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昔の“紙の雑誌”には、作品や作家を生み出す勢いや熱があった!──のに、なぜ今のネットメディアにはそれがないのか?

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 こういうことを書くと、「懐古」だの「オッサン」だの「老害」だの「〇〇を知らねーのか」だの、いろいろと言われてしまう気がするので先に謝っておくが、

 昔の“紙の雑誌”には、妙な“勢い”と“熱”があった!

 と思わずにはいられない。
 というのも、昔の雑誌では、その中のいち企画が後の大ヒット作へと発展したり、変な企画の担当者や参加者が、後の著名クリエイターへと成長していった例が少なくないからだ。

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(画像はAmazon|風の谷のナウシカ [DVD] より)

 例えば、ジブリの代表的な名作として知られる『風の谷のナウシカ』は、元々は、宮崎駿氏と当時アニメージュの編集者だった鈴木敏夫氏が、映画の企画を通すために(原作がないものは映画化できないと言われ、だったら原作を作ってやる!といって)はじめたものだし、週刊少年ジャンプでゲームの紹介記事などを担当していた堀井雄二氏は、後に『ドラゴンクエスト』を生み出すに至るのは皆が知るところだろう。同じく雑誌のライターあがりで、『ジャンプ放送局』という読者投稿企画を担当していたさくまあきら氏も、『桃太郎電鉄』という国民的な大ヒットゲームを作り上げた。

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『ロードス島戦記―灰色の魔女』
(画像はamazonより)

 ゲーム雑誌という文脈からは、コンプティークの誌面上のTRPGリプレイ企画が、後に小説やアニメへと発展していった『ロードス島戦記』などが有名だろうか。ロードス島戦記では、水野良といった作家を排出しただけではなく、イラストを手がけた出渕裕氏も、後にアニメ業界を代表するデザイナー/イラストレーターになっている。

 このように、昔は「雑誌から何かが起こる、生まれること」が少なくなかったように思う。

 もちろん、そのような背景には、当時は日本の経済的な発展と相まって、部数が多くて影響力があっただとか、金銭的/市場的な理由もあったのだろう。しかし一方では、

 本当にそれだけが理由なのだろうか?
 
 という思いも拭えずにいた。
 昔の雑誌には、何かこう、才能や作品を育む、ゆりかごのような性質があったように感じられるし、それを助長する若さやパワーがあったように思えてならなかったからだ。
 そしてその疑念は、ヒット作の当事者たちに直接話を聞くにつれて、確信に近いものへと変わっていった。

文/TAITAI


「熱狂」や「感動」が、コトを動かす

 中でも、個人的にとくに印象的で、昔の雑誌や出版社についての解像度が上がった取材が、以下の二つだろうか。

ジブリ鈴木敏夫Pに訊く編集者の極意──「いまのメディアから何も起きないのは、何かを起こしたくない人が作っているから」

【全文公開】伝説の漫画編集者マシリトはゲーム業界でも偉人だった! 鳥嶋和彦が語る「DQ」「FF」「クロノ・トリガー」誕生秘話

 上記のインタビューにおける重要なポイントは、鈴木氏鳥嶋氏の両名が共に、自分の仕事を“雑誌の中”だけで終わらせるのではなく、むしろ自分が担当している雑誌/作家を武器や梃子(てこ)にしつつ、外側の業界へと果敢に打って出ていたところにある。
 鈴木氏であれば、それは映画への挑戦であったし、鳥嶋氏もジャンプ編集部の中にあって、いちはやくアニメやゲームなど、漫画の外への展開を志向(当時は異端扱いされたという)した。

 どちらも、ただ単に当時流行っていたものの上で仕事をしていただけではない──むしろそこから逸脱するほどのチャレンジをしたことによって、結果的に(そして幸運なことに)大ヒットへと繋がっていったのだ。

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(画像はスクウェア・エニックス『クロノ・トリガー』公式ページより)

 例えば、あの名作『クロノ・トリガー』などは、『Vジャンプ』創刊にあたってネタ不足に悩んだ鳥嶋氏が、雑誌に載せる企画の一つとして、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだった鳥山明氏、堀井雄二氏、そしてスクウェア(坂口博信氏)を組ませてゲームを仕掛けることを思い付き、実際に実現してしまう。もうまったく、いち漫画編集者の領分じゃない。

 思い返せば、彼らに限らず、昔の雑誌は、とにかく“変わった取り組み”をよくしていたように思う。自分が良く読んでいたログインやファミ通といったゲーム雑誌でさえ、「それ、ゲームとなんの関係があるの?」と思えるような企画を連発していた記憶がある。そういえば、なぜかゲーム開発者と温泉に行く連載記事なんかもあったような……。いま思うと、どういう企画だったんだあれは。

