3月20日に発売されたNintendo Switch用ソフト『あつまれ どうぶつの森』が、国内外で多くのセールス記録を樹立している。KADOKAWAが運営するゲーム総合情報メディアであるファミ通の調べによると、発売日から3日間で国内推定販売本数が188万本を突破し、Nintendo Switch向けのソフトで歴代1位の初週販売本数を記録したことが明らかになった。
だが、そのニュース以上に注目を集めているのが、本作におけるユーザーコミュニティ間での活動だ。たとえば発売直後には、“移住者”たちの間で屋外に寄贈予定のいきものや化石を大量を置き、島を倉庫のように扱う様子が世界共通の「あるあるネタ」として共有されていった。
海外では、中止になった結婚式をゲーム内で開催した新郎新婦の友人たちや、娘の誕生日を祝うパーティーを企画した母親などの動きが見られた。また、国内ではゲーム起動から一回目のローンを返済するまでの時間を競うイベントが開催されたほか、“実況”プレイ動画を投稿したゲーム好きのアナウンサーたちや、バーチャルYouTuberたちによる動画・配信など、ある種のバーチャル空間として『あつまれ どうぶつの森』を活用する動きがあった。
創作活動もアマチュア・プロを問わず活発だ。さまざまな形でホラーテイストの写真を撮り、『シャイニング』、『ミッドサマー』などのホラー映画に登場するキャラクターやワンシーンを再現したり、「マイデザイン」機能を活用してさまざまな衣装、フェイスペイント、舗装、看板などを制作してゲーム内のショーケースやSNS上で共有したりする楽しみ方をプレイヤーたちが積極的に模索している。
この動きはプロのアーティストやデザイナーも注目しており、「東京ゲームショウ」や、先日東京・渋谷PARCOで開催されたフォークデュオ「ゆず」のポップアップストアでビジュアルデザインを手がけたピクセルアートチームのBAN-8KUによるバーチャル個展が開催されていた。
これらのユーザーコミュニティ間の活動は、もちろん『どうぶつの森』シリーズ自体の人気といった背景もあってのことだが、 それ以上に本作の持つ「自己表現」と「多様性」の2点が大きく影響を与えているのではないかと考えられる。
海外メディアKotakuでは、車いすを利用して生活する人が「車いすに乗れることで幸福感を感じている」と語るコラムが掲載された。記事をご覧になった人のなかには評価する人がいる一方で、「なんでゲームの中でまで車いすに乗るのか」と疑問に感じた人もきっといることだろう。
記事中では「車いすの存在によって自分も仲間に入れてもらえていると感じた」と著者が語っている。この人たちは『ポケットモンスター』や『Undertale』などの作品で登場する「個性を持たない主人公」に自己を投影し感情移入する人たちのように、「車いすに乗る」ことで自己を投影しているのだ。もちろん、車いすは動かない家具であり、著者自身も普通に走り回ってアクティビティを満喫している。
しかし、自己を投影したアバター(分身)にとって車いすのない世界は「ゲーム世界の住人になる」という空想を実現できておらず、完璧なものとは言いがたい。「車いすがある」からこそ、彼らはゲーム世界の住人として「仲間に入れてもらえている」実感を得られる。
筆者を含み、五体を“当たり前”に動かせる人たち”にとって、現実世界での「車いすで生活する人」や「体の一部が動かない人」は衝撃的な存在である。なぜなら、我々の生活では「モノを持てない」ことや「脚を動かせない」こと、そして「車いすなどの器具による補助が無ければ移動できない」という彼らの生活における“当たり前”が無いからだ。
しかし、『あつまれ どうぶつの森』の中で車いすに乗ったキャラクターを見たとしても衝撃を受けることはなく、彼らもまた過剰な配慮や独善的な哀れみを押し付けられることはない。彼らにとっての“当たり前”である自己投影を実現し、自然に受容できる。
また、キャラメイク後の性別変更機能や、服装や顔のパーツを性別に限らず自由に選べるといった機能など、プレイヤーが自己を投影するために必要なものとなっている。また、オーストラリアや南米圏で暮らす人にとっては、北半球と南半球で季節の流れを選択できる点も自身の生活環境を再現するうえで重要である。
これはすべてのエンターテイメント作品に多様性を求めるべきという話ではないが、『あつまれ どうぶつの森』ではデフォルメされたキャラクターへの自己投影とさまざまな選択の自由によって、自然に受容できる表現の多様性を実現している。
だからこそ「コミュニケーションゲーム」である本作は、「コミュニケーションツール」であるSNSをも巻き込み、プレイヤー間の交流を加速させているのだろう。
冒頭でも述べたように、『あつまれ どうぶつの森』は急速に売り上げを伸ばしている。
国内推定販売本数188万本という数値は、コンビニエンスストアなどで販売されているダウンロードカードや、ダウンロード版を同梱する「Nintendo Switch あつまれ どうぶつの森セット」の販売数を含むが、ニンテンドーeショップから購入するダウンロード版の本数は含まないため、実際はさらに多くの人が購入したと考えられる。
また、3月16日から3月23日までの1週間にはNintendo Switch Liteを含むNintendo Switch本体が約39万本販売されており、累計販売台数は1300万台の突破まで秒読み段階に入った。
レビュースコア集積サイトのMetacriticでは、発売前からレビューのスコア平均が100点中91点を記録し、『どうぶつの森』シリーズ史上最高の得点を獲得した。
そのほか、新型コロナウイルスへの対応策として外出禁止令を発令したイギリスでは、ニンテンドー3DS用ソフト『とびだせ どうぶつの森』(2013)の3.5倍もの売上本数をあげ、全英のパッケージ版ソフトにおけるセールスチャートで1位を獲得した。
【更新 2020/3/30 13:00】 記事初版にて「『とびだせ どうぶつの森』が(『あつまれ どうぶつの森』の)3.5倍売り上げた」との誤記となっていたため修正しました。
多様な自己表現の方法を提示し、世界中で愛されている『あつまれ どうぶつの森』では、今日もユーザーコミュニティ間での活動が活発に続いている。
ライター/ヨシムネ