「これ安すぎない? 大丈夫なやつ?」。Xbox Game Passの価格破壊っぷりに頭がクラクラしたとき、脳内の中学生姿の自分が依存患者を見るかのような視線とともにそう声を掛けてきた。
大手古本ショップや電気店、そこに軒を連ねていたはずの小さな個人経営のゲーム屋。それが10代前半のゲームのすべてだった。
何か欲しいゲームがあるでもなく店に入ると、店頭で華やかに紹介されている最新作の広告映像を何ループかタダで楽しみ、店の手前から奥までのゲーム棚──申し訳ないがおもに中古やワゴンセール品──をチェックしていく。
面白そうなゲームを見つけても、財布の中にひそむ月3枚の夏目漱石たちが「そのゲーム、俺らと等価交換する価値あります?」と問いただしてくるので、中学生は苦手な科目の授業よりも真剣に頭を悩ませた。結局、何も買わない日が大半で、背を刺すような冷ややかな店員の視線から逃げるように、1時間もすると店を出て家路へつくのだった。
言い訳になるが、あのころ店側からすればまさに冷やかしの客であり続けたのも、ひとえに、おもしろいゲームが遊びたかっただけなのだ。
問題は、ほんとうに、ほんとうにお金がないことだった。
「Xbox Game Pass」とは、マイクロソフトが提供している定額制のサブスクリプションサービス。毎月特定の額を払えば、100タイトル以上のゲームを別途費用を払わずにダウンロード&インストールして遊ぶことができる。Electronic Artsの「EA Play」も収録している。「Amazon Prime Video」や「Netflix」のビデオゲーム版と考えるとわかりやすいかもしれない。
なので年をとって財布が厚くなればゲームは買い放題だと狸の皮を数えていたのだが、まったく齢を重ねるごとにどれだけ出費は増えていくのだろう。気づけば十数年が経っても、漱石から代替わりした野口英世たちと、ゲームにいくら金をかけるかどうかの脳内裁判を毎月のお小遣いの中で繰り広げている。
だからサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」は本来、手放しでオススメできるサービスで、さらにこれはマイクロソフトとのタイアップ記事なのだから褒めちぎるべきなのだろう。しかし「安すぎない?」と脳内中学生が若干怖がっているのも事実である。
『ドラゴンクエスト11S』、『ドラゴンクエスト ビルダーズ』、『龍が如く』……さらには『オクトパストラベラー』、『バイオハザード7 レジデント イービル』といった多種多様な一線級のタイトルが、これほど簡単に遊べていいのかと。
ともかく、およそ1年にわたってXbox Game Passに加入して、自分のゲーミング環境は劇的に変貌していった──。前置きが長くなったのだが、この記事ではXbox Game Passというゲームのサブスクリプションサービスの最前線を体験した筆者のゲーマーライフ変化を記してみた。
文/ishigenn
※この記事は「Xbox Game Pass」の魅力をPCゲーマー中心にもっと広めたいマイクロソフトさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
※記事中で扱っているタイトルは時期や地域によって異なるため、記事執筆時点で遊べないタイトルも含まれています。
欲しかったゲームが「発売初日」から「初月100円」で遊べて怖い
まずタイアップ記事として結論から述べてしまうと、Xbox Game Passに加入するかどうかの判断は、やはり”プレイしたいゲーム”が対象タイトルに含まれているかどうかがいちばん大きな判断材料になるだろう。
プレイしたいゲームがあるからゲームハードをいっしょに買うのと同じだが、大きな違いとして注目すべきなのは「発売初日」と「100円」である。
筆者の場合、そのプレイしたいゲームとは2020年3月にリリースされた『オリとくらやみの森』の続編『Ori and the Will of the Wisps』のPC版だった。それまでValveの「Steam」を中心にPCゲームを購入しており、多くはないがライブラリに数百本のタイトルがあるようなゲーマーだった自分は、今回も当然のごとくSteamで購入する心づもりをしていた。
しかし発売前のある日、目を疑うようなニュースが流れ込んできたのである。『Ori and the Will of the Wisps』が、“発売初日”(Day One)からXbox Game Passの対象タイトルとして提供されるというのだ。
