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『ヤマト』の宇宙はなぜ青い? 『コードギアス』に人型ロボットが出る理由は? 制作者が作品に落とし込む宇宙SFの“リアリティ”とは

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谷口悟朗監督の演出論。最新作『revisions リヴィジョンズ』とは

──谷口監督が準備されている『revisions リヴィジョンズ』【※】ですが、SFの要素はあるのでしょうか。災害の要素が入っているとはアナウンスされていますが……。

※『revisions リヴィジョンズ』
渋谷の町ごと300年後に飛ばされた5人の少年少女が元の世界に戻るために機械怪物と戦うという概要のアニメーション作品。ノベライズ、コミカライズも予定されている。テレビ放送は2019年1月開始。Netflixでは全世界配信予定。

谷口氏:
 この作品は私が今まで依頼されてきた仕事の中でも特殊なもので、オリジナル作品なんだけど、企画のコンセプトやジャンル、基礎設定案があらかじめ用意されていた作品なんです。

 企画会社のスロウカーブ【※】がゲーム会社さんとかいろいろなところと話をして、ゲームにもしやすい設定を決めていたんだと思います。
 設定やキャラクターの名前がある程度決まっていて、それを形にしてくれないかという話だったので、「じゃあその範囲内でやってみよう」と。

※スロウカーブ
主にアニメや漫画等のPR、イベント開催、プロモーションを手掛ける会社。居を東京都千代田区に構える。

小倉氏:
 舞台立てだけ用意されていたと。

谷口氏:
 そうです。すると構成の深見真さんから、渋谷の一角をそのまま、どこかの時代にすっ飛ばすアイデアが出てきた。そこは未来なんだけど、『北斗の拳』的に荒廃している未来。

 舞台設定だけを聞くと『漂流教室』をイメージされるだろう、とは言いましたね。ただ、やろうとしていることは『漂流教室』とは違う方向性です。
 ま、SF的にはタイムスリップはよくある設定なんだから、それはそれでいいんじゃないかと。

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『漂流教室』。楳図かずおによる漫画作品。学校ごと荒廃した未来世界に飛ばされてしまった少年少女たちの生存を賭けたヒューマンドラマ。後に映画化やテレビドラマ化(2002年)もされた楳図の代表作。
(画像はAmazon | 漂流教室 (1) (小学館文庫)より)

 そこで私がやったのは、本来、小倉さんがやるような仕事に近かったんです。つまり、この敵の組織はなんで存在しているの、という部分。
 理由はこうとか、こういう生態系があるんじゃないかとか、そういったことを決める仕事に近いですね。

──設定考証というか、肉付けをしていったわけですね。

谷口氏:
 そうですね。企画書はどのようにでも展開できるものだったんです。でも、ゲームとしての肉付けと、映像化としての肉付けは違うものを要求されるので、そこの部分ですね。

 あとは、ゲームにおけるキャラクターって、プレイヤーがいるからニュートラルじゃないといけない部分があると思うんですよ。
 逆に映像におけるキャラクターは、ある程度はっきりさせておかないと、なにを考えているのかわからないキャラになってしまう。最低限のことを、道筋として作ってあげなきゃいけないわけですね。

 そのほか、美術的なところ。CGアニメは好きな人も嫌いな人もいるとは思うんですよ。ただ手描きアニメが技術的にほぼ完成しちゃっていることに比べると、CGはこれから技術を作っていく分野だから、不完全なんですよね。
 でも不完全だからこそ、その不完全さが楽しいんですよ。だったら、ここを組み合わせようとか、こんな感じで表現しようとか。

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小倉氏:
 演出家としては楽しいでしょうね。

谷口氏:
 手描きにおける表現は先人たちのおかげでかなり出来上がっているんですよ。そこに甘えるのは良くないんだけれど、昨今の制作事情を考えると、かなりの部分を経験のある技術の取捨選択でやっていく必要があるんですよね、手描きのアニメーションは。
 それに対して、これから技術を作っていこうとするCGアニメーションの楽しみ方があるんです。意欲のあるスタッフも多いし。結局は手描きかCGかということではなく、同じアニメだと考えるとツールの問題でしかないわけです。

──さきほどのSF原理主義の話ですが、SF的なものが世の中に溢れている中で、SF的なものをエンタメに落とし込むときには、どのへんが勘どころになるのでしょうか。

谷口氏:
 勘どころってわけじゃないけど、私は単純に日本SF界の巨匠のみなさんの方針でいいと思っているんですよ。人間の心理は変わらない……とでも言いますか。なにかを前にしたときに、人間は恐れおののくのか、喜ぶのか笑うのか。

