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海賊の生活は?掟は?年収は?保険制度があった!?ロマンあふれる海の生活について、海賊の専門家に聞いてみた【『トルトゥーガ パイレーツ テイル』インタビュー】

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 映画でも漫画でも、そしてゲームでも海賊を題材とする作品は数多く存在する。しかしながらよくよく考えてみると、海賊の実態についてほとんど知らない。そもそも、彼らはなにをもって「海賊」と呼ばれているのだろう。

 暴れ回ったら海賊? お宝を奪ったら海賊? 国から命令されて攻撃しても海賊? もしかして、自称……?

 『ワンピース』のルフィや『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジャック・スパロウなど、キャラクターとしての海賊は身近に存在しているものの、これまで海賊そのものについて深く考えたことがあっただろうか。

 改めて海賊について考えるきっかけを与えてくれたのはカリプソメディアより発売中の海賊ゲーム『トルトゥーガ パイレーツ テイル』だった。本作は海賊船団のリーダーとなり「カリブ海最恐の海賊」を目指す海戦シミュレーションRPG。

 プレイヤーは海賊船の船長たちを束ねて船団を編成し、略奪の航海へと出かけていく。艦隊を維持・強化していく管理能力と、くせ者ぞろいの船長たちを惹きつける求心力を発揮し、船団を強化することでその悪名を知らしめていくゲームだ。

世界初の保険制度は海賊が作っていた!? ロマンあふれる海の生活について、海賊の専門家に聞いてみた
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 もしかしてこのゲーム、歴史的背景を知っていればもっとおもしろいのでは……?

 そこで電ファミは今回、『海賊の世界史:古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで』の著者・桃井治郎氏が准教授を務める清泉女子大学にて、お話をうかがった。

世界初の保険制度は海賊が作っていた!? ロマンあふれる海の生活について、海賊の専門家に聞いてみた
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桃井治郎氏
世界初の保険制度は海賊が作っていた!? ロマンあふれる海の生活について、海賊の専門家に聞いてみた
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荒くれものの海賊のイメージとはまったく異なる清泉女子大学の厳かな佇まい

  本稿では、カリブの海賊史や海賊の掟、船長と乗組員とのパワーバランス、そして海賊船の暮らしなど、海賊そのものについてお届けしていく。

聞き手/柳本マリエ
文/anymo
撮影/佐々木秀二


海賊は身分制差別がなく船の中は平等な社会が築かれていた

──桃井先生はなぜ海賊の研究をされているのでしょうか?

桃井氏:
 もともとは北アフリカのアルジェリアやチュニジアの歴史を研究していたのですが、その中でいわゆる「バルバリア海賊」という存在に出会いました。19世紀初頭にヨーロッパの圧力で廃絶されるのですが、外交史料を読むなかで海賊側の論理に興味を持ち、従来の歴史とは違う「海賊から見た歴史」はおもしろいのではないかと考えました。「正史」とは異なる逆賊から見た「もうひとつの世界史」になるのではないかと。

 どういうことかというと、19世紀初頭のヨーロッパはウィーン体制という国際協調の時代が到来し、そのなかでヨーロッパ諸国が協力して北アフリカ海賊を根絶するという決議がなされます。

 ただし、そのときの外交史料を読むと、ヨーロッパ側の論理では「海賊は人道上からも商業上からも有害な存在」とされるのですが、北アフリカ側の論理では「和平条約を締結している国の船舶は襲っておらず、また、自国を守る防衛上の観点からも海賊の廃絶には応じられない」と正当性が主張されるのです。結局、ヨーロッパの圧力で海賊は終焉するのですが、10数年後にはその時の懸念のとおり、フランスによるアルジェリア植民地化が始まってしまいました。

 このようにさまざまな時代の海賊に注目することでその時代の新たな特徴が見えてくる。海賊史にはそういったおもしろさがあると思います。

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──海賊の魅力はどんなところですか?