……いや、待ってほしい。その新作は、Steamで3132円で売られる予定で、Xbox Game Passに入ってしまうと、850円か1100円(※現在の価格)でプレイできてしまう。前者ならおよそ70パーセント強の割引率だ。しかも、「発売初日」からプレイできるというのである。
「ははーん、さすがになんかおかしいな」と思い調べてみても、公式ブログに書いていることに嘘偽りはない。それどころか、「初月100円」で加入できるという、信じられないような文言が目に飛び込んできた。それなら、もはや97パーセントオフである。どんな低評価のゲームだって発売日にここまで叩き売りされることなどないだろう。
ゲームが発売されてから1ヶ月ほど悩んでいたころ、2020年4月14日から日本でもXbox Game Passのサービスが開始された。おそるおそるPC上のXboxアプリでアカウントを登録し、クレジットカードの番号を記入してみた。
なんだか、現実感のないサービスに入ろうとしているような気がする。しかしものの数分で登録は完了し、クリックした『Ori and the Will of the Wisps』は無事にPCのSSDへとインストールされ、当然のように起動して、筆者が遊ぶことを承認した。クレジットカードを経由して100円を消費したという通知が、後日送られてきた。
信じられないことなのだが、Xbox Game Passに遊びたいゲームがあるから初めて加入しようという場合、その願いはたったの「100円」で果たされる。Xboxコンソールプランのみ適用外だが、記事執筆時点でPC向けと「Ultimate」のプランは、初月100円のキャンペーンを現在も続けているのだ。
また、「発売初日」からXbox Game Pass入りするタイトルも『Ori and the Will of the Wisps』といった特定のタイトルだけではなく、多くの作品が対象となっている。
マイクロソフトの傘下にあるスタジオのタイトルだけにとどまらず、期待値の高いインディーゲームや新作オンラインタイトルも豊富に揃っている。もし買おうと思っている新作タイトルがあるならば、一度は「Xbox Game Pass」に対応していないか調べてみても損はないだろう。
パッケージ版も発売される、それこそフルプライスの新作タイトルが、「発売初日」から850円か1100円で遊べてしまう。それもサービス初加入者なら「初月100円」だという。もちろん、「フルプライスの新作タイトル」の欄は、準新作やプレイしたかったけど遊ばなかった過去の名作に置き換えてもよい。
過去にタイムスリップした自分が中学生のころの自分に「月1000円ぐらいでゲーム100本以上遊べるよ。新作含めて。しかも初月は100円」と伝えても、まず信じてもらえないだろう。だが、実際にいまの世界線で筆者は『Ori and the Will of the Wisps』を100円でプレイできてしまうのだった。
興味のなかったジャンルのゲームも片っ端から「つまみ食い」。そして罪悪感
『Ori and the Will of the Wisps』を初月100円でプレイし、うれしさなのか恐怖なのかわからないが心が震え上がる体験をした。そして継続してXbox Game Passに加入し続けていると、明確に普段のゲームライフも変わってきた。とにかく「ゲームのつまみ食い」ができてしまうのである。
筆者を含め多くのゲーマーの人は毎月、お目当ての新作を軸に、残った趣味費用や時間と相談しながら、ほかのゲームをプレイするかどうかを考えるだろう。ゲームショップやオンラインストアに並んだカタログを見たり、あるいは大型セールで格安に購入して平積みのままのゲームを掘り返したり。買い方は置いておくとして、基本的には「どのゲームを順番にクリアしていこうか」と考えながら、遊ぶ人が多いのではないだろうか。
だがXbox Game Passは、なんかもう、石油王がきっとパレスでやっているであろう豪華な食事形式みたいなもんである。
100種類以上のゲームがメニューには載っており、「これとこれとこれ」と指をさすとすぐにインストールされて目の前にお出しされる。ひと口プレイして気に入らなかったら、その場ですぐにアンインストールして、「別の料理を」と頼んでしまえばいいのだ。
あるいは、複数のゲームを並べて交互にプレイし、そのあとどのゲームをじっくり味わうかを決めるなんてことも気軽にできてしまう。つまり常時、「つまみ食い」でのプレイスタイルが可能になってしまうのである。