 なにかの出来事に対しての人間の心理さえ描ければ、それで問題ないと思っています。ただ作り手は作り手で考えなきゃいけないことがあって、ロボットにしろパワードスーツにしろ、内燃機関があるのかないのか、とか。

小倉氏:
 電池とかね。

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谷口氏:
 どうやって動いているのか、どういう技術系なのか。電池で動いているのなら、バッテリーが存在するんだよね、とか。そういったことに気をつけねばならないし、考えなきゃいけない。
 特に人型のロボットが出てくる場合は、なぜ人型なのかを作品で説明する、しないは別として、スタッフは考えねばならないことだと思うんですよ。

──たとえば『コードギアス』でロボットが出てくる理由はどういったものなんですか。

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(画像はAmazon | コードギアス 反逆のルルーシュ I 興道 [DVD]より)

谷口氏:
 あれは人に対する心理的な支配です。ヨーロッパ的な文化圏から出てきているんで、神様をかたどった像、ダビデ像でも何でもいんですけど、ああいった巨大な像が出てくることに対して文化的な畏怖を覚える。
 そこの心理的抑圧効果を狙っているというのが、もともとの意味合いです。ヨーロッパ文化圏の人からすると、ゴーレムの歴史じゃないけど、怖い存在。そういうのものに近いです。

小倉氏:
 中田栄治に仕事をさせるためじゃなかったんだ(笑)。

谷口氏:
 それは結果的にというか、そのための理屈を考えるという感じですね(笑)。

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──そういう考えの優先順位はどう設定されているのですか。

谷口氏:
 それはもうトップですよ。端っこにロボットがいるぐらいならあまり気にしないかもしれないけど、ロボットがある程度いる世界となると、それを許容する世界観になるわけじゃないですか。
 それによって文化、経済、政治が動くわけですからね。『プラネテス』でロボットが出てくるとなったら「それはなんだろう」って考えますから。手と足が必要なのかどうかとか。

 美学やロマンとして作りたいっていうのも、わからなくはないんですよ。そのロマンを馬鹿にする人もいれば、賛同する人もいる。
 ロマンってそういうものだと思うので。そういう意味では、松本零士さんはそういうロマンがわかっていると思うんですよね。

 『宇宙海賊キャプテンハーロック』の世界観でいうと、『ハーロック』の仲間たちはハーロックの美学とロマンがわかっているわけじゃないですか。でも地球側は「クソ海賊ども」、と思っている。
 みんながみんな共有できるわけじゃなくて、共有できる人たちがいるからロマン。みんなが共有できちゃったら、それはロマンじゃなくて常識になっちゃうので。

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『宇宙海賊キャプテンハーロック』。松本零士原作の漫画、およびテレビアニメ。主人公ハーロックおよび海賊戦艦アルカディア号の船員達の戦いを描く。
(画像はAmazon | 宇宙海賊キャプテンハーロック VOL.1【DVD】より)

──谷口さんの作品ですと、『ガンソード』【※1】『舞-HiME』【※2】も大きな意味でSFに入ってきますけど、『コードギアス』もSFだと感じるところがあって。

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『ガンソード』。2005年のロボットアニメ。ロボット物としは珍しい最愛の人を無くした男の復讐劇。
(画像はAmazon | ガンソードより)
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『舞-HiME』。サンライズを中心にしたメディアミックス作品。私立風華学園を舞台に生徒たちの交流を描く。英語名は『My-HiME』。
(画像はAmazon | 舞-HIMEより)

谷口氏:
 ただ単にSFが好きだからですよね。あとは、他のジャンル、例えば経済小説的なものをアニメではやれないじゃないですか。
 小説だと城山三郎さん【※】の経済小説とか好きだけど、アニメでやれるかといわれれば、まずやらせてくれないし(笑)。

※ 城山三郎
小説家。『総会屋錦城』で直木賞を受賞し、経済小説の開拓者となる。他の代表作として『落日燃ゆ』。経済小説とは企業、金融、経済全体、経済事件を題材にした小説の総称。

──ご自身のスタンスとして、SFがもともと好きだし、ロボットも好きだし、という感じなのですか?

