『ガンダムNT』は過去の話を一切否定しない
イシイ:
でも福井さんの仕事もすごくコアなクリエイターから提案を受けながら取捨選択されていますよね。『ガンダムUC』にも『機動戦士ガンダムZZ』【※】のマニアックなモビルスーツがいっぱい出てきたりとか。
福井:
『ZZ』は本放送のときには「これは自分向けじゃないや」と思って見ていなかったんですよ。そのあと『逆襲のシャア』【※】を見つつも、ガンダムシリーズからは卒業して。で、『ガンダムUC』をやるにあたって宇宙世紀のシリーズを全部見直して、そこで初めて『ZZ』を見たからすごく新鮮で。
そんなに悪い作品だとは思わない。富野さんもギリギリの状況のなかでちゃんと仕事をしている。だから『UC』をやるときに気をつけたのが、既存の作品を否定しないということ。初代の一年戦争より『ZZ』は人気が出なかったから黒歴史じゃなくて、ちゃんと組み込みましょうよと。
組み込んだときに時系列的には数年後の『逆襲のシャア』と『ZZ』との間にギャップがあるんで、そこをなだらかにしてみる。この作品ではこう見えていたけど、違う視点から描くこと全体ではつながっているように見せることは意識しましたね。
──『逆襲のシャア』は宇宙の局地戦として最新モビルスーツが集まっていたけど、それ以外の地域では『ZZ』やいろんな時代のモビルスーツが当然残っているだろうという描き方で。
小倉:
『UC』エピソード4でトリントン基地に集結する、“モビルスーツ大運動会”はファンもバンダイさんもすごく喜んでくれましたよね。
イシイ:
あれはすごかったですよ。
福井:
もう二度とやりたくないですけどね(笑)。
イシイ:
原作になかったネオ・ジオング【※】をアニメで出されたのは福井さんからなんですか?
※ネオ・ジオング
『機動戦士ガンダムUC』に登場する巨大兵器。
福井:
あれは古橋一浩監督【※】が「原作のままだと最後いじめているように見えるから、相手もすごいのに乗っけたい」と言うんで、わかりやすくネオ・ジオングで。
※古橋一浩
アニメ監督。監督が手掛けたOVA版『るろうに剣心 追憶辺』は傑作の呼び声も高い。
イシイ:
あのエンタメ感はすごかったですね。映像作品としてあれだけ長く付き合ってきた最後に、クライマックスでああいうラスボスを見せてくれるというか。リアルなところからはちょっと飛んでるじゃないですか。ネオ・ジオン、そんなにお金ないはずなのにどこから出てきたんだと(笑)。
福井:
「こんなに大きい必要あるの?」っていう話をしたら、みんな過去の要素とできるだけつなげていこうって気持ちになっていたので「『逆襲のシャア』に登場したα・アジール【※】の流れから考えたらこうだ」と言われて「じゃあこれで行くか」っていう。そんな感じでしたね。
※α・アジール
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に登場する巨大兵器。
──せっかく福井さんと小倉さんに来ていただいたので公開予定の『機動戦士ガンダムNT』【※】についてもお聞きしたいんですが。
※『機動戦士ガンダム NT』
『機動戦士ガンダム UC』の時系列的な続編にあたる劇場版映画。2018年11月30日公開予定。
福井:
話せる範囲でひとつだけ言いますと『UC』はユニコーン(Unicorn)であり、宇宙世紀(Universal Century)そのもの。今度の『NT』は「ナラティブ(Narrative)」と読むんですけど、同時にニュータイプ(Newtype)でもある。
このニュータイプってことに対して『UC』の最後で結構すごいことをやったじゃないですか。「なんだありゃ。あの瞬間に何が起こっていたんだ」というね。そこから時系列的には『機動戦士ガンダムF91』【※】にもつなげなきゃいけない。
あそこで相当な距離を飛ばしてしまったので、そこを埋める必要があるなとは考えていて。だから『NT』では「ニュータイプって何なのか?」っていうことを完全に定義するつもりではないんだけど「こう考えるとこれまでの描写もつじつまが合いますよ」っていうのをやろうかなと思っています。
小倉:
ララァが言っていた“ ああ、時が見える…。”とはこういう意味だったんじゃないか」とかね。福井さんと考えていて「なるほどなるほど」っていう。
福井:
その辺を一本の映画を通して見せることで過去のシリーズの見方も少し変わるような、そういう感じになるんじゃないかと思いますけどね。さっきも言ったように、過去の作品はいっさい否定しないので、富野さんが作った歴史は富野さんにしか作り得ない。それを僕の見方で分析してみて、あのときの、あの人の、あの言動、そういうものに筋が通るひとつの仮説という感じです。
小倉:
でも福井さんの脚本を読みましたけど腑に落ちましたよ。
福井:
SF的にわかりやすいガジェットを求めて進むような、『ガンダム』としては冒険ものに振っている感じですね。冒険ものなんだけど、起こっていることは極めて『ガンダム』的な。
小倉:
富野さんの小説に名前だけ登場する設定とかも引用したりね。
福井:
これくらいが限度かな。これ以上言うと怒られちゃう。
イシイ:
いろいろつなげなきゃいけない作品もありますからね。
福井:
そうそうそう。
──みなさん『ガンダム』シリーズだと、どこのポイントがお好きなんですか?
