先日、任天堂とMicrosoftはNintendo Switchで『Cuphead』をリリースすることを発表した。2017年に海外フォーラムで開発スタッフは「同作はXbox OneとPCのみの一生独占販売なのか?」という問いに「Yes」と答えていたが、ここに来て大きく方針を転換した形だ。
さらに驚くことに、ゲーム動画チャンネル「Easy Allies」の主要メンバーであるDaniel Bloodworth氏は、『Cuphead』を開発したStudio MDHRに直接話を聞いた上で、この決定はMicrosoft側からデベロッパーに持ちかけられたものだとTwitter上で明らかにしている。
Oh yeah I was talking to one of the Cuphead devs yesterday and he said that it was Microsoft actually approached them and asked if they’d like to make a Switch version. Crazy stuff.
— Daniel Bloodworth (@dbloodworth2) March 21, 2019
※Daniel Bloodworth氏の発言。「『Cuphead』の開発のひとりに聞いたんだけど、実際にはMicrosoftが彼らにアプローチしてて、Switch版を作る気はあるかと聞いてきたらしい。ヤバイね」
ゲームハードを展開するほかの企業と同様に、Microsoftはこれまでプラットフォーム独占などによるXboxコンソール市場を強化してきただけに、独占タイトルを他プラットフォームへ展開するよう呼びかけるのは非常に異例な動きと言える。しかし実は同社は、2018年に入り大きく方針を転換している。2018年3月にgameindustry.bizでも幹部らが語ったその新たな方針は、簡単に説明すれば「Xboxユーザー」の定義の拡大だ。
これは2020年までに20億人にのぼると言われるゲーム人口全てに、Microsoftや同社の製品が関連したコンテンツをリーチさせることが狙いだと見られている。XboxやWindows PCは依然リッチなゲーム環境を提供するビジネスとして展開されるが、そこに作品やサービスを集約するのではなく、自社コンテンツやサービスを幅広く展開させ、それらを利用する人をXboxユーザーと定義する。
たとえば、XboxコンソールやWindows PCでゲームを遊ぶ人はもちろん、『Rainbow Six Siege』はマルチプレイにMicrosoftのクラウドプラットフォームAzureを利用している。スマートフォンやNintendo SwitchでXbox Liveにログインして『Minecraft』を遊ぶ人も、Xboxユーザーと言えるだろう。そして開発元のMojang自身がMicrosoftの傘下のため、PlayStationコンソールで『Minecraft』を遊ぶ人も、Xboxユーザーに数えるかもしれない。
Nintendo Switch版『Cuphead』は、Xbox Liveを搭載することも発表されている。つまり、この移植もやはり新たに定義されたXboxユーザーを増やすための施策のひとつだ。Xbox LiveはXboxコンソールだけでなく、すでにiOSとAndroidでのサポートも発表されている。今後はNintendo Switch向けのXbox Live SDKも展開されていくだろう。
また、3月13日に発表されてPC版『Halo: The Master Chief Collection』(以下、Halo TMCC)が、Microsoft StoreだけでなくSteamでも販売されるのも、このXboxユーザーの定義の変更が大きく関わっていると考えられる。まだ詳細は明らかにされていないが、先の方針を鑑みれば、Steamでも『Halo TMCC』をXbox Liveに接続することで、何らかの恩恵が得られる可能性もある。
なおMicrosoftは2016年に、PCとXboxでリリースされたゲームを、片方で買えばどちらのプラットフォームでも遊べる「Xbox Play Anywhere」というプログラムをスタートさせた。このプログラムの概念がさらに拡大されれば、Xboxはさまざまなサービスやプラットフォームの中に浸透し、Xbox OneやPCはゲームを遊ぶデバイスの選択肢のひとつとなるだろう。
2月に発表されたMicrosoft StudiosからXbox Game Studiosへの社名変更や、クラウドゲーミングプラットフォーム「Project xCloud」、かねてから噂が流れている月額遊び放題サービス「Xbox Game Pass」の他プラットフォームでの展開など、多くのニュースがMicrosoftの方向転換を示唆している。コンソール機だけでなく、クラウドゲーミングやオンラインサービスでもしのぎを削るビデオゲーム業界は、今後どのような形になっていくのだろうか。
ライター/古嶋誉幸