『ヤマト』の宇宙はなぜ青い? 『コードギアス』に人型ロボットが出る理由は? 制作者が作品に落とし込む宇宙SFの“リアリティ”とは

『ヤマト』の宇宙はなぜ青い? 『コードギアス』に人型ロボットが出る理由は? 制作者が作品に落とし込む宇宙SFの“リアリティ”とは

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谷口悟朗監督の演出論。最新作『revisions リヴィジョンズ』とは

──谷口監督が準備されている『revisions リヴィジョンズ』【※】ですが、SFの要素はあるのでしょうか。災害の要素が入っているとはアナウンスされていますが……。

※『revisions リヴィジョンズ』
渋谷の町ごと300年後に飛ばされた5人の少年少女が元の世界に戻るために機械怪物と戦うという概要のアニメーション作品。ノベライズ、コミカライズも予定されている。テレビ放送は2019年1月開始。Netflixでは全世界配信予定。

谷口氏:
 この作品は私が今まで依頼されてきた仕事の中でも特殊なもので、オリジナル作品なんだけど、企画のコンセプトやジャンル、基礎設定案があらかじめ用意されていた作品なんです。

 企画会社のスロウカーブ【※】がゲーム会社さんとかいろいろなところと話をして、ゲームにもしやすい設定を決めていたんだと思います。
 設定やキャラクターの名前がある程度決まっていて、それを形にしてくれないかという話だったので、「じゃあその範囲内でやってみよう」と。

※スロウカーブ
主にアニメや漫画等のPR、イベント開催、プロモーションを手掛ける会社。居を東京都千代田区に構える。

小倉氏:
 舞台立てだけ用意されていたと。

谷口氏:
 そうです。すると構成の深見真さんから、渋谷の一角をそのまま、どこかの時代にすっ飛ばすアイデアが出てきた。そこは未来なんだけど、『北斗の拳』的に荒廃している未来。

 舞台設定だけを聞くと『漂流教室』をイメージされるだろう、とは言いましたね。ただ、やろうとしていることは『漂流教室』とは違う方向性です。
 ま、SF的にはタイムスリップはよくある設定なんだから、それはそれでいいんじゃないかと。

『漂流教室』。楳図かずおによる漫画作品。学校ごと荒廃した未来世界に飛ばされてしまった少年少女たちの生存を賭けたヒューマンドラマ。後に映画化やテレビドラマ化(2002年)もされた楳図の代表作。
(画像はAmazon | 漂流教室 (1) (小学館文庫)より)

 そこで私がやったのは、本来、小倉さんがやるような仕事に近かったんです。つまり、この敵の組織はなんで存在しているの、という部分。
 理由はこうとか、こういう生態系があるんじゃないかとか、そういったことを決める仕事に近いですね。

──設定考証というか、肉付けをしていったわけですね。

谷口氏:
 そうですね。企画書はどのようにでも展開できるものだったんです。でも、ゲームとしての肉付けと、映像化としての肉付けは違うものを要求されるので、そこの部分ですね。

 あとは、ゲームにおけるキャラクターって、プレイヤーがいるからニュートラルじゃないといけない部分があると思うんですよ。
 逆に映像におけるキャラクターは、ある程度はっきりさせておかないと、なにを考えているのかわからないキャラになってしまう。最低限のことを、道筋として作ってあげなきゃいけないわけですね。

 そのほか、美術的なところ。CGアニメは好きな人も嫌いな人もいるとは思うんですよ。ただ手描きアニメが技術的にほぼ完成しちゃっていることに比べると、CGはこれから技術を作っていく分野だから、不完全なんですよね。
 でも不完全だからこそ、その不完全さが楽しいんですよ。だったら、ここを組み合わせようとか、こんな感じで表現しようとか。

小倉氏:
 演出家としては楽しいでしょうね。

谷口氏:
 手描きにおける表現は先人たちのおかげでかなり出来上がっているんですよ。そこに甘えるのは良くないんだけれど、昨今の制作事情を考えると、かなりの部分を経験のある技術の取捨選択でやっていく必要があるんですよね、手描きのアニメーションは。
 それに対して、これから技術を作っていこうとするCGアニメーションの楽しみ方があるんです。意欲のあるスタッフも多いし。結局は手描きかCGかということではなく、同じアニメだと考えるとツールの問題でしかないわけです。

──さきほどのSF原理主義の話ですが、SF的なものが世の中に溢れている中で、SF的なものをエンタメに落とし込むときには、どのへんが勘どころになるのでしょうか。

谷口氏:
 勘どころってわけじゃないけど、私は単純に日本SF界の巨匠のみなさんの方針でいいと思っているんですよ。人間の心理は変わらない……とでも言いますか。なにかを前にしたときに、人間は恐れおののくのか、喜ぶのか笑うのか。

