海賊が世界1周を成し遂げてもあまりメリットがない
──『トルトゥーガ パイレーツ テイル』では「カリブ海最恐の海賊を目指す」というキャッチコピーがあるんですけど、桃井先生が考える最恐の海賊はどんな海賊だと思いますか?
桃井氏:
バーソロミュー・ロバーツという海賊は、黄金期にもっとも成功した海賊と言われています。彼は何百隻もの船を略奪しているのですが、じつは海軍に敗れるまでの海賊としての活動期間は5年くらいでした。
「最恐」というと、バーソロミュー・ロバーツのように太く短く活躍した海賊を指すのかもしれないですけど、私は「逃げて長く生き延びた海賊のほうがいいのでは?」と思ってしまいます。人それぞれの海賊像はあるかと思いますが、ちょこちょこ逃げ回って長く生き延びる海賊もいいなと。
──『トルトゥーガ パイレーツ テイル』は明確な道筋があるわけではないので、そういったプレイもできるようになっています。そういえば世界1周をした海賊もいたそうですね。
桃井氏:
世界周航をした海賊はいました。フランシス・ドレークという海賊ですが、当初はイギリスから大西洋を渡り、太平洋側に回ってアメリカ大陸西岸を略奪して戻ってくる予定だったんですけど、戻ってこれなくなってしまったんです。そこで太平洋を渡り、フィリピンやインドネシアに出て、インド洋を渡り喜望峰を回って帰ってきたという。
ただ、海賊が世界1周をしてもあまりメリットがないんです。むしろ長期間の航海は危険が伴うので、生き延びたいなら避けたほうがいいでしょう。
──桃井先生的に「こう回れば生き延びやすい」みたいなルートはありますか?
桃井氏:
そうですね。理想から言えば、まずカリブ海あたりで小金を貯めて(笑)。
1回の略奪で船員給与の20年分ぐらいのお金を手に入れた海賊もいたらしいです。ただ彼らはイギリスに帰って隠れていたところ、捕まって処刑されてしまいました。
なので、私だったら20年分くらいのお金を手に入れたあとは、グアムかハワイに行きます。八丈島でもいいです(笑)。そこで余生を過ごすのが最高ですね。
──(笑)。安全なところでこじんまりと暮らすみたいな。
桃井氏:
やっぱり南の島がいいです。ハワイは物価が高いので、マレーシアあたりでも。セブ島もいいですね(笑)。
──先ほど八丈島とおっしゃってましたが、そういえば日本にも海賊はいたんですか?
桃井氏:
日本にも瀬戸内海に海賊がいました。じつは瀬戸内海ってカリブ海と似てるところがあるんです。小さな島があったり、入江があったり、海賊は逃げられやすい地形に集まりやすいのですが、瀬戸内海がまさにそうでした。
九州から近畿へと商船が通る大動脈だったので、そこで通行料を取る時代があったんです。ところが天下統一した豊臣秀吉の支配下になると「海賊は禁止」となり、カリブの海賊がイギリス海軍に鎮圧されたように、日本の海賊もいなくなりました。
大きな秩序ができると海賊は排除されてしまうんです。そのため、権力が分立していたり、対立しているところのほうが海賊は存在します。
知られざる存在? 船長の右腕となるクォーターマスターの役割とは
──船長と船員のパワーバランスも教えていただきたいのですが、「大事なことは投票で決める」というのは本当なのでしょうか?
桃井氏:
海賊の黄金期は原始的な民主制を取っていて、大事なことは投票で決めていました。船長が「俺の言うことを聞け」と言っても、船員は商船などでひどい思いをしてきたので聞きたくない。そのため大事なことは投票で決めて、船長も投票で決めていたそうです。
船長の支持率が下がると投票で船長が変わってしまうことも実際にありました。そのため船長は船員のことを気遣わないといけない。船長でも戦利品の取り分はせいぜい2倍ぐらい。この時代としてはめずらしいくらい民主的です。
──『トルトゥーガ パイレーツ テイル』でも戦利品の分配は頭を悩ませる部分ではあるのですが、分配率は船長によって変わってくるものなのでしょうか? それとも相場があるのでしょうか?
桃井氏:
海賊の黄金期には船に乗るときに契約をしていたので、たとえば「船長の取り分が5倍」とかだと、だれも乗りたがらないんです。人が集まらないと船は動かないので、平等にせざるを得ない。
海賊の最後の時期は恩赦令もあって乗り手が少なくなっていたので、商船から無理やり乗せることもありました。でもそうすると逃げてしまうんです。
黄金期の初期だと「海賊は自由」という感じだったんですけど、後期になると過酷な状況になっていきました。
──たとえば船に乗る前は「取り分をたくさんあげる」と言いつつも実際は渡さないみたいなこともできたと思うのですが、そういうことはなかったのでしょうか?