桃井氏:
 海賊の魅力のひとつは、既存の秩序から逃れて自由に生きるところだと思います。身分制社会の時代に庶民が立身出世を果たすこともできましたから。社会的弱者や反逆者が成り上がることへの憧れもあるのかもしれません。

──そもそも、海賊ってなんですか? なにをもって「海賊」と呼ばれるのでしょう?

桃井氏:
 現代の海賊の定義は、国連海洋法条約という国際法で決まっています。略奪・暴力行為を行う船舶はもちろん、飛行機のハイジャックも海賊行為と呼ばれます。単に暴力行為をするというだけでなく「国家以外の主体が行う」ところもポイントで、国家が行ってしまうと戦争に定義されます。

 それから国際法上は、どこかの国の領海ではなく公海上での暴力行為を海賊行為と呼んでいます。このように現代の海賊の定義は非常に限界的です。そもそも公海の概念自体が近代にできたものですので。この定義からいえば、海賊はあからさまに悪者という印象を受けるでしょう。

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 ただし、歴史的に海賊を見るうえでは、海賊の定義はいちばん広くするのがいいのではないでしょうか。海上で船舶を襲ったり、あるいは沿岸地域で略奪したりするのが海賊だと思います。海賊の定義よりも、海賊行為の定義のほうがわかりやすいように思います。

──略奪といった派手な海賊行為以外に細かい海賊行為もあるんですか?

桃井氏:
 もっとも広く考えると、「貢ぎ物をしないと略奪をする」といって脅す行為も海賊行為と呼べると思います。略奪といった実際の行為ではないのですが、実態は貢ぎ物を常に求められるので、そういう行為も「海賊行為」だと考えています。

──海賊になる人はなにを求めて海賊になるのでしょう?

桃井氏:
 生きていくために海に出て行くケースがいちばん多いと思います。海賊の黄金期と呼ばれる時代といまの時代のもっとも大きな違いは、身分制社会かどうかということです。17世紀や18世紀のヨーロッパは絶対王政の時代だったため身分や貧富の格差が非常に大きく、食べていけない人がたくさんいました。

 生活が成り立たない人は「年季奉公」という制度がありました。前借りをしたうえで借金を返すために5年くらいカリブ海諸島で働く契約をして現地へ送られるというものです。あるいは、商船や海軍の船に乗せられることもありました。
 そうすると給料もほとんどもらえず、食事も生活も貧しい。海軍の船では、1回の航海で1/3から半分ぐらいの人が亡くなっていました。当時の船の生活は感染症や怪我などにより死亡率が非常に高いんです。

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 身分制社会は商船や海軍の船の中でも徹底されていて、「船長の言うことは絶対」でした。規律を破ると鞭で打たれたり、食事もほとんど与えられなかったり。

 海賊船に商船が捕まると、海賊たちから「海賊になりたいやつはいるか」と声をかけられるんです。すると、「この商船で生きて帰れるかどうかわからない。だったら太く短く、海賊になろう」と考える人が多い。
 そうやって、虐げられた人たちが海賊になっていくため、海賊船の中は「平等な社会を作ろう」と投票で船長を選んだりと、平等な社会ができていきました。

世界でいちばん最初の保険制度は海賊が作っていた!?

──平等な社会や自由を求めて海賊になったあとは、どういったことをゴールとして捉えていたのでしょうか? その先に目指すものはあったのでしょうか?

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桃井氏:
 海賊は「太く短く生きる」という節があるので、10年後20年後についてはあまり考えていなかったと思います。海賊のほとんどは20代や30代なんですけど、たとえ商船に乗っていてもあまり長くは生きられないんです。それならば「自分の生きたいように生きてやる」という考えの人が多かったと思います。

──海賊は20代や30代が多いんですね。

桃井氏:
 ほとんどが20代や30代でした。40代は稀で、かなり経験を持っている人だと思います。それは海賊船だけではなく、商船や海軍も同じような年齢層でした。

 海の生活は危険なので、「海賊の掟」の中に「怪我をして腕を失った人間には何ポンド与える」というようないわゆる保険制度がありました。これは世界で最初の社会保険制度ではないかと思います。

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 商船や海軍にはそういった保険制度はなく、怪我をしたら自己責任です。実際に怪我で働けなくなってしまう人はたくさんいました。

──海賊のほうが保障が手厚いんですね(笑)。先ほど船での死亡率のお話が出ましたが、海賊は「死亡」以外で海賊を引退することはあるのでしょうか?