福井:
最初の『ガンダム』はブームとしてみんなと一緒に乗っかった感じだから、リアルタイムで見て心に残ったのは『Zガンダム』【※】。
イシイ:
僕は初代『ガンダム』が竹宮恵子さんの『地球へ…』【※】が同時期だったんですよ。どっちの作品も人類の進化を扱っていて、当時中学生ということもあったので「やっぱり人類ダメだな……」と。そういう気持ちになる年代じゃないですか。
あとやっぱり思い入れが強いのが『めぐりあい宇宙』【※】と『イデオン』なんですよ。それは富野由悠季さんの演出。音楽とフィルムのカッティングのリズミカルなこと。音楽と映像が次々に切り替りながら流れていくような演出に、たぶん一番感動したんだと思うんです。
『めぐりあい宇宙』と『イデオン』の音楽のかけ方って濃いんですよね。もう過剰。あの2本は音楽映画だと思っていて。たとえばニュータイプとかイデっていうのは、ほかのSF作品でも近い概念はあるんだけど、あれだけ詩的な演出をする人はいないと思っていて。
※『めぐりあい宇宙』
劇場版『機動戦士ガンダム』三作目。1982年公開。
──イシイさんが富野さんの演出から受けた影響は?
イシイ:
音楽の使い方です。そういうことをやろうとしていますね。音楽を過剰にしたいっていうのは『めぐりあい宇宙』、『イデオン』、『ローレライ』から『428』につながっていて。
小倉:
なるほど。僕が『ガンダム』シリーズで気に入っているのは、お二人方とは違うのかもしれないけど『Z』から『逆襲のシャア』までにある現実社会との“地続き感”にこだわるところ。たとえば最初はニューヨークもそのままの名前で出てこなかったじゃないですか。
だけれども『Z』からはちゃんとケネディ宇宙センターが出てきたりとか、明確に「我々のこの世界と地続きです」「観ているあなたたちと無関係な物語ではありません!」って宣言をしているところなんですよね。
イシイ:
初代にはなくて『Z』までの間に出てきた「アナハイム・エレクトロニクス」っていう言葉はびっくりしましたよね。アメリカにある現実の地名で、フィクションの会社を作っちゃうという。
小倉:
そうそう。あと冷戦終結後の混沌とした世界情勢みたいな舞台設定も『Z』でやっているんですよね。誰が敵で、誰が味方か?わからないような世界観を。
イシイ:
『Z』ってすごいですよ。主人公側、よく考えたらテロリストじゃんって。
小倉:
で、連邦軍どうしで内ゲバでしょ。
イシイ:
すごいよなあ、そりゃ乗りにくいよっていう。あと富野さんと言えば第1話を作る天才ですよね。
福井:
そうですね。
イシイ:
面白くない第1話がない。なんであんなに面白い第1話を毎回作れるだろうって思いますよね。『ザブングル』、『ダンバイン』、『エルガイム』【※】も全部第1話は面白いですよ。
※『重戦機 エルガイム』
1984年に放映された富野由悠季監督によるロボットアニメ。当時、若手だった永野護をキャラクターデザインとメカニックデザインしたことによって、ロボットに新風を吹き込んだ作品。ムーバブルフレーム、全天周囲モニターとリニアシートは本作で考案された。
──庵野さんも「『ガンダム』の第1話を『エヴァ』で超えられなかった」と振り返ってますよね。
福井:
そうか、エヴァンゲリオンが出撃するところまでしか描けなかったもんね。そもそも富野さんは説明を始めたら物語にならないぐらい、めんどくさい世界観で毎回やってるんですよ。で、それを説明しないと割り切る。
その代わりに新しい世界観でみんなが見たいことはこれとこれとこれだっていうのを、第1話で凝縮して入れてくるんです。僕らはわからないんだけど、面白いような気がして見てしまう。ただまあ、第2話以降することがなくなって、しばし失速する(笑)。
SFとエンターテイメントの行く末
──ほかにみなさんにとって思い出深いSF作品はありますか?