 なにかの出来事に対しての人間の心理さえ描ければ、それで問題ないと思っています。ただ作り手は作り手で考えなきゃいけないことがあって、ロボットにしろパワードスーツにしろ、内燃機関があるのかないのか、とか。

小倉氏:
 電池とかね。

谷口氏:
 どうやって動いているのか、どういう技術系なのか。電池で動いているのなら、バッテリーが存在するんだよね、とか。そういったことに気をつけねばならないし、考えなきゃいけない。
 特に人型のロボットが出てくる場合は、なぜ人型なのかを作品で説明する、しないは別として、スタッフは考えねばならないことだと思うんですよ。

──たとえば『コードギアス』でロボットが出てくる理由はどういったものなんですか。

(画像はAmazon | コードギアス 反逆のルルーシュ I 興道 [DVD]より)

谷口氏:
 あれは人に対する心理的な支配です。ヨーロッパ的な文化圏から出てきているんで、神様をかたどった像、ダビデ像でも何でもいんですけど、ああいった巨大な像が出てくることに対して文化的な畏怖を覚える。
 そこの心理的抑圧効果を狙っているというのが、もともとの意味合いです。ヨーロッパ文化圏の人からすると、ゴーレムの歴史じゃないけど、怖い存在。そういうのものに近いです。

小倉氏:
 中田栄治に仕事をさせるためじゃなかったんだ(笑)。

谷口氏:
 それは結果的にというか、そのための理屈を考えるという感じですね(笑)。

──そういう考えの優先順位はどう設定されているのですか。

谷口氏:
 それはもうトップですよ。端っこにロボットがいるぐらいならあまり気にしないかもしれないけど、ロボットがある程度いる世界となると、それを許容する世界観になるわけじゃないですか。
 それによって文化、経済、政治が動くわけですからね。『プラネテス』でロボットが出てくるとなったら「それはなんだろう」って考えますから。手と足が必要なのかどうかとか。

 美学やロマンとして作りたいっていうのも、わからなくはないんですよ。そのロマンを馬鹿にする人もいれば、賛同する人もいる。
 ロマンってそういうものだと思うので。そういう意味では、松本零士さんはそういうロマンがわかっていると思うんですよね。

 『宇宙海賊キャプテンハーロック』の世界観でいうと、『ハーロック』の仲間たちはハーロックの美学とロマンがわかっているわけじゃないですか。でも地球側は「クソ海賊ども」、と思っている。
 みんながみんな共有できるわけじゃなくて、共有できる人たちがいるからロマン。みんなが共有できちゃったら、それはロマンじゃなくて常識になっちゃうので。

『宇宙海賊キャプテンハーロック』。松本零士原作の漫画、およびテレビアニメ。主人公ハーロックおよび海賊戦艦アルカディア号の船員達の戦いを描く。
(画像はAmazon | 宇宙海賊キャプテンハーロック VOL.1【DVD】より)

──谷口さんの作品ですと、『ガンソード』【※1】『舞-HiME』【※2】も大きな意味でSFに入ってきますけど、『コードギアス』もSFだと感じるところがあって。

『ガンソード』。2005年のロボットアニメ。ロボット物としは珍しい最愛の人を無くした男の復讐劇。
(画像はAmazon | ガンソードより)
『舞-HiME』。サンライズを中心にしたメディアミックス作品。私立風華学園を舞台に生徒たちの交流を描く。英語名は『My-HiME』。
(画像はAmazon | 舞-HIMEより)

谷口氏:
 ただ単にSFが好きだからですよね。あとは、他のジャンル、例えば経済小説的なものをアニメではやれないじゃないですか。
 小説だと城山三郎さん【※】の経済小説とか好きだけど、アニメでやれるかといわれれば、まずやらせてくれないし(笑)。

※ 城山三郎
小説家。『総会屋錦城』で直木賞を受賞し、経済小説の開拓者となる。他の代表作として『落日燃ゆ』。経済小説とは企業、金融、経済全体、経済事件を題材にした小説の総称。

──ご自身のスタンスとして、SFがもともと好きだし、ロボットも好きだし、という感じなのですか?