このつまみ食い方式の良い面は、やはり「ゲームを買ってみたけどぜんぜん面白くなかった」という体験を、限りなくなくすことができる点だ。
筆者の中学生時代のころほど切羽詰まっている人ばかりではないと思うが、「中身の知らない未体験のゲームを買ってはたして値段分楽しめるのかわからない」という、これまで切っても切れなかったゲーマーの命題がすんなりと解決される。なぜなら、別途買うわけでもないのだから、面白いかどうかは実際に遊んで判断すればよいのだ。
ほかにも、本来なら普段は手を伸ばさないジャンルのゲームに手が伸びるのも、このつまみ食いスタイルによる利点のひとつだろう。
個人的な私見ではあるのだが、そういう面ではおそらく専門感が強くてなかなか手の伸ばしづらいフライトシミュレーター、『Microsoft Flight Simulator』を遊んでいないのなら、きっとXbox Game Passへの加入は初めて体験するのに最適な機会となるはずだ(ただし、他のタイトル比べるとゲーム容量はなかなかヘビーでありインストールに手間はかかる)。
一方で、以前のゲーマーライフと比較すると、ひと口だけ食べて放置してしまうゲームが増えたように感じたのも事実である。
もちろん、面白いゲームに出会えたら熱中するし、イマイチだと思ったタイトルでも序盤ぐらいまでは進めてみる。だが、まるで無料のように手に入った1本は、「楽しくなければ保留、最悪アンインストールしてもいいか」とあと回しにしてしまう。
正直に言えば、こんなにゲームを適当に遊んでいいのかと罪悪感を感じたりもしたのだが、さまざまなコンテンツがユーザーのお金どころか可処分時間も奪い合っている現代において、買われることもなく遊ばれずにストアの底へ流れていく作品も非常に多いという時代である。
そういった作品を言葉や動画だけで必死に知る必要はなく、「実際に本編を遊んで試せてしまう」という強大なお試し装置は、間違いなくXbox Game Pass最大の魅力のひとつと言えるだろう。
フレンドと「協力プレイゲームを買うかどうか」の議論が不要になり快適に
Xbox Game Passは、フレンドとのゲームプレイ環境も変えていった。加入して数ヶ月、初月100円の期間もとうに過ぎたころ、そのあまりの安さに頭がクラクラしていた自分は、定期的にゲームを遊ぶ友人たちに「Xbox Game Passが何かわからんがとにかくヤバい」ことを、その正体を言語化もできてないうちに伝えた。
得てしてこういうとき、オススメされる側の人間は相手の熱意が高いほど引いてしまうもので、当初のリアクションはかんばしくなかった。しかし、いまでは4人ともXbox Game Passに加入しており、同サービスにはない協力ゲームを買ってプレイすることはあるものの、解約することは当分ないのではないかと思う。
「協力プレイゲーム」を友人とプレイするうえで最大の障壁となるのは、「そのゲームを購入するかどうか」を仲間内で話す必要があることだ。『Apex Legends』や『フォートナイト』のような無料ゲームならインストールの手間さえあればよいが、日々登場する有料タイトルや過去作を友人とプレイするために買うかどうかというのは、すぐに判断はつき辛いものである。
なぜなら、そのゲームが自分の趣味趣向に合うタイトルなのか、買ってからも実際に遊び続けるのかといった懸念と、いま仲間内でみんなで楽しみたいという欲望を、天秤にかけるのだから。4人全員が同じゲームを買うという行為は、意外にもハードルが高い。
これは例に出して悪いのだが──2021年6月にWizards of the Coastという会社が『Dark Alliance』という協力プレイを特徴とするアクションゲームを発売した。申し訳ないが正直なところ、ベースとなった『ダンジョンズ&ドラゴンズ』にそこまでの思い入れがあるわけではなく、筆者の購入リストには載せていないタイトルだった。
だがある日、友人から「プレイしてみたけど悪くなかったので遊んでみよう」と声が掛かった。なら試してみようと、4人がそれぞれの種族を選び、筆者はドワーフを選んでゲームをプレイした。ゲームシステムを理解していないのか、自分だけすさまじく鈍足で地味な気がするのだが、悪くはない。ハック&スラッシュ型のゲームで、アクション性の出来栄えもよく、なかなか遊べるじゃないか。
