戦記物語のファンタジー・シミュレーションRPGでありながら、『ファイアーエムブレム』をはじめとする既存のSRPGとはまったく異なるシステムを持ち、また可愛らしいキャラクターデザインに似つかわしくない高難度とヘビーなストーリーを併せ持つ、ファンからも異端扱いされる作品が、10年以上の時を経てiOS/Androidで蘇りました。
『ユグドラ・ユニオン YGGDRA UNION』です。
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2006年にゲームボーイアドバンスで登場し、2008年にPSPでも発売された作品。
iOS/Android版はPSP版の移植であり、インターフェイスとセーブ周りに変更点がありますが、ほぼ同じ内容です。
マニア好みで熱烈なファンも多い、重厚で長編のシミュレーションRPGをスマホで存分に楽しむことができます。
ただし、複雑で思考性の高いシステムと、一筋縄ではいかない難易度には、ライトユーザーを寄せ付けない敷居の高さがあります。
「ゲームはシンプルで遊びやすい方がいい」、「レベルを上げて物理で殴れば勝てるのが普通」とか思っている人が手を出すと、間違いなくヤケドするゲームであり、決して万人向けではありません。
しかし、歯応えのある戦略ゲームが好きな人には、無類の楽しさを与えてくれます。
価格は1800円。買い切りゲームであり、ソーシャルゲームではありません。
GBA版は戦闘に時間がかかり、ゲームのテンポが良くなかったようですが、スマホ版は戦闘シーンを最大5倍速にすることができ、手早く進められます。
他にも、PSP版で加えられたバランス調整や、新キャラクターなどが盛り込まれています。
プレイガイドを兼ねたレビューにしていますので、遊んでいるけれど行き詰まった、という人も参考にしていただければと思います。
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亡国の王女が盗賊たちの力を借りて解放軍を結成し、王国の再興と帝国の打倒を目指す物語。
マップはマスで区切られており、味方のユニット(コマ)を動かして、敵軍のユニットを攻撃していく、一般的なターン制シミュレーションゲームに見えますが…… 一般的なのは見た目だけです。
まずターン開始時に、カードを1枚選択します。
カードにはパワー(Pow)、移動力(Mov)、スキル、武器種(エースタイプ)が書かれており、選んだカードの移動力を味方全員でわけ合います。
たとえば移動力が10で、最初のユニットを6マス移動させると、残りのユニットは合計4マス分しか移動できません。
敵に接したユニットは攻撃を行えますが、その際に複数のユニットで「ユニオン」が結成されます。
攻撃は1ユニットだけで行うのではなく、攻撃実行者が男性ユニットなら「×」字方向、女性ユニットなら「+」字方向にいる、2マス以内の味方も参戦します。
これは攻撃された側も同様です。
攻撃したユニット、および攻撃されたユニットは最初に戦い、他の参加者は時計回りの順番で戦闘を行います。
そしてユニットには使う武器に応じた「相性」があり、剣は斧に強く、斧は槍に強く、槍は剣に強いです。
攻撃を実行するユニットはもちろん、参加者も相性の良い組合わせになるよう、戦闘順を考慮した配置にしてから戦闘を開始する必要があります。
ただし、ゲーム序盤はユニオンの結成はありません。
当面は1対1の戦いしか行われず、相性やユニオンのシステムはステージの進行に合わせて、段階的に加えられていきます。
新システムの登場時には丁寧な解説も行われるため、複雑なシステムではありますが、わかりやすく学べるようになっています。
攻撃を仕掛けられるのは1ターンに1回のみ。
自分のターンが終わると敵のターンになるため、相手からの攻撃も考慮した配置にする必要がありますが、移動力が残っているなら戦闘後に動かせるので、不利になりそうな仲間は戦った後に後退させることも可能です。
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カードを使い切っても勝負が決まらなかったときは敗北になるので注意。
ほとんどのステージはいくつかのシーンに分かれていて、その変わり目にカードが回復します。
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スマホ版はアンドゥ(一手戻る)があるので、とりあえず攻撃してみて、参加する敵とその順番を確認し、それから巻き戻してユニットの配置を考える、ということが可能です。
もし相手より人数が少ない場合、同じキャラが連戦することになり、連戦数に応じて兵士の初期人数が減ってしまいます。
ただ、不利なユニットは参戦しないほうが良く、不利なまま戦うぐらいだったら有利な人が連戦したほうが良いです。
画像は「リンク」も加えられている状態。リンクはゲーム中盤から追加される仕様で、参戦した人の近くにいる人も参加するシステム。これにより、より大人数での戦いになります。
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ただし、敵が所持アイテムを落とすかどうかは「LUK」のステータスしだいです。敵より高ければ確実。
