堀井氏がもっとも思い入れが深いのは『ドラクエ5』
──なるほど。『ドラクエ3』までで、すでに2時間ほどお話してしまったわけですが、リスナーの方から質問も届いていますので、それにお答えしていただきたいと思います。
まずは堀井さん宛に、「堀井さんが『ドラクエ』シリーズの中でもより思い入れが深い作品を“あえて”教えてください」とのことです。
堀井氏:
『ドラクエ3』も当然あるんですけど、『ドラクエ5』ですね。親子3代かかって魔王を倒すという物語を最初に思いついたわけなんですが、当初は主人公が代わっていくような構想もあったんですね。でも、それだとつまらないなと思って。主人公は同じまま、少年時代、青年時代を経て親になって……で、意表を突いたのは「息子が勇者」という設定ですね。
あとゲームでも本気で悩んでほしくて、“花嫁”を選ぶイベントを用意したりね。
──鳥嶋さんとしても、あの花嫁選びは高評価ですよね?
鳥嶋氏:
そうですね、うまいと思いましたよ。堀井さんからは常々「違う人生を体験して欲しい」と聞いていたから、あの選択肢が出てきたときに「これは2回遊ばせるつもりだな」と。戦略的にも上手ですよね。
──なるほど。では次の質問ですが、「鳥山さんのデザインにダメ出しをした場合はあったのでしょうか?」というものです。
堀井氏:
えーっと、ありますね。特に主人公についてはいろいろと注文を付けました。やっぱり主人公はプレイヤーの分身なので、一番難しいんですよ。例えば『ドラクエ6』の「テリー」は、もともと主人公として描かれたデザインだったんですよ。良いデザインだったんですが、主人公にしてはクセが強かったので仲間のひとりという立ち位置に収まったんです。
鳥嶋氏:
堀井さんが没を出すと、鳥山さんから僕の方にクレームが来るんですよ(笑)。没になったことを怒っているわけじゃなくて、「そんなに主人公キャラクターの貯金が僕の中にないです」というね。だからそんなに何種類も描けないから、堀井さんにそう伝えてくれますか……と。
両方の言い分が分かるので、非常に悩みましたね(笑)。
堀井氏:
結局は何度か描きなおしていただいて、妥協点を見つけて、といった具合ですね。
──なんとなくですが、『ドラクエ5』の主人公だけ他シリーズとちょっと毛色が違うように感じられるんですよね。
鳥嶋氏:
確かに、ターバンとマントですからね。
堀井氏:
そういう意味では『ドラクエ7』もけっこう違いますよ。
──確かにそうですね!では次の質問ですが「ご自身が生み出されたセリフの中で、もっともお気に入りのものがあれば教えてください」とのことでした。
堀井氏:
なんだろう……さっきも話題に出たけど、『ドラクエ2』でサマルトリアの王子を見つけたときの「いやー さがしましたよ。」というセリフは僕としてはかなり気に入っているんですよ(笑)。絶対に「こっちがさんざん探していたんだよ」というツッコミが入るなぁと思って。
鳥嶋氏:
普通の人は分からないけど、堀井さんをよく知っているとさらに面白いセリフですね。
堀井氏:
あと初期のものだと「ゆうべは おたのしみでしたね。」とか、全滅時の「しんでしまうとは なにごとだ!」とかですかね。それぞれ思い入れがあります。
特に「ゆうべは おたのしみでしたね。」の初登場は初代『ドラクエ』でローラ姫を助けた後、お城に直行せずに宿屋に泊まると見ることができるというものでした。そういうことをするユーザーもいるんだろうなぁと思って入れましたね。
──では次の質問ですが……「『トンヌラ』の由来はなんなんでしょうか」と。こちらは『ドラクエ5』で、最初に父親が主人公の名前として提案するものですよね。他にもさまざまなシリーズ作品で使われていますが……。
堀井氏:
あれは実はね……本当にいたんですよ、そういう人が。
鳥嶋氏:
そうなの!?
堀井氏:
いろいろな資料を見ていたら、本当にいたんですよ。それで「なんて名前だ!」と思って採用しました(笑)。
──では、次の質問に行きますね。「今後、堀井さんが“おいろけ”のセリフを書くことはもうないのでしょうか」(笑)。
堀井氏:
“おいろけ”のセリフってなんだろう(笑)。機会があれば書きたいですけどね。
──セリフを担当されていたのは『ドラクエ5』まででしたか?
堀井氏:
今でも書いたものに対して細かく直したりはしています。
──これはちょっと関連してお聞きしたいんですけど、堀井さん以降の“おいろけ”セリフはどのような方が担当しているんでしょう。
堀井氏:
『ドラクエ7』以降はもうあんまり残ってないんじゃないですかね。
鳥嶋氏:
昭和のノリだからね(笑)。
堀井氏:
今はあんまりいろいろ書くと問題になっちゃうから。
──ゲームでもそういった縛りはあるんでしょうか?