谷口氏:
 周りにいるロボ好きに比べたら、そんなに好きじゃないほうじゃないですかね。仕事の関係でロボットものを観始めたというのもありますしね。
 業界に入るまでに一番好きだったのは、タイムボカンシリーズの『逆転イッパツマン』に出てくる逆転王。

『タイムボカンシリーズ 逆転イッパツマン』。82年に放映された『タイムボカンシリーズ』の第6作目。従来通り、SFコメディを基調としつつも、謎で引き付ける展開や、シリーズのなかでも随一のドラマティックさを誇り、好評を博した。
(画像はAmazon | 逆転イッパツマンより)

──『ガンダム』と同じく、大河原邦男さん【※】デザインですね。

※大河原邦男
メカニックデザイナー。『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』、『機動戦士ガンダム』、『装甲騎兵ボトムズ』など多数のロボットをデザインし、メカニックデザイナーという職業を確立した。

谷口氏:
 あれが一番ロボット然としていていいなと。でも、仕事としてロボットものをやるんだったら、ロボットを勉強しなきゃいけなくて。
 どうしようかなというところで、『スーパーロボット大戦』【※】といういいゲームがありまして(笑)。「じゃあこれで勉強しよう」と、『スパロボ』で勉強できたのは大きいですね。

※ 『スーパーロボット大戦』
幾多のロボットがレーベルを超えて活躍するシミュレーションRPG。古今あらゆるロボットが共闘するクロスオーバーが多くのファンを獲得。20年以上に渡って愛される人気シリーズ。

──『スパロボ』は初期のシリーズをいろいろとプレイされたんですか。

谷口氏:
 第二次から全部プレイしています。最新作も寺田貴信さん【※】が送ってくださって。送っていただいたからには、遊んでおかないと失礼にあたるから。

 ゲームスタッフの名誉のためにも言っておきますけど、拙作が出るときでも、私は一切口出ししません。スタッフの個人的趣味嗜好は別にして、全作品を公平に扱っていると思います。
 『スパロボ』は、ゲームが持っているひとつの可能性と言いますか。「東映まんがまつり」じゃないですけど、いろんな作品をごっちゃごちゃにして、お客さんにパッケージして提示する部分において、「ゲームって優れてるなぁ」と思いましたね。

※1 寺田貴信
ゲームプロデューサー。『スーパーロボット大戦』シリーズの生みの親。

──コラボの先駆けでもありましたね。『スパロボ』の先駆けと言えば、物語中に並行宇宙を扱っていますね。

小倉氏:
 のちに『仮面ライダー』がそれに手をつけて。次は『ウルトラマン』で扱われて。『ガンダム』でも「アナザーガンダム」はパラレルっていう言い方ができたわけで。

イシイ氏:
 マーベルの『アベンジャーズ』は凄いですけど、日本にあるのは『スパロボ』ですからね。権利的に難しいですけど、メディア展開ができると影響は大きいですよね。

小倉氏:
 『スパロボ』はいろんな権利を乗り越えてよくやったよね。

──イシイさんゲームクリエイターとして『スパロボ』をどうご覧になられているのですか。

イシイ氏:
 ドット絵としてアニメーションに落とす職人芸がすごくて、ゲーム業界の人が本当にロボット好きなのが伝わってきますよね。
 さっきの谷口さんの話じゃないですけど、あそこまでやられるとフォロワーが大変っていうのは、あると思いますよね。

谷口氏:
 シミュレーションゲームとしてのあり方でいうと、全然ダメだと思うんですよ。PCゲームの『信長の野望』とか『大戦略』とか『三国志』とか、私はそのへんの初期からやっていますけど、そっちのタイプじゃない。
 『スパロボ』はとにかく「俺が好きなロボが活躍するのが見たい」というものだからそこは気を使っているんでしょうね。

イシイ氏:
 『スパロボ』は『Fate』にも影響を与えていますよね。なんでもありでいいんだ、というところで。
 手塚治虫の世界観、松本零士の世界観をミックスしてしまうものはありましたが、『スパロボ』は作家がバラバラであったり、違うものを一緒になって戦わせる。

 あの楽しさっていうのを、ちゃんと真面目にクオリティ高くやっていること自体が、のちのクリエイターに影響を与えたと思います。

【寺田P×奈須きのこ:対談】庵野「シャアをエヴァに乗せて」→スパロボPはなぜ断ったのか!? Pが語る原作とゲームの狭間の葛藤。そしてFGOがスパロボから継承したもの

谷口氏:
 実際問題、その手の初期の楽しみ方というのは、手塚治虫さんの『ジャングル大帝』とかで、藤子さんたちが描いたコマはどこだ? と探すとか、そういうところからあったんだと思うんですよ。
 それでもバラバラになりすぎないよう、東映まんがまつり【※】がダイナミックプロでパッケージングされているとか、なんとなく方向性があったと思います。

※東映まんがまつり
1972年から1989年、東映は複数の子供向け作品を春休みや夏休みに上映していた。そのなかには『マジンガーZ』VS『デビルマン』といったクロスオーバー作品も存在した。

 数年前には『ルパン三世VS名探偵コナン』【※】があったじゃないですか。あの作品も、こんなにむちゃくちゃな世界観で大丈夫、と心配していたら、ちゃんと収まっていた。
 とはいえ、小倉さんが『スパロボ』を映像として作ろうとしたら気が狂いそうになるでしょ?