「スティール」のカードを使えば盗むことも可能。
ただし、このゲームの装備アイテムはすべて使い捨てで、数ターンしか効果が持ちません。使いどころを考えましょう。
敵が落としたアイテムは、わざわざ拾わなくても、ステージクリア時に自動で回収されます。
しかし、敵がそこに移動すると取られてしまうので注意。
バトルが始まると、歩兵ユニットは8人、騎兵などの大型ユニットは4人で構成された部隊が現れます。
まず、攻撃側が「突撃」を敢行し、防御側の残った兵士が「反撃」を行います。
防御側の反撃は「残った兵士」で行われるため、基本的に攻撃側のほうが有利。
突撃と反撃には部隊の相性に加え、リーダーの「TEC」というステータスが威力に、「GEN」というステータスが防御力に影響します。
突撃と反撃が終わったら「白兵戦」に移行。
白兵戦では武器の相性と、リーダーの「ATK」が影響し、徐々に兵士が倒れていきます。
戦いは自動で進行しますが、画面上部に「ゲージ」があり、画面左側を押していると攻撃力が下がる代わりにゲージが上がっていく「Passiveモード」に、右側を押しているとゲージを消費して攻撃力を上げる「Aggressiveモード」になります。
そしてゲージが最大になると、ターン開始時に選んだカードの「スキル」を発動可能に。
火炎や氷結の魔法、敵の攻撃を受け止めるシールド、敵兵を寝返らせるマインドの魔法など、さまざまな必殺技を繰り出せます。
ゲージを攻撃力アップに使うか、スキルに使うかの判断が大切です。
ただし、スキルを使うにはターンの最初に選んだカードの武器マーク(エースタイプ)と、戦闘を開始する当事者の武器タイプが合っていなければなりません。
斧が書かれているカードのスキルは、斧を持ったユニットで戦闘を開始しないと使えません。
その条件を満たしていれば、どの武器の参戦者でもスキルを発動させられますが、「特定のキャラクター専用」のスキルもいくつかあります。
一方、敵には「RAGE」と呼ばれるゲージがあり、時間とともに上昇、これが1度最大になると攻撃力が上がり、2度最大になるとスキルを使ってきます。
敵の持続スキルはこちらのスキルの使用で打ち消せるので、厄介なスキルを使う相手はそれを狙うことも必要。
相手がゲージを貯める前に速攻で勝負を決める手もありますが、連戦中で敵が負けた場合、敵のRAGEゲージは次の戦いに引き継がれます。
Aggressiveモード中は攻撃力アップに加え、属性が付加される効果もありますが、リーダーや兵種によって属性の有利不利があるため、ゲージがあってもアグレッシブに攻めないほうが良いこともあります。
なお、これらのバトルシステムも、ゲームの進行に合わせて徐々に加えられていきます。
最初はゲージがなく、スキルもないので、戦いはほぼ見ているだけ。
新たなシステムが加えられる際には使い方がわかりやすく説明されるので、最終的に複雑になりますが、迷うことはないはずです。
ステータスの役割など、説明されない事柄も多いですが……。
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相性一覧はメニュー画面の「武器タイプ一覧」で確認可能。
ゲージの初期値は「TEC」のステータスと、カードの移動力で決まり、移動が低いほどゲージ初期値が高いです。
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属性の得手不得手を考慮して戦うことも大切。
たとえば主人公のユグドラは、神聖攻撃に強いのでヴァルキリーの属性攻撃を無効にしますが、暗黒属性には弱く、夜のアサシンの属性攻撃は苦手とします。
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ステータスの効果は以下の通り。
GEN:統率。突撃や反撃に対する防御力と、スキルに対する防御力&抵抗力。敗北時の士気減少量も軽減。
ATK:武力。白兵戦の強さ。勝利時の士気の減少量もアップ。
TEC:技量。突撃や反撃の攻撃力と、スキルの威力&成功率に影響。ゲージの初期量にも影響。
LUK:運。相手より高いなら確実に所持アイテムを落とす。低いと落とさない。同じだと五分。クリティカルや強攻撃の発生率にも影響。
N.V:名声。勝つと上がり、負けると下がる。一部のイベントに関係するのみ。
バトルが終わると、負けたユニットの「士気」が減少します。
このゲームの士気はユニットのHPのようなもので、負けると低下し、なくなると撤退or壊滅します。
勝っても上がったりはしません。
そして重要なのは、勝った側に士気のダメージは一切ないこと。
また、士気は戦闘力には影響を与えません。
よって、手強いボスに2回連続で戦いを挑み、連敗した場合、他のシミュレーションゲームだとそれでも2回分の戦闘ダメージを敵に与えられますが、このゲームでは単なる犬死にです。
繰り返し戦って相手を疲弊させる戦略は成り立ちません。
なんとか1勝できたとしても、それで敵が弱くなることもありません。
では、勝てないほど強い相手がいる場合はどうするのか?