桃井氏:
 海賊は年季奉公のように働く期間が定められているわけではありません。しかしながら、掟を破って船から追い出されてしまうケースは多々ありました。

 海賊の掟のひとつに「戦いのときは船長の命令は絶対である」というものがあり、それを破ると無人島に置き去りにされてしまうこともあります。

 そのほかには「いくら稼ぐまでは船を降りない」という掟もありました。というのも、島や港に着いたときに逃げ出してしまう船員がいるんです。船はある程度の人数がいないと動かないため、「仲間内の約束を守らないやつ」としてひどい仕打ちを受けます。

──海賊の掟はほかにどのようなものがあったのでしょうか?

 もともと海賊の掟は、仲間内で揉めないためのものなんです。

 たとえば「船の上では賭け事をしない」「船室ではお酒を飲まない」「夜は8時までに消灯にする」など。「それ以降の時間に飲む人は甲板で飲め」みたいなルールがあるんです。とくに、嵐や感染症のほかに船にとっては火事が死活問題でした。

 船が木造ということにくわえて、防水のためにタールを塗っていたりするので、火が回りやすいんです。当時はろうそくを使っていたため、船内にろうそくを持ち込むときは扱いに気をつけないと命に関わる。海賊の掟は、自分たちが生きるために作られたものでした。

専門家から見た『ワンピース』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』とは

──船の中で起こる問題はどのようなものがありますか?

桃井氏:
 船員に対していちばん気を使うのは食事です。「まずきちんと飯を食わせろ」と。

 商船に乗っていた人たちのもっとも大きな不満は食事なんです。栄養があるものが食べられない。塩水につけておいた肉が少し入ったスープみたいなものくらいしか食べられないんです。そのため、きちんとした食事を提供する船長が「いい船長」として評価されていました。

 海賊船において船員に食事を与えるには次々と船を襲って食料を略奪しないといけません。もちろん出航するときは積んでいきますけど、いずれ尽きてしまうんです。

──遭難も多かったのでしょうか?

桃井氏:
 遭難は多いです。嵐がとても危険で、そこで命を落としてしまった海賊はたくさんいました。だから、知らないところにはあまり行きたがらないんです。敵と戦うだけでも危ないのに、海上では食料問題や自然災害にくわえて、先ほどの火事などとにかく危険が多いですから。

 とはいえ、そんな環境でも成功する海賊はいました。ある程度うまく稼いだら港に戻って解散となり、再び「俺の船に乗りたいやつはいるか」と人を集めてつぎの航海に出るという流れです。
 船員は自分の命を預けるわけですから、船長は信頼に足る人間じゃないと「ついて行きたい」とは思わない。カリスマ的なリーダーが出てくるのがこの時代の特徴だと思います。

──たとえば、解散のタイミングで「もう海賊は嫌だ」となったときに戻れる先はあるのでしょうか?

桃井氏:
 普通の生活に戻りたいと思っても、なかなか戻れないのが現状でした。海賊でひと山当ててイギリスに戻った人たちがいるんですけど、羽振りがいいのでバレてしまうんです。バレて捕まると「商業活動を妨げる海賊」ということで、吊るし首で処刑されてしまいました。

 しかしながら18世紀の初頭になると、イギリスの王様が「この日までに海賊をやめれば恩赦する」という恩赦令を出したんです。当時、海賊をやめさせたくてもイギリス海軍の力では鎮圧することができないため、恩赦令というかたちで海賊を廃絶しようとしたんです。

 そのとき海賊の中でも「恩赦を受け入れる派」と「恩赦を受け入れない派」に分かれました。ほとんどの海賊は一生食べていけるような財産を持っているわけではないので、海賊をやめてしまうとまた商船や海軍での過酷な生活が待っているということになります。有名な黒ひげティーチは最後まで海賊をつづけ、最後はイギリス海軍に破れて命を落とします。

──ティーチという名前の海賊は『ワンピース』にも登場しますが、桃井先生から見て『ワンピース』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』はどのように分析されていますか?

