先日プレイステーションVR(以下、PSVR)で『Rez Infinite』をプレイしたところ、ちょっとやそっとの言葉では言い表せない、生物として新しい領域に踏み込んだ感を強く覚えた。これは、ヴェルヌの描いた深海の世界を初めて実際に目の当たりにした人々や、初めて宇宙から地球の全体像を目にしたガガーリンなどしか体験できなかった感覚かもしれない。“人のいまだ見たことない光景を見る”という体験を叶えたと感じたのだ。
舞い散る光の中を漂いながら360度全方向に回遊する感覚や、光の洪水の中を消失点に向かって一直線に突き進む感覚などは筆舌に尽くしがたい。インベーダー以来ゲームをプレイし続けている身としても、「いまさらこんな新しい体験がゲームでできるのか」と鳥肌を立てたほどだ。
ただ、これがゲームである以上、プレイが進めばほどなく終わりが来る。くり返しのプレイも堪能したが、「もっといろいろなコンテンツでこうした体験がいますぐしたい」という欲が湧き上がった。そのとき思いついたのが、映画をはじめとする映像の視聴だ。PSVRはDVDやBlu-Rayコンテンツの視聴が可能なプレイステーション4上で動くハード。当然映画が観られる。聞けばPSVRにはシネマティックモードなる、映画視聴に向けたモードがあるという。PSVRの購入は、専用ゲームのためだけだと、まだコストなどを考えてしまうかもしれないが、「手持ちの映像コンテンツがすべてお宝として生まれ変わる可能性がある」となれば、背中を押してくれるに違いない。
というわけで、さっそくある程度の幅を持たせ、自前のライブラリから映像のBlu-RayやDVDを用意した。
以下はそのラインアップだ。
『2001年宇宙の旅』
『インターステラー』
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
『イレイザーヘッド』
『マッドマックス 怒りのデスロード』
『倉持由香 桃尻彼女2』
『virtual drug ECSTASY』
『HOTEL INFERNO』
結論から言うと、条件が整えば、通常のシネマ鑑賞以上の体験は可能だった。また、ある種の映像はマッチしそうに見えても、まったくそぐわないことがあった。それらの条件とは何か? 以下に解説していこう。
前提として語っておくなら、PSVRは2.5メートル相当離れた位置にスクリーンが浮かび上がる仕様と謳われている。シネマティックモードでは、大中小の3種類から画角が選べ、大ならその位置に226インチ相当の画面が、中なら163インチ相当の画面が、小なら117インチ相当の画面が浮かび上がるという。(遷移は、再生中にPSボタンを長押しして、現れた“プレイステーションVRを設定する”の項目から、“画面サイズ”の小項目を選び、提示された3種類から選択するだけというもの。)
漆黒の宇宙とVRヘッドセットは相性よし──『2001年宇宙の旅』
最初の一本は、アーサー・C・クラーク原作、スタンリー・キューブリック監督によるSF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』と決めていた。ラスト前、ボーマン船長が光の洪水に突入するシーンはVRヘッドセットではどう見えるのか? と『Rez』のプレイ中に考えたからだ。
VRヘッドセットを装着してゲームをプレイしているときには、ゲーム内容や操作に意識が向いていて気づかなかったが、映画のようにぼんやり鑑賞できるものを楽しんでいるときは、画角の広さにも意識がいく。巨大なワーナーのロゴを眺めながら、首の痛くならない映画館の最前列、あるいは試写室程度のプライベートシアターにいるように感じた。
さらに座っていた椅子の背もたれを倒し、プラネタリウムのように仰向け気味にしても、optionsボタンひとつで画面が視野の正面にやってくる。VRヘッドセットの後頭部とヘッドレストの位置さえ干渉しなければ、これは長時間の鑑賞をするときに大きな利点となる。
映画の内容についてはここで語るものでもないので割愛するが、『Rez』のときにも思ったとおり、画角外の墨フチと、宇宙の黒が非常にマッチ。宇宙空間を描くシーンでは、想定されている以上に空間の広がりが感じられた。
そして物語終盤、ボーマン船長が光の洪水の中を進むシーンは、短いながらけっこうなビデオドラッグたり得た。主観視点ではないものの、スクリーンの近さが想像以上に没入感をもたらすのだ。そのままずっと観続けていたかったが、ときおり挿入される船長の瞳を大写しにしたカットが、VRヘッドセットの場合、逆に没入感を削ぐのがおもしろかった。
船内ドラマが優雅に進むあいだは、大きめのスクリーンでふつうに映画を鑑賞している感じだが、そうなると、ときおり飲食や喫煙がしたくなり、VRヘッドセットはそういう嗜好のある人にあまり向いていないとも気づいた。ゲームほど視点の移動が苛酷ではないし、立体視を強要されるわけでもないので、疲れも酷くはなく、2時間なら1時間ずつの2回に分けた程度で観続けられるが、それより早くにVRヘッドセット内で汗をかき、不快感を覚えた。レンズ部が曇るというわけではないのだが、額や鼻などTゾーン周辺の汗が気になるのだ。せめて30分に一度は映像を止め、VRヘッドセットを外して休憩しても構わないような観かたをするといいのだろう。
