PCゲーム配信プラットフォームのSteamとGOG.comにて、ポーランド独立回復100周年を記念したセールが開催されている。
10世紀ごろにポーランド王国としてその礎が生まれた同国は、常に近隣諸国による領土の分割や支配に見舞われてきた歴史を持つ。第一次世界大戦中の1915年には、ドイツ帝国やオーストリア=ハンガリー帝国の中央同盟国によって占領されたが、革命や大戦でドイツの衰退が続き、1918年11月11日に分割占領の時代に終止符が打たれることとなった。その束縛の歴史は123年におよんだとされる。
そしてオープンワールドRPGの『ウィッチャー』シリーズを筆頭に、実はポーランドは東欧有数のゲーム産業国へと成長しており、ゲームや関連するイベントも多く開催されている。現在、同国製ゲームがSteamやGOG.comでセールされているが、購入前に、この記事に挙げた主要なゲーム開発会社のプロフィールに目を通しておいてはいかがだろうか。きっと、作品への接し方に深みが増すはずだ。
ポーランドのゲームを語る上で外せない「Metropolis Software」
92年に設立され、後述するCD Projektに買収される2009年まで存続していたゲームデベロッパーだ。今回セール対象となっている『Gorky 17』のようなストラテジーだけでなく、アクションRPG『Archangel』やTPS『Infernal』など、さまざまなジャンルのゲームをリリースしていた。ゲーム自体は日本ではそこまで有名ではないが、ポーランドのゲーム産業を語る上で外せないスタジオである。
ポーランドのゲーム業界でも古株であり、ヨーロッパで大きな成功を収めたスタジオだが、2002年に設立メンバー同士の衝突が起き離反騒動が発生し、そのメンバーがPeople Can Flyを設立。さらに2009年の買収を契機に離れたメンバーも、CD Projektの元スタッフらとともに11 bit studiosといった名の知れたスタジオを設立することになる。
CD Projektに買収された件もふくめ、2000年代にこのデベロッパーに所属していた開発者たちは、現在もポーランド各地で同国のゲーム産業を支えている。また、のちにプロジェクトは頓挫するものの、『The Witcher』シリーズのゲーム化のライセンスをCD Projekt REDよりも先となる1997年に取得している点でも、ポーランドの歴史的に重要なデベロッパーだといえるだろう。
良質なゲームを生み続ける「11 bit studios」
2010年に正式に設立し、タワーオフェンスゲーム『Anomaly: Warzone Earth』でデビューしたこのデベロッパーは、ポーランドで今もっとも勢いのある独立系デベロッパーだ。会社の規模も大きく、従業員数は69人、現在はゲーム開発だけでなくパブリッシング業務も展開するほどの成長を遂げた。
サラエヴォ包囲をベースにしたサバイバルゲーム『This War of Mine』は、戦争を兵士や英雄ではなく一般人の視点で描いたことで非常に高い評価を受け、ボードゲームもリリースされている。新作が発売された今もDLCの開発は続いており、11月14日にはストーリーDLC『The Last Broadcast』のリリースが予定されている。
また2018年4月にリリースされた最新作、極寒の世界を舞台にした都市運営シム『Frostpunk』は発売3日で25万本を売る大ヒットとなった。
大手企業と比較すればもちろん規模は小さいが、良質なゲームを排出し続けるポーランドの実力派デベロッパーである。
ゾンビアクションで一躍有名になった「Techland」
91年に設立されたTechlandは、特に2010年代に評価が一気に高まった老舗のゲームデベロッパーだ。2000年代前半までは『Chrome』や『Xpand Rally』といったゲームをリリースしていたが、どちらかというとあまりパッとしないデベロッパーだったと言える。
2006年にはヒット作となる西部劇シューター『Call of Jaurez』をリリースし、コンソールゲーム市場にも参入した。
同社が広くゲームファンに知られるきっかけとなったのは、一人称視点RPG『Dead Island』のアナウンスメントトレイラーだろう。バカンスに訪れていた少女とその家族を襲った悲劇を逆再生で描いたトレイラーは大きく話題に。しかしそのインパクトが大きすぎたのか、「トレイラーの内容とゲームの内容があまりに乖離している」と、リリースされたゲームの評価を下げる騒動へと発展した
同じくゾンビが登場するオープンワールドRPG『Dying Light』は、ゾンビと戦うだけでなく、パルクールを大きくフィーチャーしたチェイスや戦闘が高い評価を受け、長期のアップデートを経て同社の看板タイトルへと成長した。現在は続編である『Dying Light 2』を製作中だ。
シューター作品の経験多い「People Can Fly」
前述したMetropolis Softwareの設立メンバーAdrian Chmielarz氏が同スタジオから複数のスタッフと独立し、2002年に創業。撃ちまくり系FPS『Painkiller』でデビューを果たしたPeople Can Flyは、Epic Gamesとともに『Fortnite Battle Royale』の原点である『Fortnite: Save the World』の制作にあたっていることで知られている。
2013年にはEpic Gamesに買収されEpic Games Polandとなった。People Can Flyの名前は一度消えたが、2015年にEpic Gamesの支援で再び独立、People Can Flyの名前が復活した。
スタッフの増減は激しく、2013年に買収されるまで最大で120人いたスタッフは、2015年には40人まで減った。しかし独立後はスタジオ規模も拡大し、現在では160人程を抱えるデベロッパーとなっている。ポーランドのゲーム開発会社のスタッフの経歴を調べると、People Can Fly出身者をよく見るのはこのためだろう。
このほかにも、『Gears of War』シリーズの移植や『Gears of War: Judgment』の制作にも参加している。オリジナル作品を手がけることは近年少なくなったが、特にシューター作品の開発に精通しているポーランドのデベロッパーのひとつである。
