世界で一番面白いラノベを書くのは、ムリ?でも……
みかみ氏:
やっぱり、才能で劣る人が勝つためには、いっぱい時間をかけて考えるしかないんですよね。
小説は、陸上競技や対戦ゲームと違って、考えればちょっとずつ前に進んでいける。何度も試行錯誤をすれば、天才がひと晩で思いついたものに、いつか到達できるものだと思うんです。わたしはその考えが根底にあるから、何度でも読み返すし、こうやっていくつも案を作っていきます。
とくに、ラノベはゲームのように大きいプロジェクトで人を総動員させるものじゃないし、個人ができる範囲もすごく大きい。そのために、頑張ろうと思っています。
(ふと我に返って)……もしかして、わたしいまよく見られようと思ってます?
好感度稼ぎしてますか?
K原氏:
いや、全然気取った感じとかないですよ(笑)。
みかみ氏:
くっ……。じゃあ最後まで言いますが、これは本当にマンガやアニメじゃできない、ラノベだけの強みだと思うんです。
週刊連載や放送といった、時間のないなかでクオリティの高いものを上げ続けなきゃいけないものと違って、締め切りもある程度は自由に設定できるんです。

K原氏:
みかみさんは、ページ内の文字や挿絵の配置なども細かく決めて書かれているんですよね。だから、上がってきた原稿を、そのイメージ通りに成立させるために印刷所やデザイナーさんと協力するのも、編集者としての腕の見せ所だなと思っています。
みかみ氏:
もし、自分が世界で一番面白いラノベを書けるんだったら、別にそんなことはしなくていいと思うんです。自分にとっては「世界で一番面白いラノベを書いている」と思うようにしていますが、事実としてまだ書けていない。じゃあ、なんでもするべきだと思うんです。そこに、自分のスタンスなんて関係ないはず。
K原氏:
最近だと、7巻の見開きの挿絵はひと際気合を入れた記憶があります。
クライマックスの、片側にれな子、もう片側に遥奈の挿絵があるシーンです。
実は、あのページを作る際にイラストの大きさと文字の行数が合わないという問題が発生して……。
ページの半分にイラストを入れること自体はそこまで難しくなくて、サイズ通りのイラストと「このページはこういった形でイラストを入れるようにお願いします」と印刷所に指定すれば成立するんですけど。ただ、7巻のあのシーンの場合、入れたい文章の量が少しだけ多かったので、このままだと理想の形にならない。
なので、ページの組み方や文字のフォントなどをすべて調べて、それをもとに例の最強デザイナーさんに相談し、「これを本のページと同じ形になるようにデザインしてください!」とお願いして、ようやく成立したんです。
あの挿絵の部分は厳密には「イラストと文章がはめ込まれたデザインページ」というアクロバティックな扱いのページになっています。あれは、ここ最近で一番脳のどこかが光ったアイデアだった……。
みかみ氏:
あれは、K原さんが最初から「やりたい」と言ってくれてましたよね。
K原氏:
そうですね。
みかみさんから原稿を頂いてあのシーンを読んだ際に「左右に置きたい」と言ってはいたし、当初は僕も印刷所に構想をお伝えすれば、普段通りにできるだろうと思っていたんですが……「そうならない」と。
そこで、いままでの経験や、ほかのライトノベルを見て学んだ知識の引き出しをあけて、「じゃあ、これならできるんじゃないか」という解決策を探っていきました。
そうやって、作家さんの要望やアイデアを実現させるための引き出しを増やすことは、常に勉強しています。いつか自分と作品を救ってくれるので……。

K原氏:
だからもう……僕にとって『わたなれ』は、仕事だけど仕事じゃないんです。楽しいから、やっているって感情がでかい。
ちょっと大げさに言うと、「『わたなれ』のために編集者になった」という自認もあるし、もしこの作品から外れるときがきたら……どうなるか想像がつかないですね。
それこそ、この前『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) ネクストシャイン!』の舞台挨拶があったのですが、あの翌日……僕は割と真剣に「もう墓に入ってもいい」と思ったんです。
きっとここが人生のてっぺんだろうから、もう墓に入ったっていい。
もういいじゃん、ここが一番幸せな瞬間だよ、みたいな。
みかみ氏:
とてつもなく重い感情が出てきた……。
一同:
(笑)。
K原氏:
これは、たまにみかみさんにも言っている話なんですけど、僕は「K原」という人間の人生のなかで、SSRを引いていると思っています。
書店でアルバイトとして働くこと自体は楽しいけれど、先が見えないし明確な展望もない。このまま緩やかに人生が行き詰っていくのかな……と思っていたところに、突然「編集者」という選択肢が生まれ、『わたなれ』の担当になった。
それまでの僕の人生を見ていた人からすると、本当に突然SSRを引いたような人生になっていると思うんです。
みかみ氏:
「並行世界にK原という存在が2000人いたとして、2000人それぞれが辿った人生のなかで、一番いい人生を歩んでる」みたいなことを言ってましたよね。
K原氏:
僕は、ほかの1999人のK原から刺されるような人生を送ってます。