桃井氏:
 とてもおもしろいと思っています。実際にこの時代の海賊にはさまざまな個性を持つ人物がいました。強そうじゃないと船員がついてこないので、ルフィのようなヒーローチックな海賊や、ジャック・スパロウのような少し抜けているところのある海賊はいたと思います。

──映画や漫画では酒場で話しかけて仲間を集めるシーンをよく見かけますが、実際にもあり得るのでしょうか?『トルトゥーガ パイレーツ テイル』も酒場で仲間を見つけます。

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桃井氏:
 やっぱり海の生活は海賊といえども厳しいので、陸に上がるとどんちゃん騒ぎが始まる。お酒を飲んで仲間意識が高まると「じゃあ一緒に海に出よう」みたいなことになるので、酒場で仲間を見つけることは実際にあったと思います。

 18世紀前半の黄金時代の海賊たちは、お互いに顔見知りだったりするんです。だからこそ仲間意識があって「あいつが処刑された」と聞くと、その街を襲うこともありました。

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──海賊たちは顔見知りだったんですね。当時はどのように名声を高めていったのでしょうか?

桃井氏:
 まず、海賊が名声を高めるのは大きな獲物を略奪したときです。大きな商船を奪ってお宝を得るのがいちばんです。そうすると「あの船長はすごい」と噂が広まり、自然と船員が増えていきます。

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 たとえば、当時大西洋を航行していた奴隷船は非常に大型ですが、輸送が優先のため大砲はさほど備えていない。ところが海賊船は戦闘のため、いろんな船から奪った大砲を備えているんです。大きな船が手に入ると、その船に大砲を移動させて乗り換えていく。そうなると船が大きく強力になるので、ちょっとやそっとの海軍でも対抗できないような船になっていくんです。

──では船を見れば強さがわかる?

桃井氏:
 そうですね。大きな獲物を略奪するたびにより強くなって、そこに船員が集まっていくというかたちです。1隻だけじゃなく船団を組んだりするので目立ちます。

──海賊はどのような推移で増えていったのでしょうか?

桃井氏:
 海賊が増えた理由は、戦争の影響が大きいと思います。
 カリブの海賊は大きくわけると3つの時期に分けられます。いちばん最初は16世紀後半から17世紀初頭くらいで、国家が後ろ盾になって略奪行為を始めた時期。次に17世紀中葉になると、私掠状といって国家が「他国の船を攻撃・略奪してもいい」という許可証を出します。戦争行為の一環として国家公認の海賊が現れる時期です。

 一般的にゲームや映画などでイメージするアウトローとしての海賊がいたのは、第3の時期にあたる17世紀末から18世紀初頭くらいです。いわゆる「海賊の黄金時代」なんですけど、イギリスの三角貿易が活発になるのもこの時期で、そのため海賊は貿易を阻害する邪魔者として扱われるようになります。

 18世紀初頭には海賊行為は徹底的に禁止され、海軍も海賊を鎮圧していきました。それでも戦争が終わると船員の多くは失業したため、手っ取り早く富を得られる海賊行為は続いていく。このようにして、最終的には海軍と海賊の戦いが始まっていきます。『トルトゥーガ パイレーツ テイル』はそういう時代が描かれているのではないかと思います。

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編集者
3D酔いに全敗の神奈川生まれ99’s。好きなゲームは『ベヨネッタ』『ロリポップチェーンソー』『RUINER』。好きな酔い止めはアネロンニスキャップとNAVAMET。
Twitter:@d0ntcry4nym0re
編集者
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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