谷口氏:
 周りにいるロボ好きに比べたら、そんなに好きじゃないほうじゃないですかね。仕事の関係でロボットものを観始めたというのもありますしね。
 業界に入るまでに一番好きだったのは、タイムボカンシリーズの『逆転イッパツマン』に出てくる逆転王。

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『タイムボカンシリーズ 逆転イッパツマン』。82年に放映された『タイムボカンシリーズ』の第6作目。従来通り、SFコメディを基調としつつも、謎で引き付ける展開や、シリーズのなかでも随一のドラマティックさを誇り、好評を博した。
(画像はAmazon | 逆転イッパツマンより)

──『ガンダム』と同じく、大河原邦男さん【※】デザインですね。

※大河原邦男
メカニックデザイナー。『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』、『機動戦士ガンダム』、『装甲騎兵ボトムズ』など多数のロボットをデザインし、メカニックデザイナーという職業を確立した。

谷口氏:
 あれが一番ロボット然としていていいなと。でも、仕事としてロボットものをやるんだったら、ロボットを勉強しなきゃいけなくて。
 どうしようかなというところで、『スーパーロボット大戦』【※】といういいゲームがありまして(笑)。「じゃあこれで勉強しよう」と、『スパロボ』で勉強できたのは大きいですね。

※ 『スーパーロボット大戦』
幾多のロボットがレーベルを超えて活躍するシミュレーションRPG。古今あらゆるロボットが共闘するクロスオーバーが多くのファンを獲得。20年以上に渡って愛される人気シリーズ。

──『スパロボ』は初期のシリーズをいろいろとプレイされたんですか。

谷口氏:
 第二次から全部プレイしています。最新作も寺田貴信さん【※】が送ってくださって。送っていただいたからには、遊んでおかないと失礼にあたるから。

 ゲームスタッフの名誉のためにも言っておきますけど、拙作が出るときでも、私は一切口出ししません。スタッフの個人的趣味嗜好は別にして、全作品を公平に扱っていると思います。
 『スパロボ』は、ゲームが持っているひとつの可能性と言いますか。「東映まんがまつり」じゃないですけど、いろんな作品をごっちゃごちゃにして、お客さんにパッケージして提示する部分において、「ゲームって優れてるなぁ」と思いましたね。

※1 寺田貴信
ゲームプロデューサー。『スーパーロボット大戦』シリーズの生みの親。

──コラボの先駆けでもありましたね。『スパロボ』の先駆けと言えば、物語中に並行宇宙を扱っていますね。

小倉氏:
 のちに『仮面ライダー』がそれに手をつけて。次は『ウルトラマン』で扱われて。『ガンダム』でも「アナザーガンダム」はパラレルっていう言い方ができたわけで。

イシイ氏:
 マーベルの『アベンジャーズ』は凄いですけど、日本にあるのは『スパロボ』ですからね。権利的に難しいですけど、メディア展開ができると影響は大きいですよね。

小倉氏:
 『スパロボ』はいろんな権利を乗り越えてよくやったよね。

──イシイさんゲームクリエイターとして『スパロボ』をどうご覧になられているのですか。

イシイ氏:
 ドット絵としてアニメーションに落とす職人芸がすごくて、ゲーム業界の人が本当にロボット好きなのが伝わってきますよね。
 さっきの谷口さんの話じゃないですけど、あそこまでやられるとフォロワーが大変っていうのは、あると思いますよね。

谷口氏:
 シミュレーションゲームとしてのあり方でいうと、全然ダメだと思うんですよ。PCゲームの『信長の野望』とか『大戦略』とか『三国志』とか、私はそのへんの初期からやっていますけど、そっちのタイプじゃない。
 『スパロボ』はとにかく「俺が好きなロボが活躍するのが見たい」というものだからそこは気を使っているんでしょうね。

イシイ氏:
 『スパロボ』は『Fate』にも影響を与えていますよね。なんでもありでいいんだ、というところで。
 手塚治虫の世界観、松本零士の世界観をミックスしてしまうものはありましたが、『スパロボ』は作家がバラバラであったり、違うものを一緒になって戦わせる。

 あの楽しさっていうのを、ちゃんと真面目にクオリティ高くやっていること自体が、のちのクリエイターに影響を与えたと思います。

【寺田P×奈須きのこ:対談】庵野「シャアをエヴァに乗せて」→スパロボPはなぜ断ったのか!? Pが語る原作とゲームの狭間の葛藤。そしてFGOがスパロボから継承したもの