わたしが男子にも女子にも受け入れてもらえるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)
──最後に、「百合」というジャンルにはどんな魅力があり、『わたなれ』は百合の魅力のどういった側面をピックアップしたのかをお聞きできればと思います。
K原氏:
みかみさんはトリなので、先に僕からお話しすると……僕は、『わたなれ』を「百合だ」と意識したことがそこまでないかもしれません。
変に百合だと意識してしまうと、僕が培ってきた百合観が作品に影響を与えてしまうかもしれない──という怖さもあって、切り離しているんだと思います。どちらかというと、「みかみ先生のすごく面白い本が出る」という感覚で1巻の発売に臨み、その意識がいまも続いている。
それはそうとして、百合は女の子たちの感情の機微が細やかな作品が多く、つまるところ人間を丁寧に、そして様々な感性で描かれている点が魅力的だと思っています。
百合に限らず様々なエンタメがそうではあるんですけど、百合は特に感情の機微や人間の描き方にフォーカスされていると感じているので、そこが魅力であり、読んでいて楽しいです。
『わたなれ』も、れな子をはじめとする登場人物みんなが魅力的なので……最終的には、「人間と人間の話って、すごく面白いよね」といった感じです。人間が滅茶苦茶になればなるほど、楽しいし嬉しい。

みかみ氏:
わたしにとっての「百合の面白さ」は、「女の子が、主体的に・能動的に成長していく物語」にあると思っているんです。女の子の主人公であり、相手も女の子。その要素がギュッと詰まっているのが、百合だと思います。
そこの「頑張る女の子って、恋する女の子って、すごくかわいいよね」という魅力を、また違うアプローチで見せることができるのが、百合のいいところだなと。そういう意味では、やっぱり「百合」はシチュエーションであり、メインである女の子をいかに素敵に描くかが一番大事なところだと思うんです。
だから、『わたなれ』は、女の子の頑張るところであったり、その子の主体性や成長する物語に、すごく力を入れて書いていますね。
──そこが、『わたなれ』のキャラクター主導なところにも繋がっているんですね。
みかみ氏:
もちろん男女の物語でも、その要素を書けはするのですが……どうしても女の子の割合が減ってしまう。
百合がいいなと思えるのは、女の子を助けるのも女の子なんですよね。ふたりには性差がなく対等だから、一方的に救われる物語ではなく、相互に補完し合うストーリーがより作りやすい。それを書くのがわたしは楽しいんです。
だから、その「女の子同士の物語」という意味で、百合にはもっといろんな書き方があると思うんです。だから、もっと多くの人にいろいろな挑戦をしてもらいたいし、自分自身も百合の可能性を広げられるような作品を作っていきたいと思っています。
やっぱり、みんな好きな作品があるから、「あの作品みたいなのを作りたい」と思ってしまうし、わたし自身もそうです。でも、ただそれを延々と繰り返すだけだと、結局その輪から抜け出せなくなってしまう。だから、「いろんな百合があってもいいじゃん」と思います。
「百合だからこうあるべき」という考え方は創作の幅を狭めてしまうけど、「これが百合だったら、もっといいよね」という考え方はアリですよね。

K原氏:
みかみさんが『わたなれ』を書くにあたって、「『わたなれ』がヒットすることで、もっと百合のラノベ作品が増えてほしい」という願いもあったと思うので、実際にいまそういう市場になってきているのは……みかみさんが目指していたものに近づいてきているのかなと。
みかみ氏:
百合のラノベは、めちゃくちゃ増えましたよね。
K原氏:
『わたなれ』を作り始めた2019~2020年に関しては、ラノベにおいて百合というジャンルにはまだ読者が多くないと思われていた……でも、いまは百合に読者がいることを、いろんな人が実感してきた。その結果、「百合」として出される作品も増えてきていると思います。
だから、いまは「ジャンルの確立真っ只中」の時期だと思っています。
いろいろな百合作品が出て、ジャンルとしての勢力が大きくなってくる。ここからさらに書く人が増えて、才能や技術を持った作家さんが現れて、とんでもなく面白い百合作品が溢れていく……そうなっていくのが楽しみです。
──さきほどおっしゃっていましたが、『わたなれ』を作り始めた当時は百合のライトノベルが危機に瀕していたものの、いまはむしろ数が増えてきているんですね。
K原氏:
そうですね。いろんなレーベルから素敵な百合作品がどんどん出てきています。僕も有難いことに『わたなれ』がこれだけヒットしたおかげもあって、最近周りから「次の百合作品は出さないの?」と聞いてもらえることも増えました。
ただ、僕はみかみてれんという燦然と輝く百合の一等星を担当しているだけでいっぱいいっぱいな節もあるし、自分のなかで百合作品を作るハードルが物凄く上がっている自覚があるので、「百合作品の編集としてはそれなりに経験を積んでいるはずなのに、出したい百合のビジョンがない! わたなれだけでいいかも!」というジレンマみたいなものに陥っていて。
みかみ氏:
いいじゃないですか! 出しましょうよ!
