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『オプーナ』を走り続けた男、「アンキモ」を目指す『美味しんぼ』ファイター。ゲーム最速攻略イベント「RTA in Japan」が熱い

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主催者もか氏に聞く「本当にすごいRTA」

 さて。十人十色なRTA走者たちの話を聞いてきて、こんなイベントがあったのかと思った人もいるかもしれない。
 だが実は、「RTA in Japan」のようなイベントは海外で数年前から、しかも何倍もの規模で開催されているのだ。
 特に著名な「Games Done Quick(以下、GDQ)」【※】では、2018年1月7日から14日の1週間にわたり開催された「Awesome Games Done Quick(AGDQ) 2018」において、実施しているチャリティにて229万4612ドル分の寄付金を集めた。これは日本円にしておおよそ2億5000万円もの額である。

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※Games Done Quick…2010年からアメリカで開催されている世界最大のRTAチャリティイベント。ホテルを貸し切り、世界各国から集まった走者たちがRTAを披露する。年に2回開催され、夏は「Summer Games Done Quick(SGDQ)」、冬は「Awesome Games Done Quick(AGDQ)」と呼ばれる。
(画像はGames Done Quick公式サイトより)

 ここからはRTA in Japan 2の主催者もか氏にお話をうかがい、国内外のRTAの現状や、RTAオフラインイベントに関する考えを語っていただいた。

発展続く海外のRTA。プロチームからのスポンサードも

──RTA in Japanはオフラインイベントですが、日本国内でRTAと言えば、動画でアップロードされたものを見るという印象ですよね。

もか氏:
 RTA in Japan含めてRTAにもオフラインイベントがあることはまだまだ周知されていなくて、ニコニコ動画に動画をアップしているような人もあまり知らないと思います。

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「RTA in Japan 2」主催者・もか氏

 第1回のイベントは走者が50名ぐらい、同時視聴者数の平均が3000人ぐらいでしたが、ニコニコ動画のbiim式【※】を採用した動画は軽く10万回再生されているんですよね。オンに比べてオフの知名度はまだすごく小さいのかなと。

※biim式
国内のRTAプレイヤー・biim氏が生みだしたRTA動画のスタイルのこと。従来までRTA動画は記録を証明するためのものが多かったが、biim式はよりエンターテイメント性を重視しており、解説や早送り、例のアレに代表されるネットミームを多く盛り込んでいる。

──ただ、海外ではGDQのようなイベントがあって、1回で200万ドル以上の寄付が集まったりしている。

もか氏:
 「GDQ」では生配信で同時に瞬間最大風速で22万人ぐらいが同時視聴しています。それにイベント自体も週に数回のレベルで開かれているんです。ほかにも、RTAのプレイヤーがプロチームにスポンサードされるような話もあったりして、かなり驚きますよね。僕もふくめてTwitchのパートナーに登録されているようなRTAプレイヤーなら数百人はいるんですが。

──スポンサードされるような話もあるんですね。まるでeスポーツみたいです。

もか氏:
 ただ、大規模イベントの始まりであるGDQがチャリティを目的としていたので、RTAイベントは慈善イベントの傾向が強いですね。

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 チャリティ目的でないと協賛ができない規約のイベントもあるぐらいです。そこはeスポーツとは大きく違いますよね。

──eスポーツってゲームを運営している会社が開催してコミュニティの規模を大きくしていくという、ビジネス面での相互補完関係が成立しやすいと思います。でもRTAは、あまりにも対象とするゲームが多岐にわたりますよね。

もか氏:
 もし大会で賞金を設定しようとなれば、権利関係は相当めんどうなことになるでしょうね。あとRTAは数年前の作品やレトロゲームを走ることも多いですし、そうなると企業側にとっては販促的な利点もないのかなと。

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 権利が絡まないゆえに多様性があってイベントが大きくなっていった側面もあると思うんですが。

──そして海外では数十万人が見るような規模に発展している。

もか氏:
 実は2000年代初期ぐらいまでは、RTAのプレイヤー数は日本の方が多かったんです。ただ、GDQの前身であるClassic Game Done Quickが2010年に開催されて、英語圏では人口が爆発的に増えました。RTAの記録集積サイトも海外が中心です。

「動画のアップも犯罪だと思っていた」。国内でオフイベントが発展しなかった理由は権利意識にあり?

