「カードゲームでワイワイ遊ぶ」感覚をゲームセンターに持ち込むため、意識したのは『カルドセプト』と『遊戯王』
──ちょっと話を戻すと、『WCCF』や『DOC』がヒットしていたなかで『アヴァロンの鍵』を出すにあたって、その独自性や狙いはどういったところにあったんでしょうか。当時というと、少し話にも出ましたが『MtG』や『遊戯王』が流行り始めていた時期でしたよね。コンシューマには『カルドセプト』もありました。
熊谷氏:
そうですね。『カルドセプト』は意識しました。
西村氏:
トレーディングカードゲームという面で言うと『遊戯王』があったので、子供が遊びうる要素を持ったマーケットだなと思いました。
熊谷氏:
『遊戯王』も最初のヒットというか、盛り上がっているタイミングでしたね。社内で話してるとき「コナミの友達から聞いたんだけど、もうお札刷ってる感じらしいよ」って聞いて羨ましいなと思ってました(笑)。
一同:
(爆笑)。
熊谷氏:
「マジっすか!」って。なんか「レジの横に置いてると飛ぶように売れて、笑いが止まらないらしい」と。『WCCF』のロケテストでもカードがほとんどカラになるぐらい盛況って話も聞いて。カードやばいな、お札を刷る感覚を私も味わってみたいなと。
呉田氏:
生々しい(笑)。
熊谷氏:
もちろんお金だけの話でもなくて。『WCCF』も『DOC』も「自分との戦い」みたいなところがあったんですね。もうちょっと対面的な、ボードゲームを遊ぶようにみんなでワイワイ楽しんでもらえるようなゲームを作れたら、お客さんを広げることができるんじゃないかなと。企画の背景としてはそんな感じですね。
小早川氏:
当時は『MtG』や『遊戯王』が発掘した、マーケットと呼ぶにはまだ曖昧な、でも広がり始めた市場のポテンシャルが見え始めたころで、その灰色の状態で出たのが『アヴァロンの鍵』だったかなと思っています。
熊谷氏:
あと、多分『ポケモン』のカードゲームも出てたかな。役員の方が開発チームの視察でオフィスを行脚してたとき、私たちが「カードゲームを作ってます」って報告したら「俺メディアファクトリーのとき『ポケモンカード』立ち上げてヒットさせちゃったんだよね~!」って感じで言ってたから。
小早川氏:
なるほど(笑)。
熊谷氏:
じゃあそれを役員会議でも推してくださいよ、ってお願いしたのを覚えてます。
──当時『遊戯王』も『ポケカ』も「カードゲーム」としてガチで遊ばれているというより、「トレーディングカード」としてコレクションの方向で注目されていたように思うんです。でもみんな薄っすらと「ゲームとして遊んだら楽しいだろうな」と感じていて、そこに『アヴァロンの鍵』が出てきたという印象でした。
熊谷氏:
そうです、そうです。企画屋のなかでも「何とか自分たちでモノにしたい」という想いは強くあって、虎視眈々と狙ってる人は多かったと思います。そこで本当に踏み込めたのが当時のヒットメーカーだったんでしょうね。
技術から考えるゲーム開発。セガ社内の催し「テクノロジーカンファレンス」
呉田氏:
まあでも、やっぱりカード回りの技術が無ければどれも立ち上がらなかったですよね。
熊谷氏:
そうですね。『WCCF』のカードの裏に透明のコードを書いて、「カードが読み取り機に触ったらゲーム内でも動きます」っていうのがテクノロジーカンファレンスで出てきて……。
小早川氏:
軽く補足しますと、テクノロジーカンファレンスというのは筐体やハードの技術研究をやっている部門の人たちが成果を発表するイベントですね。僕が『チュウニズム』というゲームを作ったのも、あのカンファレンスがきっかけでした。
呉田氏:
技術を製品に結び付けるための会場ですね。いろんな会社が「こういう技術があるんだけど、ゲームに使えませんか?」ってプレゼンを持ってきてくれたりして。
熊谷氏:
軍事か、次はゲームか、というくらい、新しい技術の活かしどころとしてアミューズメント方面は期待されているところがあるんですよね。当時のセガのアーケードって、技術を追求している企業とか、新しいことを思いついちゃった発明家の人たちから注目されていたんです。
町工場みたいなところから、色んな人が集まってきて……多い時は30品目くらいでしたかね。色んな技術が並んで、手品の発表会みたいな感じ。今年はどんな技術が出てくるのかな、って年に1回の楽しみみたいなところがありました。
呉田氏:
裸眼立体視とか、90年代からプレゼンに来てましたね。
熊谷氏:
VRの研究とかも90年代からやってました。
小早川氏:
そういう土壌からカード周りのデバイスが生まれて、ビジネスモデルとしてもカードによる収益性が取れるという期待が集まって、『アヴァロンの鍵』という商品が生まれたんでしょうね。
最大40枚のカードを認識できる読み取り機の発明。大切なのはデッキを作り、「置く」というフィジカルな体験
──はたから見ていると、『アヴァロン』って何がどういう順番で噛み合って制作に至ったのか分からなかったんですが、技術から始まってたんですね。