福井
僕は映像ではあんまりなくて、マンガと小説からSF感みたいなものの影響は受けてますね。学生時代なんですけどマンガ版の『百億の昼と千億の夜』【※】とか。
※『百億の昼と千億の夜』
1965年から連載。ギリシャの哲学者プラトンが長い年月を生きて自分の使命を果たす姿を描く。
小倉
ああ、萩尾望都さん【※】の。原作は光瀬龍さん【※】ですね。
※萩尾望都
漫画家。代表作に『ポーの一族』『11人いる』など。
※光瀬龍
SF作家。ジュブナイル物、架空戦記物も得意としているマルチな作風。
イシイ
萩尾望都さんの『銀の三角』【※】は読まれました?
福井:
読んでないんですよ。
イシイ:
萩尾さんの『百億の昼と千億の夜』がお好きだったら、面白いと思います。僕にとっては萩尾作品のなかでもトップな感じですね。
福井:
なるほど。萩尾望都さんとか竹宮惠子さんとか女性のSFマンガ家には結構影響を受けた気がします。
──1980年代のSF作品を振り返ると、ほかには『たったひとつの冴えたやりかた』【※1】、『AKIRA』【※2】、『パトレイバー』【※3】、『トップをねらえ!』【※4】、『ガンヘッド』……。
福井:
そこら辺はもちろん見てますね。
小倉:
『ガンヘッド』も見ていただいてありがとうございます。
イシイ:
僕も見ています。義務ですよね、『ガンヘッド』は。『さよならジュピター』と『ガンヘッド』は映画館で観るのが義務でしたよね。
福井:
僕はビデオだったけど(笑)。
イシイ:
福井さんはジェイムズ・P・ホーガン【※】は通ってないんですか?『星を継ぐもの』【※】とか。
※ジェイムズ・P・ホーガン
イギリスのSF小説家。ハードSFでありながら一種の思想性を持ち合わせており、考証よりも感性を優先する作風が特徴。
福井:
わりと最近、星野之宣さん【※】のマンガで読みました。
※星野之宣
SF漫画家。『ヤマタイカ』、コミカライズ版『星を継ぐもの』で星雲賞受賞。
イシイ:
僕は小説ではやっぱりホーガンで『星を継ぐもの』がベストSF。大昔に火星の向こうに星があって、そこから本当に人類が来たんだと当時思いましたもん。
福井:
マンガ版を読んで「恐竜が大きかったのはそういうことか!」って思いました。
イシイ:
ホーガンの『未来からのホットライン』【※】ってタイムトラベルものも好きですね。ホーガンのすごいところって嘘なんだけど「これって本当じゃない?」って信じさせてくれる。大嘘がうまいなと。
小倉:
僕はじつはちょっとホーガン苦手なんですよね。
イシイ:
ドラマっぽすぎる?
小倉:
大仰なところとか。
イシイ:
ああ。嘘がデカいんですよね。
小倉:
『断絶への航海』【※】までかな。
イシイ:
なるほど。
小倉:
僕の好きなSFはそこまでの知名度はないんですが、堀晃さんの『太陽風交点』【※】とか。短編小説です。
※堀晃
SF作家であり同人活動も行っている。宇宙作家クラブ所属。
※『太陽風交点』
宇宙空間で主人公自身の死体を乗せた宇宙船を発見するという謎めいたストーリーを記した短編小説。表題作を含んだ小説集が1979年に出版、後に第1回日本SF大賞を受賞した。
福井:
いつごろ活躍されたんですか?