スナイパーゲームで成功した「CI Games」
CI Gamesは、2002年にCity Interactiveとして設立され、低価格路線のゲームを制作していた。シューターからアドベンチャーゲーム、パズルゲームなどジャンルを問わずさまざまな低価格路線ゲームをリリースしてきた。
しかし2010年のスナイパーを題材にした『Sniper: Ghost Warrior』のリリースを機に低価格路線ゲームの開発をやめ、AAAタイトルの制作に乗り出す。そのころ、社名を現在のCI Gamesへと変更する。
しかし、特に『Sniper: Ghost Warrior』シリーズはこれまでに3作発売されているものの、いずれも評価は芳しくない。バグが多いという不名誉な評価のゲームとしてよく知られることになる。
評価は芳しくないながら、スナイパーが主人公という題材が毎回注目を浴びるのか、『Sniper: Ghost Warrior』シリーズは商業的には成功していることが発表されている。CI Gamesによれば、『Sniper Ghost Warrior 3』の販売数は100万本を超え、前2作は合計で550万本以上を売り上げたという。
低価格路線をやめたあと、ほかにも『Alien Rage』や『Enemy Front』、『Lords of the Fallen』といったゲームをリリースしている。
ポーランドゲーム業界の顔「CD Projekt」
CD Projektは94年に設立された。ポーランドを拠点とするゲームデベロッパーの中で、もっとも成功を収めたデベロッパーだ。ポーランドにおけるゲーム開発の顔役と言っていいだろう。
設立当時はゲームの輸入とパブリッシング業務が主であり、『Baldur’s Gate』の正規版の販売で大きな利益を手にする。その縁でCD Projektは『Baldur’s Gate:Dark Alliance』のPC版移植を担当することとなった。しかし、権利者であるInterplayは財政難に陥りPC版『Baldur’s Gate:Dark Alliance』をキャンセルすることになる。
しかし、コード自体はCD Projektの手元に残り、それを流用して作られたのが初代『ウィッチャー』だった。
最新作『The Witcher 3』はオープンワールドRPGのマスターピースと呼べるほどの評価を受けたが、シリーズの始まりである初代は三人称視点作品ではなく、斜め見下ろし視点でマウスクリックによる移動を行う『Baldur’s Gate』風のRPGだった(※ただし初代『ウィッチャー』は視点を変更すればビハインドビューにもできる)。
現在ではパブリッシング業務も拡大し、ダウンロード販売プラットフォームとしてGOG.comを運営している。2018年10月で10周年を迎えている。
PCゲームを配信する「GOG.com」はいかにSteamと異なる道を歩んできたか? 10周年を迎え特別セールや無料配布キャンペーンを実施中
これまでは『The Witcher』シリーズに関連した作品を手がけてきたCD Projektだが、今年のE3では、長期に渡って開発が続いていた『Cyberpunk 2077』のゲームプレイ映像がついに今年6月にお披露目された。はたしてサイバーパンクという世界観で次にどのような世界を描くのか、同社の新作に世界中から大きな注目が集まっている。
主要なポーランドのデベロッパーを上げればこのとおりだが、このほかセールの対象作品を見てもわかるように、10月にマルチプレイシューター『WW3』の早期アクセスを開始したThe Farm 51、『SUPERHOT』のSUPERHOT team、『My Memory of Us』のJuggler Games、『RUINER』のREIKON GAMESなど、注目作を有する多数のデベロッパーがポーランドを拠点にしている。
『Layers of Fear』のBloober Team、『The Vanishing of Ethan Carter』のThe Astronautsもポーランド在住だ。読者も一度はこれらの作品をプレイしたり目にしたことがあるかもしれない。
どうしてポーランドには多数の有力デベロッパーが根付いているのだろうか?
ポーランドの人口は3800万人。2017年に発表された市場調査会社Newzooのデータでは、ゲームをプレイする人口は全人口の約40%、1600万人となっている。ゲームへの出費は年間で4億8,920万ドル、国別で見れば23位と、特別大きな市場を有しているわけではないように見える。
PCゲームやeスポーツへの興味が高く、PCとコンソール人口の差が徐々に縮まっている傾向にはあるものの、別の調査ではポーランドのインターネットユーザー人口のうちの33%がPCゲームをプレイしており、コンソールの28%を上回っている。世界最大規模のeスポーツイベント「Intel Extreme Masters Katowice」が毎年開かれている。2017年大会では来場者数17万3000人、Twitchによるオンライン観戦者は4600万人に達した。
やはり最大の理由と考えられるのは、やはり国家としてゲーム産業の発展を強く後押しをしている点だ。ポーランドのゲームデベロッパーで構成されるPolish Game Associationがポーランド政府と協力して設立した基金は、審査に通れば開発資金の40~80%もの援助を受けることができる世界でも有数の巨大なゲーム開発助成金となっている。
2016年には、CD Projekt REDが開発する『Cyberpunk 2077』においては、プロジェクト内における複数の分野の開発費用として8億円を超える助成金が与えられたことでも話題となった。
これゆえかゲーム開発会社も多い。正確な数は不明ながら、ポーランド国内には300以上のゲームスタジオが存在しているという。それだけに今回のセールで販売されるタイトルも多く、GOG.comでは89本、Steamに至っては500本近いゲームがセールされている。独立回復100周年セールは、そんな同国の作品を知るいい機会となりそうだ。
文/古嶋誉幸