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ファンタジー世界に組み込まれた“邦画感”こそが「秘密」シリーズの魅力。日本の夏の情感も相まって、世界中でヒットした? ガストの敏腕P・細井氏に訊く、ワールドワイドで受け入れられることを目指したRPGの作り方

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テンポの良さを意識して、キビキビしたゲームプレイへ

──今作から追加された「鍵」システムですが、調合、戦闘、採取、フィールドとゲームのほとんどの要素に横断して使えるシステムになっていますよね。なぜ、このような形で新しいシステムを導入したのでしょうか。

細井氏:
 「鍵」というシステムを作ろうとした動機としては、3作目を作るにあたって、これまで以上に高品質なゲームを作りたいなと思ったのがはじまりです。この動機はどのタイトルでもつねにあるものですが、『ライザ3』は「秘密」シリーズですので、すべてを一新して作る新規タイトルとは異なり、どのように改良していくか非常に迷いました。

 基本的には1、2作目で評価が高かったシステムは残してアップデートしていく方針ですが、その場合はスケールアップした部分を見せるのがなかなか難しいと感じました。

 「秘密」シリーズでユーザーさんにより新しい体験をしていただくにはどうするかとか、今回のオープンフィールドに合うようなシステムを導入するためにはどうすればいいのか考えた時に、新しく全てに横断するものを入れることによってユーザーさんのゲーム体験を大きく引き上げられるのではないかと思ったんです。

「グローバルで受け入れられるためには、まず我々がよく知る日本で親しまれなければいけない」という_011

──新しくもうひとつのシステムを加えるという形ではなく、なぜ全部を横断させる要素を加えたんですか。

細井氏:
 それぞれのシステムごとにアップデートして新しい仕様を入れていくと、ゲームの難度と言いますか、ユーザーさんがシステムへの理解を深めていくときに障害になってしまうかもしれない、と思ったからです。
 そこであらゆる要素を「鍵」という新しいシステムに集約させることによって、その「鍵」のシステムひとつを理解すれば、全てのシステムがなんとなくわかるようになる。そんな仕組みにしたかったんです。

──なるほど、そういう工夫だったんですね。
 そういった効率的なシステムに加えて、今作は今までのシリーズと比べても、かなりテンポが良くなっていると感じました。採取も戦闘も、全体的に動きがキビキビとしている印象です。

細井氏:
 今作はかなりフィールドが広くなりましたので、その広さによってゲームプレイが薄くなってしまうのが嫌だったんです。ですから、テンポの良さは本当に意識しています

 ジャンルにもよりますが、私としては、ゲームはユーザーさんが能動的に動かしてこそ価値があるものだと思っています。そこで今作は、できるだけ早くゲーム内でキャラクターを能動的に動かせるような設計にしました。やはり、そういう「いち速く遊びを体験する」といった形は、昨今発売されているゲームを見ても、多くの人に受け入れられやすいのではないかと思ったんです。

──たしかに、言われてみれば今作って「アトリエ」シリーズ中、最速で戦闘パートに行きますよね(笑)。

細井氏:
 ちなみにゲームの導入部分は別の案もあって、それは「もう、1作目のラスボスをはじめから出してしまおうか」というものでした。最初からいきなりクライマックス感を出すのも良いんじゃないか? と。その点はディレクターと喧嘩するまで議論しました(笑)。

 結局は今の形に落ち着きましたが、やはり昨今は、そのぐらい「速く触れる」ことをユーザーさんが望まれていると感じています。

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──「秘密」シリーズで「アトリエ」シリーズ初の「リアルタイムタクティクスバトル」を採用したきっかけやエピソードは何かありますか。

細井氏:
 やはりいまのトレンドがアクションだと思ったからですね。

 とはいえ、ターン制バトルを否定しているわけではなく、当然のことながらこれまでの「アトリエ」シリーズで採用しているターン制の良さも絶対にあると思っています。
 ただ、さらに多くのユーザーさんに手に取っていただけるように作っていくためには、アクション性のような──つまり即時性があって、リアルタイムで楽しめるものが必要だ、と感じたんです。

 かといって、「アトリエ」シリーズがいきなりバリバリのアクションゲームになっても文脈が飛びすぎてしまいます。ですので、「アトリエ」らしさと共存していける、リアルタイム性とターン制のハイブリッドを作ろうと考えた結果が「リアルタイムタクティクスバトル」です。

──なるほど。私のイメージでは「アトリエ」シリーズって、やっぱり調合がメインコンテンツで、戦闘はサブ的な扱いだと思っていたんです。それなのに、「秘密」シリーズの戦闘はすごく面白くて、驚いたんです。

細井氏:
 我々としては、戦闘は「アトリエ」シリーズのメインコンテンツだと思っています。もちろん、さらに発展させていくつもりもありますし、もっとアクション性に振り切ったシステムがあってもいいのかもしれないと思っているほどです。

 なぜかというと、「アトリエ」シリーズで重要な調合アイテムの使いみちが、戦闘になるからなんですね。せっかく試行錯誤して良いアイテムを作っても、そのアイテムを使う戦闘自体が面白くなかったら、錬金術というシステム自体が成立しないと思うんです。

 ですので、基本的には「戦闘システムをより面白く」は毎タイトルで基軸として考えています。ただ、今まではターン制バトルのブラッシュアップが多かったためか、大幅な進化という意味ではあまり新鮮さを感じていただけていなかったのかもしれない、と反省しています。

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ライザははじめは社内で不評だった…!?