『ルパン三世VS名探偵コナン』。2009年「金曜ロードショー」の枠で放送された『ルパン三世』と『名探偵コナン』のクロスオーバー作品。2013年には続編映画も公開された。
(画像はAmazon | ルパン三世 VS 名探偵コナン [DVD]より)

小倉氏:
 うん。ただ『機動戦士ガンダムUC』はある意味、ガンダムをスーパーロボットに引き戻す試みをやっていたんですよね。

──そういうチャレンジもあったんですね。

谷口氏:
 ゲームと比べると、アニメーションはお客さんと触れ合っている時間帯がどんどん短くなってきているんですよね。昔、アニメーションは1年ものだったら、1年間、お客さんに付き合っていただけた。
 それが2クールだと半年になって、1クールで3ヵ月となり……。Netflixだったら2~3日で最後まで見られちゃうわけじゃないですか。お客さんがアニメーションと付き合っている消費時間がすごく短くなっている。対して、ゲームはいかに付き合っていただく時間を長引かせるかを考えていて。

 アニメーションが今の形のままでいいのか、どうするのかっていうのは考えなきゃいけない問題だと思いますね。現代は娯楽がいっぱいあって、アプリゲームもSNSもありますから。

小倉氏:
 昔のほうが時間はあって、いろんなことやっていましたよね。模型を作ったりとか。

谷口氏:
 今の時代で生まれ育った人たちが、情報の海の中で何をどのように選んで進んでいくのかっていうのは、私にはわからない。
 その世代の人たちが探すことなんだとは思うんだけれども……。取り残されちゃうとかわいそうだよね。

『恒星少女』の願い。宇宙をもっと知ってもらうきっかけになれば

──『恒星少女』の話につなげると、ある程度触ったら、しばらく置いておけるじゃないですか。『艦これ』がその代表例だと思うんです。今の時代には合っているのかと。

谷口氏:
 『艦これ』でいろんな艦隊を知った人が多いみたいですし。それはやっぱりいいことだと思うんですよ。『刀剣乱舞』もこんなにマニアが増えるとは思いませんでしたし。

イシイ氏:
 擬人化において、僕が関わっている『文豪とアルケミスト』【※】も、文豪の再評価、日本文学の再評価というのが、ゲームを入り口にできていて。
 『恒星少女』の話を最初に聞いたときも、擬人化だけじゃなくて天文の再評価という形になったらいいなと思って。地方のプラネタリウムとか、天文台とかも、来場者数が厳しい時代じゃないですか。

※『文豪とアルケミスト』
DMMが運営するブラウザゲーム。アルケミストとして実在の文豪を転生させ浸蝕者と戦うという設定。

谷口氏:
 プラネタリウムはたいへんみたいですね。

小倉氏:
 コンテンツ不足というか。

イシイ氏:
 宇宙に対してちょっと興味のある人たちが、『恒星少女』をきっかけに、宇宙を見上げてもらればうれしいですね。

谷口氏:
 宇宙に興味をもってくれないと、そこに税金を投入しますってことにならないですもんね。

イシイ氏:
 最近、第九番惑星がほぼ証明されていると子供の絵本に載っていてびっくりしたんです。
 これまでは最後の惑星が冥王星って書いてあったんですけど、今は九番惑星というものがあって、発見されてはいないけど、ほぼ証明されているという説明が書かれていて。こんな話、なかなか知らないですよね。

第九番惑星。太陽系外縁に存在されるとされる天王星型惑星の仮称。プラネット・ナインとも呼ばれる。

──初めて聞きました。

イシイ氏:
 でもそういうことって知らないと面白くないですよね。科学ってどんどん更新されているから、そこに対してSFという最先端を提示し続けていると思うんですよね。
 「九番惑星は重力の軌道的にはほぼ証明されていて、あとは見つけるだけなんだよ」って話をわくわくしながら子どもたちとしたいし。

小倉氏:
 地学教育が停滞していますからね。学校の理科でもやらないでしょ。NHKは「コズミック フロント」【※】でがんばってくれているんだけど。

「コズミックフロント」。宇宙に関する謎を解き明かしていくをテーマにしたNHKのテレビ番組。現在は「コズミックフロント☆NEXT」とリニューアルして放送している。
(画像はAmazon | NHK-DVD「コズミック フロント」DVD-BOX(DVD5枚+特典CD付)より)