──では現在、海外にくらべて日本のRTA界隈は現在どうなんでしょうか。

もか氏:
 日本では個々のプレイヤーのレベルは高かったり、biim式のようなエンタメ全振りの動画が海外からも高い評価を得たりしています。
 ただ、各プレイヤーが活動する配信サイトが別々で、コミュニティがバラけている状況ですよね。ニコニコ動画の人はTwitchを見ていなくて、逆にTwitchの人はニコニコ動画を見ていないことが多い。
 RTA in Japanを開催したのは、そういった壁を取り払うという目標もあったからです。

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RTA in Japan 2閉幕の様子。観客総立ちの拍手でもって締めくくられた
(画像:編集部撮影)

 あとは、国内では動画をアップする動きは活発なんですが、オフラインイベントがほぼ皆無なんです。海外では普通のゲームショウでもRTAプレイヤーがTwitch経由で配信していたりします。でも、日本の東京ゲームショウでRTAイベントをやるなんて考えられないですよね。海外ではRTAは意義あるチャリティイベントとしても捉えられているのが大きいと思います。

https://twitter.com/rta_play/status/862999239005044737

もか氏によれば、RTAの波は中国にも及んでおり、昨年5月には「China Games Challenge Run」というイベントも開催された。『スーパーマリオブラザーズ2』で無限1アップを始めたりと競技レベルはまだ低いものの、PCゲームに関してはSteamを運営するValveがスポンサーに付いたりと、規模感は大きくなっているという。

──日本でオフラインイベントはなぜ発展しなかったんでしょう。

もか氏:
 権利関係への意識の違いは1つ理由にあるかもしれません。たとえば 日本国内で最初期にRTAのオフラインイベントを開催したのは東京大学ゲーム研究会だと思うんですが、彼らは過去のイベントでは権利許諾が取れなかったゲームの映像を配信しなかったんですよね。だからその時はテキストチャットのみで実況していたんです。

──タイピングが大変そう。

もか氏:
 実際、タイピングの選手権に出場するレベルの方がいて、その人が高速でタイピングしていましたね。

──確かに、日本ではゲームの映像を勝手に配信していいのかという権利的な感覚がまだまだあると思います。

もか氏:
 むかしは動画をアップロードしたりすると、警察に捕まると思ってました(笑)。それでも最近は、ニコニコ動画などの動画投稿サイトで削除されないのを見て、「あ、だいじょうぶなんだ」って雰囲気になりましたよね。オフラインではそのあたりはまだまだです。

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RTA in Japan 2当日の様子。スクリーンに映し出されたRTAを観る人々
(画像:編集部撮影)

──ほかにも英語圏のRTAを見ていると、欧米って現在主流ではないソフトに関しては共有してもいいという感覚もあるように思えるんですよね。それこそエミュレータやROMのような、日本ではグレーからブラックに思えるものを扱ったり。人類の共有財産であるというか、図書館にゲームがある感覚というか。

もか氏:
 GDQにはバンダイナムコゲームスといったゲーム会社がスポンサーに付いていて、ほぼゲーム会社公認なんですが、それでもハックROM【※】を使っていたりしますからね。

※ROM/ハックROM
カセットなどから吸い出したゲームデータのことをROMと言う。ハックROMとは、そのデータをハッキング(改造)したもののこと。主人公が別の作品のキャラクターに変わっていたり、本来存在しないステージがあったりする。いわゆる非公式の改造ゲームである。

──日本からしたら、相当ロックなことをやっていますよね。

もか氏:
 RTAの企画サイトにROMが20個入ったzipファイルへのリンクが貼っていたりしますからね。みんなで順番にクリアしようぜというスタンスで、それが大きく咎められることもない。

──日本ではまず考えられないですよね。エミュレータですらも使うと犯罪じゃないかという意識がある。

もか氏:
 海外ではエミュレータを当たり前のように使っていて、驚きますよね。実機でゲームを動作させた場合と挙動が違うので練習になるのかなとも思うんですけど。

 ただ、そういった動きを肯定するわけではないんですけど、最近は実機の確保も難しくなっている事情もあるにはあるんですね。いまはPlayStation 2でさえ手に入れづらくなっていて、たとえばロード時間が短い最終型番は5万円もするんです。

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 ゲームソフトも全体の流通数が減っていて、数千円することも珍しくない。時間が経つにつれて、合法的に過去のゲームソフトやハードを買うハードルは高くなっていますね。

──権利の点では、去年の末に開催された第1回にはどういった反響がありましたか。

もか氏:
 やはり一番多かったのは、「権利関係は大丈夫なのか」という意見です。RTA in Japanでは、会場費は参加プレイヤーで割り勘していますが、それ以外は運営側が負担しています。「お金を取った方がいいんじゃないか」と言われることもあるんですけど、現時点ではそういったイベントには出来ないと考えています。

──海外のGDQのようにチャリティを実施できない理由もそこでしょうか?

