「MAXで1日に10体デザイン」した!? デザイナー田口氏の驚異的な作業量と発想力
──何度かカードの絵柄の多さについてもお話が出ていましたが、デザインを作っていく中で苦労した部分や印象的なエピソードなどはありますか?
田口氏:
そうですね……まず能力的な棲み分けとして、愛澄ちゃんにはその能力が活きる分野をやってもらって、僕がモンスターとかを担当して、というのはあったんですが。
熊谷さんとすっごい揉めたんですよね。ゲームを3Dでいくかどうかで。僕は大反対したんです。お金もかかるし、作るのも大変だし。それはダメだ、って。
「でも3Dで行くのよ」ってめっちゃ言われて、しぶしぶ3Dにしました。
一同:
(笑)。
田口氏:
しぶしぶです。自分は3Dもやってましたけど、ポリゴンを極力使わないタイプだったんです。『アヴァロンの鍵』のモンスターも、結構関節とかないのが多くて、全部繋げて作ってるんです。
呉田氏:
トライフォースの制約って部分もありましたよね。自社ライブラリの都合で、あんまり関節の多いものを出せなかった。
田口氏:
そうですね。あと、カードを先にデザインするのは反対しました。作家さんのほうで、立体化できないデザインを出されたら困るので。モンスターデザインを起点として、イラストの方で「自由に描いてください」とお願いしつつ、3Dに行くというフロー。
小早川氏:
なるほど。製作仕様書を先に作った感じなんですね。いやしかし、今見てもこのモンスターデザインの幅はさすがだなぁって思いますよ。田口さん、このバリエーションをだすデザイン力ってどこから来たんですか?
田口氏:
考えるのが好きだったんですよね。MAXで1日に10体デザインしてました。
小早川氏:
本当に仕事早かったですよね。いやー、今でも覚えてますよ。発注し忘れた「盗賊の手」というカードのイラストを3時間で描いてもらって。あの時はすいませんでした、本当に。
一同:
(笑)。
田口氏:
何の捻りもない絵になってしまった(笑)。まあそうだよな、3時間だからな。
西村氏:
余談なんですけど、当時ヒットメーカーって窓際にコピー機があったじゃないですか。
呉田氏:
あったね。
西村氏:
そばにMacもあって、僕はずっとMacに座って、半日ずっと素材の整理やってるんですけど、田口さんが一番ひんぱんにプリンターまで来てましたね。いっぱい色んなものを出力して。
田口氏:
今はそうでもなくなりましたけど、当時は紙に出力して並べて見ないと「良い」「悪い」が判断できなかったんですよね。あと、自分のセオリーとしてモンスターデザインは10体ワンセットで考えていくんです。1体ずつ作るとどうしてもワンパターンになっちゃうので。
小早川氏:
なるほど。
田口氏:
10体並べて、大きさのメリハリを取ったら、次の10体を作る。そしたら10体と10体を並べて、なるべく似たようなデザインにならないようにって工程をしないと、同じようなのばっかりになっちゃうんです。
熊谷氏:
なるほどねぇ。
田口氏:
この20体目ぐらいがほんとにキツくて、全然次が出てこなくなるんですよ。
小早川氏:
魚関係は結構、苦しいやつ多かったですもんね。
田口氏:
魚はキツい……。あと哺乳類。崩すと、もう全然ダメ。
熊谷氏:
別物になっちゃうもんね。
田口氏:
あと気持ち悪くなるんです。だからなるべく魚と哺乳類は変えないようにしてました。
小早川氏:
モンスターデザインで言うと「悪魔軍団」っていうのがいて。当時2005年ぐらいのタイミングで、「女性が喜ぶ男性キャラクター」みたいなものを結構提案されていて、そのへんも時代を先取りしていたなという印象でした。
田口氏:
でも、こういうアイディアって焼き直しというか、昔のアニメとかでもコンセプトとしてはずっとあったものですからね。宝塚とか、そういうのもだし。自分のはアイディアっていうか、全部オマージュですね。
小早川氏:
なるほど、過去のものを落とし込んでたということだったんですね。
田口氏:
軍団だって、戦隊ものとか、敵とか、だいたいこういうフォーマットですから。
西村氏:
ジャンプ漫画とかね。
田口氏:
たしかにアーケードでは新しかったかもしれない。でも家庭用機なら普通にあるパターンでしたね。
どんなに大事な情報でも「ユーザーが拾えないものは捨てる」。引き算を重視した情報伝達
田口氏:
自分は今でもユーザーインターフェイスとかユーザーエクスペリエンスとかをやってるんですが、そのスタート、初仕事は『アヴァロンの鍵』でした。とりわけタッチパネルにはいろいろと苦労させられましたね。
やっぱり、情報は全部お客さんに見せたいじゃないですか。でも『アヴァロンの鍵』のときは、どんなに大事な情報でも「ユーザーが拾えないものは捨てる」という方針を立てたんです。
小早川氏:
うんうん。
──「拾えない」というのは、たとえばどういう状態なんでしょうか?