小倉:
1980年代ですね。まだご存命ですけど。あと1990年代にボーイングの技術者とか、現実の宇宙開発に携わった人たちがSF小説をいっぱい書いたんですよ。そのなかに『サターン・デッドヒート』【※】という作品があって、土星って太陽から数えて6番目の惑星じゃないですか。
その土星の6番目の衛星に六角形の石碑があって、異星人が残したらしいんだけど、いったいこれは何なんだろうってところから展開していく話とかね。
※『サターン・デッドヒート』
1986年出版、グラント・キャリン原作のSF小説。キャリン自身はアメリカ空軍に所属していた。
──『恒星少女』は外宇宙が舞台になると思うんですが、外宇宙もので印象深い作品は?
小倉:
『スタートレック』とか最たるものですよね。
福井:
僕もやった『ハーロック』も外宇宙ものではあるんだけど、やっぱり外宇宙ものってロマン系がほとんどで、リアルに考えるとそんなに遠くまで行けないし、あるいは行った代償として地球も滅んじゃうぐらいの未来に行っちゃうとかね。
イシイ:
『サイレント・ランニング』【※】のような孤独な宇宙観ってあるじゃないですか。『恒星少女』をやるときに、昔のSFって孤独だったなあって思い返すことがあって。
小倉:
そういえばイシイさんから宇宙船に植物園を作ってほしいというオーダーもあったよね。
イシイ:
それは『サイレント・ランニング』とソロシップ【※】から来ているんですけどね。なぜか植物園があるという。
※ソロシップ
『伝説巨神イデオン』に登場する第6文明人の宇宙船。
福井:
SF小説を読んでいるときってそういう個に没入していくじゃないですか。でもこういうゲームとか、プレイヤーどうしの情報共有が前提になってる時代に孤独の価値ってどうなんですかね。いまの若い子って孤独を求めるのかな。
イシイ:
『恒星少女』も孤独がいちおうネタになっているんです。プレイヤーは孤独で、地球を救おうとか、過去に戻ろうとかやるんですけど、実際には恒星少女がいるので、それが一種のギャグになってる。
「僕は宇宙でたったひとりだ」と言ったときに、恒星少女たちが「ひとりじゃないですよ」と返してきて、「いやお前たち人類じゃないだろ」っていう。
福井:
ああ、なるほどね。
イシイ:
宇宙は孤独であるという古いSFのノリと、いまのエンタメのみんなでワイワイってノリをミスマッチで合わせました、っていうその感覚をあえて使っていて。
福井:
女の子はホログラムみたいな感じなんですか? 握手とかできる?
イシイ:
そのあたりは微妙なんですよね。「触らせて」となったらそのときだけ実体化するかもしれない。その辺をやりすぎると生々しくなるので、ゲーム上では描かないと思いますけど。
小倉:
なかなか悩ましいところですね。
──福井さんは『恒星少女』のようなお題を振られたら、どう返しますか?
福井:
うーん、そうだなあ……。少女じゃないもののも出したいですよね。
小倉:
お、来たね。
福井:
恒星猫とか(笑)。
一同:
(笑)。
福井:
要はおじさんもいれば、美青年もいたりして、バリエーションを選べる。「お前のメンバーを見せて」って友達のを見たら、持っているのは全員おじさんとか。
イシイ:
『恒星少女』が立ち上がったら、恒星おじさんはエイプリルフールにやりたいですね。白色矮星のように膨張してるとか。
一同:
(笑)。
小倉:
今回はまず男性向けということでオーダーされていますけど、女性にも広がる余地はあるよね。毎日テレビで星座占いとかやってるわけだから。
イシイ:
そうですね、星座だと女性のほうが。
──現代におけるSFの在り方のひとつの形ですね。
イシイ:
今はSFが元気がないように見えていると思うんです。そう見えるのは、SFの未来予知が失敗したからなんじゃないかなと思っていて。21世紀は宇宙に行くと思っていたら思ってたよりも行っていないとか、いろいろあるわけですよ。携帯電話やインターネットを綺麗に予言できていなかったとか。
福井:
SFが信頼を失ってしまっている。
イシイ:
そこがあるんですよね。たとえば未来予測の部分でも不老不死ではなくて否死(ひし)とか。つまり不死ではなくて、人間の寿命がどんどん伸びていった世界。あるいはベーシックインカムとか、人間が働かなくてもいい世界を成立させたらどう文化が変わるのかとか。