桃井氏:
取り分に関しては本当に厳しくて、たとえ船長であっても不正があれば処罰されてしまいます。「仲間を裏切るやつは許さない」ということですね。
そのため戦利品を分配するときは、みんなの前で公開しながら分配していくんです。船長とは別に分配を取り仕切る「クォーターマスター」という役職の人がいて。
──クォーターマスターはどういう役割なのでしょうか?
桃井氏:
実務的な責任者です。戦いになるとクォーターマスターが最初に攻め込むんですよ。
──ええっ、かっこいいですね。
桃井氏:
大きい船が2隻手に入ったりすると、1隻目は船長、2隻目はクォーターマスターを船長にして与えることもあったそうです。黒ひげティーチも最初はベンジャミン・ホーニゴールドという海賊の右腕として船に乗っていたのですが、のちに船を与えられて船長になり、有名になった海賊です。
海賊は商船を襲うときに海賊船とバレないよう小芝居を打っていた
──「強そうに見える船長が支持を集めやすい」というお話がありましたが、船長が強さ以外に求められるものはありますか?
桃井氏:
船長に求められるものは「演出」なんです。海賊は商船と戦うよりも、相手をビビらせてお手上げにさせるほうが効率的ですから。だから海賊旗も恐ろしげなドクロのマークだったり、悪魔と契約してるマークだったり、相手に「恐ろしくて抵抗できない」というイメージを与えることができたら勝ちでした。
黒ひげティーチも戦闘の場面では帽子の脇から火縄を垂らし、煙をモクモクさせながらピストルをバンバン撃つというような自己演出をしていました。
──それはたしかに強そうですね(笑)。
桃井氏:
「あいつは怯まない」みたいなイメージ戦略が大事です。そういう船長には自然と船員が集まってくるので。
──先ほど海賊旗のお話が出ましたが、どういったものがモチーフになっているのでしょうか?
桃井氏:
ドクロマークは「逆らったら殺す 」「俺たちは死を恐れない」という死のイメージでした。ほかにも、悪魔と手を結んでいるマークや砂時計のマークもありました。砂時計は「人生の時間は限られている」「俺たちは死と友だちだ」という意味です。
──砂時計はひねりが効いていますね。海賊旗は常に掲げているものなのでしょうか?
桃井氏:
海賊旗を掲げて航海していると商船が逃げてしまうので、最初は商船みたいなフリをします。船員はみんな商人みたいな服を着て、風向きも計算しながら近づき、射程に入ったところで海賊旗を掲げます。
──そんな小芝居みたいなこともしていたんですね(笑)。
桃井氏:
そうですね(笑)。相手がもし反撃してきたらマストを狙って砲撃すると逃げられなくなる。商船は商品をたくさん乗せる必要があるので船員が少なく、大砲などの武器も少ないんです。一方で海賊船は略奪するための船なので船員の数も武器の数も多い。そのため、戦って船を沈めるというより乗り込んで降伏させる方向に持っていきます。
ただ、相手が海軍だと徹底的に戦うこともありますが。基本的には「危なかったら逃げる」が鉄則です。
戦って勝つことが海賊の目的ではないので、敵わない場合は逃げるのがいちばん。ゲームなら戦いたくなりますけど、自分の命がかかっていたら逃げちゃいます(笑)。
──海での戦い方にはどういう戦法があったのでしょうか?
桃井氏:
偽装して近づくというパターンと、停まっている船に見つからないように近づくというパターンがあります。近づいたら海賊旗を上げ、太鼓を打ち鳴らして恐ろしさを演出します。
サミュエル・ベラミーという海賊が大きな船を襲ったときは、船員全員で裸になって「ウワ──ッ!!!」と言いながら襲いかかったらしいです。相手は大きな船だったのに、驚いて降伏したという(笑)。
──前日とかに酔っぱらったノリで「やっちゃおうぜ、裸!」みたいになったんですかね。
桃井氏:
そうかもしれません(笑)。冗談のようですが、ひとつの戦法として成功ですね。
──海賊ってやっぱりラム酒が好きなんですか? 『トルトゥーガ パイレーツ テイル』では略奪したラム酒をちゃんと船に積んでおかないと船長の支持率が低下してしまうんです。
桃井氏:
水はすぐに傷んでしまうため、保存が効くお酒は船に積まれていました。当時は「壊血病」というビタミンC不足によって起こる病気が海上での深刻な病気でした。いま、カクテルでラム酒にライムを入れたりするのは、当時の名残りなのかもしれません。
──ゲームの中では酢漬けのザワークラウトも出てきます。
桃井氏:
なるほど、ザワークラウトもビタミンCですね。
海賊は仲間意識が強く、顔見知りの海賊が処刑されると町を襲う
──あまり海賊に詳しくない人が一般的に持つイメージの海賊と桃井先生から見た海賊で「ここが違う」みたいなところはありますか?