堀井氏:
結構ありますよ。男・女ももうダメで、タイプ1・タイプ2なんですよね。
鳥嶋氏:
なるほど。性別でざくっと分けちゃいけないんだね。会社のエントリーシートと一緒だ。
──なるほど……。では次の質問ですが、「ご自身で作られたもの以外で、堀井さんがお好きなゲームや作品があれば教えてください」とのことです。
堀井氏:
さっきもちょっと話したけど『ゼルダの伝説』の新作が好きですね。あとは『ファミコンウォーズ』をニンテンドー3DSでいまだに遊んでいます(笑)。あまり大きい顔では言えないんだけど、シミュレーションゲームが好きなんだね。
──ありがとうございます。では次が「キャラクターを考えるときに実際のモデルがいたりはしますか?」と。
堀井氏:
モデルは……意外といないですね。今まで見たものをいったん消化して、そのうえで考えているから、「これはこれ」と言えるものはないかもしれません。
──次のものですが、「『カンダタ』と『ピサロ』は堀井さんのお気に入りのような気がしたんですが、この推測は当たっていますでしょうか?」と来ています。
堀井氏:
(笑)。確かに、カンダタの「ゆるしてくれるよな! な!」とトボけた感じの口調とかは気に入っていますね。
──ピサロもかなり人気の高いキャラクターですよね。
堀井氏:
そうですね。悪役ではあるけれど、彼自身も可哀想な面を持っているという。
──ピサロは「ロザリー」というエルフの女性に恋をしているんですが、人間たちは彼女が流す“ルビーの涙”を目当てに彼女を虐げていたんですよね。それであるできごとからロザリーが人間たちによって殺されてしまい、ピサロは人間の抹殺のみを求める「デスピサロ」になってしまうという……。
だから、実は『ドラクエ4』では実は悪いのは人間だったりもするんですよね。
鳥嶋氏:
深いね。僕はもうそのあたりの設定は忘れてたよ(笑)。
──それで、ファンの間では「ピサロは実は仲間になることもできたんじゃないか?」というお話が湧き上がっていて……
堀井氏:
リメイクだと本当に仲間にできるようになったんだよね。「あやかしのふえ」でロザリーの部屋への道を開くんだったかな。
──はい。では、次が堀井さん宛には最後の質問になります。「この先作ってみたいゲームがあれば、言える範囲で教えてください」とのことです。
堀井氏:
今はいろいろなゲームが出てきているんだけど、僕としては閉塞感があるんだよね。「もっと違うゲームができるんじゃないか?」と思っていて、テレビゲームの形ではそろそろ限界なのかもしれないけれど……。人生をゲーム化するのに、もっと別の表現方法が生まれてくるんじゃないかという期待があります。
──それはスマートフォンとかというわけではなくて、また別のものということですよね?
堀井氏:
そうですね。画面ではない別の何かになるんじゃないかな。次世代のゲームはブラウン管や液晶から飛び出して楽しめるものになってほしいです。
鳥嶋氏:
それはインフラが課題になってくるかな。僕は意外と、コロンブスの卵的な感じで身近なところにヒントがあるんじゃないかと思っていますけどね。もっと人間観察をして見極めないと。
近年はみんなが非常に近視眼的で、ビジュアルとか、そういう部分にばかり目が行ってしまっていると思うんですよ。それで結局、従来通りのものしか見せられていない気がするんです。
──今はゲームに限らず、多くのコンテンツが数字を求めるようになっているじゃないですか。ある程度売らないとダメだ、みたいなところでクリエイターが遊びを取り入れる余裕がなくなってきているんじゃないかと感じますね。
堀井氏:
それはあると思いますよ。現代的な課題として、ある程度売れる目途が立っていないとそもそも開発さえさせてもらえないパターンがある。何十億という開発資金が必要になってきていますので、仕方のないことでもあるんですけどね。
鳥嶋氏:
「失敗が許されない」というのが壁を作っているよね。
──仮に堀井さんがそれを突破することはできるんでしょうか……?
堀井氏:
私財を投げうって……ってこと?(笑)
鳥嶋氏:
そういうことじゃない(笑)。チェック仕事をやめて、自分が遊んだり新しい何かに出会うことからだと思いますよ。規模はともかく、堀井さんの才能ならそうしていれば新しい何かはできるはずです。
──堀井さんはチェックを人に任せるとモヤっとしてしまうタイプでしょうか?