もか氏:
 今の状況でお金を扱うというのは難しいですよね。GDQでは国境なき医師団や、Prevent Cancer Foundationというガン関係の非営利組織を寄付先として選んでいます。ほかにもアメリカではChild’s Playという、病気のために外で遊べない子供にゲーム機を買ってあげようという団体もあるんです。海外ではゲームがチャリティに繋がる手段はいくつもあるんですが。

──ゲームを使って寄付を募るのは一見すると健全に見えるんですが、権利を照らし合わせると単純に「良いこと」とは言えない環境ですよね。難しい問題だと思います。

もか氏:
 そうですね。今のところ、運営も慎重に立ち回らざるを得ないです。

「プラチナトロフィーは始まり」。なぜ人はRTAをプレイするのか? RTAとは何なのか?

──さて。最後に根本的な話になってしまうんですが、なぜ皆さんはここまでRTAをプレイするんでしょうか……。いったいモチベーションはどこに?

もか氏:
 やはり好きなゲームは追求したいんですよね。大抵の人は一度クリアしたら辞めちゃうんですけど、RTAという要素を加えると何回プレイしても面白くなる。攻略しつくしても、また新しい発見や気づきがあるんです。最近のゲームにはトロフィーや実績が実装されていますが、僕らにとってプラチナトロフィーは始まりなんですね。

──「プラチナトロフィーは始まり」……すごいパワーワードです。

もか氏:
 実際にあるゲームでRTA的な動きができるようになったとき、実績を取り尽くしたセーブデータをロード時間短縮のために消したので、比喩ではないですよね(笑)。誰でも再現できるものには興味なくて、ほかの人が再現できないものにしか興味がないんです。

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 スコアやランキングがないようなゲームでも、RTAなら明確に順位が決まる。もちろん、ゆるく単純にやるのも楽しいんですけど。

──ただ、そもそもゲームってやり込むという側面があるようには思います。『インベーダー』でスコア表を貼ってを競い合うような感覚が、RTAではタイムに置き換わっているという。

もか氏:
 当初はタイムアタックもレースゲームが始まりですよね。それからRPGなどでもゲーム時間が表示されるようになって、ファミ通のやり込みビデオに投稿された『ドラゴンクエスト4』を経てRTAという言葉が生まれた。“ゲームのやり込み”の中から、RTAというジャンルが発生して大きく育ったんだと思います。

──実は取材前、RTAとは何なのかを定義しようとしたとき、実はとても広範囲すぎて一言では語り尽くせないなと感じたんです。でもお話を聞いていると、RTAってそもそも、ゲームそのものの根源的な面白さをクローズアップしているという気がしています。

もか氏:
 ジャンルによっても大きく違って、アクションゲームだと操作精度が大事になりますし、RPGだと何を選んで何を捨てるかの戦略性が大切です。遊び方にしても全然違うと思うんです。たとえば『スーパーマリオブラザーズ』なら、テクニック的に突き詰めれば1-1がRTA走者とTASでまったく同じ記録【※1】になっていて、そこには競技的に見えてくるものがありますよね。一方でGDQのようにエンタメに完全に振って、みんなで集まって楽しもうというのもある。こちらはEVO【※2】の決勝戦と同様の視聴者数規模を持っていて、大成功を収めています。本当にRTAには多様性があるんだと思います。

※1 RTA走者とTASでまったく同じ記録
TASとはTool Assisted Playの略。ツールを使用して最高タイムや変態的なプレイを目指す行為のこと。『スーパーマリオブラザーズ』では、1-1でTASと同じタイムを出すために、1フレーム単位の行動を3回成功させなければならない。

※2 EVO
アメリカ最大級の格闘ゲーム競技会である「Evolution Championship Series」のこと。1995年から開催されており、現在は競技者のみでのべ1万人以上がエントリーする巨大な大会となっている。

──RTA、奥が深いですね。RTA in Japan含め、これからも国内での発展を願っております。(了)

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 RTA界隈ではプレイヤーのことを「走者」、「ランナー」と呼ぶが、まさにRTAは「走る」行為と似ているのかもしれない。人間が動物として走るプリミティブな行為は、徒競走からフルマラソンといったスポーツへと多岐にわたり昇華されている。そのマラソン1つにとっても、たとえば自分の記録に挑戦し続ける一般人も、アニメキャラクターの衣装を着飾ってレースに楽しく参加するコスプレイヤーも、オリンピックで金メダルを目指すプロ選手もいる。

 RTAと言えば神業プレイが求められる……という面もあるにはあるが、読者の方々が思っている以上にRTAはゲーマーにとって身近で、そしてとても楽しいもののはずだ。さまざまな問題を乗り越えた上で、RTAをより多くの人たちが楽しむ環境が生まれることに期待したい。

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インタビュアー・著者
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Nobuhiko Nakanishi
大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。 喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。
編集
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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