「『わたなれ』の担当編集が送る、新時代のガールズラブコメディ!爆誕!」って帯に書きましょうよ!
K原氏:
もしその帯で出して上手く行かなかったら、僕はみかみさんに殴られると思う……!
一同:
(笑)。
K原氏:
だから、もし新しい百合作品を担当することになったら、一度みかみさんに「こういうのを出そうかなと思うんだけど……」と、事前におうかがいを立てると思います(笑)。
とはいえ、いろんな百合ライトノベルが増えてきているし、ジャンルとして認知される時代に向かってきているのは、みかみさんの6~7年越しの願いが、ようやく叶い始めているところなのかなと。
みかみ氏:
「女の子同士の関係性」で話題になる作品って、10年くらい前から、その時代ごとにポッと現れてはいたような感覚があるんです。
2020年以降はアニメやゲームなどでも、そういった作品が何作か続いてヒットしていますよね。わたしは、あれはソーシャルゲームと二次創作の流行と同時に台頭してきた空気感だと思っていて……とくにソシャゲは、「女の子同士の関係性を深掘りするコンテンツ」として、いろんな初心者の間口になったと思うんです。
そこのソシャゲや二次創作で描かれる「女の子同士の関係性」が琴線に触れた結果として、みなさんの「百合受容体」が成長していったのだと思います。
──「百合受容体」ですか。
みかみ氏:
だから、『わたなれ』も「時代の流れでヒットしたんだなぁ」と。
『わたなれ』のファンには大学生くらいの方も多いのですが……若い人に評価されているのは、ソシャゲなどに触れて育ち、抵抗なく「女の子同士が仲良いのっていいよね」「女の子が女の子に感情を向けてるのっていいよね」と思えているから。
つまり、最初から「百合受容体」が搭載されている人たちが、『わたなれ』に抵抗感なく入ってきているんじゃないかと思うんです。
それこそ、男性でも「男同士の関係性はいい」と言うし、女性でも「女同士の関係性はいい」と言う。そういう性差による「こっちは男性向け、こっちは女性向け」という垣根も取っ払われてきたなと思います。
──そこは、とくにここ数年で変わってきた感覚があります。
みかみ氏:
そういう意味で、れな子のキャラクター性を書くにあたって意識している部分は、「男性にも女性にも受け入れてもらえる子」という部分です。
男性にも女性にも「面白い」と受け入れてもらえれば、市場は二倍に広がりますからね!
アニメは終わりましたが、原作はまだまだ続きますし、ガールズラブコメディの面白さを、まだまだ伝え続けたいと思っています。百合のパイをもっともっと広げるために、これからもがんばります!
最後に、ちょっと余談っぽくなってしまうのですが……インタビュー当日、なんだか想像以上に盛り上がってしまい、みかみ先生とK原さんと、5~6時間ぐらい話していました。
そのくらい長時間のお話をするなかで……みかみ先生のなかに、たしかに「甘織れな子」の存在を感じるのです。段々、目の前にいる人がピンク髪に見えてくるし、声もCV中村カンナに変換されていく。実際「常にいる」とは言っていたけど、なんか本当に「存在を感じる」のです。
少なくとも、私の視点ではそう見えていました。
「この方から『わたなれ』が生み出されている」ことの説得力がすごかった……という、私の勝手な話はともかく! みかみ先生、K原さん、本当にありがとうございました。
当時は苦境に立たされていたはずの『わたなれ』が、こうして大人気になり、みかみ先生の数年越しの願いが叶い始めている。ムリに思えたけど、ムリじゃなかった。『わたなれ』もどんどん愛されていくはずだし、これから『わたなれ』を追う形で、もっと多くの作品が出てくるのかもしれない。
そんな、『わたなれ』と「百合」にとっての明るい未来……まさに「ネクストシャイン」を祈って、この記事を締めさせていただければと思います。