田口氏:
文章を見ているだけではわからないことってあるじゃないですか。挙動が複雑だったり、多層的に進行したり。「○○を××して△△すると、~~になる」みたいなのって、ゲームとしてどれだけ大事でも一目みてそれを理解させるのが非常に困難なんですよね。
そうなると、その情報の重要度はもう関係なくて、ユーザーが理解できない情報っていうのは出してるだけ無駄なので、思い切って捨てる。そういう方針ですね。
「文章だけで伝わらないもの」というのはあるので、それを伝えるためには別の伝え方をしなくちゃいけない。画面を切り替えたり、アニメーションさせたり。プランナーは理解できるように順序だてて書けばユーザーが丁寧に読み進めていってくれると思いがちなんですけど、そうはならないので。
小早川氏:
ならないですね。そういう意味では、アーケードゲームというのは特に画面を見る時間が短いゲームジャンルなので、引き算が非常に重要になってきます。
小早川氏:
極端な話、その瞬間に押すボタンが1個表示されているだけ、ぐらいの作り方が多分正解なんです。『アヴァロンの鍵』はかなり複雑なゲームですが、そこのポリシーは守りながら作られていったと思いますね。本作ってこう見えてアクションゲームなので。
呉田氏:
そうだよね、アクションゲームだよね(笑)。
小早川氏:
すごくタッチパネルをハードに触るので、プログラマーさんたちなんかは、鉛筆の後ろの消しゴム面を使って画面操作をしたりしてましたよね。プレイヤーの操作も稼働後、どんどん操作が早くなっていきました。行動を選択して、次に確認のポップアップがどこに出てくるかを覚えて、待ち構えてボタン連打する動作なんか面白かったですよね。
熊谷氏:
早い者勝ちだからね。
小早川氏:
アヴァロンの鍵では、戦闘支援カードというカードを使った駆け引きがバトルでは重要となるのですが、バトル中に使用されたカードの状態がリアルタイムで表示される仕様だったため、制限時間ギリギリまで相手がどの色のカードを使うかをチェックして、相手が使った瞬間に応じ手を切り替えるようなフレーム単位のタイミングの駆け引きもありました。
こういう妙なアナログ感というか、プレイヤーがゲームへと最適化していく工夫というのも面白かったですね。
キャンペーン中は「ゲームセンターからゴミが出なかった」。伝説の“魔術向上キャンペーン”
小早川氏:
(当時の雑誌を読んでいて)いま目に入っちゃったんで、ちょっとネタにしてもいいですか。この「魔術向上キャンペーン」。これ、結構伝説のキャンペーンだったんですよ。
熊谷氏:
ああ、やったやった(笑)。
小早川氏:
これは「遊んだ回数に応じて景品を上げます」っていう、現在のアーケードゲームではよくやっているキャンペーンなんですが、インターネットにつながっていない当時はプレイ回数を計測するってことが難しかったんですよね。
それで『アヴァロンの鍵』がどうしたかっていうと、カードを引いた際に入ってる袋。この破かれた袋を集めて交換するっていう(笑)。
一同:
(爆笑)。
西村氏:
あったあった。そうそう(笑)。
小早川氏:
アナログすぎる(笑)。あれは凄かったですよね。
呉田氏:
「捨てずに取っときゃよかった~!」って言ってる人いたね。
小早川氏:
捨てたゴミを急いで取りに戻ったりね(笑)。
西村氏:
このキャンペーン中、ゲームセンターからゴミが出なかったって聞きましたよ。
田口氏:
すごいな。
小早川氏:
その後の20年間、いろいろと形を変えてプレイ回数に応じて様々なグッズがもらえるキャンペーンをやってきましたが、この袋のゴミを集めるのが最初だったんですよね。
呉田氏:
シールはどうだったの?
小早川氏:
シールもやりましたね。袋にシールを付けるっていう。
西村氏:
シールは全国的には流石にできなくて、セガのお店だけのキャンペーンでしたね。そのうえ、工場の時点ではシールを貼れなかったので、シールだけ別でお店に納品して、ゲームセンターのほうで貼ってもらうという。
熊谷氏:
うわぁ……それは大変だね。
小早川氏:
僕はこの当時のアーケードカードゲームの「袋を開ける」っていうのも夢があったと思いますね。最近のアーケードカードゲームの主流がプリンタになってしまって、なくなってしまったのがすごく残念です。体感的には完全にガチャ演出の感覚でした。
熊谷氏:
うん。開けるまでドキドキするよね。
西村氏:
開ける楽しさがありましたね。
小早川氏:
当時はピロー袋を開ける楽しさだったのが、今はガチャだったりと形を変えて人を楽しませてるんだなって考えると、感慨深いものがありますね。