3割くらいの人たちがAIを使って社会を効率的に回し、同時にさらにみんな寿命が伸びちゃって、そういう未来なら予想はできるんだけど、どういうドラマが起こるのかをSFは思ったよりも描けていない感があって。いずれ将来書き換えられるにしても、この辺のテーマは追いかけなきゃいけないと思っているんですよね。
未来の親子関係がどうなるのとか、未来の民主主義ってどうなるんだろうかとか、まだまだいろんな描き方がありますよね。むしろ逆に実際の科学のほうが先にどんどんSFに到達していっている感がちょっとあって。
福井:
ひとつわかりやすい理由があって、いま世界レベルで文芸ってダメなんですよ。文字を読むってこと自体を成立させる読解力がだいぶ落ちてきている。そうなると小説なんてとても読めない。で、映画とか映像作品を成立させるのって基本、お金がかかります。お金を回収しなきゃいけないので、あまり突飛なものはやれない。そうすると新しいものがやれない。
そう考えていくと、SFで先鋭的に未来を予測していこうって人がいたとしても、その人が小説にまとめて、その小説を世間に認知させるところにまで行くのが、いまは奇跡に近い確率になっちゃっている。そういう意味で新しいSFが生まれにくくなっているとは思います。
イシイ:
エンタメとしてはまだまだ大きい市場なんですけど。
小倉:
私の後輩のSF作家も、賞まで獲っているのに仕事がなかったり。
福井:
でしょう? だから今回の『恒星少女』も、ゲームという形で少しでも多くの人にSF的な要素に触れてもらって、興味を持ってもらうチャンスとしてどんどんやっていけばいいじゃないかなと思うよね。
イシイ:
そうですね。『恒星少女』の主人公側のストーリーは僕がやっているんですけど、恒星少女たちの過去の文明を描くというサイドストーリーはSF小説の若手の方に書いてもらっていて。
小倉:
若手のSF作家の仕事ぶりも楽しんでもらえると思います。
──本日は長時間ありがとうございました。まとめをお願いする前に福井さんに締めになるコメントをいただいて。
福井:
いえいえ。そろそろ時間かなと思ったんで。
一同:
(笑)(了)。
数時間におよぶ長き対談にて語られた作品数は、数十年にわたり培われてきたSFという分野の厚みを如実に感じさせるものとなった。
記事中にある作品やクリエイターたちの注釈の数からもそれは伝わるかもしれないが、それでも今回おもに語られたのは1970、80年代から近年の一部の作品群であり、それを考えるとあらためて宇宙やSFというテーマの深遠さが心に突き刺さるところである。
現在第一線で活躍しSFや宇宙を組み込んだ作品を生み出す40代から50代のクリエイターたちが、確実に影響を受けたであろう1970年代から1980年代のSF作品たち。1966年に放映され再放送も繰り返された『ウルトラマン』シリーズの洗礼、1977年の『銀河鉄道 999』、1987年の『ヤマト』、そして富野由悠季の『機動戦士ガンダム』……。
筒井康隆が1996年11月に発刊された『SFの時代 – 日本SFの胎動と展望』において、SFが浸透し始めていると言ったように、これらの時代の作品は従来の重厚なSFとは異なる歴史をたどっていく。そして今、今回登場していただいた3人や同年代のクリエイターの身体を構成する細胞のひとつひとつとなっている。そういった人々が当時感じたSFと宇宙への感触、手触りが、読者の方々に伝われば幸いである。
【あわせて読みたい】
【インタビュー】『428』イシイジロウの、TVドラマをゲームに変える新挑戦。「謎解きLIVE」最新回の本格ミステリ史における文脈とは?【今週土曜:NHK19時】最初はささいな調査依頼や旅行だった……しかし殺人事件は唐突に起き、その場に居合わせた「名探偵」は巻き込まれていく。深まる事件の謎の中で、悩みに悩む名探偵。でも、なにかに気づいたところで、彼はにんまり。そして、くるりと視聴者の方を振り向いて聞く──「さて、あなたは真相が分かりましたか?」
そんな典型でお馴染み、「本格ミステリ」のTVドラマで、なんとゲームクリエイターが原作者を務めるという。