谷口氏:
 本当にそういうところにARとかVRとかが入ってきてほしいですよね。最初にいくつか試したVRのコンテンツで、ISSのきぼうを自由に動けるというものがあったんですけど、それが子ども向けだったら楽しいだろうし。
 子供時代にARがあったら良かったのにと思うのが星座。覚えるのが苦痛でしたもん。だってその形に見えないから(笑)。

小倉氏:
 リアルに見ると本当にそうですよね。『恒星少女』の舞台設定をやっていて苦しんでいますから(笑)。
 88星座でやっていくと、クリエイティブのほうから、「この場面ではこの星座を使っちゃいけません」と言われたり。

谷口氏:
 え、もしかすると宇宙空間に、3D空間として星を配置しているんですか? でもそれは流石に無理ですよね……。

小倉氏:
 ……えーと、まあ。

宇宙船の軌道チャート
(小倉氏による設定画)

イシイ氏:
 じつは近いところをやっていますよ。宇宙船の軌道チャートも3Dで……。

小倉氏:
 普通のSF設定さんたちはここまでやらないからね!(笑)。泣けてくる作業ですから。

イシイ氏:
 銀河って普通上から見ちゃいますからね。でも天の赤道面と銀河平面とがズレている、とかを座標計算するともう大変らしいんです。

谷口氏:
 (資料をみて)あー、そういうことかぁ!

イシイ氏:
 『恒星少女』は銀河中心部に向けての航路を辿るので、どの恒星を通るかという話をしていて。

谷口氏:
 これ、やりだしたらきりがないですよ。

イシイ氏:
 上からみたら鳳凰座っていい感じなんですけど、横から見たら下のほうにあって……。

小倉氏:
 そう、ずっと南にあるんですよ。平面で見てた時は「銀河中心より行き過ぎるくらいかな?」と思っていたらトンデモない!
 「行き過ぎるどころか明後日の方向にあるじゃん」っていうのが、立体的に作るとわかるわけ。

谷口氏:
 恒星はどうゲームに絡んでくるんですか?

小倉氏:
 恒星の擬人化と言っているんですけど、『スタートレック』もそうなんですけど、その星の超文明の方々は「君たちにはこの姿だったらわかりやすいだろう」って、神話のキャラクターに似た姿とかで出てくれるじゃないですか。
 そういうコミュニケーション・アバター風にするのが、一番理解しやすいと思って。

谷口氏:
 それはそう思いますね。

小倉氏:
 恒星の超文明は、ずっと地球人類を見守ってきたから、地球人類に対して「星座という形がわかりやすいでしょ」という姿で出てきてくれる。

谷口氏:
 私もその発想をすることがあるのでよく理解できます。

小倉氏:
 ただ、「“星座”由来のキャラって何よ」というのがありますよね(笑)。流石に恒星間を渡るぐらいの技術を持っていたら、いい加減、星座っていうのは地球の主観から見た世界観であって、さすがにもう、そこまで原始人じゃないよっていう(笑)。

 でも、ゲームを作っているアート部門の女の子たちにはこの「原始人じゃないよ」という感覚がわからない。「地球人だったら当然、星座のキャラで登場してくれたら嬉しいんじゃないですか」と考えてしまう。

谷口氏:
 多分、生理感覚としては、女の子が言っていることが正しくて、科学的には小倉さんの言っていることが正しい(笑)。

イシイ氏:
 それだけじゃなくて、宇宙船も出したいなと。宇宙ものですから、亜光速宇宙船を出して、その中で宇宙のどこを旅するのかという話にして。銀河中心部に旅をするのであれば、どんな恒星を通っていけばいいか。

 メジャーな恒星がある中で、どのルートがいいでだろうかとか、やってみると複雑で遠すぎたり、近すぎたりと、いろいろ問題が出てくる。
 やっぱり地球から見える星って、案外、近いところにしかないので、遠くになった瞬間、すぐ精度が下がるんですよね。

小倉氏:
 いい具合の距離にある星がないんですよ。いや、星はあるんだけど、まだ見つけていない。番号だけとか、特徴がないとか。

谷口氏:
 ゲームの特徴としては、銀河の中心を目指すというものなんですか?