桃井氏:
海賊は仲間意識がとても強いんです。じつは海賊同士が戦うことはめったにない。なぜかというと、虐げられてきた境遇が同じだからです。
そのため、たとえば知っている海賊が町で捕まって処刑されたことを知ると、海賊たちはその町を襲って市長を処刑したり、復讐戦みたいなことをしていました。虐げられたもの同士の共通性みたいな。
商船や奴隷船を襲ったときも海賊たちは船員にまず聞くんです。「お前たちの船長はどうだ?」と。そこで船員がひどい扱いを受けていると知ると、その商船の船長を殺害したりする。逆にいい船長の場合は、その船からお宝だけを奪い、船長には小さな船を与えて「帰っていい」と命を助けることもあったそうです。
もちろんヒーローのような海賊ばかりではありません。海賊には暴力的な要素が必ずあって、そこは見過ごしてはいけないと思います。海賊を過剰にヒーロー視するのは危険です。ただ、なんでもかんでも荒らし回る海賊は少数で、だいたいの海賊は彼らなりの秩序や正義を貫いていました。
たとえば奴隷貿易みたいな暴力があるときに、商業活動を脅かすからといって「海賊だけが悪いのか」という問題もあります。もちろん、真っ当な生活をしている人たちからしたら、当時も現在も海賊は厄介な存在であることは変わらないと思います。
──厄介な存在とはいえ、海賊に対する憧れのような感情はどこからくるのでしょう?
桃井氏:
やっぱり「海」って「自由」と結びついているのだと思います。陸だと逃げ切れない感じがするんですけど、海だと逃げ切れて既存秩序から解放されるようなイメージがあります。
私は戦略としてともかく「逃げる」ことをおすすめします。いかにも勝てそうな船にだけ挑み、裸になって脅して、あとは一目散に逃げましょう(笑)。
──桃井先生の書籍『海賊の世界史』のエピソードに出てくる海賊は、思い入れがある海賊たちなのでしょうか?
桃井氏:
そうですね。非常にキャラクター性が強い海賊たちです。
たとえばウィリアム・キッドという海賊がいるんですが、彼は商人だったんです。しかし、フランスとの戦争のときにイギリス国王から私掠状をもらい、フランス船を襲うことになりました。ところがインド洋に行ったら目的のフランス船が見つからなかったんです。
獲物がいないと船員は自分たちの身入りがなく、反乱が起きそうになったため、仕方なくムガル帝国の船などを襲い始めました。ところが当時イギリス東インド会社がムガル帝国と関係を結んでいたため、いつの間にか海賊としてお尋ね者になってしまい、最後は捕まって処刑されてしまいます。「あれっ、人生こんなはずじゃなかったのに」みたいなところに親近感を感じます(笑)。
──桃井先生の学生さんで海賊好きな方はいますか?
桃井氏:
個別の海賊について詳しく知っている学生もいます。ゲームや漫画などから海賊のキャラクターを知る機会が多いようです。私は歴史を教えているため、歴史的な背景を知ることで「どうして彼らが海賊行為をしていたのか」「どういう風に見られていたのか」という部分の理解が深まると、そうした創作物もより楽しめるのではないかと思っています。
フィクションの世界と歴史の世界は相乗効果があるので、『トルトゥーガ パイレーツ テイル』を遊んで海賊に興味が出たら、ぜひ海賊の歴史にも触れてみてください。(了)
身分制社会の時代、海賊船の中がほかのどこよりも平等な社会を築いていた。大事なことは投票で決め、戦利品もクォーターマスターによってオープンな環境で分配される。
なにより驚いたことは保険制度である。怪我をしたら自己責任の商船や海軍に対し、海賊は保障が手厚い。海賊の掟こそ細かくあるものの、それらは人を抑制するものではなく自分たちが事故なく無事に航海をするためのもの。海賊の秩序はそのように守られていた。
「海賊と海賊」「海賊と海軍」「海賊と国家」など、それぞれの関係性への理解が深まると、いままで触れてきた海賊を扱う作品への見方も変わるのではないだろうか。
『トルトゥーガ パイレーツ テイル』は現在発売中。プラットフォームは、PC(Epic Games) 、Xbox One、Xbox Series X|S、PS5、PS4となっている。
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