 まぁ、当時の雑誌にはそのくらいの余裕があったのと、勢いに任せてそれをやってしまうだけのスタッフたちの若さや、良い意味での未熟さ(今だと、なぜその企画をやるの?という合理性が問われそうという意味で)があったのだろう。

 そう考えると、今のいわゆるネットのニュースメディアは、良くも悪くも「機能」然としすぎなのだと思う。
 もちろん、その機能を期待してフォローしてくれている、読んでくださっている読者も多いのは理解しているし、感謝もしている。

 だけど……。より根っこのところを考えてみると、ニュースを追う読者というのは、本当は「面白いことを探している」人たちなのではないのか? と思うことも少なくない。面白いことを探す方法の一つとして、みんな、ゲームやアニメなどのエンタメニュースを追っているのではないか?

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そういう思いもあって、「ゲームを作る人のおもしろさや情熱を伝えたい」という媒体コンセプトのもと、インタビューや企画記事に力を入れている。(画像は電ファミニコゲーマーの媒体資料より)

 そう考えたときに、現代のニュースメディアだって、もっと変わったことや面白いことを“仕掛けて”みてもいいはずなのだ。
 実は、読む人の人数だけでいえば、現代のニュースメディアは大したものだったりする。月間ユニークユーザー数で数百万、大手であれば月間UUが1000万人を超えるところだってざらにある
 でも、どんなに多くの人が見ていても、ただニュースを読むだけのメディアからは、なかなか新しい“なにか”が起こることはない。なぜか? 理由は明確だ。

 そこには、「熱狂」や「感動」がないからである。
 
 何か作品を生み出すには、ただ単純に「多くの人の目に触れる」だけでは足りない。加えて「熱狂」や「感動」が必要なのだ。昔の雑誌から新しいもの、コトが起きたのに、現代のネットメディアがそれが起きにくいのには、この点にも違いがあると思っている。

 簡単に言えば、例えば、SEO(検索エンジン最適化)で得られた100万ページビュー(以下、PV)と、ファンがツイートを重ねて拡散して読まれた10万PVでは、そこで起きる反響の大きさは段違いだったりする。当然、後者の方が熱があるし、世間で実際に話題になるのは後者の方なのだ。

 ちなみに。
 今のネットのニュースメディアに「熱狂」や「感動」がないのは、半分はGoogleとアドネットワーク広告のせいだ

 要するに、ネット記事の価値をページビュー(≒お金)というビジネスモデルを浸透させてしまったせいで、熱狂的なファンを1000人生む記事よりも、検索流入が見込めて1万人がさらっと読む記事の方が「正しい(≒儲かる)」という価値観になってしまったからだ。
 ただ、これに抗うのは、かなり難しいのも事実である。

メディアを使った新しい挑戦、仕掛けとして

 さて。
 そんなようなことを考えながら、最近取り組んだものの一つが、電ファミニコゲーマー上で展開されている『ギ・クロニクル』という作品だったりする。

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 『ギ・クロニクル』とは、Twitterのアンケート機能を使って物語が変化していくという、昔の雑誌の投稿企画を現代風にアレンジしつつ、アドベンチャーゲームをWeb上で表現したような、ゲームブック風の実験的な作品である。

 実を言うと、この『ギ・クロニクル』をもっと多くの人に触れてみてほしくて、今回の記事を書いているという側面があったりする。
 本稿をここまで読んでくれた読者ならば、かなり楽しんで頂けるのではないか、という気もしている。

 以前に『十三機兵防衛圏』についてのこんなレビューや、最近では『EVE ghost enemies』​​について熱く語った我々(電ファミ編集部)が、自信をもって面白いと言える”ゲーム”に仕上がっているからだ。

『十三機兵防衛圏』が狂気的に傑作すぎたので、思ったことをちょっと書く

笑って、泣いて、鳥肌総立ち。プレイ後は完全に放心状態に…。傑作ADV「EVE ghost enemies」を、一人でも多くの人に伝えたいと思った話

 本作は、名作アドベンチャーゲーム『レイジングループ』を手掛けたamphibian氏をシナリオライターとして向かえ、総テキスト量は約16万文字にも登る。キャラクターデザイン・イラストは、『ラブプラス』で知られる箕星太朗氏が担当するなど、本来であれば、無料でWebで公開するような作品ではない