イシイ氏:
 そうですね。銀河中心部の話は第二部くらいなので、今作ってるのは、ちょっと先の話です。銀河間を移動するとか、正しいルートを通ろうってことに対して議論しています。

 ネタバレすると、銀河中心部のいて座Aは、銀河中心のブラックホールダークマター【※】が集中している可能性があるので、一番の高重力を探しているわけです。高重量を利用して何かをしようとしている。

ブラックホール。極めて高密度で大質量な天体であり脱出速度が光の速度を超えてしまうほどの重力をもつ。

※ダークマター
宇宙空間に存在する「暗黒物質」。暗黒というよりは「質量はあるようだが観測できない」謎の物質といったニュアンスで使われることが多い。その存在は未だに謎である。

谷口氏:
 ブラックホール子ちゃんは、捕まえたら逃がさないわよって感じで(笑)。

イシイ氏:
 それいいかもしれない。「ここから先は事象の地平線よ。ここから先入ったら、二度と出れないわよ」というのもアリですね(笑)。
 このあとネタとしては、最近発見されたファーストスター【※】、ビッグバンに一番近い星とか、そういう現代科学のネタとかもどんどん入れていきます。

小倉氏:
 鳳凰座の下のやつがね、二番目くらいの星だったんだよね。ビッグバンで生まれた最初の星がファーストスターなら、爆発したときの材料でできた星。金属欠乏星っていう。

※ファーストスター
ビッグバンから一億五千年後に誕生したとされる最初の恒星。

──その星には金属が欠乏しているのが、わかっているんですか。

小倉氏:
 成分としてね。貧血星とか言われている。鉄分がないから。

イシイ氏:
 地球から遠い星に行くと、明るいんですね。明るいから見えるんですよ。
 近くの星は太陽型の星でもよく見えるんですが、遠くなると超新星【※】っぽかったり、相当なエネルギーがないと見えないので、案外、個性的な星が多かったりしますよね。

超新星。質量の大きな恒星がその最後に起こす大爆発の事。スーパーノヴァ。
(画像はケプラーの超新星 (SN 1604) の超新星残骸)

小倉氏:
 その通りです。

イシイ氏:
 連星【※】のエネルギーを全部とっちゃうような星とか、いろいろと苦労しています。個性的すぎて。

※連星
別名「双子星」二つの恒星がお互いの重心の周りを軌道運動している天体現象。一般には明るい方を「主星」、暗い方を「伴星」と呼ぶ。

谷口氏:
 でも連星だったらゲーム的にはいいんじゃないですか。

小倉氏:
 イシイさんがダイソン天球【※】みたいなものをやりたいと言ってくるけど、連星だと作れないんです。

ダイソン天球。物理学者フリーマン・ダイソンが提唱した、恒星の周りを殻で囲んだ人口構造物のこと。恒星からの無限のエネルギーを得ることができる。『スタートレック』シリーズでは取り入れられているユニークな理論。
(画像は複数のダイソン・リングが集まったダイソン・スウォーム)

谷口氏:
 作れない?

小倉氏:
 ふたつの星が互いに周りながら重力を乱しているから、綺麗な軌道に人工天体を置けないんですよ。

谷口氏:
 あー!

イシイ氏:
 その星に行く理由ってのが、超古代文明の遺跡がある設定にしたいなと思っていて、遺跡だとダイソン天体みたいなものがあったほうがわかりやすいんじゃないかと。
 「連星で成立するダイソン天体とはなにか?」といったことを議論していますね。

小倉氏:
 ネカルじゃなくて、ネカルの晩星として推測されている白色矮星のほうを、人工天体化するとかね。

谷口氏:
 じゃあ実際に行ってみたら、それが人工物だったりとか、違うものだったりとかも混じっている?

イシイ氏:
 そうですね。地球から重力的な動きで連星であることはわかっているけど、でも実際には発見されてないので、連星という設定にしていたり。

 なぜ発見されなかったというと、「ダイソン天体に隠れていたからだ」という話だったり。そういう設定を作っていて、そうなると白色矮星に対して、「発光してないダイソン天体、重力を利用したダイソン天体ってなんだろう?」という議論をしたんですよ。
 その答えが、軌道エレベーターが大量にあって、そこで重力を使って発電しているという。

小倉氏:
 物を落とすと位置エネルギーが解放される、ということを利用するって理屈ね。

イシイ氏:
 重力型のダイソン天体という発想をして、それを設計してって小倉さんに発注しています。

谷口氏:
 でも連星だったら、キャラは作りやすいと思いますよ。

小倉氏:
 キャラは作れますね。ただ、そうじゃなくてリアル宇宙の、いわゆる異星の遺跡を……。

谷口氏:
 問題はそれをどこまでゲームで説明するかですよね。

イシイ氏:
 ゲームでは、あんまり説明しないですね(笑)。

小倉氏:
 景色がでてきて、「以上、終わり」みたいな(笑)。

小倉氏:
 考証に関する資料は、すでに書いているものが、かなりの数があります。

宇宙船の三面図
(小倉氏による設定画)