堀井氏:
割とそうですね。
鳥嶋氏:
職人だよね、その辺は。でも割り切ってもらわないと。
堀井氏:
特にこだわるのはゲームの頭の部分で。どうしても分かりにくくなってしまうんですよね。
鳥嶋氏:
これは昔にも話したことがあるんだけど、堀井さんの人となりをもっとちゃんと会社の中で伝えるべきだと思いますよ。そうしないと結局、一番苦しむのは堀井さんだから。
──それは堀井さんが時間を作れるよう、冒険できるように……ということですよね。
鳥嶋氏:
そうです。堀井さんと付き合ってみると分かるんだけど、NOが言えない人なんですよ。だからNOを言えるように物事を運んだりとか、堀井さんが口に出さないことまで汲み取ってあげるとかをしないといけない。
堀井氏の力は「誰かを楽しませたい」というサービス精神
──では、続いて鳥嶋さん宛の質問をいくつかピックアップさせてください。
まず「ジャンプ放送局、ファミコン神拳のメンバーの中でもっとも“沼”ゲーマーは誰でしたか?」と来ています(笑)。
鳥嶋氏:
宮岡くんじゃないかな。
堀井氏:
そうだね、宮岡くんだね。
鳥嶋氏:
彼からゲームを取ったら何も残らないから。僕や堀井さんも好きだったけど、ちょっとケタがひとつ違う気がする。
堀井氏:
ずーっとやっているよね。
──ウワサによると、奥さんが出かけて帰ってくるまでの間ずっと同じ部屋でゲームを遊び続けていたとか。
鳥嶋氏:
まぁ『ウィザードリィ』に関して言えば僕らも分かるところはあるけど、宮岡くんは極端だったね。
──鳥嶋さんも「風呂のフタが曲がる」くらい遊んでいたんですよね?
鳥嶋氏:
そう(笑)。30分くらいだと思ったら5時間経っていて、もうちょっとで火事になっていたとすごく怒られました。
──では次の質問に行きますね。「これまで堀井さんが作った作品の中で『これはまいった!』というものがあれば教えてください」とのことです。
鳥嶋氏:
やっぱり今日の話を聞いて、プログラムがよく分かっていないのに『ポートピア』を作っちゃったことが何よりもすごいと思いました。みんながゲームを作りたいと思っている中、“特に苦労もなく”ゲームを作り、しかもできたものが『ポートピア』というのは本当にすごいと思います。今日の話を聞いて、あらためて才能だなと思いましたね。
──ありがとうございます。次ですが、「『FF』の坂口さんにダメ出しをしたことがあるそうですが、鳥嶋さん流の『FF』論をお聞かせください」と。
鳥嶋氏:
あのとき散々文句を言ったのは、やっぱり「ユーザーフレンドリーじゃない」ところでしたね。僕が何かをチェックするときに常に頭に置いているのは「子どもがどれだけ楽しめるか」ということで、それがなぜかと言えば、彼らが一番不自由で、お金に切実なユーザーだからです。
だから、その子どもたちが嫌なことを忘れて楽しい時間を持てるか。それが常に第一においているチェックポイントですね。
──ありがとうございます。次の質問ですが、「『クロノ・トリガー』の誕生に関わったお話が聞きたいです」だそうです。
鳥嶋氏:
『クロノ・トリガー』という作品はまず、これだけの才能がある堀井さんをずっと『ドラクエ』に縛り付けておいていいのか、というところから始まりました。僕自身にも違うものを見たいという想いもあったんですよね。堀井さんのシナリオを使って、最先端の技術でゲームを作って欲しいなと。そのために坂口さんとのタッグを実現しました。
──『ドラクエ』と『FF』が交わってできる作品ですからね……。それをつなげるのが“マシリト”なんですよね。
鳥嶋氏:
面白くなると思うでしょ? 当時はハリウッド映画でも、才能を集めて面白いものを作らせるという流れがあったんです。
堀井氏:
2本つくるのは大変で、ほとんど任せきりになっちゃいましたけどね(笑)。
鳥嶋氏:
それでもやっぱり、頭のところとかはしっかり堀井さんのテイストなんですよ。ただ正直なところ、こんなに高評価で、ずーっと語り継がれる作品になるとまでは思っていませんでした。
あとひとつ言えるとしたら、このときの鳥山さんの絵がゲームのキャラクターデザインにおいてはベストかな、と思いますね。一番、脂がのっているときの鳥山さんの絵だね。
──ありがとうございます、では最後の質問ですが「『ドラクエ』以外で堀井さんに作って欲しいゲームはありますか?」とのことですね。
鳥嶋氏:
『いただきストリート』ですね。僕は『ドラクエ』と並んで『いたスト』が好きなんです。先ほども『ファミコンウォーズ』が好きだとおっしゃっていたように、堀井さんの真髄はシミュレーションゲームやボードゲームにあるんですよ。だから、もう一度みんなでワイワイ遊べるパーティーゲームを作って欲しいですね。
もちろん、他の人が作ってもそれなりのものができるとは思いますが、堀井さんが出す味はないんですよ。イタズラを仕掛けたり、ちょっとクスっと笑えたり……そういうものをぜひ作って欲しいです。だから何度も言うけど、チェックの仕事はほどほどにしてね(笑)。
──堀井さんとしては、そういうゲームは作れるものなんでしょうか?