ゴリ押しは効かないゲームなので、武器の相性、地形の防御効果、ユニットの得意地形、属性や昼夜の得手不得手、スキルや装備の活用など、何らかの手段で有利にする方法を考えなければなりません。
特に地形は重要で、得意な場所で戦えばかなり強くなります。
負けた側の士気の減少量には、キャラの能力差(攻撃側のATKと防御側のGENの差)、残った兵士数、地形効果などに加え、ターン開始時に選んだカードの「Power」が影響します。
そしてPowerは戦いに勝利することで上がっていくため、キャラクターだけでなく、どのカードを育てるかも重要です。
ただしカードのPowerは戦闘自体には影響しないため、それを上げまくれば連戦連勝になる、ということはありません。
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序盤から手に入るカードで育てておきたいものは、スティール、シールドバリア、エースガード、マインドチェンジ、サンクチュアリでしょうか。
減少した士気はステージ間のインターバルで、アイテムをご褒美として与えると回復します。
また、難易度がハードでなければ、レベルアップしたり、出撃させずに休息させても回復します。
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この時点ではユニオンもスキルも使えないため、それらで対抗することもできません。
ここで仲間になる騎士「デュラン」は架橋地形が得意なので、一ヵ所だけある橋に陣取って、ボスを待ち構えるのが良いでしょう。
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戦闘中に士気を回復できる手段は少なく、GBA版とは利用価値が変わっているのでご注意を。
「移動が3しかない=初期ゲージが高い」ということなので、攻撃にも意外に有用。
システムと難易度に加え、今作の大きな特徴なのがストーリー。
王女を中心に帝国の打倒を目指す戦記物ヒロイック・ファンタジーらしい展開とはいえますが、決して悪ではない相手を戦いの流れから打倒しなければならない、勧善懲悪とはいえないストーリーが続きます。
”きゆづきさとこ”さんが描く、戦記物としては妙に可愛らしいキャラクターデザインは、実はギャップ狙いなのでは? と思うような内容です。
もちろんそれは、この作品の大きな魅力のひとつでしょう。
スマホ版の特徴としては、アンドゥ(一手戻る)機能と、GBA版やPSP版とはセーブのシステムが異なる点があげられます。
スマホ版はアンドゥで、戦闘を挟んでいなければいくらでも戻ることが可能です。
動かしてミスったときはもちろん、ユニオンを組み、戦闘をしかけようとしたとき、相性が悪かった場合に、別の配置にしてやり直すことができます。
これは配置であれこれ考えることが多いこのゲームでは、非常にありがたいです。
欲をいえば、ターン開始時のカードの選択までやり直せれば良かったのですが……。
ただ、アプリを落としてタスクからも消し、起動し直して「CONTINUE」を選べば、カード選択まで戻ることができます。
スマホ版は毎ターン、オートセーブが行われるからです。
PSP版のように、ステージ中にいつでも中断セーブできるわけではないので、戦闘の直前にセーブしてクリティカルが出るまでやり直す、みたいなことはできませんが、オートセーブのおかげで、わざわざ手動でセーブしなくても良くなりました。
しかもオートセーブ枠は驚きの30個。好きなタイミングまで戻ることができます。
ステージ間に行える通常セーブの枠も30あります。
他にスマホ版は、EASYモードの追加、会話のログ機能の追加、エクストラコンテンツ(アイテム図鑑など)の解放条件の変更などが行われています。
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戦闘中のセリフや、特定のキャラが隣接した時の会話なども、かなり多く用意されています。
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不利な相性がない彼女の存在はPSP版以降の難易度をかなり下げています。
彼女が仲間になるステージの会話シーンは、本編のストーリーの補足になっています。
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ステージ1でコブンにMVPを取らせると、そのままずっと仲間になります。
使うかどうかは微妙ですが…… 彼がいると休息(未出撃)できるユニットが増えるので、回復には役立つかも。
高難度のゲームですが、敗北しても敵が弱くなってリトライできるし、EASYモードも用意されたので、攻略困難というわけではありません。
システムの特異さと複雑さも、丁寧なチュートリアルと段階的な導入のおかげで、それを欠点としていません。
ソーシャルゲームや基本無料ゲームの流行により、ゲームの簡易化が進んでいく前の、コアゲーマー向けの極致のような作品。
平成の最後にスマホに現れた、スマホが現れる前の平成を思い出すゲームです。
ユグドラ・ユニオン YGGDRA UNION
コアゲーマー向けで特異な内容の戦記シミュレーションRPG
(画像はユグドラ・ユニオン YGGDRA UNION – AppStoreより) ・シミュレーションRPG
・STING(日本)
・1800円
文/カムライターオ
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今回、『大戦略』の生みの親である天才肌のゲームクリエイター・藤本淳一氏、当時の販売会社システムソフトで、ディベロップ、プロデュースなどを手がけられた豪腕ぶりが印象に残る福田史裕氏、そしてウォーゲームのマニアにして理論家の風体のある石川淳一氏らに、『大戦略』誕生からその後のシリーズ開発についてなど、当時の思い出や挿話などを語り合っていただいた。