※『文豪とアルケミスト』
DMMが運営するブラウザゲーム。アルケミストとして実在の文豪を転生させ浸蝕者と戦うという設定。

谷口氏:
 プラネタリウムはたいへんみたいですね。

小倉氏:
 コンテンツ不足というか。

イシイ氏:
 宇宙に対してちょっと興味のある人たちが、『恒星少女』をきっかけに、宇宙を見上げてもらればうれしいですね。

谷口氏:
 宇宙に興味をもってくれないと、そこに税金を投入しますってことにならないですもんね。

イシイ氏:
 最近、第九番惑星がほぼ証明されていると子供の絵本に載っていてびっくりしたんです。
 これまでは最後の惑星が冥王星って書いてあったんですけど、今は九番惑星というものがあって、発見されてはいないけど、ほぼ証明されているという説明が書かれていて。こんな話、なかなか知らないですよね。

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第九番惑星。太陽系外縁に存在されるとされる天王星型惑星の仮称。プラネット・ナインとも呼ばれる。

──初めて聞きました。

イシイ氏:
 でもそういうことって知らないと面白くないですよね。科学ってどんどん更新されているから、そこに対してSFという最先端を提示し続けていると思うんですよね。
 「九番惑星は重力の軌道的にはほぼ証明されていて、あとは見つけるだけなんだよ」って話をわくわくしながら子どもたちとしたいし。

小倉氏:
 地学教育が停滞していますからね。学校の理科でもやらないでしょ。NHKは「コズミック フロント」【※】でがんばってくれているんだけど。

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「コズミックフロント」。宇宙に関する謎を解き明かしていくをテーマにしたNHKのテレビ番組。現在は「コズミックフロント☆NEXT」とリニューアルして放送している。
(画像はAmazon | NHK-DVD「コズミック フロント」DVD-BOX(DVD5枚+特典CD付)より)

谷口氏:
 本当にそういうところにARとかVRとかが入ってきてほしいですよね。最初にいくつか試したVRのコンテンツで、ISSのきぼうを自由に動けるというものがあったんですけど、それが子ども向けだったら楽しいだろうし。
 子供時代にARがあったら良かったのにと思うのが星座。覚えるのが苦痛でしたもん。だってその形に見えないから(笑)。

小倉氏:
 リアルに見ると本当にそうですよね。『恒星少女』の舞台設定をやっていて苦しんでいますから(笑)。
 88星座でやっていくと、クリエイティブのほうから、「この場面ではこの星座を使っちゃいけません」と言われたり。

谷口氏:
 え、もしかすると宇宙空間に、3D空間として星を配置しているんですか? でもそれは流石に無理ですよね……。

小倉氏:
 ……えーと、まあ。

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宇宙船の軌道チャート
(小倉氏による設定画)

イシイ氏:
 じつは近いところをやっていますよ。宇宙船の軌道チャートも3Dで……。

小倉氏:
 普通のSF設定さんたちはここまでやらないからね!(笑)。泣けてくる作業ですから。

イシイ氏:
 銀河って普通上から見ちゃいますからね。でも天の赤道面と銀河平面とがズレている、とかを座標計算するともう大変らしいんです。

谷口氏:
 (資料をみて)あー、そういうことかぁ!

イシイ氏:
 『恒星少女』は銀河中心部に向けての航路を辿るので、どの恒星を通るかという話をしていて。

谷口氏:
 これ、やりだしたらきりがないですよ。

イシイ氏:
 上からみたら鳳凰座っていい感じなんですけど、横から見たら下のほうにあって……。

小倉氏:
 そう、ずっと南にあるんですよ。平面で見てた時は「銀河中心より行き過ぎるくらいかな?」と思っていたらトンデモない!
 「行き過ぎるどころか明後日の方向にあるじゃん」っていうのが、立体的に作るとわかるわけ。

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谷口氏:
 恒星はどうゲームに絡んでくるんですか?