谷口氏:
 これ中央のやつは、星間物質を取り込むということですよね。

小倉氏:
 よくわかりますねぇ。つまり中が開いているのは、そういう風に通るっていう。知っている人はそういうのを感じて「お!」と思ってくれる。
 イシイさんが植物園が欲しいって言うから、『サイレント・ランニング』みたいな植物園を入れたりして。まあ、ポイントになるからいいかって(笑)。

『サイレント・ランニング』。1972年公開のSF映画。宇宙ステーションに残された植物園を守るために奮闘する主人公を描いている。
(画像はAmazon | サイレント ランニング [DVD]より)

イシイ氏:
 星間物質は破壊するか吸い込むか、どっちにするんですか。

小倉氏:
 吸い込み系にしようかと。

イシイ氏:
 亜光速で動かすと、星間物質が前にあるとぶつかって宇宙船が壊れちゃうので、ジェット的に吸い込むか、壊すかしかなくて。

小倉氏:
 バリアを張ってもいいんだけど、それだと抵抗を増やすだけなんです。いなすのが一番いいかな。

イシイ氏:
 『スタートレック』は、途中から壊す設定にしましたよね。

小倉氏:
 そうですね。デフレクターっていう。

イシイ氏:
 もともとアンテナみたいなものがあった。アンテナだったけど、デフレクターっていう、亜光速移動しているときに星間物質を壊すための装置に設定しなおしている。

小倉氏:
 これは降着円盤【※】の上下に、いわゆるそのエネルギーを受ける文明がある図です。

降着円盤①
(小倉氏による設定画)

※降着円盤
白色矮星などを取り巻くガスや塵などで形成された回転円盤。水素プラズマが主成分とされる。

谷口氏:
 あー! そのスケールってことですか。

イシイ氏:
 遺跡なんですよね。この文明が過去に何億年前にあって。

小倉氏:
 大阪教育大学の福江純教授【※】の論文で、そういうのがあったんです。降着円盤の上下に円盤みたいな人工物があると。

※福江純
日本の天文学者。創作分野の造詣も深く、自らも「ハードSF研究所」の一員。

谷口氏:
 なんで降着円盤が三枚あるのかなと思ったんだけど、上下で人工物かぁ。

小倉氏:
 降着円盤に落ちようとする重力と、降着円盤から出ている光の圧力でバランスがとれているという理屈です。
 降着円盤というのは白色矮星とか中性子星やブラックホールみたいな超高密度星に、たとえば周辺のすぐ傍に星があったらその星の物質を吸い込んだりして、周囲に円盤状にまとわりつく部分があるんですよ。

谷口氏:
 ブラックホールがらみの画像が出てくることが多いんじゃないですか、降着円盤になると。

イシイ氏:
 そうですね。

降着円盤②
(小倉氏による設定画)

谷口氏:
 これはわかりやすいですよね。

イシイ氏:
 ジェット放射がね。上下に出ているわけです。

小倉氏:
 これも落ち込んだ質量のエネルギーが解放されて、電気的に上下に出るっていうね。これが出てくるまではよくSF映画とかに登場するんだけれど、このエネルギーを使った文明のビジュアルは今まで登場しなかったと思いますね。

谷口氏:
 この場合、上下についていたものが回転している。

小倉氏:
 土星の輪みたいに、全部がリングになっていて回転しているんです。もっと言うと、土星の輪みたいに見えているだけであって、細かいものの集まりでもいいんですよ。

谷口氏:
 なおかつそこまでのエネルギーを必要とした文明……。なにに使うつもりだったんだ、それを(笑)。

イシイ氏:
 物質として存在した最後の存在ですね。このレベルの次が物質を捨てて、高次元生命体になって、恒星少女、つまり女の子になっちゃったという(笑)。

小倉氏:
 設定の話で別のだと、ブリッジを描けって言われて、いつもブリッジのデザインで悩むっていう。

谷口氏:
 遠心重力を前提としたデザインなのか、そうじゃないのかによっても変わっちゃいますもんね。

小倉氏:
 いわゆる人工重力、慣性制御を切っても成立しそうな全天が使えるデザインにしたんです。
 例えばプラネタリウムとコラボしたとして行ったときに、全天スクリーンを仰ぎ見ると、ブリッジの景観映像が出るとかね。そのくらいの感覚のデザインでもいいかなと思うんですよ。

イシイ氏:
 慣性制御を切るっていうのは、潜水艦みたいに音を立てるなという感じで、エネルギーを最小限にして、慣性制御を切って敵に近づくといった設定が出てきて。

谷口氏:
 あーなるほど。

イシイ氏:
 だから、慣性制御を切るときもあるんですよね。生命維持装置も切らなきゃいけないから、与圧はどうするかみたいな話とか。

谷口氏:
 そうですよね。何かあったときに。

──SF談義を繰り広げていただきましたが、谷口さんの『恒星少女』の印象はいかがでしたか。

谷口氏:
 『恒星少女』をきっかけに、宇宙に興味を持つ人が出てきてくれれば、それは十分に学習効果に繋がると思うんですよね。
 いまも説明を聞いて「なるほどなぁ」と思いましたし。そういう勉強方法って、昔のマンガやアニメが持っていた役割ですよね。