 現時点では、Twitterスペースで実施したリアルタイム朗読公演が5回行われ、さらに先日、全12ルートが遊べるWeb版(ゲームブック風コンテンツ)が公開されており、これまでのストーリーを踏まえての「最終公演」が、8月31日の19時から実施される予定となっている。

 この「最終公演」に、ぜひ多くの人に参加してほしいと思っている。

 上記で書いてきたような「熱狂」や「感動」が味わえるものを、作り手であるamphibian氏や箕星氏には込めてもらったと感じているし、本企画では、さらにSNS時代ならではの「多人数で参加」というエッセンスも盛り込まれている。

 すでに何度か行われたリアルタイム公演で、その面白さも実証/確認できている。手前味噌で恐縮だが、なかなかに珍しい、新しい形のコンテンツにはなっていると思う。

【いまから『ギ・クロニクル』を楽しむ方法】

『ギ・クロニクル』を楽しみ方は2つある。(記事公開時点)

一つは、こちらのページから、誰でも無料でWeb版(ゲームブック風コンテンツ)をプレイすることができる。もともと『ギ・クロニクル』はTwitterのアンケート機能を使って物語が分岐するようになっていたが、Web版では自分の意思で分岐を選ぶことができ、何度も繰り返して遊ぶことができる。ただし、どのエンディングを迎えても、待っているのは絶望だ。

そしてもう一つが、8月31日19時から実施される最終公演だ。こちらも参加無料となっており、今まで閉ざされていた「ファイナルルート(破断編)」が解禁される。詳しくは以下の記事を見ていただきたい。

Twitter人狼ADV『ギ・クロニクル』最終公演は8月31日19:00に決定!今まで閉ざされていた“ファイナルルート”が開かれる ― リアルタイム実況は吉岡茉祐、相良茉優、久保田未夢

 本当は、もうちょっとライトな企画を想定していたのだが、amphibian氏があげてきたシナリオが想像以上にパワー(と物量)があり、氏の勢いに引っ張られる形で、最終的には、ちょっとしたアドベンチャーゲームを一本作るくらいの内容になってしまった。

 ただ、結果としては、この『ギ・クロニクル』がamphibian氏の新しい作品だ! と言ってしまえるほどのクオリティになったのも事実で、アドベンチャーゲーム好きならばぜひ遊んでみてほしいと、自信をもってオススメできる作品として完成している。
 嘘だと思うなら、ゲームブック版を遊んでみてもらって、一つでいいからルートを踏破して、エンディングまで進めてみてほしいと思う。『レイジングループ』ばりの濃くて熱い展開が、目の前で繰り広げられるはずだから。

amphibianというクリエイターについて

 最後に、軽くamphibian氏というクリエイターについても軽く話しておくと、その才能は間違いなく本物だ、と個人的には思う。『レイジングループ』を遊んだファンの方ならば、その点については異論はないことだろう。

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(画像はMy Nintendo Store『レイジングループ』より)

 氏とは、彼が所属していた会社を辞めたときから、いろいろな相談を受けたり、彼の考える企画などについて議論をする間柄になり、次第に「一度、この人とちゃんと仕事をしてみたい」と思うようになった。
 聞くところによると、「Fate」シリーズなどで知られる奈須きのこ氏も、氏の才能を高く評価している一人のようで、『Fate/Grand Order​​』で彼が中心のイベントが作られていたりするのも、きっとそうした背景があってのことなのだろう。

 『ギ・クロニクル』でも、そんな氏の才能がいかんなく発揮されており、最初にテキストが挙がってきたときは「お、面白れえ!」と素直に唸ったほど。いや、というか、この企画でここまで本気で書いてもらえるなんて、思っていなかったです。本当にありがとうございました。

 それだけに、もっともっと、たくさんの人に本作を知ってほしいし、遊んでみてほしいわけだが……。既存の氏のファンにもきちんと届ききっていないのは、ひとえにプロデューサーの私の責任でもある。

 今回は、そんな懺悔の念も込めて、少し筆をとってみた次第。
 まぁ、いろいろと書いてはみたけれど、『ギ・クロニクル』が面白いものに仕上がったとは本気で思っているし、今回の記事をキッカケに、一人でも興味を持つ人が出て来てくれたら嬉しい限りである。

 8月31日の最終公演を、ぜひより多くの方と一緒に盛り上がれれば幸いだ。

『ギ・クロニクル』遊び方・あらすじ・キャラ紹介 ― Twitter上で人狼×アドベンチャーゲームを再現!?アンケート投票でキャラの生死が分れる大規模かつ実験的なプロジェクト

編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999

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