これらは、じつは大と中のシネマティックモードを行き来しながら視聴している。というのも、画面下段に字幕が出る洋画の場合、迫力の大モードで表示すると、視界の下限に字幕が浮かび上がり、正直向いていないと思ったからだ。中モードであれば、字幕はある程度の位置に収まるのだが、やはり周辺の余白の部分がもったいない。何より、大モードで動きの激しいシーンを見せられると、画面の全体像が把握しづらいこともしばしばあった(とはいえこの映画はそういうシーンがほぼないのだが)。
結論としては、
・壮大なスケールの映像はVRヘッドセットにマッチしやすい。
とくに宇宙は向いている。
・画面下の字幕は読みづらい。(日本語音声にすれば一発解決だが。)
・汗などの対策のため、30分に一度程度は休憩が必要。
となった。
没入感:★★★☆☆
臨場感:★★★★☆
アセンション:★★★★★
重要なのは演出で画質ではない──『インターステラー』
『2001年』は、なにぶん1968年公開の映画。ならば画質も上がった最新SFはどうか? ということで、つぎは『インターステラー』を吹き替えで鑑賞。その結果、終盤のブラックホール接近時のシーンなど、壮大な光景はやはりVRヘッドセットにマッチした。だが、没入感の向上には映画があまり最新である必要もなく、映画は一級品だったが、期待ほどぞくぞくする体験とはならなかった。
没入感:★★★☆☆
臨場感:★★★★☆
ブラックホール:★★★★★
演出次第の部分も──『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
アニメはどうなんだろうと思い、つぎは劇場に何度となく足を運んだ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』に挑戦。
その結果……終盤の「綾波を取り戻す!」以降の怒濤の展開には、特筆すべきものがあった。内容のおもしろさに引きずられ、湿気どころかVRヘッドセットすら着けていることを忘れて没入できた。 処理の問題かジャギーなどが目立ったので、画質にこだわる向きには向いてないかもしれないが、VRヘッドセットは、なんというか“見たことのない景色を観る”のに向いていると感じた。そのほうが自分の知っている光景との比較が起こらないからだ。難点を挙げるなら、アニメ独特の爆破表現などの細かい画面のブレは酔いを簡単に誘発する。
おもしろかったのは、エヴァが暴走を始める直前のエントリープラグのシーン。3Dで製作されているわけがないのに、プラグ内に奥行きをしっかり感じた。これは、何かの条件が整って、脳が勝手に補正をかけているものと思われる。
これが『シン・ゴジラ』だと、同じ監督でもまた違う感想になるのだろう。
没入感:★★★★☆
臨場感:★★★☆☆
翼をください:★★★★★
バッドテイストはVRヘッドセットに向いている?──『イレイザーヘッド』
ホラーチックなものはどうだろうかと、ホラーではないがデビッド・リンチ監督の『イレイザーヘッド』を鑑賞。
終始陰鬱なイメージで彩られた作品だけあって、音と映像によるメンタルへの圧迫感が半端なく(大画面で観る奇形の赤ん坊スパイクも半端ない!)、20分おき程度に休憩を取ったが、VRヘッドセットが全コンテンツ中でいちばん曇った。ホラーテイストのものはゲームだけでなく、映画であっても向いていると判断してもよさそうだ。
付け加えるなら、この作品の場合は絵の動きも乏しく、それがかえってVRヘッドセットで観るのに適していた。ただ、日本語吹き替えなどのない作品なので、けっきょく字幕付きで鑑賞。映画として落ち着いて観るには、中モードが妥当だった。
没入感:★★☆☆☆
臨場感:★★★☆☆
圧迫感:★★★★★
画面の情報量が少ないと観やすさになる──『マッドマックス 怒りのデスロード』
続いてアクション映画を視聴。昨年、27年ぶりの続編として公開された『マッドマックス』の最新作だ。
なんとなく予想はついていたが、画面が少し引き気味の、ウォーボーイズたちのサンダースティック攻撃や砂嵐のシーンなどは迫力ある映像として楽しめたが、ウォー・リグ(主人公たちが駆るタンク)上でのアクションなど、キャラクターに寄った画面でアクションが激しくなると、大モードでは全体像が把握しづらくなった。ただし、このタイトルの場合、ほとんどが砂漠のシーンで情報量が少なく、それが見やすさにつながっていた。広い景色はVRヘッドセット向きなのだ。内容にしても、言いかたは悪いが、頭を空っぽにして楽しめる映画はVRヘッドセットに向いていると言えるだろう。
没入感:★★★☆☆
臨場感:★★★☆☆
アクション:★★★★★