小倉氏:
 そうですよね。『ヤマト』で宇宙に興味を持つ。それぐらいのことですよね。

谷口氏:
 それによってまた宇宙に対して興味を持ってくれれば、JAXAに資金が投じられると思うから(笑)。

小倉氏:
 JAXAじゃなくて、国立天文台のほうですね。

国立天文台(National Astronomical Observatory of Japan)。理論と観測から宇宙を研究することを旨とした天体研究機関。国内外合わせていくつかの観測所で観測活動を行っている部門の総称。
(画像は国立天文台(NAOJ)より)

イシイ氏:
 恒星ですから、内宇宙じゃなくて外宇宙が舞台ですね。

谷口氏:
 そっか、観測のほうですもんね。

小倉氏:
 JAXAはNASAとは違うんですよ。NASAだったらSF映画に協賛するじゃないですか。違うんですよ、これが。
 JAXAには“恒星間宇宙飛行”の計画もメニューもないんでお役に立てないと(笑)。それだったら国立天文台のほうじゃないですか、って逆に言われました。

谷口氏:
 じゃあ『恒星少女』は国立天文台に協力してもらうんですか?

イシイ氏:
 これからお話をする予定です。

小倉氏:
 あとプラネタリウムをなんとかね。『プラネテス』もプラネタリウムでやってましたからね。

イシイ氏:
 盛り上がったらアニメもぜひ。谷口さんに参加していただいて。

谷口氏:
 いいですよ(笑)。じゃあ、女の子がどういう形になるのか、まず固めないと。あとは女の子の大きさですね。質量。

小倉氏:
 コミュニケーション・アバターだから等身大なんです。戦闘をするときは、ウルトラマンみたいに巨大化してもいいので。

谷口氏:
 木星並みの質量だから、近づけないとか。女の子にある一線以上を近づくと、ロッシュの限界を超えてしまってとか。

小倉氏:
 でも谷口さん。制約を乗り越えるほうが燃えるでしょ(笑)。(了)


 『恒星少女』を枕にして、宇宙SF談義をお届けしたが、現場でも御三方のノンストップで尽きることのない濃い話が次々と展開され、時間がきても「まだまだしゃべれる」という雰囲気が現場からは感じられた。

 次々と出てくる固有名詞を辿るだけでSFの歴史の一端が感じられる今回の記事では、「アニメ宇宙の色彩論」「アニメ業界における設定考証の実態」、また「アニメに登場する組織の構造をリアルに描くことによる世界観の広がり」などが語られたが、総じて言えるのが、当時のSF作家や、編集者、テレビマンの努力でSFが日本で普及して、真っ暗な宇宙に少しづつ光がさしてきたのがわかることだ。

 そんななか谷口監督から、設定考証は世界観と根幹に関わるものでおろそかにはできないことを踏まえつつ、「人間の心理は変わらない」、「マンガやアニメがもっていた教育の役割としてのSF」という本質的な指標が出された。
 JAXAで働く人が『プラネテス』を愛好してるように、NASAで働く人たちには『2001年宇宙の旅』や『スタートレック』を愛好しているのは容易に想像できる。なかにはそれが志望動機になっている人もいるはずだ。本来の意味でのSF(サイエンス・フィクション)にはそれだけ人を動かす力がある。

 宇宙がロマンとして機能しているのは、宇宙が人類にとって立ちはだかっている最大の謎であることに他ならないが、やはりイシイジロウ氏と小倉信也氏も『恒星少女』の設定考証には悪戦苦闘しているようだ。
 今回の座談会をとおして、宇宙に対して挑んでいるのは科学者や数学者、宇宙飛行士だけではないことを強く感じた。フィクションが持つ力が侮れないことを考えたら、この座談会の真のテーマは、フィクションにおける宇宙開発の歴史のように思えるのだ。

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 今回は恒星の擬人化に挑む『恒星少女』のDMM GAMESの協力を得て、同作を監修する小倉氏、イシイジロウ氏の両名と、『ガンダムUC』で小倉氏とつながりのある福井氏をお迎えし、子ども時代に触れた作品から最新作まで、そして自身が関わってきた仕事について語っていただいた。いずれもエンターテイメント作品にSFと宇宙を落とし込む3名。同年代でもあるそれぞれの身体は、いったいどんな作品で構成されているのだろうか。

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