニメ、映画など気になったものは何でも取り込む雑食系。オープンワールドのゲームやウォーキングシミュレーターなどが大好き。最近はオンラインゲーム『League of Legends』にドハマりしているが、プレイの腕はイマイチ。

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