小倉氏:
 恒星の擬人化と言っているんですけど、『スタートレック』もそうなんですけど、その星の超文明の方々は「君たちにはこの姿だったらわかりやすいだろう」って、神話のキャラクターに似た姿とかで出てくれるじゃないですか。
 そういうコミュニケーション・アバター風にするのが、一番理解しやすいと思って。

谷口氏:
 それはそう思いますね。

小倉氏:
 恒星の超文明は、ずっと地球人類を見守ってきたから、地球人類に対して「星座という形がわかりやすいでしょ」という姿で出てきてくれる。

谷口氏:
 私もその発想をすることがあるのでよく理解できます。

小倉氏:
 ただ、「“星座”由来のキャラって何よ」というのがありますよね(笑)。流石に恒星間を渡るぐらいの技術を持っていたら、いい加減、星座っていうのは地球の主観から見た世界観であって、さすがにもう、そこまで原始人じゃないよっていう(笑)。

 でも、ゲームを作っているアート部門の女の子たちにはこの「原始人じゃないよ」という感覚がわからない。「地球人だったら当然、星座のキャラで登場してくれたら嬉しいんじゃないですか」と考えてしまう。

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谷口氏:
 多分、生理感覚としては、女の子が言っていることが正しくて、科学的には小倉さんの言っていることが正しい(笑)。

イシイ氏:
 それだけじゃなくて、宇宙船も出したいなと。宇宙ものですから、亜光速宇宙船を出して、その中で宇宙のどこを旅するのかという話にして。銀河中心部に旅をするのであれば、どんな恒星を通っていけばいいか。

 メジャーな恒星がある中で、どのルートがいいでだろうかとか、やってみると複雑で遠すぎたり、近すぎたりと、いろいろ問題が出てくる。
 やっぱり地球から見える星って、案外、近いところにしかないので、遠くになった瞬間、すぐ精度が下がるんですよね。

小倉氏:
 いい具合の距離にある星がないんですよ。いや、星はあるんだけど、まだ見つけていない。番号だけとか、特徴がないとか。

谷口氏:
 ゲームの特徴としては、銀河の中心を目指すというものなんですか?

イシイ氏:
 そうですね。銀河中心部の話は第二部くらいなので、今作ってるのは、ちょっと先の話です。銀河間を移動するとか、正しいルートを通ろうってことに対して議論しています。

 ネタバレすると、銀河中心部のいて座Aは、銀河中心のブラックホールダークマター【※】が集中している可能性があるので、一番の高重力を探しているわけです。高重量を利用して何かをしようとしている。

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ブラックホール。極めて高密度で大質量な天体であり脱出速度が光の速度を超えてしまうほどの重力をもつ。

※ダークマター
宇宙空間に存在する「暗黒物質」。暗黒というよりは「質量はあるようだが観測できない」謎の物質といったニュアンスで使われることが多い。その存在は未だに謎である。

谷口氏:
 ブラックホール子ちゃんは、捕まえたら逃がさないわよって感じで(笑)。

イシイ氏:
 それいいかもしれない。「ここから先は事象の地平線よ。ここから先入ったら、二度と出れないわよ」というのもアリですね(笑)。
 このあとネタとしては、最近発見されたファーストスター【※】、ビッグバンに一番近い星とか、そういう現代科学のネタとかもどんどん入れていきます。

小倉氏:
 鳳凰座の下のやつがね、二番目くらいの星だったんだよね。ビッグバンで生まれた最初の星がファーストスターなら、爆発したときの材料でできた星。金属欠乏星っていう。

※ファーストスター
ビッグバンから一億五千年後に誕生したとされる最初の恒星。

──その星には金属が欠乏しているのが、わかっているんですか。

小倉氏:
 成分としてね。貧血星とか言われている。鉄分がないから。

イシイ氏:
 地球から遠い星に行くと、明るいんですね。明るいから見えるんですよ。
 近くの星は太陽型の星でもよく見えるんですが、遠くなると超新星【※】っぽかったり、相当なエネルギーがないと見えないので、案外、個性的な星が多かったりしますよね。

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超新星。質量の大きな恒星がその最後に起こす大爆発の事。スーパーノヴァ。
(画像はケプラーの超新星 (SN 1604) の超新星残骸)

小倉氏:
 その通りです。

イシイ氏:
 連星【※】のエネルギーを全部とっちゃうような星とか、いろいろと苦労しています。個性的すぎて。

 宇宙がロマンとして機能しているのは、宇宙が人類にとって立ちはだかっている最大の謎であることに他ならないが、やはりイシイジロウ氏と小倉信也氏も『恒星少女』の設定考証には悪戦苦闘しているようだ。
 今回の座談会をとおして、宇宙に対して挑んでいるのは科学者や数学者、宇宙飛行士だけではないことを強く感じた。フィクションが持つ力が侮れないことを考えたら、この座談会の真のテーマは、フィクションにおける宇宙開発の歴史のように思えるのだ。

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