堀井氏:
アイデアが浮かんだらいけると思いますが……あと、そういうゲームでしたらRPGよりは気軽に作れるかもしれないですね。RPGはやっぱり作業の量がとんでもないことになってくるので。
鳥嶋氏:
RPGもいったん、初代『ドラクエ』くらいの容量にしてみたらいいんですよ(笑)。
──それは1周回って新しいですね(笑)。
鳥嶋氏:
何度も言うけど、堀井さん自身の資質は「誰かを楽しませたい」「イタズラをしたい」「笑わせたい」……関西で言うところの“いちびり【※】”の精神なんですよ。だから、それをまた堀井さんに発揮してもらいたい。堀井テイストを今のゲームで味わいたいですね。
※ふざけてはしゃぎまわる人、お調子者といった意味を持つ近畿方言の名詞。
堀井氏:
ちょっと大作になり過ぎちゃったからね。
──はい、ではそろそろ時間が来てしまったので。私としては後6時間くらいお聞きしていたいんですが……(笑)。
鳥嶋氏:
じゃあ、どこかで違うゲストを読んだりしてパート2をやろう。堀井さんはもっと遊んだ方が良いから(笑)。
──鳥嶋さんは7月に本を出されるとのことなので、ぜひそのときにあわせて堀井さんを口説いてください(笑)。
鳥嶋氏:
近いうちに坂口さんにも会う予定があるから、3人で『クロノ』を語るのも良いかもね。ゲームクリエイターはみんな堀井さんに会いたい、話したいって言っているんだけど、堀井さんが忙しいんじゃないかって遠慮してるんだよ。
堀井氏:
いやぁ、怠け者だから……。ただ、坂口さんが来るとまた話が違う方向へ行っちゃうかな(笑)。
──では最後になりますが、鳥嶋さんが以前に「大人になると子どもの気持ちが分からないから、編集者をやるのが難しい」というお話をされていたんですよね。ゲームやマンガをつくるうえで、この先は子どもたちにどういったエンタメを届けていけばいいのでしょうか。
堀井氏:
僕は「ワクワクする感じ」を一番大切にするんですよ。だから、やる前から遊んでいる様子を想像してワクワクできるような、そんな作品を作ることが大事かなと思っていますね。
今の子どもたちってYouTubeとかをよく見ているじゃないですか。それとは違う、新しい楽しみを何か届けたいなと考えています。
鳥嶋氏:
堀井さんは「ワクワク」とおっしゃったけど、僕はやっぱり「ドキドキ」かな。ちょっと大人の匂いがするキケンなもの……親が見てはいけないというものって、子ども心に刺さるものがあると思うんですよね。
それでやっぱり、大人が子どもの楽しみを限ってはいけないと思うんです。マンガって、唯一子どもが育ててきた媒体なんですよ。子どもが選択し、育ててきた媒体って日本のマンガ・アニメ以外にはないからこそ面白いんです。
大人によって除菌されたところにあるものは味がしないんです。雑多な菌がいるからこそ、いろいろなものが混ざって味になってくる。だからこそ、“大人の言うことを聞かない”才能を見つけたいですね……。
──私も『ドラクエ』にドキドキを感じていたひとりなので、分かるお話です。
鳥嶋氏:
ちょっと大人の匂いがするのが堀井さんのテイストなんですよ。で、直接的じゃなくてユーモアがあるから。
──楽しく背伸びをさせてもらった、という気持ちがありますね。では、そろそろお時間になりますので終了とさせていただきます。
鳥嶋氏:
堀井さん、3時間も喋れるかなって言ってたけど大丈夫だったね(笑)。
堀井氏:
3時間は長いと思ったけど、おふたりのナビゲートがうまかったから(笑)。音楽の話……すぎやまこういちさんのお話もしたかったんですけどね。
鳥嶋氏:
堀井さんと一緒に、誰かの前で仕事について語る機会ってほとんどなかったから。今日は良かったです。
──では『ドラクエ12』も楽しみに待っております……! 本日はありがとうございました。
一同:
ありがとうございました(了)