ひと晩酒を飲み交わしながらプレイし、ゲームの評価についてあれこれと言い合い、「最初のボスらしき敵の演出が地味だね」と軽く笑ったあと、まだまだ続く新たなステージを眺めながらその日は解散となったのだが、それ以降プレイはしてない。
その時間が楽しくなかったわけではない。ただ、継続してプレイしようという判断にはならなかった。そういうタイトルにもし定価4650円を支払って満足できたと思えるのかと言われれば、正直な答えは「悪くはないけど、ちょっと高かったね」だと思う。
ここで言いたいのは、『Dark Alliance』がひどいゲームだというわけではなく、このような新作の協力プレイ特化のゲームを遊ぶとき、定価を支払って中身のわからない体験のゲームに挑戦するような友人はすぐに揃わないだろうということだ。
それは『Deep Rock Galactic』という魅力が伝えにくい協力ゲームの良作でも、シリーズが長すぎてイチからだと世界設定がなかなかわからないスピンオフ『Halo: Reach』でも、ドムとマーカスの伝説の物語からストーリーラインが転換し新章となった『Gears of War 4』や『5』でもそうだ。
これらのタイトルの魅力を説明し、4人にそれぞれゲームを購入させ、「特定の日に遊ぼう」と幹事になって説き伏せる。なんという労力だろう。ゲーム会は会社の会議じゃない。でも月850円か1100円を払っておけば、そんな煩わしさはなくなる。月に何度か遊ぶ友人と「ゲームの選別と前セッティング」をしておく必要がなくなるのだ。これはおそらく、Xbox Game Passに加入すれば誰もが手放しで喜べる部分のはずだ。
Xbox Game Passは安すぎてちょっと怖い。今後ゲーム生活はどうなるんだろう
さて、ここまで記事をすっ飛ばした方向けに説明すると、Xbox Game Passは安くて早いくせに豪華なトリプルA級ゲームも遊び尽くせてしまう、なんだか“僕が考えた最強のゲームプレイ環境”みたいなサブスクリプションサービスとなっている。
『バイオハザード ヴィレッジ』のようなサービス対象外の大作は現在も別途購入している筆者だが、気づけば月々のゲーム代に余裕が増えてきたのも事実で、ゲーム生活はすでに大きく変貌してしまった。注目度の高いインディーゲームも抑えられているのでゲームを買うという行為自体が減り、「そういえばこの前ゲームを買ったのいつだっけ」とぼんやり考えることも増えた。
たとえば10月21日に発売予定である『Back 4 Blood』も、Steamでの定価は8580円であり、ほぼ間違いなく加入中のXbox Game Passを経由してフレンド4人と遊ぶことになるだろう。なお、こちらも発売初日から対象タイトルとしてプレイすることができる。
ともかくXbox Game Passによって筆者は、まるでGAFAの各種サービスや技術に身を任せっぱなしになるように、すでにXbox Game Passナシの生活では生きられない体になっているのかもしれない。安いし便利すぎてちょっと怖い。
ちなみに筆者はこれでもゲームメディアの端くれにいるので、「これがゲーム業界にどういった影響を与えるのか」という点は気になる。SteamやEpic Games Store、あるいはPS PlusやNintendo Switch Onlineなど、各種プラットフォームで無料や格安のゲームおよびライブリラリを提供し、ユーザーを取り込むという動きはけっしてめずらしくなくなってきた。
どう進むかわからぬが、NetflixやAmazon Primeの登場でレンタルビデオのビジネスモデルが廃れていったように、今後この流れは否応無しに進んでいくのかもしれない。
ただ、筆者が中学生だったころと、現代の子どもたちのあいだで決定的に違うと思うのは、現代では「お金がなければ基本無料のビジネスモデルのコンテンツを当たり前のように遊ぶことができる」という点だ。
それらを採用しているゲームや作品は、いわゆるパッケージ型のタイトルとはまったく異なる作品構造をしていることも多い。最後まで閉じられて完結したタイプの良好なエンターテインメントにユーザーが気軽かつ安価に触れるようになるのであれば、Xbox Game Passのようなサブスクリプションサービスが躍進していくことは喜ばしいことではないかと思う。
今後、みんなのゲーム生活はどうなるんだろうとぼんやり考える。だが、もし千円札数枚を握りしめてゲームの購入に悩んでいるゲーム大好きの中学生がいるのなら、自分はちょっと悩んでからXbox Game Passへの加入をオススメするに違いない。