じつはいちばん向いている──『倉持由香 桃尻彼女2』
「映画でない映像はどうなのか?」と、視聴頻度の高そうなAV……は掲載しづらいので、グラビアアイドルのイメージビデオを投下。“全編を通じて”という意味では、じつはこれがいちばん鑑賞に向いていた。
圧倒的な大きさで画面一杯に迫るヒップ。鼓膜を直接叩く嬌声。字幕もない。背景など、目的からすればどうでもいいため、必要な画面情報も多くない。ただ一心に対象のアイドルを眺めていればいいというのは、VRヘッドセットの持つ没入感を存分に活かす仕様だと確信した。PSVRではアダルト寄りコンテンツは望むべくもないが、このHDクオリティで鑑賞できるなら、イメージビデオ+VRヘッドセットというのは最適解なのかもしれない。
没入感:★★★☆☆
臨場感:★★★★★
尻:★★★★★
特定の映像がキた──『virtual drug ECSTASY』
ぼんやり映像を眺めているのがVRヘッドセットにマッチするとしたら、一時期流行ったビデオドラッグの類の映像はどうだろう? そう思って、いまでも比較的入手しやすい『virtual drug ECSTASY』というDVDの映像作品をチョイスした。
いろいろな趣向のドラッグ感あふれる映像と音楽に満たされたが、結果から言うと、ノれる種類の映像と、ノれない種類の映像があった。いちばんトリップ感にあふれていたのは、正面中央に向かって自分が直進していくイメージの映像だ。逆に言えば、それ以外では、従来のモニタで観ているときと、なんら変わりはない。とにかく正面に向かって進み続けると、映像の色や形はどうあれ、高速道路の長い直線トンネルに入ったときのような恍惚感がだんだんと得られてくる。主観視点で、ヘッドトラッキングなどちょっとのインタラクトがあって、ひたすら前に進み続ける映像があれば、かなりVRヘッドセットに適しているのではと感じた。
没入感:★★★★☆
臨場感:★★★☆☆
トリップ度:★★★☆☆
主観はバッチリかと思いきや──『HOTEL INFERNO』
最後にキワモノ映像をということで、主観視点オンリーで撮られた、リアルでゴアゴアなスプラッター『HOTEL INFERNO』を鑑賞(パッケージからグロすぎて掲載できない代物)。「主観のスプラッターなら、さぞやいい感じで気分が悪くなるだろう」と思いきや、本題のゴア映像までたどりつけないほど早々に気分が悪くなった。
いわゆるPOV視点による映像は臨場感がバツグンだが、ちょっとの手ぶれや頻繁なカメラのパンによって、激しい酔いが誘発されたのだ。この作品は、正面を捉えているシーンと、自分(主人公)の足下を撮るシーンがかなりの頻度で行き来する。これが覿面に効いた模様。残念ながら、主観=VRヘッドセット向きというわけではないことを身をもって知る結果となった。
没入感:★★★☆☆
臨場感:★★★★★
酩酊度:★★★★★
条件がより多く適うほど、観る価値は上がっていく
全体的な感想としては、視線の逃げ場がないだけに、通常の視聴以上にコンテンツに集中できるのは確かだ。さらに言えば、いままで何度も鑑賞したコンテンツにも、新たな楽しみが見いだせるかもしれないという期待感が生まれ、いま自分の書棚にあるコンテンツすべてを試してみたくなった。もちろんいまはHuluやNetFlix、AmazonプライムビデオなどのHD動画サービスがあるわけで、棚に物理的なコンテンツがなくたっていい。
ひどく漠然とした結論を述べるなら、PSVRを映画鑑賞だけのためにわざわざ買うほどではない。だが、前述のような
・イメージ中心で細部まで把握する必要がない。
・壮大な風景や光景が多い
(それは実際に観た経験がないもののほうがよりよい)。
・字幕の不要な邦画や日本語吹き替えが向いている。
音楽ビデオや環境ビデオなどなおよし。
・ホラーコンテンツに関しては上記要件を満たさずとも
マッチしやすい。
などの条件がより多く適うほど、観る価値が上がっていくという手応えを感じた。今回は観ていないが、上空から地球の雄大なランドスケープをひたすら映す映像などは、かなりマッチすることと思う。つぎの機会があれば、PSVRで観たい映画10選などに挑んでみたい。
ともあれ、いずれコンテンツ側のほうが、PSVRの普及度にともなって、映像のVR化を推進してくることも大いに考えられる。ハードとソフトの両輪がうまく噛み合ったとき、VRはゲームだけでない、幅広いコンテンツを存分に楽しむためのギアとなるだろう。ただし、PSVRのVer.2では、VRヘッドセット内の換気機能があれば、とメガネ着用の記者は思うのだった。
週刊ファミ通、ファミ通.comなどを経て、電ファミニコゲーマーに参加。夜な夜な、人の気配の消えた編集部でプレイステーションVRによる実験を行っている模様。今回の検証で、星野之宣の『2001夜物語』の映画化を切に希望。
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