西村氏:
そうですね。元々は技術ありき。
熊谷氏:
カードが生まれて、読み取り機も2年連続ぐらいでカンファレンスに出てきて。そこから原価とか、なんとか色々話をして「普通にカードゲームとして作って成立するな」と言うことが分かりました。本当に、そこからですね。
西村氏:
当時もう『WCCF』は動いてますよね。
熊谷氏:
稼働はしてましたね。
呉田氏:
ただ、『WCCF』は置いた分しか読めないんだけど、こっちだと最大40枚まで束の状態で読み取れるようになったんです。
それだけの数を読めるんだ、となったとき「デッキを組んで遊ぶゲームが作れるかもしれない」という予感が生まれました。
軽く技術的な補足をしておきますと、束にしてリーダーに入れたとき、底の面にあたる部分にバーコードのようなものが描かれていまして、それを読み取ることで数十枚を認識できるという仕組みだったんです。
田口氏:
自分が当時聞いた話だと、カードゲームって最初にデッキを作って、盤上にドンッと置く、そのフィジカルな感じが「楽しい」ということでしたね。
束にしてカードを入れたら、それが画面に出てくる。そのゲームとリアルが直結している感覚、「束を組んで挿す」という行為が大切なんだ、と聞いた気がします。
熊谷氏:
うんうん。フィジカルな体験がね。
西村氏:
ゲームが出てきたばかりのとき、僕なんか「セガは魔法が使えるのかな?」と思って見てました。何十枚も同時に読み取れるのって、そのくらい衝撃的だったんですよ。
熊谷氏:
ただ、新しい技術ができました、となっても本来なら製品化が可能か何度もテストして確かめていくものなのに、「そんな技術あるの。じゃあ筐体作って売ろうぜ」みたいなスピード感で動く怖いもの知らずな側面もありましたね。
カードをまとめてスキャンしてゲーム内に反映する必要があるのに、カードが反っちゃったり、インクが剥げたりという不具合もあって。
小早川氏:
30枚入れた時、2~3枚認識できないこともよくありました。ファミコンのソフトみたいに、カードをフーフー吹いてましたね。意味はないんですが。
西村氏:
当時は新しい技術もどんどん出てましたからね。技術が生まれて1年後には、もうなにかすごいことができるかもしれないという期待がありました。
田口氏:
その辺もふくめてヒットメーカーらしさ、という部分でもありますよね。
“紙のボードゲーム”の手作りからはじまった『アヴァロンの鍵』
──『アヴァロンの鍵』の企画は持ち込まれた技術から始まった、ということですが、ゲームの実際の開発体制というのはどのようなものでしたか?
小早川氏:
当時の体制でいうと、人数はすごく少なかったですよね。プログラマーが4人とかしかいなくて。今だと10倍ぐらいはいないと作れない気がします。
呉田氏:
確かに。
小早川氏:
デザイナーも4~5人、企画も3~4人とかで。全部で十数人ぐらいで作ってたんじゃないでしょうか。
熊谷氏:
でも当時はそのぐらいがチームの規模としてはスタンダードでしたよね。
小早川氏:
そうです。そのぐらいのチームで作っていたし、作れた。ある意味、少数で作ってたからこその勢いもあったように思いますね。
呉田氏:
フットワーク軽かったですよね。
熊谷氏:
企画が立ち上がって、ゲームセンターに実際に並ぶまで1年半ぐらいでしたね。
──20人にも満たないチームが、1年半で『アヴァロンの鍵』を作り上げたんですか。
小早川氏:
めちゃめちゃ早いですよね。
熊谷氏:
そうですね。でも、そもそもゲームを作り始める前に半年ぐらい準備期間みたいなのがあったんですよ。紙を切ってボードゲームを手作りして、何人かでぐるぐる回しながら3日に1回ぐらいルール改定して、デバッグして、ということをやってました。
熊谷氏:
『DOC』の制作現場が、ゲーム作りながらルールを考えてるのを傍から見ていて、「このやり方だと時間がかかりすぎるな」と思ったので、「先にプリプロダクションで半年やらしてくれ」とお願いして。絵の方向性とかもすごく悩んだり、半年ぐらいあーでもないこーでもないと弄りまわしてようやく形が見えてきた。
そこで一旦チームを解散して、正式にゲームを作るためのチームを結成して再スタートしました。こういう進め方って当時も目新しかったんですけど、誰も同じような流れでやる人いなかったんですよね。だから、最初で最後かもしれないです。紙でチョキチョキして、色々考えてからゲーム制作に入るっていうのは。
小早川氏:
いえ、セガのアーケードで言うと、この後に『コードオブジョーカー』というネットワーク対戦のデジタルカードゲームが出るんですけど、この制作現場では「紙ベースで作る」というのが踏襲されましたよ。
熊谷氏:
え、本当? そうなんだ。
小早川氏:
実はそうなんです。『アヴァロンの鍵』のスタッフもいましたし。
熊谷氏:
じゃあ、後に引き継がれている部分もあったんだ。それが聞けて良かった(笑)。