──ガストのリリースペースってめちゃくちゃ早いですよね。どういう制作体制で開発しているんですか?

細井氏:
 1.5ラインぐらいで動いて、今では1年半に1本ぐらいのペースで発表しています。
 とはいえ、他社さんのゲームのクオリティはすごく高くなっていますから、やはりそのレベルに負けないように作りたいという気持ちもあって……。それだけ、開発期間は昔よりも長くなってしまっていますね。

──それでも、コンシューマ向けで1年半に1本というペースはスゴいですね……。「アトリエ」シリーズ全体を見ているのは細井さんだけなんでしょうか。

細井氏:
 今は私だけですね。その上で各タイトルにディレクターがいる形になっています。
 「秘密」シリーズは初めて自分が新シリーズの立ち上げからプロデュースすることになった作品ですが、私がこのシリーズで打ち出したかったのは、「「アトリエ」を現代的にしたい」というところでした。

 やはり、作り続けてきた結果、開発の中でも「「アトリエ」ってこういうものだよね」というイメージが、ある程度決まってしまっていたと思うんです。
 そのイメージのままだと、販売本数は伸び悩む一方で、開発費は年々右肩上がりになっていくだろうという危機感もありました。このまま行くかどうかで、「アトリエ」シリーズの命運が決まるかもしれない、と。

 そうした分岐点で「アトリエ」の現代化を図った「秘密」シリーズは、今ではおかげさまで3部作を発売できましたが、1作目を作っていた当時は、「これで「アトリエ」シリーズを終わらせてしまうかもしれない」とも思っていました…。

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──そんな状況だったんですか(笑)。しかし、それが今となっては、「アトリエ」シリーズ最大級の売り上げですよね。

細井氏:
 おかげさまで、1作目ももうすぐ世界累計出荷本数が100万本に届きそうで、有難いかぎりです。

──細井さん自身も、『ライザ』に賭けていたんでしょうか。

細井氏:
 そうですね。もし思ったような結果にならなかった場合は、会社を辞めるつもりでした。トリダモノさんにもずっとそうお伝えしていて。「だからこそ自分が好きで、たくさんの人にも親しんで、楽しんでいただけるものを入れる」と決めていたんです。

 詳しいことはここでは言えませんが、キャラクターデザインに関しても今までの作品とは違う意図のデザインになっています。これまでのシリーズとは異なるデザインラインだったこともあり、はじめは社内からも不安視する声が挙がっていたのですが、なんとか理解してもらえました。

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グローバルで受け入れられるためには、まず日本で親しまれなければいけない

──最後にお聞きしたいのですが、「秘密」シリーズは海外でも人気が高い印象があるのですが、海外向けの展開で意識していることはありますか。

細井氏:
 一番意識しているのは、「同時展開」です。1、2作目も日本とアジアは同時展開ができましたが、北米と欧州は同時にすることができなかったんです。
 それが北米や欧州のファンの方に「プライオリティが低い」と受け取られてしまったことがあったんです。

 一口にワールドワイドに展開すると言っても、こういったサブカルチャー的なコンテンツにおいてのファーストステップは、日本で知名度があるコンテンツになることだと私は考えています。サブカルチャー系のコンテンツが好きな方の多くは、日本のエンタメ作品に注目してくださっていると思うんです。ですので、日本で認知されたことをきっかけに、世界のあちこちでも注目していただけるようになる、という順番があるのだと思います。

 そのためにも、ワールドワイドでより多くの人に遊んでいただく、知っていただくためには、国内での人気を盛り上げることが必要不可欠かなと思っています。

 ただそれは、日本だけを意識するという意味ではありません。ワールドワイドで同時展開することによって、ユーザーさんに興味をもってもらえたときに、欲しい情報をいち速くキャッチしていただけるようにしたいんです。

──ありがとうございました。製品版、すごく楽しみにしています!

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まとめ

 これからも、「アトリエ」シリーズを支えていく存在になる細井氏。今回お話を聞いていく中で、「秘密」シリーズのゲームの中で描かれている物語とは別のもうひとつのテーマ──つまり「過去と現在の良いところをしっかりと見極めて新しいものを生み出す」というテーマをもっとも実践している人物は、細井氏なのではないかと思う瞬間もありました。

 少し古いけど魅力にあふれた「アトリエ」シリーズの良さに、現代のテンポの良い手触りを追加することによって新しい「アトリエ」ファンを多く生み出し、今も「アトリエ」シリーズは人気のシリーズとなっております。

 今作でライザたちの冒険が終わってしまい、物語が完結することは楽しみな反面さみしい気持ちもあります。ただ、一方でさらなる人気キャラクターがガストから生まれるかもしれないという期待も膨らみます。

 『ライザのアトリエ3 ~終わりの錬金術士と秘密の鍵~』はPlayStation 4、PlayStation 5、Nintendo Switch版が3月23日、PC(Steam)版が本日3月24日に発売した。ぜひこれからも、「アトリエ」シリーズの活躍を見守っていきましょう。

 

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ライター
『プリパラ』、『妖怪ウォッチ』ありがとう。黙々とゲームに没頭する日々。こっそりと同人ゲーム、同人誌を作っています。ネオ昭和ビジュアルノベル『ふりかけ☆スペイシー』よろしくお願いします。
Twitter:@zombie_haruchan
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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